76 番外編7 生徒会について
俺の名はクライブ。クライブ・エンジェルシリカ。
ダイアモンド王国東部のエンジェルシリカ辺境伯領の長男だ。
次男はエリオット改め、エリザベスと名乗る頭と筋肉のイカレタ次男と、少女のようにかわいい三男のテレンスがいる。もうテレンスだけでいいんじゃないかな。
領の東側全域をルビー帝国と接しているため、いつ何時攻めてこられてもいいように、常に戦いの準備に勤しんでいる。
ちなみに王国内で一番領地が広いのはうちだ。
だからうちの領は大きく三つに分けられている。チャロアイト、ラリマー、スギライトと分かれている。チャロアイトに関しては以前ルビー帝国の一部だったそうだ。
将来的にはそこを俺が治めるわけだけど、テレンスには平和に過ごしてもらいたいと思ってる。エリザベス? エリザベスは知らん。自分で何とかできるだろう。
俺が一人で治められればいいんだけどな。
そして、それぞれ一人ずつ男装した執事が付いているのだが、俺のところにはクオンというチャラチャラした女が充てがわれているが、こいつがまぁやる気の無い事。
今日もあいつは、俺の部屋で寝ているらしい。
夜になるとどこかへフラリと遊びに行ったりするらしい。任務でもないのに、本当に自由なやつだなと思う。
他に二人メイドがいるが、メイドも俺に対しては必要最低限しか対応しない。
もう少し、会話とかあってもいいと思うんだが、もしかすると、クオンが何か関係しているのかもしれない。
話を聞きたいとは思うのだが、生徒会の仕事が忙しく、時間も合わないし、共通の話題もないので話す機会さえない。
どうにかしたいと思いながらも、既に学園の二年目を終わろうとしている。
そんな女っ気のない俺にクラスメイトらしき男が生徒会について聞いてきた。
「よぉ~クライブゥ、今日も生徒会か?」
「あぁ、そうだが」
昼になったので、食堂へ行こうとしたら、クラスメイトらしき男に声を掛けられた。
折角なので、そのまま二人で食事にすることにしたのだ。
席に着き、さっそく食べようとした所で、お預けをくらった。
「お前も生徒会に入って二年目だよな?」
「そうだな。入学して早々だから、そうだな」
「だよな。で、どうなの?」
こいつは一体何が聞きたいんだ?
「どうとは?」
「お前以外みんな可愛いだろ? 誰が好みなんだ」
「全く。そんなくだらない事を聞くために態々俺とお昼を共にしたのか?」
「いや、そこは重要だぞ」
器用にフォークの先に刺したプチトマトを俺に向けてくる。
向けてきたので食べると、ありえないといった顔をされた。
「む、どうかしたか?」
「いや、まさか食べられるとは思ってなかったから………。俺が男相手に『あーん』なんてすると思うか?」
「違うのか?」
「はぁ…、そういうところだよお前さんは…」
この男の意図が計りかねるが、まぁそうだな。腕を組んで椅子に凭れかかる。
男は仕返しとばかりに俺の皿からうずらの卵を一個持って行った。
ちょっと待て、それでは釣り合いが取れないではいないか。
しかし、そんな事を話すとまた面倒な事になりそうなので、軽く睨む程度で済ませておく。
いつまでも黙っている俺に、クラスメイトはため息を吐きながら話し出した。
「いいか? まず会長だ」
「いや、会長は男だぞ」
「知ってる。だが、そこらの女よりかわいいだろ? あの見た目だし。勉強もスポーツも仕事も完璧だ。男からも女からも評判がいい」
「まぁ、否定はしないな」
確かに可愛いとは思うが、行動と言動が怖いんだよな。
生徒会長、ルイス・オパールレイン。
オパールレイン伯爵家の長男で女装趣味の変わった男だ。男だと言われなければ気づかないだろう。
南方で海に面した領地だからか、海外からいろんな文化が入ってくるのだろう。だからか知らないが、あの奇抜な格好や言動はそれによるものだと思っている。
青い長髪をツインテールにしているが、この歳でも違和感がないのは凄いとは思うが、もう、そういうのは止めたらいいのになとは思う。
そんなルイスは入学早々生徒会に入り、一週間後には会長になっていた。生徒会の面々も入れ替わり、気付いたら俺も入れられていた。
あの行動力には驚かされる。
一番驚いたのは、制服を変えると言いだした事だな。
前の制服は、まぁそうだな。地味で悪趣味だったな。
大していい生地でもないのに高くて、ペラペラで色味が悪い。そのくせ変なところに意味のわからない装飾が施してある。よく解れたり裏地が破けてたりしたなぁ。よく言って粗悪品だった。まぁ、着れたもんじゃないが、よく今まで誰も文句を言わなかったものだ。
あいつだけ、入学初日から改造した制服で登校してきたものな。女子の制服で。
あいつ曰く「僕はここの制服を変えるのが目標だ」と。中身も外見もおかしいやつだったが、制服の変更については、全生徒賛同していたな。
業者からキックバックしてもらってた教師の一部が反対したくらいだ。
あの教師たちは、翌日にはクビになっていたが、生徒会にそこまでの力はないはずだが、一体どうやったんだろうな。
それからも、学園内の変なルールの修正や廃止。新たなイベントやら生徒が学びやすい環境を整えていったな。よく一年そこらでやったもんだよ。まぁ、俺らも散々手伝わされたがな。俺庶務だし。
昼間もあんなに仕事するのに、夜も頑張るんだから脱帽もんだよ。
そういえば、なんでそんなに頑張るんだと聞いた事があったが、その時は「僕のかわいい妹が入学するまでに整えておこうと思ってね」だそうだ。
てっきりサマンサの事かと思ったら、違ったらしい。間違えた瞬間に眉間めがけてクナイを投げつけられた時は生きた心地がしなかった。俺じゃなきゃ死んでたぞ?
