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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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64 それは食事というにはあまりにも苦行な訳で


           *      


 繁華街にある中華風のお店。

 まさか、ちょっと汗ばむ季節に中華をチョイスするセンスよ。

 クリームたっぷりのお菓子の後に油たっぷりの料理はちょっときついかも……。


 店内へ入り、一番奥の個室へ入る。

 お父様がメニューを見る事なく、何かを頼んでいた。もしかして結構通っているんだろうか。お店の人も分かってる感じなので、かなりの常連なんだろう。


 「ここの鍋はパパのお気に入りでねー」

 鍋かぁ。冬に食べたかったなぁ。ドレス着て来る場所じゃないんだよなぁ。

 「お待たせしましたー。こちらしびれ鍋になりますー」

 今なんて? しびれ鍋?


 「いやぁ、私はこれが好きでねぇ。いろんな辛い鍋があるけど、ここ最近はこれしか食べてなくってね。……ん? クリスどうかしたかい?」

 「いや……あの……」


 鍋の中は溶岩かと見紛うくらい真っ赤な液体と、その中央にこれでもかといわんばかりのざく切りの鷹の爪と花椒。それ以外は何が入ってるか皆目見当もつかない。

 というかこれ子供が食べていいもんじゃないでしょ! 何考えてんのよ。


 そんなお父様は嬉しそうに、小鉢にお玉で中身を掬っている。

 鼻の奥にまで唐辛子の香りがする。相当辛いに違いない。

 お父様が掬ったあたりを見ても何が入ってるか未だにわからない。うーん。ネギっぽいのは見える。

 「お待たせしましたー。こちら辣子鶏ですー。こちらに取り皿をー………、あの、お子さんにこれはすごく辛いと思いますよ?」

 でしょうね。でもできる事ならしびれ鍋を持ってきた時に、それを言ってほしかったわ。


 「あ、そっかぁ。いつもはサマンサと来てるからなぁ…。何かいいのある?」

 正直、少し前にお菓子をいっぱい食べたからあんまり食欲ないのよね。この辛そうな匂いはそそるけど、ダメージ入りそうなくらい辛そうだから遠慮したい。

 今更ながらメニューを見るが、全体的に赤い料理が多い。もしかして、激辛料理専門店だったりする?

 後ろのページに申し訳程度のデザートがあったので、それを頼む事にする。


 「本当にいいのかい? こんなに美味しいのに…」

 それを美味しいと感じるのはお父様とお姉様だけよ。

 「ははぁっ……あっーーーー……ああっ……あはっ………ゔぁーからーい!」

 悶絶しながら、辛そうな真っ赤なものを口の中に入れていく。見ているこっちも辛くなっていく。

 しかし、相当辛いのだろう。お父様は頭から下まで全身びっしょり汗まみれになっている。


 「一人で楽しんで申し訳ないね」

 「いえ、いいんですよ…」

 「この鶏肉だけ食べるかい?」

 「いえ、大丈夫です…」


 それ、鶏肉だけを唐辛子の山からほじくって食べる料理でしょ? それに唐辛子の種まみれの鶏肉は絶対に辛い。そんな鶏肉を食べたら食べるのないじゃない。そう思っていたら、唐辛子と花椒の粒を箸でとって囓っている。

 「あの、それは食べるところじゃ……」

 「そうなんだけどね、この辛いのが癖になって堪らないのだよ。こう辛いのを食べると仕事のストレスが抜けていく感じが心地よくてねぇ…」

 それ絶対体にわるいやつ………。


  皿の半分ほど唐辛子を囓り終えた頃に、私の注文した料理が到着した。

 「お待たせしましたー。杏仁豆腐とーゴマ団子ですー」

 「クリスは本当に甘いのが好きだねぇ」

 まぁ、これくらいしか辛くなさそうなのがなかったので…。

 しかし、そんなに辛いのばっかり食べていたら体がおかしくならないんだろうか?

 ちょっと気になったので、聞いてみる。


 「あのお父様?」

 「なんだい? あ、もしかして食べてみたくなったかい?」

 「いえ……」

 「そうか…。で、何だい?」

 「そんなに辛いの食べて体おかしくなりませんか?」


 そんな事言われると思ってなかったのか、びっくりした様子で箸と器を置いて、椅子の背もたれに深く凭れ掛かった。

 そして、再び器を持って鼻のあたりに持ってきた。


 「まずこの香り。鼻腔を通って脳までくる刺激。たちまち目に来る痛み。開けていられないくらい辛いのは特にいい。そして、口に含むと、舌先から口内全体に広がる痛み。喉を焼く感覚。腹の中がマグマ溜まりのように熱を帯びる感覚。そして、その先が焼け爛れるような感覚が一週間程続くのだが、私はその感覚が堪らなく好きでね。こういったものを食べないと味わえない感覚なんだよ」


 まったく理解できない。というか、お父様はドMでしたね。

 いつも体調悪そうにしてるのは、普段からこういうのばっかり食べてるからじゃないかしら? そういえば、普段から一味唐辛子やタバスコをかけて食べてたわね。

 顔を真っ赤にさせながらそんなくだらない事を聞かせられたら堪ったもんじゃないわ。


 あ、そうだ。お父様の激辛料理を一心不乱に食べる様を見てて忘れてたわ。

 私が聞きたいのはこれじゃないわ。

 あらかた食べ終わったのか、締めのご飯を入れて雑炊にしている。皿に残った唐辛子と花椒まで入れて、真っ赤っかだ。

 それを食べ終わったら聞きましょうかね。今は聞いても悶絶した声しか聞けないでしょうから。


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