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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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52 見た目で侮ると痛い目にあうらしい


     *     *     *


 一人の男が息急き切って、人通りの多い王都の通りを走っていた。

 その男は教会の高位の神官だったが、今は法衣ではなく、街中で売られている何の変哲もない既製品の服を身に纏っていた。

 脇目も振らずに走っているものだから、街行く人にしょっちゅうぶつかっている。ぶつかられた相手は謝罪の言葉も無く走り去る男に罵声を浴びせるが、気にした様子も無く走り去る。まるで何かから逃げるかのように。


 「くそ…。どうして…こんな…ことに…。ゲホッ…ゲホッ……」


 流石に疲れたのか壁に寄りかかり悪態をつく。

 肩で息をしながら呼吸をするが、まともに空気を吸えていないせいか咳き込んでいる。

 少しでも遠くに逃げようと、鉛のように重くなった足を引きづるように歩き出す。


 その瞬間、横から伸びてきた手によって思いっきり路地の中へ引きずりこまれる。

 「⁉️」


 その手はまだ肩のあたりを強く掴んで離さない。

 男は掴んでいる相手を見ようと視線を上に移すと、いかにも遊んでいそうな女だった。

 「悪いが、お前と遊んでる時間は無いんだ。他を当たってくれ」


 普段の男なら喜んでホイホイついて行くところだが、今だけはそんな余裕は無い。

 「うっわ、さいあくー。あーしの事娼婦と一緒にするなんて信じらんなーい」


 執事服の胸元を大きく開けた金髪のサイドポニーの女性、クオンは気だるげな声で不満の声を漏らす。

 見た目通り口調は軽いのに、その手に込める力は緩まることはなかった。

 「ぐっ…、は、離せ! 俺を誰だと思ってる!」

 振りほどこうとするが、動かすことすら叶わない。

 ミシミシ……。そんな音が微かに聞こえると同時に男は苦悶の表情を浮かべる。


 「あ……あぁ…ああああああああっ! い、痛い痛い! やめ…は、離せぇっ!」

 「離すわけないじゃん。あーしがあんたのこと気づいてないと思ってんの?」

 「なっ、何を…」

 「自分だけいい思いして、危なくなったら逃げるとか、それサイテーじゃね?」

 「う、うるさい。お前に何がわかる!」

 「わかりたくないし。てか、あんただけにかまってらんないっしょ」


 そう言ってクオンは掴んだまま男を軽く持ち上げ、思いっきり地面に叩きつけた。

 叩きつけられた衝撃で肺の中の空気が全部出たらしい。そのせいで唾液が少し飛んで、クオンの服に付着した。

 男はそのまま白目を剥いて、だらしなくヨダレを垂らしながら気絶してしまった。


 「うっわ、きったなー。まぁいいや。とりあえず縛って連れてくっしょ」

 どこからか取り出したロープで簀巻き状態にし、軽々と男を持ち上げ、路地裏に止めてあった幌馬車にポンと無造作に投げ入れる。

 「じゃ、次行くっしょ」

 幌馬車の中には既に何人かの男達が縛られ積まれていた。

 クオンは幌馬車に乗り込むと、中にいた仲間に問いかける。


 「あと何人くらい?」

 「エリー様が対応しているので最後かと…」

 「ふーん。結構早く終わったんじゃね?」

 「そうですね。思ったより少なかったようです」

 「悪い奴はいっぱいいるみたいだけどねー」

 「ですね…。まぁ、後は運ぶだけですね」

 「じゃあ、あーしの仕事終わりだよねー」

 「え、えぇ。そう…なりますね」


 突然何を言い出すんだろうと困惑するが、構わずに言葉を続ける。

 「いやー、夜からずっとじゃん? 眠いじゃん? お肌に良くないじゃん? だからあーし寝るから、あとヨロシクねー」

 そう言って、簀巻きの男を枕代わりにして眠ってしまった。

 瞬く間に寝息を立てている。よっぽど疲れていたのかもしれない。

 クオンの部下と思しき人は、小さくため息をつくと、被っていたマントをクオンのお腹に掛けたのだった。

 「おなかを冷やすのもよくありませんよ?」

 荷馬車はゆっくりと走り出したのだった。



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