65 お父様は語る
あんなに山盛りあったしびれ鍋と辣子鶏を綺麗に平らげてしまった。明日のトイレは相当地獄を見る事になるんじゃないだろうか? でもお父様的にはご褒美なのかな。
あんなに辛いものを食べたのに水を飲まないのは流石と言うべきか…。
「……ふぅ……」
汗でビッショリの顔をおしぼりで拭いて、佇まいを正した。
「じゃあ、クリスの疑問に思っている事について話そうか…」
やっと本題に入ったけど、何もこんな状態になって言うべきではないと思うのよ。
まぁ、聞くけどさ。今聞けなかったら聞く機会をなくしてしまいそうだったから。
「まず、今回の王都での件だね。あれは私たちが普段何やっているのかを知ってもらいたかったからなんだけど、どうやらクリスがいる事で浮かれてしまったようだね。普段はあんな感じじゃないんだけどねぇ…。お陰で結構ミスもあったし…」
そうなんだ。大学生が川辺でバーベキューするノリでやってたから、あれが普通だと思ったわ。
「まぁ、今後ああいった事がないよう注意はさせてもらったから安心してね」
いや、安心も何も…。私もああいうのやるの?
でも、あんな事をどうしてうちみたいな貴族がやるのかしら? そして、私に知ってもらいたい理由とは……。
「まぁ、あそこまで大掛かりなのはそうそうないんだけどね」
「そうなんですね」
「あぁ。いつもはもっと地味で誰にも気づかれないうちに終わってるんだよ」
いつの間にかお父様の顔からは汗が全て引いていた。さっきまでのアホみたいな悶絶した貌とは違ってる。普段のお父様とも違う。
「そうそう。王都の入り口で尋問されていたね。あれではダメだよ。あんなに人を呼ばれたらダメ。そもそも尋問される事自体アウトだよ」
あれも見られていたんだろうか。黙っていると、そのまま続けるように話すお父様。
「貴族であるアドバンテージを全く活かせてないよねぇ。疑われた時点で終わりだよ。クリスも付き合う友達は選んだほうがいいよ?」
そんな事言っても、私の周りって自己中心的な人しかいないからなぁ…。
「もし、次があるなら、上手くこっそり脱出する事だね……。うん…、そこは教えてなかったね。すまないね」
いや、教えてもらうも何もないんですけど。
苦笑いをしていると、唐突に話が変わった。
「クリスは疑問に思った事はないかな?」
「疑問ですか?」
「そう。どうしてうちには祖父も祖母もいないのか、と…」
そういえばそうだ。お父様もお母様もまだ若い。お母様に至っては女子大生って言っても信じてしまうくらい若い。流石に女子高生は無理があるけれど…。
そうね。今言われていない事に気づいた。よく考えたらお爺ちゃんもお婆ちゃんもいないんだな。そんな話題が出た事もないし、隠居して何処かに住んでるって話も聞かない。誰もそんな話をしないから完全に意識の埒外だったわ。
「どこか別のところに住んでるんですか?」
「いいや、いないよ」
「亡くなってるんですか?」
「まぁ、そうだね。端的に言うとそうなる」
テーブルの上に握った両拳を乗せるお父様。その表情はどこか他人事で冷たく感じた。
「その二人が前オパールレイン家の当主と夫人だよ。ルイスとサマンサの本当の親だ」
「えっ?」
なんか物凄く衝撃的な事を言われたんだけど。
「え? という事はお父様はその叔父みたいなものですか? 代理の当主的な」
「いや、私とレイチェルはルイスとサマンサとは血は繋がってないよ」
感情のこもってない声で軽く否定された。
え? どういう事? だってお父様の髪色と瞳は濃いめの青だし、瞳の色に関してはお兄様もお姉様も同じなんだけど…、もしかして私の髪色が違うのは…。