言動もなぁ…。おかしいんだよなぁ…。
「お前、会長が今年の新入生への挨拶の時なんて言ったか覚えてるか?」
「地獄へようこそサバトの生贄たち(入学おめでとうございます。新入生の諸君。楽しい学園生活を送ってくださいね。僕たちはあなた達を歓迎します)だろ?」
「そうだ」
「新入生は最初ざわついたけど、副会長がすかさず翻訳してるからそこまで騒ぎにならなかったじゃん。一月もしたらみんな慣れたし、翻訳も要らなくなってたじゃなんか」
「慣れって怖いよな?」
「ん? そうか?」
「まぁ、会長はない。かわいい…とは、思うが男だし、言動も行動も俺にはついていけん」
「勿体無い。会長のファンクラブが聞いたらお前フクロだぞ?」
「嘘だろ……」
まぁ、見てくれだけはいいからな。しかし、下手な事を言うといつどこでどんな目に遭うか分かったもんじゃないな。今更になって気づくなんて遅すぎたか?
「じゃあ、副会長はどうよ」
「あいつはなぁ…」
副生徒会長、キャロル・アクアマリンウィールアイル。
アクアマリンウィールアイル侯爵家の次女で、ルイスに好意を抱いている性格に難のある女。
俺は略して『アクマ』と内心で言っているくらい、感情の起伏が激しい。
でも、俺以外にそういった被害を受けたというのは聞いた事がないから、もしかして俺だけが損な役目をしているのかもしれない。
二面性のある嫌な女という認識しかない。
キャロルの領地は北方の旧エメラルド連邦。所謂西エメラルド。現グリーンベリル連邦共和国と大半を接しているが、東エメラルド。現レッドベリル民主共和国とも一部接している。
グリーンベリルは比較的まともだが、レッドベリルはルビー帝国の属国になっているから、いつ戦争になってもおかしくはない場所だ。
他にも幾つか分裂はしているが、大半がルビー帝国の属国になっているのは、非常に厄介だ。
そういえば、キャロルの領地の一部は元エメラルド連邦の一部だったところもあったな。
だからだろうか、接している場所は常に緊張が走っているが、いつ爆発してもおかしくはない。
そんな場所から来てるからか、キャロルがいつもピリピリしてるのはその為だろう。
いつでも戦えるようにかは知らないが、長い水色の髪をポニーテールにしている。のぞく頸は好きだが、こいつのは見ていると、その長い髪を鞭のように使って顔を叩かれるので、この髪型は今すぐに止めてもらいたい。
そんなキャロルも気づけば、いつの間にかルイスの横に平然といたな。
俺としては、副会長というより、秘書兼翻訳みたいな感じに見えるんだよなぁ。
よくルイスの言っている意味が分かるよ。俺は未だに殆ど分からん。
よくアンと一緒に何かの本を読んでは激しく議論しているから、結構勉強熱心なんだとは思う。ただ、たまに鬼気迫る感じでバトルに発展することもある。
そんな時は大抵俺が仲裁に入るのだが、俺だけが怪我をするから、本当に嫌な役回りだと思う。
過去を思い出しゲンナリとなる。
「キャロルだけは無い」
「そうか…。あんな淑女の鏡のような人なのに好みじゃないのか」
こいつの目は節穴か何かか? あんないつ爆発してもおかしくない女を淑女とは笑わせる。
哀れみの表情で見ていたら、逆に哀れみの目を向けられた。どういうことだ?
