12 私の周りにはおかしい人しかいない
今日は働きっぱなしでお腹空いてるし、何食べましょうかね。
そう思ってたんだけど、うちの屋敷の子供達がわぁわぁと集まってくる。
「クリスー」「一緒にあそぼー」「あっちにケーキありゅー」「こっちこっちー」「パンツみせてー」「クリスしゅきー」「クリスー」
人気者は辛いわね。
そんな様子を見ていたロザリーがタンドリーチキンを頬張りながら一言。
「猿山の大将みたいですね」
ははは。こやつめ。その喧嘩買ってやるわよ。
「みんなー。ロザリーお姉ちゃんが遊んでくれるってー。先にパンツとドレスを奪った子にはー、ご褒美あげちゃうわよー」
「⁉️」
「ほんとー」「ロザリーかくごー」「えぇーロザリーのパンツばっちぃ」「どうせ自分から脱ぐわよー」「でも脱がせろってー」「そっかー」「かかれー」
「クリス様すいません。言いすぎました。と、とめ……ちょっ………止めてくれませんか」
流石に大勢の前で辱められるのは嫌なのか、飛びながら逃げていく。その後を子供達が追いかけていく。
ふぅ。これでゆっくり食べられるわね。
いくつかの料理を皿に盛って少し離れたテーブルに置いて食べようとしたら、今度はキャロルさんがお兄様と一緒にやってきた。
「こんばんはクリスちゃん」
「やぁ、クリス楽しんでるかい?」
楽しんでいるかと問われれば、まぁ楽しんでいるかな。
「えぇ」
複雑そうな笑顔をするお兄様。
「しかし、ルイスの弟さんがこんなに可愛いなんてねぇ」
そうでしょうとも。可愛いのは自他共に認めるからね。こればっかりは揺るがないわ。
「あ、そうそう。本人に会った時にサイン貰おうと思ってね。これにサインもらえないかしら」
そう言って。小脇に抱えたパーティーには似つかわしくない大きめのバッグから薄い本を数冊取り出した。
「これって……」
「ふふ…。私ね。満タンにならないと解除されないシリーズが好きなの」
「……………………」
この人もか…。というか、これ描いてるのは私じゃないんだけど。
どうりで複雑な表情してるはずだわ。
「私ね。ルイスと一緒で拷問が趣味なの。クリスちゃんはどういう表情で、どういう声で鳴くのかしらね……。私気になるわぁ」
この人が一番やばい人だったわ。
荒い息を吐きながら私を舐め回すように見てくる。やべぇ。顔が近い。
「キャロルその辺で。僕のは趣味じゃなくて仕事だから。好きじゃないし…」
「あんな笑顔なのに?」
「笑顔なのはキャロルでしょ? ほら、行くよ……。全くこんな変なこと言うくらいなら連れてこなければ良かった」
「あっ…待って、まだサインが…」
「いらないでしょ」
お兄様に無理やり引っ張られていくキャロルさん。
どうして私の周りには、こうも変な人しかいないのかしら。はぁ……。
テーブルの上には数冊の薄い本が残されたままだ。
本は結構読んでいるのか表紙は擦り切れ、角っこは潰れている。
「ちょっと忘れ物……」
気づいた時にはもう姿は見えなかった。
「まぁ気にしてもしょうがないわね。食べましょ」
スパゲティを頬張っていると、また誰か近づく気配がしたのでそっちを見ると、今度はお母様だった。
「どうクリス楽しんでる? 急なパーティーでごめんね」
「いえ、大丈夫です。こういうのは初めてですけど楽しいですよ」
「そう? ってあら…」
あ、あの本置いたまんまだった。
「あらあらまぁまぁ………」
手に取り読み出すお母様。自分が題材のエロ本を読まれるのって、エロ本が親に見つかるより恥ずかしい。
「く、クリスはこういのが好きなのかしら」
「いや、それはキャロルさんの私物で……」
「いいのよ隠さなくても。分かったわ。今度スミカさんの所に作れないか聞いてみるわね」
どうして私の周りには人の話を聞かない人ばっかりなんだろう。
スミカさんでソフィアのお母様でしょ。
なんだかんだ言ってもお母様の交友範囲広いわね。仕事以外で引きこもってるお父様も見習ったらいいのに。
でもなぁ。あそこの変態兄弟に知れ渡ったらとんでもないことになりそう。
気づけばもう既に三冊目を読んでるお母様から無理やり本を取り上げる。
「あっ……。ちょっと、クリス今一番いいところだったのにぃ」
「いいとこじゃないですよお母様。こんなの読まなくていいです」
「えぇ、でもこれは持ってないシリーズだし……」
「えっ……」
「しょうがないわね。続きは買ってくるしかないわね」
なん……だと……。
