02 そうか夏休みか…
「よぉ、クリスー。まだ女の子やってんのかよー」
私のお腹の上に乗っかり、ニシシと笑う夏用のメイド服を着た少女、アリス。
私は両手で顔を覆い、大きいため息を吐いた。
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っ………」
「なっ! 何よその大きいため息は。失礼なやつね!」
そうか…。お兄様が夏休みで帰ってきていたのね。
去年はなんか忙しくて帰ってこれないと言ってたけど、今年は帰ってきたんだ。
だからかぁ…………。はぁ……。
暫く会わないから忘れてたわ。何かと私にちょっかいをかけてくるメイドまで帰ってくるって事を失念していたわ。
今年の夏は気が休まらなそうだなぁ。
そんな感じで憂鬱に浸っていると、私のお腹の上で前後に腰を振ってるアリスが立腹していた。
「おい! 無視すんなよ。クリスの癖に生意気だぞ!」
外でけたたましく鳴いている蝉よりうるさい。
そんなうるさいメイドはもう一人いる。扉の方を見るが姿が見当たらない。
「別に無視はしていないわよ。いつもアリスと一緒にいるメタモが見当たらないから何か悪いことでも企んでるんじゃないかと思ってね」
いつも二人一緒にいるから片方だけなんてことは滅多にない。強いて挙げればトイレの時くらいだろうか?
「悪いことなんて企んでないぞ」
どうだかね。
「そうよ。あたしたちはただ面白いことを求めてるだけだもの」
頭のてっぺんの方から声が聞こえてきた。
無理して視線を上の方に動かすと、仁王立ちして見下ろしているメタモがいた。気がつかなかったわ。
「ふふん。やっと気づいたわね」
「ねぇ、パンツ丸見えなんだけど」
「そうよ。見せているのよ。どう? 欲情した?」
「いいや、全然」
「なっ!」
顔を赤面させてわなわなと震えるメタモ。
「ゆるさない…」
そう言ってメタモは私の顔の横に足を移動させ、屈もうとする。
ちょっ! こんな蒸し暑い時にそんなことされたくないんだけど。
「何がしたいのよ!」
「決まってるじゃない。生意気なクリスにお仕置きするのよ」
お仕置きとは一体…。
「まだ何もしてないよね? というか、私一応主だと思うのだけど、立場逆転してない?」
昔っからこういう変なことをしてくるが、ここまでマセガキみたいなことはしてなかったはず。そもそも主従関係というより、兄弟みたいな関わり方をしてくる。いや、兄弟でもこんなにかまってちゃんしないでしょ。
なんとか逃げ出したいが、アリスが微妙に力の入れづらいところに乗っているから、逃げ出すこともできない。メタモの全体重を顔面の乗せられるのは是非とも避けたいので、何とか時間を稼ぐが、そろそろ時間切れになりそうだ。
他のメイドさんも来る気配もないし、何とか自力で脱出しなければ。
「ふふふふふー…。私達の奴隷になりなさいなクリス」
言うに事欠いてとんでもないこと言いだした。
私が何やったっていうのよ。
目の前にまでメタモのパンツが迫ってきている。アリスはそれをみてニヤニヤと笑ってる。
何とか動かせる頭を前後に振ると、額のあたりがメタモのどこかに当たったのだろう。ゴンという音がした。
「わ、わわっ…」
よろけたメタモがアリスに覆いかぶさるように倒れる。ベッドの上は安定感ないからね。
丁度隙が生まれたこの瞬間に、横に転がり脱出する。
「いったー。何すんのよって…、あぁっ! 逃げた! 待てこら!」
「あと少しだったのに……。ま、待てクリス! 待ておい!」
随分と口悪いな。しかし、ここは構っていられない。私の何かが汚される気がしたので、後ろを振り返らずに、扉を開け走り出す。