「もっと、本質を見た方がいいぞ?」
「その言葉そっくりお返しするぜ」
そう返したら、鼻で笑われてしまった。腑に落ちない。
「じゃあ、書記の子はどうよ。あのちょっと地味だけど、眼鏡外したら結構イケそうな子」
「お前ぶっとばすぞ?」
「⁉️ え? いきなりどうした?」
「いや、何でもない」
「そ、そうか…。あーびっくりした」
ちょっと、言い方にイラっときてしまった。
アンの事となると、ちょっと意識してしまうんだよな。
書記、アン・カーボナード。
王都で領地なしの男爵家の長女。長女と言っても上に三人の兄がいるし、下に一人妹がいる。
まぁ、カーボナード男爵家なんてのは表向きで実際はブラックダイアモンド大公家で、俺たちのボスの娘だ。
中央にあるホテルのダイアモンドシリーズを経営しているって事以外は、実際何をやって生計を立てているのかは分からないままだ。
まぁ、尤も。王家の直轄領って事になっている所全てがブラックダイアモンド家のものらしいからな。そこの生産額を合わせると、王国で第三位らしい。
収益も凄そうだが、殆どが王家に収められてるって聞くと、忠誠心が高いなと思う。
そんな裏方に徹している家の娘であるアンも、「書記ゆえにいろいろと、都合のいいように書き換えられるから書記になった」と平然と言ってのけたからな。確かに都合の悪いことは全部書き換えられていたな。
実質この生徒会で一番力を持っているのが彼女だ。
そして、一番美しいとさえ思っている。
ただたまに、部屋で一人でいる時は『デュフフ』とか『ぐへへ』とか変な声が聞こえる事があるが、あれは何なんだろうな。
「お、もしかして、気になってるんか?」
「な、ななな。何てこと言うんだ。恐れ多い。俺と彼女に何かあるわけないだろ」
「その言い方だと何かあると思われるぞ」
「くっ…。わかったよ…。いいなとは思ってるが、向こうがどう思ってるか分からん」
「むっつりスケベの朴念仁って思われてんじゃないか?」
「なっ! 彼女が言ったのか?」
そんな事彼女は言うはずがないではないか。
「いやーどうだろうなー。聞いてみたらいいんじゃね? 進展するかもよ?」
「ば、ばばば…バカなことを言うな。そんな事どうやって聞けばいいんだ」
「それくらいは自分で考えろよな」
「善処する」
「それ、やらないやつの常套句だぞ」
「うるせぇ。ほら、もうこの話は無しだ。飯が冷めちまう…………ってあれ、俺こんなに食ったかな?」
「無意識に食ったんじゃね? じゃあ、あの会計の小さい子はどうよ」
ロブの事か。意識した事なかったな。だってなぁ…。
「あれも男だろうに…。何言ってんだ?」
「いや、あれ女だろ?」
「は? いや、まぁ、前髪で顔は隠れてるし、声も殆ど聞いた事ないから分からないが、あれは男だろう? 胸もぺったんこだしな」
「お前……。というか、お前、実際小さい子好きじゃん? 弟とか」
「そりゃあ、弟は可愛いぞ。だからって、誰彼小さい子ばっか好きにならんぞ」
「そうかなぁ?」
まぁ、確かに小さい子供と会う機会は多いんだがな。だからと言って、俺がロリコンかと行ったら違う。断じて違う。だから、小さい子は恋愛対象にはならないんだ。遠くから触れずに、慈しむように眺めるのが常識だろう?
しかし、ロブかぁ…。意識した事もなかったなぁ。いつも下向いてるし、ジェスチャーで表現する事多いしな。
会計、ロブ・プレナイトピーク。
プレナイトピーク辺境伯家の出身だって事しか知らないな。
確かうちとは違って、西方の山岳地帯が領地の大半だったはず。
幾つかの国と面していて、一部サファイア帝国とも接しているが、山からしか移動できないから交流も少なければ、侵略の危険性も少ないとは聞いている。
実際は、山からの侵入者が後を絶たないとも聞いた事はあるが、ロブからはそういった話聞いた事ないから真実は分からないままだ。
「ロブは意識した事なかったな」
「お前さぁ、こんだけ女性陣に囲まれてんのに、よく平然としてられるな」
「女性陣って四人中二人だろうが。一人は女装した男だし、もう一人は完全に男だろ? 確かにロブは髪の毛長くて小さいけど、名前からして男だろうが」
「お前、ロブロブ言ってるけどさぁ、それ最初愛称で言ってるもんだと思ってたけど、まさかそれが名前だと思ってたなんて思わなかったよ」
ホントこいつ何言ってるんだ?
