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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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60 マーガレット回想⑦


 到着した先では、炊き出しをやっているらしく、少なくない人数が列を作っていた。

 列の先頭を背伸びして見ると、昨日ソフィアと一緒にいた水色の髪のメイドがいた。

 なるほど。この炊き出しもソフィア。もしくはソフィアのお父さんの指示なんだろうなと得心する。


 列が先に進むと、食欲を刺激するいい香りが漂ってくる。

 「はーい。まだまだいっぱいあるからねー。おかわりもあるよー」

 あのメイドがニコニコしながら配っている様はとても絵になるな思った。

 なんというか、あそこだけ別世界に見えた。いや、ソフィアが絵にならないというより、あのメイドだけが突出して女神のように見えた。

 やっぱり疲れてるのかな。そんなわけないのにね。


  「何で並んでるの?」

 「クリスが作ったって聞いて…」

 そんな感じで惚けていたら、ソフィアに対してメイドが語りかけるが、口の利き方がなってないと思った。いくらフランクでいいっていっても、やっぱり主従関係はちゃんとしておくべきだと私思うのよね。


 「あ、そうそう。連れてきたわよ、マーガレット」

 訝しげに見ていたら、ソフィアが私の肩を掴んでグイッと前に連れられた。

 「…………ども………」

 不信感からか、不躾な反応をしてしまった。

 そもそもどうしてメイドに紹介されないといけないのかしら?

 まさか、このメイドってソフィアのお気に入りなのかしら?

 それはなんだか嫌だなぁ……。なんだか胸のあたりがモヤモヤした。


 お気に入りで思い出したけど、サマンサとかエリザベスはどこ行ったんだろう。

 辺りを見渡すと、後ろの方でサマンサが食事をしていた。やっぱりメイド服を着ていても貴族だからこういうことやらないんだろうな。

 改めて辺りを見るが、他の人は見当たらなかった。あんなに目立つのにいないって事は、ここには来ていないんでしょうね。


 「じゃあ、私ももらうわねー」

 「これが将来食べられるのか。楽しみだなぁ」

 「そうよお父様。期待してていいわ」


 貴族が炊き出しのご飯にこんなに夢中になるなんてちょっと信じられなかったけど、実際食べてみたらものすごく美味しかった。

 特にこのクリームシチューは絶品だわ。野菜が甘くて、ものすごく柔らかい。貴族の家の食事ってこんなに美味しいのね。知らなかったわ。

 あと、このカレーも美味しいわ。まさかこの世界で食べられるなんて思いもしなかったわ。

 あまりの美味しさにペロッと一気に食べてしまった。


 食べ終わったら、ソフィアがニコニコしながら見ていた。

 「元気が出たようで良かったわ」

 「う、うん…。これすっごくおいしいわ」

 「そうでしょう。そうでしょう」

 自分の事のように嬉しそうにするソフィア。その笑顔になぜだか自分も嬉しくなる。


 「それでね、この後、シェルホワイト家まで行っちゃおうと思うんだけど、何か荷物とかある?」

 「ううん。何もないわ。…あっ、あの……」

 「ん? どうしたの?」

 「仲のいい友達も一緒に連れて行きたいんだけど、………駄目かな?」


 この一年の間で互いに励まし合った友達がいる。彼女達と離れるのはなんだか寂しく思ったので、できる事なら一緒に行きたいなと思った。

 でも、彼女たちがそれぞれの人生を歩みたいって言ったら、無理に連れて行く事は出来ないから、その時は諦めるしかない。


 「全然いいわよ。どこにいるの?」

 即答だった。あまりにも早い返答にびっくりしたわ。

 「じゃ、ちょっと聞いてくるね」

 「分かったわ。ここで待ってるわね」

 手を振って送り出してもらった。これで駄目って言われたらどうしよう。


 そんな事を思っていたら、四人とも二つ返事で一緒に行くと言ってくれた。

 「私が見てないと危ないからね。勿論一緒に行くわよ」

 「例え、主人になっても友達だからね」

 「いつまでも一緒よ。当然じゃない。水臭いわね」

 「寧ろ、いつものあなたなら黙って付いて来い。くらい言いそうですけどね」


 一人だと心細かったからすごく助かる。この先も仲良くやっていけたらいいな。

 そうしてソフィアのところへ五人で戻って紹介をした。

 「私がここで仲良くなった子達で、右からデイジー、マトリカルア、カモミール、で、ちょっとオトナなガーベラ」

 「それだと、私だけがおばさんみたいじゃない」

 「そういう意味で言ってないわよ」

 古株のガーベラが不満を漏らす。


 クスクスと笑うソフィア。

 「というか、よくマーガレットはお貴族様相手に平然としていられるわね。私なんか心臓バクバクよ?」

 「ソフィアはそんじょそこらの貴族と違うから大丈夫よ」

 「そうだとしても、今後はあなたも貴族になるんだから、ちゃんと考えて言わないと駄目よ」

 言われてみればそうよね。前世も今世も一般人だからその辺の感覚がよく分からないのよね。まぁ、なんとかなるでしょ。


 ………そうね。ソフィアに教えてもらえばいいのよ。

 貴族の礼儀作法も覚えられる。ソフィアと一緒にいれる………。

 あれ、何でそんな事考えてるんだろう。

 もしかして私……………。

 その気持ちの答えが出る前に、サマンサと二人のメイドが来て、考えがまとまらなくなってしまった。


 それというのも、水色の髪のモブメイドはいいとして、黒髪のボーイッシュなやたらとスカートの短いメイドが気になったからだ。

 風が吹いたら簡単に見えてしまうんじゃないかしら? でも、どこかで見た記憶があるのよね。

 目を閉じ、上を向いて深く考えていたら、出発するからと背中を軽く叩かれた。


 まぁ、そのうち思い出すでしょう。それより今は、ソフィアと一緒に馬車に乗る事の方が大事だ。

 残念ながら二人きりにはなれなかったが、隣同士になれたので良しとしましょ。


 反対側の席でソフィアのお父さんとデイジーとマトリカルアが座っていたが、二人とも変な含み笑いをするのはやめてほしい。

 言いたい事があるならはっきりと言えばいいのよ。


 そうね。例えば、私がソフィアの事が気になって仕方ないとか…………。

 待って。え……あれ? 嘘でしょ…。あー………………。そういう事か。

 この変なモヤモヤする感情が。胸が高鳴って、体の火照りが取れない理由が分かったわ。

 私、ソフィアが好きなんだわ。

 私をあの地獄から救い出してくれたソフィアが好き。

 これは運命なんじゃないかしら。

 そう意識しだしたら、もうどうしていいのか分からなくなってしまった。


 目の前がグルグルして、視界が桃色に染まっていく気がした。

 「ちょっと、マーガレット大丈夫? 顔が赤いわよ」

 どうしよう。ソフィアの顔がうまく見れない。

 あわあわとなるだけで言葉が出てこない。

 馬車は発車したばかりなのに、私のキャパシティはもう限界だった。

 心配そうにみつめるソフィアが何か言っているがよく聞き取れない。


 ここから先はシェルホワイト領に着くまで、記憶がなかった。

 多分、気を失っていたんだと思う。

 そして―――――


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