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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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68 エピローグ


     *     *     *


 王城、王妃の私室―――――

 「今日も抜け出して、遊んできちゃったわー」

 今日もオパールレイン領へ行き、友達のレイチェルのところへ行ってきたのだ。


 昔、私の護衛騎士をしていたレイチェル。あの頃と全く変わらなく、若くて綺麗で羨ましい。私なんて公務で忙しくって、気づいたら、目尻とかにうっすらシワが見えるようになってきた。非常にまずい。

 そんなストレスマッハな生活に嫌気がさして、ここ数年、話題のオパールレイン領へ抜け出しては遊んでを繰り返した結果、少し若返った気がする。誰がなんと言おうと若返ったわ。異論は認めないわ。


 それに、こんな退屈な事より面白おかしく楽しい事に囲まれて生活したいわ。

 王妃なんてただ面倒くさいだけのもの、早くやめたいわ。

 市井で出ているロマンス小説なんかには、王子様と結ばれてハッピーエンドなんて言ってるけど、華やかなのは見た目だけ。実際は地獄よ。息苦しくて堅苦しくて、常に監視されて、思惑が絡まって解けないもの。もうぐっちゃぐちゃ。


 頼んでもないのに勝手に派閥を作って盛り上がってバカみたい。

 まぁ、昔の事はなるべく思い出さないようにしているけど、不意に思い出してしまうのよね。

 そういう時は、騎士団の訓練所に行って暴れるようにしている。

 王はそろそろ落ち着きなさいと言うけれど、落ち着いたら最後、一気に老けていくわ。


 「………」

 ちょっと気になりだしたら止まらない。アホみたいに豪華な姿見の前へ移動し、覗き込むように自分の顔を見る。

 「そんなに見ても小ジワは減りませんよ?」

 背後から淡々とした嫌味が飛んでくる。私付きのメイド、シグマだ。全く協調性の欠片もないわね。態々そんな事言わなくてもいいのにね。


 「それと、また勝手に抜け出しましたね?」

 振り返り、シグマに向き直る。

 ナチュラルボブのメイドの見本みたいのが、憮然とした表情で立っている。

 素材はいいのだからニッコリと笑えばいいのに勿体ない。


 「エテルナ様? 黙ってどうしました?」

 「し、視察よ視察」

 「ダウト」

 「い、いいじゃない。息抜きは大事よ? 仕事ばっかりしていたら、肝心な時に本領を発揮できないし、ずっと同じ事ばっかりしていたらミスばっかりするじゃない! だからこれは必要な事よ」

 「そうですか。承知しました。では、十分休まれた事ですし、溜まった仕事を一気にこなしていただきましょう」

 「なぁっ!」


 ホントに可愛げのない子ね。夜はあんなにかわいいのに。おっと…。

 しかし、どうやってこの場を切り抜けましょうかね。

 そう思っていたら、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。

 誰かしらね。大臣やボンクラ貴族ならノックなんてしないでしょうし、王ならノックと同時に何か喋るわね。

 とりあえず、仕事をしないで済むならなんでもいいわ。


 「どうぞ」

 「………」

 シグマがやれやれといった表情で見てくるが知った事じゃないわ。

 ゆっくりと扉が開くと、そこにはレオナルドがいた。

 あらあら、すっかり気落ちしているわね。どうしたのかしら?


 「あら、レオナルドどうかしたのかしら?」

 下を見たまま中々喋らない。どうしたのかしらね。

 近づいて、レオナルドを抱きかかえ、近くの椅子に座り、膝の上にレオナルドを乗せる。

 レオナルドは一瞬びっくりしたようだけど、すぐに安堵の表情になる。

 まだまだ親離れが出来ていないわねぇ。まぁ、そこが可愛いんだけど。うふふ…。


 「レオナルド、どうしたのかしら〜」

 顔を覗き込む。途端に頬を染めるが、意を決したのか私の顔を見つめて口を開く。

 「あの、クリス…。クリスティーヌ嬢のことなのですが…」


 クリスティーヌ…。レオナルドが大好きだという少女。いえ、女装男子。あるいは男の娘。どこからどう見ても女の子にしか見えない可愛い男の子。確かに彼…いえ彼女はかわいい。私のそばにずっと置いておきたい程に。でもそんな事をしたらレイチェルに怒られてしまうわね。

 しかし、そのクリスティーヌ嬢…クリスちゃんの事になると途端に饒舌になるレオナルドがこんなに歯切れが悪くなるなんてどうしたのかしら?


 「どうしたの? クリスちゃんの事で何か相談があってきたのではないかしら?」

 「そうなのです。母上」

 母上かぁ。ちょっと前までは違う言い方をしていたのに、こんな堅苦しい言い方されるなんて…、ママ悲しいわぁ…。


 「あの、聞いてます?」

 「あ、あぁごめんなさい。何かしら?」

 ちょっと過去に浸ってたら聞き逃してしまったわ。


 「最近、クリスと会えないんです。それに、クリスの周りにはどんどんと人が集まって、いつか自分が忘れられてしまうんじゃないかって思うんです」

 あらぁ、さみしんぼさんね。かわいっ。


 「このままでは、クリスが私から離れていってしまう気がして……。どうすれば…、母上どうすればいいのでしょう?」

 うーん。どうしましょう。こんな面白そうな事簡単に終わらせていいわけないわね。

 いつか真実を知るにしても、まだ早いわね。

 婚約者が男だと気づかないバカワイイ私の息子。真実を知ったらどうなっちゃうのかしら。


 そうだわ、その機会を与えればいいのよ。

 これで気づかなかったら、それはそれでまだ楽しめるからいいけど、このままどこまで気づかないか見ていたいわね。ふふっ。


 「じゃーあ、そのクリスちゃんにここへ来てもらえばいいんじゃないかしらぁ」

 「ここにですか」

 ぱあっと表情が明るくなるレオナルド。うんうんレオナルドは笑ってる方がいいわね。ほら、見習いなさいなシグマ。

 そんなシグマは意を介したのか、していないのか、相も変わらず憮然とした表情で淡々と話だす。


 「では、クリスティーヌ・オパールレイン嬢に登城してもらう手続きを行ってきます」

 音もなく姿を消すシグマ。表情筋が死んでるのかしら? 全然ニコリともしないわね。

 そんな年でもないんだから、ニコニコしてれば結婚できるだろうに。あ、もうそんな年だったわ。

 急に背筋が冷たくなるのを感じた。


 お陰で、ちょっといいアイデアが閃いたわ。ふふふ…。

 ただ登城するだけじゃ面白くないから色々根回しをしておきましょうね。

 これは楽しくなる気がしてきたわ。

 レイチェルとシグマに怒られない程度に楽しみましょうかねぇ。


 私の膝の上でレオナルドが嬉しそうに笑ってる。

 その笑顔を見ているとなぜか救われる思いがした。


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