「ロブじゃなくてロベルタだろ?」
「おいおい。それじゃ女の名前だろうが」
「だから、女だぞ。みんな知ってるって。あぁ、そうかお前クラス違うもんな。出席とかちゃんとロベルタ呼びだぞ」
嘘だろおい。
確かに女っぽい体型してた……な……。あ、そういえば女子の制服着てたな。ルイスも女子の制服着てたからそういうもんだと思ってたわ。
「今頃気づいたのかよお前。失礼な奴だな」
「仕方ないだろ? この学園男は女子の制服着てるし、女は男子の制服着てるわで、そういうもんだと思ってたんだから」
そうなんだよなぁ。ルイスの政策の一つで、男だろうが女だろうが、好きな方の制服着たらいいじゃないってやったもんだから、制服だけで判別すると痛い目に遭うんだわ。暫く忘れてたわ。
目の前のこいつも男子の制服着てるけど、よく見たら、胸のあたりが女だな。ずっと男だと思ってたわ。
「じゃあさ、最後にもう一人」
「もう一人?」
生徒会にもう一人居たかな?
ロブ。いやロベルタが女だって事にすら気づかなかったんだ。影の薄すぎる奴がいてもおかしくはないか…。
「そ。お前んとこにいる美人さん。あれはどうなのよ?」
「美人? 生徒会にあと一人そんなやつがいたのか」
「いや、ちげーよ。お前んとこの執事の格好した美人のお姉さんいるじゃん。あれはどうなのよ?」
両腕をテーブルに乗せ、食い入るように聞いてくる。
全く。美人とか言うから分からなかったじゃないか。執事の格好した女で分かったよ。クオンの事だろう。
「ない」
「……い、いやいや。そんなきっぱりと否定しなくても…」
「いや、アレはない。断じてない。ありえない」
「そこまで言うか? り、理由は何よ?」
「まずだらしない。昼は腹出して寝ているし、夜はフラフラどこかへ遊びに行くし、貞淑の欠片もない。あとでかい。俺よりでかいとかありえんわ。俺は小さくてスラッとしてて可愛い子が好きなん…………」
「きっしょ……」
「え? 今なんて…」
「いや、なんでもないわ。あー、そうだな。結構聞けて良かったよ。生徒会頑張ってな」
そう言って男? は自分のトレーを持って席を離れて行ってしまった。
結局何だったんだろうな。
……………あれ、あいつ名前なんだっけ?
見覚えがあるようでないし、気軽に声を掛けられたから普通に話してしまったが…。うーん。わからん。
視線を下に移すと、いつの間にか俺の分の食事は無くなっていた。
「あれ、俺いつ食べ終わったんだ?」
トレーの上のスプーン、ナイフ、フォークは綺麗なままだった。
*
「というのが、あーくしからの報告です」
「ご苦労様」
あーしが生徒会のメンバーにあーしの主であるクライブの事を報告する。
前回の教会潜入の時に、クライブが誰かに惚れている疑惑が出たため、変装の得意なあーしが聞き取り調査をしたのだった。
「うっわ最悪…」
そう言って額を抑え項垂れるアン。
この中では唯一好感があったのがアンなのだけど、当の本人は凄く嫌そうにしている。
「はぁ……。私はああいう無口な筋肉質な大男って好みじゃないのよ。私はね、女の子みたいな見た目の男の子が二人汗だくで抱き合ってあんなことこんなことしてるのが好きなの。それなのに、そういう子には好かれないで真逆の奴に好意を抱かれるなんて最悪だわ」
あーしとしては、そっちの趣味の方が最悪だと思うけどねー。
「アンは…まだマシ……僕は男だと…ずっと思われてた…」
ロベルタが静かに怒っているけど、ロベルタも悪いと思う。口下手だから最初のロブのあたりしか聴き取れないし、見た目は女の子より男の子に近いから仕方ないね。
「というか、女だっていうの初めて知ったわ」
「私も」
「実は僕もなんだ」
「…………………………………………」
あーあ。生徒会全員節穴じゃん。ロベルタがうつむいてプルプル震えている。
これで、任務とかちゃんとこなせるのか不安になってきたわ。
そんな感じで、クライブを除いたメンバーが改めて各々の自己紹介を始めた頃、急に扉が開いた。
「なんだ、みんなもう集まっていたのか……って、なんでクオンがここにいるんだ?」
「あーしがここにいちゃなんかまずいんですかー」
「だってお前、いつもこの時間は寝てるだろ?」
「失礼しっちゃうわね。私だって、クライブが何やってるか気になるわけだし」
「気になるってお前……。待て、今お前俺のことロリコンって言ったか? 違うんだ。俺は子供が好きなだけで…」
「あーはいはい。わかりましたよー。あーしはもうおいとましますねー」
「ちょ、待て…」
生徒会の面々に手を振って急いで生徒会室を出る。
あーしの主はホント、どうしようもないくらい鈍感ですねー。
その後、うちの主、クライブがむっつり変態ロリコン童貞鈍感野郎というアダ名を変えようと奔走するのはまた別の話。




