04 どこまでもついてくる二人
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朝からどっと疲れた。
アンジェさんに連れられ部屋に戻ったのだけど、途中で会うメイドさんからの視線の凄い事。
羨望や怨嗟の声が止まなかった。
アンジェさんに見られながら、お風呂や着替えを済ませたんだけど、前ほど感情も昂りがなくなってしまった。
心にぽっかり穴が開いた気分だ。
そういえば、廊下に刺さっていた大量のクナイはどうしたんだろうか。
絨毯に開いた穴すら無くなっていた。
もしかしたら、うちのメイドさん達って、趣味や嗜好を除けば結構優秀なんじゃないだろうか。
そろそろ朝食の時間だなと思い、扉を開けると、二人がモジモジしながら立っていた。
食堂に行くと、珍しい事に、レオナルド殿下やソフィア達はいなかった。
こうも暑いと、馬車での移動も大変なんだろうなぁ…。
珍しく家族のみで朝食をとっていたのだけど、食べている最中ずっと後ろに二人が立っていた。
ただ立っているだけならいいけど、あれこれ言ってくるのは止めてほしい。
「ちょっと、納豆食べたら臭いじゃない」「刻んだオクラをどうするのよ! えぇ…かき混ぜるの?」「うわぁ…生卵……。え、それを混ぜてドロドロにして……」「白くてネバネバのとろろまで用意してるなんて!」「さっきからそういうのばっか。もしかして、ネバネバドロドロにされたい願望がっ……」「朝も汁まみれだったし、やっぱり…」
やっぱりってなんだよ。別に私が朝に何食べようと自由でしょ。
暑くて食欲ないから、喉越しいいやつ選んだだけでしょうに。
そんなこと言うから、お兄様もお姉様もずっと、こっち見てるじゃない。
この後何言われるか分かったもんじゃないわよ。
「「はいこれ」」
アリスからは練乳とマヨネーズ。メタモからは生クリームとヨーグルトを渡された。これをどうしろと?
「クリス、私手伝おうか?」
「お姉様、いいです。どうぞ、食事を続けてください」
立ち上がって手をワキワキさせるお姉様を宥める。
朝からどっと疲れたわ。正直、途中から味分かんなかったし。
お兄様が練乳を手にしていたけど、何かをする前にここは退散させてもらいましょう。
いつもの日課通り、今日もベルさんとお菓子作りをするために調理場に来たのだけど、
「一体何を作るの?」
「甘くてふわふわしたのにしなさい」
「えーっ、あたし的にはプリンみたいのがいいんだけど」
両隣にアリスとメタモがぴったりくっついて覗き込んでくる。やりづらい…。
「あの、作りにくいから離れてもらえるかしら?」
「えー、別にいいじゃん」
「跳ねたクリームやバターがくっついてもいいんならいいけど」
「じゃあ、それ舐めてあげるわ」
どうしてそういう思考になるのかな?
「邪魔ばっかりしていたら、お菓子あげないわよ。ごめんねベルさん。騒がしくて……」
「い、いえ………だ、大丈夫です……」
顔を引きつらせたベルさんが、精一杯の笑顔で返す。
「ほら、大丈夫って言ってるじゃない」
「そうよ。ここは抱きつかれながらでも作って見せなさいよ」
一向に進まないお菓子作り。ベルさんが笑顔で私ごと三人を部屋の外に放り出した。
「えっ! 何で私まで」
「クリス様、申し訳ないんですけど、今日は私一人でやりますんで、どうぞ三人で楽しんでください。あと、これ昨日のですが、どうぞ」
そう言って、小袋に詰められたお菓子とお茶の入ったポットを無造作に投げられた。
なんか怒ってるようにも見えたけど、下手に言い訳して包丁投げられても困るから、二人を連れて調理場を後にする。
「あなた達のせいで追い出されたじゃないの」
「そんな事言われても知らないわ」
「心が狭いのね。これだからババアは…」
ガシャン―――――
調理場の方から何かを落としたような大きい音が聞こえた。