「お母様? こういうのを読むのはちょっと……」
「えぇ、なんで? これはこれ。それはそれじゃない。私いろんなクリスが知りたいわ」
知りたいって…、趣味嗜好じゃなくて性癖の話じゃない。
うちのメイド達が好き勝手に私を使って本を描くものだから、私街ではフリー素材って言われてんのよ。ちゃんと使用料払ってほしいわ。
まぁ、私にも原因があるわよ。でも、親に言うことじゃないと思うのよね。
適当にお茶を濁しておこうと思ったんだけど、なかなか解放してくれない。
「実はね、エテルナ王妃にも頼まれてて、今度うちの領でそういった本の即売会を開こうって事になってね。是非ともクリスにはこの本の衣装で参加してほしんだけど」
どこから取り出したのか、フリフリの水着みたいな衣装を着た私とお母様が何かの液体まみれの姿で描かれた本だ。お母様も沼に浸かっちゃってるのかぁ…。
「あ、一応来年の開催を目処に計画していてね。ルイスにはもう参加するって聞いてるから、あとはクリスだけなのよ」
「お姉様はいいんですか?」
「え? あ、そうね。そうよね。サマンサは結構こういうの描いて意見聞いてくるから、当然参加するものと思ってたわ。あはは…。そうね。じゃ、ちょっと確認してくるわね」
そう言って、先ほどの忘れ物を抱えながらどこかへいってしまった。
いいのかな? 後でキャロルさんが取りに来るんじゃないのアレ。
なんだか食欲無くなってきちゃったな。
もう、あれだね。暑いからだろうね。暑いからみんな頭おかしくなっちゃてるんだろうね。自分でも何言ってるか分かってないんじゃないかな。
とりあえず、そう結論付けてみる。
皿に乗せたキッシュを一口食べたところに、子供達が戻ってきた。
「クリスー勝ったー」「みてみてー」「しみしみー」「すっぽんぽんー」「ロザリーへんたーい」「クリスにあげりゅー」
子供達がロザリーのパンツとドレスを奪い、私の元にやってきた。
まさか本当に奪ってくるなどと思ってなかった。いらないんだけど、折角子供達が持ってきたのを拒否するわけにもいかないので、一応預かっておく。
「なんで、ロザリーは裸なのにそんな自信満々なの?」
子供達と一緒に裸で来たロザリーは腰に手を当て、満足げにしている。
前々から露出癖があるとは思っていたけど、全部脱ぐとこうなるのか。
「どうですか。生まれたままの姿の私は」
「そ、そうね。見事にツルツルね」
「えぇ。毎日大変ですけどね。今はソフィア様のお陰でツルツルです」
ソフィアに何かお願いしているってのは聞いたけど、もしかしてこれのことかしら。まぁ、前世でここまでするのがどれだけ時間とお金と体力を使うか知ってるから、その労力にただただ感心するわ。
「あははーロザリーツルツルー」「はえてなーい」「なんでー」「でっかーい」「ツルツルー」「おかしー」
子供達が面白おかしくロザリーを馬鹿にするので、予定にはなかったが、私はこれがどれだけ大変で素晴らしい事かを長々と説いてしまった。
「わかったー」「ツルツルはいだいー」「ツルツルはかみー」「ぼくもツルツルにするー」「わたしもー」「はえたらぬくー」
分かってくれたようで良かったわ。
ロザリーも裸のまま腕組みして感心している。忘れてたわ。
「あぁごめんロザリー。これ服返すから、ちゃんと着なさいよ」
「いえ、いいんです。この姿を見ていただけるなら服を着ない事など些末なものです。寧ろ、この機会に是非目に焼き付けていってください」
「いや、流石に目の毒だから着てほしいんだけど」
テーブルの上に視線を移すと、ロザリーのパンツがない。
「あれ?」
辺りを見回すと、お姉様がパンツを持ってしげしげと観察していた。
「あの…お姉様? それ、ロザリーのなんですが」
「うん。知ってるわよ。構わないから続けていいわよ」
「いや、返してあげましょうよ」
「何で?」
「何でって……」
ロザリーの方を見ると、いつの間にかドレスを着ていた。
辛うじて股間部分は隠れていたが、子供達からは丸見えだ。教育に悪い。
「ほら、子供達からは丸見えなわけですし、流石に教育にも悪いですし」
「今更よ。もう手遅れだし。それにたかだか裸くらいで何を騒ぐことがあるというの?」
どうしても返したくないらしい。
お姉様の言うことも何となく一理あるなと思って納得しているうちに、頭のおかしい人たちのパーティーは終わった。
これでこの後はゆっくりできるんだろうな。そう思っていたんだけど―――――




