05 暑い時ほど暑苦しい人が来るわけで
しかし、この暑いなかでどこに行けばいいのかねぇ…。
屋敷のなかにいても仕方ないので、ガゼボのある方の庭にでも行こうかしら。
あそこなら木が多いし、水場だし、日陰もあるから涼しいでしょ。
膝丈のノースリーブワンピースだから、丁度いい感じかしらね。
移動までの間は大きめのつば広の帽子を被っていけば何とかなるでしょ。
そう思ってたら、あの二人もついてこようとする。
「え? まだついてくるの?」
「ダメなの?」
「あたし達が行こうとしてる方にクリスが行くだけでしょ…って、ちょ、アリス…」
比較的アリスの方が素直な気がする。
朝のアンジェさんの話を聞く限り、二人とも悪気があるわけじゃないしね。好意が悪い方に傾いただけみたいだし。
まぁ、懐きすぎだ犬みたいなものと思えば、何とか……。
そう考えると、少し可愛く思えてくるんだけど………。
うーん。やっぱ無理だなぁ。孤児院の子供だってここまで露骨に…、露骨に……………、あれ、あんまり変わんなくないか? 四六時中いるかいないかの違いか………。
「こんなとこいても仕方ないから早くしなさいよ。どこ行くか知らないけど」
「そうだぞ。出来れば呼んでも誰もこないような場所がベターよ」
やっぱり口悪いな。それに全く反省してるようにも思えない。
ちょっと、もう一回アンジェさんにどういう育て方したのか聞いてみたい。
それにメタモの発言で、ガゼボに行くのは危ない気がしてきた。
とりあえず、庭師のところに行って、花いじりしてるのでも見てようかしら。
そんな感じで、扉を開けて外にでると、燦々と降り注ぐ陽光が眩しい。寧ろ痛いくらい。
これはやばいなぁ…。地面からの照り返しも凄いことになってる。水を撒いてもすぐに蒸発しそうなくらい暑い。
軽くクラッとよろけると、意外なことにアリスが支えてくれた。
「おい大丈夫か?」
「あ、あぁ…ありがと…」
「ん……」
「…………ずるい……」
メタモが何か言った気がするけど、よく聞き取れなかった。
聞き返そうかなと思ったんだけど、門の方から大量の馬車が入ってきた。少なくとも十台以上はありそうだ。
一体何があったんだろう。また何かやらかしたんですかね?
誰が? なんて考えてもみんな当てはまるから分からない。
馬車の横の家紋は4パターンあった。見たことない家紋だから、レオナルドやソフィアじゃないことは確かだ。一体どこの家なんだろう。
全ての馬車が停車すると、中から大勢の人が出てきた。よくこの炎天下に真っ黒な馬車で来たなと感心していると、見覚えのある人が何人かいた。
お兄様の生徒会メンバーだ。
ということは、お兄様が何か関係しているのかな。でも、朝食の時、そんな話は出ていなかったし…。
考え事をしていたら、アンさんがキャーキャー言いながら私を抱き上げた。
「何てことなの。まさか、クリスきゅんが出迎えてくれるなんて! それにクリスきゅんくらい可愛いちっちゃいメイドさんが二人も。もう最高かよ。これお持ち帰り可能かしら」
「落ち着きなさい、アン。そのメイドはルイスと一緒にいたメイドじゃない。任務の時は殆ど顔を出さないから忘れてるのも仕方ないかもだけど」
「………………」
「ちょっと、クライブまで惚けてないで、ちゃんと挨拶しなさいな。…って、ちょ、アン何やってるの! まだ昼間よ。しかもこんな公衆の面前で」
「すーーーーー………………はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜……………………」
私のお腹に顔を埋めて、深呼吸するアンさん……。何なのこの人。え、こんな人だったっけ?
下の方で何か動く気配がしたので、下の方を見ると、アリスとメタモ。あと、黄緑色の髪の人がアンさんの足を踏んだり蹴ったりしているが、意に介さない。剛の者かよ。
「ちょっと、あたしのクリスよ。離しなさいよ!」「離せ変態! それはあたしがやる予定のやつ………あっ…」「アン……やめ……さす…がに……」
暑い時に暑苦しいのが来るなんて。
これはお兄様を恨むわー。そう思って諦めて脱力していたんだけど。
「え、何これ…」
それは、こっちのセリフですわ。お兄様。
「あら、会長」
「え、待って…。なになに? 何これどういうこと?」
「ふふ…。来ちゃった……」
私から顔を離したアンさんが恋人みたいな言い方をする。
「今日から暫く世話になるぞ」
「ん…。よろしく………」
「ごめん…、説明して? 呼んでないんだけど」
「いや、ほら、会長のところって、温暖じゃない? それに遊ぶところや見るところもあるし、バカンスにいいかなって思って」
「で、勝手に来たの?」
「そうよ。一月くらいよろしくね」
キャロルさんが押し通すように話す。勿論、断ってくれますよねお兄様?
「はぁ…。来ちゃったなら仕方ないか…」
「さっすが会長! 話わかるぅ!」
お兄様の悪いとこが出たわ。お父様譲りの押しの弱いとこ。
お兄様からの了承を得ると、ズカズカと四人の使用人達が荷物を運び始めた。
「……暫くお世話になります……」
「よろしく頼むぞ」
「ほらほら、ルイス部屋に案内してー」
「まったく……。あ、アン、クリスは返してね?」
「え? ダメなの?」
「ダメ」
「分かったわ。でも、あと少しだけ堪能させて」
しかし、アンさんの願いは叶わず、お兄様に無理やり引き剥がされ助け出される。
強引に出来るなら、断るのも出来たんじゃないですかねぇ? お兄様。
「全く、ルイスのブラコンぶりにも困ったものだわ」
「いや、今のはアンが悪いでしょうに」
「あら、キャロルだって、隙あらばやるでしょ?」
「いや、そういうのは妄想だけに留めなさいよ。いやよ? 身内から性犯罪者が出るの…」
「………………」
憮然とした顔のアンさんは黙ったまま、他のメンバーと一緒に中へ入っていった。




