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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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57 マーガレット回想④

 

「あの、ちょっとよろしいかしら……」

 それはそれは気の強そうな金髪の女の子が私に声をかけてきた。


 こっちはもう死にそうなくらい辛いってのに、そんな苦労を知らなそうな奴がいったい何の用………って、この子確か……、どっかで見た記憶が…。

 ほとんど思考の回らない頭で記憶を必死に手繰り寄せる。

「何かしら……って、あなた……」

 睨みつけるように見返すと、その顔に見覚えがあった。


 本来なら、現時点で私の前に現れる事の無いはずの人物がいた。

 あまりの衝撃に声が出ない。何とか声を出そうとするが、なかなか声が出てこない。生唾を飲み込み、やっとの事で彼女の名前を言うことができた。

 「ソフィア・アンバーレイク……」


 花が綻ぶような笑顔を見せてくるソフィア。

 「そうよ。初めまして、マーガレットさん。他に何か分かるかしら?」

 何を言っているんだ? 他に? そういえば従者を連れていたわね。

 そう思って、ソフィアの後ろに控える従者を一通り見回すと、またもや私を驚かせた。


 「もしかして、サマンサ・オパールレインと……、え? 嘘でしょ? もしかしてエリオット・エンジェルシリカ⁉️」

 「あら……。私も随分と有名になったのね…」

 「んー。あってるけどぉ、違うわぁ。い・ま・は、エリザベス。エリーって呼んでねぇん!」


 サマンサは腕組みして、うんうん唸っている。

 エリオット改めエリザベスは気色の悪いウインクをしてくる。

 サマンサもエリザベスもメイド服を着ている。きっとソフィアの手下になったのね。しかし、他の金髪と水色の髪の女性は知らない。きっとモブだろう。

 改めて考えてみると、もう一人の悪役令嬢とヤバい奴が一緒だなんて、一体どう立ち回ったら手下になるのかしら?


 「良かったわ。それを知っているってことは…」

 「何? 悪役令嬢二人と、選択肢を間違えたら敵になるやつが来るなんてね。私がこうして弱ってるのをいいことに潰しにきたってことかしら? 悪役令嬢ともなると考えが違うわね」


 ちょっとかぶり気味に話してしまったが、仕方がない。相手はあのゲームの悪役令嬢だ。笑顔でどんな卑劣なことを考えているか分かったものではない。

 しかし、速攻で否定される。

 「違うわよ」

 「えっ?」


 まっすぐと、私の目を見てくるソフィア。

 「私は本来迎えに来るはずだった男の代わりにあなたを迎えに来たのよ。まぁ、あなたの気持ち次第だから、今日はその事を伝えに来ただけなんだけどね」


 「え? 何で…。えっ? えぇっ?」

 ちょっと待ってほしい。言っている意味がよく分からない。え? 私を迎えに? このタイミングで?

 迎えに来るひとも違えば、時期も違う。さらに言えば、ゲームの中のソフィアはそんなことをするキャラじゃない。これは裏があるんじゃないだろうか?


 「どう…して、あなたなの?」

 「あなたを迎えに来るはずの男はね。もう亡くなっているのよ。それに、その家の方達が知らなかったというのもあるわね。まぁ、その人達も高齢でそう簡単に来れないから私達が代わりに来たってわけよ」


 何ということだろう…。少し前から、シナリオが変わっている可能性を考えていたけど、まさか、こんな……、こんな醒めない悪夢のような日常から、地獄のような日々から抜け出せるというの?

 「ほんと? 本当に? やっとこの地獄から抜け出せるのね?」

 「えぇ…」

 「教会なのに地獄とは…。これは言い得て妙ね」

 「そうねぇ。神は不在のようね」


 サマンサとエリザベスが呟くが、そんな事は私にとってはどうでもいい。

 ここから抜け出せると思うと、これまでの辛い日々が雪崩のように思い起こされた。それと同時に、勝手に涙が溢れてきた。

 流石に泣き顔を見られるのは恥ずかしいので、顔を手で覆った。

 誰か分からないけど、私の背中をさすってくれた。

 その優しさに心が温かくなると同時に力が抜けて椅子にへたりこんでしまった。

 これまでの事を思い出して泣いた。

 そして、私を見つけてくれた事が嬉しくて泣いた。

 一生分泣いたと思う。もう、涙は溢れてこない。眦を拭って、顔を上げる。


 「あ、ありがとう…。私、誤解してたわ。悪役令嬢はみんな、ヒロインを目の敵にしてると思ってたわ」

 「いや、そんなことないでしょうに…」


 ソフィアの優しさに心が温かくなった。今なら何でもできる気がした。

 そうだ。私はこんなとこにいるべきじゃない。こんなところで虐げられるいわれなんてない。


 「私、行くわ。こんなとこ居たくないもの!」

 「そうね。えーっと、手続きってどうすればいいのかしら?」

 さっきまでの自信に満ち溢れた表情が、心なしか不安げに見えた。大丈夫かしら?


 「調べてきたんじゃないの?」

 さっきまで後ろに控えていた水色の髪のモブメイドがソフィアに突っ込んだ。なんて失礼なメイドなのかしら。

 それにサマンサが何の事はないといった感じで答えた。

 「大丈夫よ。確か、貴族なら寄付金と書類提出でオッケーな筈よ」

 「「「へぇ~」」」

 ソフィアとエリザベスとモブメイドが同時に感嘆の声を出した。

 この世界の貴族と従者ってこんなフランクなの?

 しかし、後ろの男装した執事さんはずっと黙ってるわね。


 「じゃあ、すぐやっちゃいましょうか」

 再び満面の笑顔で行動に移ろうとするソフィア。

 私が言うのも何だけど、大丈夫かしら……。

 その証拠に周りをキョロキョロしだした。

 しかし、世の中そう物事は上手くいかないらしい。


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