50 シチュー作るよ
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じゃがいも、にんじん、玉ねぎの皮をむいて、切っていく。
正直、にんじんって薄皮剥かれてる状態だから皮剥かなくてもいいんだけど、これ泥付きなのよね。流石に剥かないわけにはいかないから、一本一本洗っていくんだけど、それを見ていたお姉様とロザリーの視線がなんかすごい気になる。
ジャガイモも皮を剥いていくんだけど、やっぱピーラーって偉大だわ。包丁とかナイフで剥いてもいいんだけど、時間がかかるし、たまに厚く剥いちゃうのよね。
玉ねぎは上と下を切ってから皮を剥いていく。
「なんだかんだ言って手際いいわよね」
横で腕組みしながらシゲシゲと見ているだけのお姉様。
手伝う気の無いお姉様の横で玉ねぎの内側の皮を一枚高速で剝ぎ取る。その瞬間玉ねぎから白い霧が噴霧される。これがめちゃくちゃ目にしみるのよね。
案の定目を押さえながら地面を転がるお姉様。
「目がー! 目がー! あぁっ!」
「なんて恐ろしいことをするんですか」
「事故よ事故。たまによくあるじゃない?」
「それ使えそうなんでやってみてもいいですか?」
「いいけど、外側じゃないと綺麗に一発でいけないし、何より刻むのめんどくさくなるわよ?」
「私をよそにとんでもないこと話し合ってるんじゃないわよ。禁止よ禁止。今後金輪際私の前で玉ねぎの皮を剥くのも刻むのも禁止よ」
「えー…」
ロザリーがいつも以上に不満そうに声を漏らす。
ロザリーとお姉様は置いといて、私はシチュー作りに専念する。
まず、鍋にバターを溶かして、玉ねぎを入れる。ちょっと塩を入れるとしんなりしやすい。すこし透明になるくらい炒めたら、ジャガイモとにんじんを入れて軽く炒めたら蓋をする。暫くしたら焦げないように、また軽く混ぜて蓋をするの繰り替えし。
「なんでそんなめんどくさいことするの」
「水を入れて煮込むより、蒸し炒めする方が火の通りが早いんですよ。あと、野菜に含まれる水分で蒸されるから、その分甘くなりますよ」
「へぇー…。ねぇ、肉とか入れないの?」
「もう少し火が通ったらベーコンかソーセージ入れますよ。ベーコンは火が通り過ぎると縮むし、ソーセージは味が抜けちゃうんで。まぁ、ベーコンを最初に炒めて味を出すってのもあるんですけどね。あと、お酒を入れるともっと早く柔らかくなりますね」
「飲まないわよね?」
「こんな昼間から飲みませんよ……。あっ……」
「その言い方は何回か飲んでるわね?」
「さぁ、どうでしょう」
知らないふりして、鍋に100cc程入れて、軽く混ぜて蓋をする。今回は白ワインを使っているからフルーティな風味があるね。牛丼も白ワイン入れるしね。
こんなもんかな。やりすぎると火が通り過ぎてジャガイモが崩れちゃうからね。
小麦粉を入れて軽く混ぜ、牛乳を入れてとろみをつける。
あとは塩とコショウで味を整えて完成だ。
隣でロザリーがカレーを作っているが、めちゃくちゃいい匂いがする。
カレー原理主義者のロザリーとしては、似て非なるクリームシチューは敵のようなものなんだろうな。
「こっちは出来たけど、そっちはどう?」
「はい。あと、一、二時間煮込めばバッチリです」
「は? それじゃあ間に合わないじゃない」
「でも、そっちの方がより美味しく……」
「美味しいのも重要だけど、腹を満たす方が先でしょうが。ちょっと味見ちょうだい」
しぶしぶといった程で小皿にちょんとルーを乗せる。
「………うん。別にこれで良くない? 十分美味しいわよ」
「しかし、私の理想とするものとは……」
カレーに関しては一家言あるロザリーが非常にうっとおしい。
「はいはい。分かったわ。ちょっと誰かロザリーを回収してー」
その言葉とともに、男衆がワッと集まって、ニカッと笑ってロザリーを連れて行った。
「ちょ、何するんです。まだ煮込みが……」
「お前クリス様に楯突きすぎだぞ!」「そうだぞ。食えりゃいいじゃねえか」「あれのどこが不満なんだ!」「代わりに俺がメイドやろうか?」
変なのが混ざっているけど、男相手ならロザリーも落ち着くでしょう。
そういえばナンを焼くって言ってたけど見当たらないな。
テーブルの上を見ると、ボウルに発酵途中で放置された生地が置いてあった。
「まだこの状態じゃダメじゃん。ねぇ、パンとかないの?」
「あるわよー」「いっぱいあるわよ。食べるの?」「私のパン食べる?」
女性陣がワァっと集まってきた。カレーとかシチューにつけるならこういのでいいんだよね。
というか最後のやつに関してはパンツじゃないか。バッカじゃないの? ここってこういう人たちしかいないんだろうか。
とりあえず、準備は出来たので食事を配ろうとしたら、何故かお姉様が列の先頭に立っていた。
「何してるんです?」
「並んでるのよ」
「見ればわかりますよ。お姉様はこっち側にいないといけないですよね?」
「だって、何も手伝えてないから、こっち側でいいかなーって」
どうしてそういう考えに行き着くのか分からない。
「あんなに朝食べたのにまだ食べるんですか?」
「いや、ほら…、そう毒味よ。毒味」
「味見じゃないんですか?」
「そ、そうね。味見よ。やだわ。ちょっと言い間違いしただけじゃないの。それに私が食べて美味しいってのを表現すればみんな安心して………」
「本心は?」
「クリスが作った食事の一番を誰にも譲りたくない!」
正直で結構。ブラコンが過ぎるんじゃないですかねお姉様。まぁいいけどさ、こういうとき子供達を優先するんじゃないの?
まぁいいか。そう思ったんだけど、こっちの食い意地張ったアホっぽいお姉様のほうがいつもっぽくていいわね。
というか、まともに寝てないからおかしいのかな。
思い返すと大抵おかしい発言しているときは眠そうにしていたかもしれない。
「お姉様、それ食べたら寝てていいですよ」
「いや、まだ大丈夫よ」
「いや、お姉様に手伝ってもらう事とかないですし…。それに後ろ並んでるんで捌けてもらってもいいですかね?」
「わ、わかったわよ…」
そのままシチューとカレーとパンの乗ったトレーを持って裏手で食べ始めた。
「わっ…、すっご。よくこの短時間でこんなホクホクに…。…………カレーはもうちょっとね…」
やっぱり煮込みが足りなかったんだ…。私的には十分だと思うんだけどなぁ…。




