11 類は友を呼ぶ
しかし、本当に使用人達全員参加してるんだな。こんなに人が多いなんて知らなかった。子供達もお菓子コーナーでワイワイやっている。
そんな会場の一角に人気のない場所があった。
「お父様こんなところで何を……って、これは…」
「やぁ、私のかわいいクリス。何って料理だよ」
「追い出されたはずでは?」
「だから、第一料理場で続きをしたんだよ」
あぁ、なるほど。そういえばあったわ。
普段調理しているのは第二調理場。第一調理場はロザリーが私物を持ち込んで、自分の私室にしてしまったのよね。
よくそんな勝手なことが許されるものだと呆れたのを思いだしたわ。
しかも部屋の前の『第一調理場』のプレートは外されて、『ロザリーカレー研究所』ってプレートに変わっていたから、第一調理場って言われてもピンとこなかったのよね。
壁一面にパンツとスパイスの小瓶が並んだ異様な部屋だったと記憶している。
よくロザリーがカレー以外の料理の調理の許可したわね。
テーブルの上にはどれもマグマかと見紛うほどの真っ赤な料理が三品ある。
「三品も作ったんですね」
「いやぁ、久しぶりにやったら楽しくってね。それに勝手に来た彼らに一矢報いたいなと」
最後のが本音ですねお父様。
でも、誰も来ないのでは意味がないのは?
「あら、いい匂いに誘われてくればお父様」
「やぁサマンサ。どうだい食べるかい?」
「えぇいただくわ」
えぇ……。これを…。
「んー、お父様にしてはいつもより控えめね」
「そりゃあ、他の人が食べるんだもの。食べられないものなんて作らないよ」
どの口で言ってるんだ? よくお姉様は平然と食べられますね。
ぎょっとしながらお姉様の食べる姿を見ていると、不意に照れた表情で困惑するお姉様。
「な、何よクリス。そんなに見つめちゃって…。もしかして、私の食べる姿に惚れちゃった?」
「いや、よくそんな激辛料理を汗ひとつかかずに食べられるなぁって思いまして」
途端に真顔になるお姉様。
「見た目ほど辛くなわいよ。ねぇお父様」
「そうだよー」
嘘だ。この目は嘘をついてる目だわ。
半眼で見ていると、後ろに誰か来たのが分かった。
こんな狂った料理を食べようなんて、酔狂なモノ好きは誰かしら?
振り返ると、はぁはぁと荒い息を吐きながら見下ろしているクライブさんがいた。
この荒い息はどっちかしら?
もしかして激辛料理好きな方なのかしら?
そう感じ取ったのは私だけではないようで、お父様もニッコリと満面の笑顔で対応する。
「やぁ、クライブ君も、辛いものが好きなのかな?」
「えっ! あっ、いや…、その……。はい………好きです……」
「そうかそうか。じゃあよそるからどれがいい?」
「えっ! ええと…ええと…(あんまり辛くなさそうなやつ……)……これを………」
「おおっこれかい。待ってなー…………はいどうぞ」
よだれ鷄に見えるけど、普通のやつより真っ赤っ赤。
どうしてここに来たのか分からないけど、もう逃げられないと覚悟を決めたのか、恐る恐るといった感じで一口囓る。
目が光ったようにも見えたその瞬間、咳き込み吐血し倒れ伏すクライブさん。
「全くこれだからロリコンは…」
「このくらいの辛さで気絶するなんて」
分かっててやったのか。怖いわ。
「ところで、クリスはどれがいいんだい?」
「えっ!」
まさかこの後に及んで私にも食べさせようというの?
「いやー、私はいいですわー…おほほほほ……」
「親の前だからって遠慮しなくていいんだよ」
勘が鋭いのか鈍いのかわかんなくなったわ。
一歩後ずさると、硬いものに背中が当たる感触があった。
振り返ると、ロブさんが軽く頬を赤くしながら立っていた。
「あ、ロブさん…」
「……ん。違う……ロブ違う。……ロベルタ……」
「あ、ごめんなさい」
「……大丈夫。よく…間違えられる………気にしない……それよりも……」
ロブさん改めロベルタさんは、激辛料理の方が気になるらしい。
「……一通りください……」
「おっ。全部食べてくれるなんてロベルタちゃんはいい子だねぇ…」
「…そんな……こと………ない………でぅ……」
ちょっと下を向いて震えてる。やっぱり三つ全部は荷が重かったんじゃないだろうか。
「じゃあ、はい。どうぞ」
テーブルの上には激辛スープ、激辛よだれ鷄、激辛麻婆春雨。最後のは啜ったら気管支やられそう。
「!」
あ、ロベルタさんが、一口食べて顔を上げる。
続けて、他の二品食べて、確信したのかお父様の方を見て呟く。
「このくらいの辛さで激辛を名乗るなんて噴飯もの……」
「おお、分かるかね。いつもはこの数倍辛くしてるんだけど、今日は抑えてるんだ」
「そうなんだ。ちょっとがっかり。でも今度は食べてみたい」
「ロベルタが辛いの好きだなんて初めて知ったわ」
急に饒舌になるロベルタさんと嬉しそうに話し出すお父様とお姉様。
「うちの領では、これは子供用」
「なんと! それは知らなかった」
「ね、ねぇタバスコはタバスコはどうなの?」
「ふっ…。あれは飲み物よ」
「おおっ」
「おおっ…。ぜ、是非とも我が激辛同好会の顧問になっていただきたい」
「いいよ。言語機能に支障が出る覚悟があるなら…」
「師匠と呼んでもいいですか?」
「ん…。差し支えない…」
「「ししょー」」
もうついていけないよ。三人で盛り上がってる間に隙を見て脱出する。
折角のパーティーで味覚壊したくないものね。




