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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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49 炊き出し


           *      


 「なるほど。そうでしたか。いやぁ、ソフィアのことだから、また勝手にほっつき歩いてるのかと思いましたよ」

 大聖堂へ向かう馬車の中で、お姉様が公爵に事の顛末を説明した。


 「お父様が私の事どう思ってるか分かったわ」

 「いや、違うんだ。違わないけど、その…よくクリス嬢のところに朝早くから遊びに行くじゃないか…」

 「悪いの?」

 「いや、悪くはないけど…」

 ツンとそっぽを向いた娘にタジタジの父親。


 「でも、そうか……。ソフィアがなぁ…。人助けかぁ…」

 しみじみと呟き、目頭を抑える。

 「ちょ、どうしたのよ」

 「いや、立派になったなぁって思ってな……。よし! そういうことなら私も一肌脱ごう。何すればいいかな?」

 「ソフィアと一緒に迎えに行ってあげて欲しいの。私たちは別のことがあるので…」

 「いいだろう。そのくらいお安いご用だ」

  その言葉と同時に大聖堂の正門に到着した。


 大聖堂の正門から広場には数多くの人がいた。一般人や観光客ではなく、騎士団や王城の役人と思しき人。あとは、教会の関係者と子供達だ。

 「え、なんか多くない?」

 「そうだね」

 夜の件を知っているから別に驚きはしないけど、結構一大事だったんじゃないかな。


 後ろを見ると、お姉様と公爵が何かヒソヒソと話していた。何を話しているんだろうと思って近づこうとしたら、目の前にロザリーが立ちふさがった。

 そのままの勢いでちょっと当たってしまった。

 「申し訳ございません、クリス様」

 いやいいんだけど、そっと横にずれるとさっと動かれる。ずっとディフェンスされてるんだけど、そんなに聞かせたくないのかな?


 そんなことをやっていると、話が終わったらしく、二人とも握手をしていた。

 ロザリーを睨め上げると、何を勘違いしたか頬を紅潮させていた。

 「あら、そんなとこで二人とも何やってるの?」

 「あ、お姉様。今何を話していたんですか?」

 「んー…、大したことじゃないわよ。面白い話でもないし。そんなことより、クリスとロザリーには手伝ってもらいたいのよね」


 隠されるとすっごい気になるけど、どうせ教えてくれないんでしょ。で、何をすればいいんですかね? 壁を登ればいいのかな? 屋根から飛べばいいのかな?

 そんな風に訝しんでいると、公爵はソフィアを連れて大聖堂の方へ歩いて行った。


 「大丈夫よクリス。あの子のことはあっちに任せて、私たちはまだ任務が残っているのよ」

 そう言って馬車の後ろのトランクから大きめの箱を持ってきた。

 「じゃあ、こっちよ」

 お姉様は箱を抱えたまま広場西側の方に歩いて行った。私とロザリーもついていくけど、あれロザリーが持って行った方がいいんじゃないのかなと思ったけど、今の私たちはメイド服を着ているから、下手にロザリーが荷運びしているとおかしいのかもしれない。


 目的の場所には炊き出しの屋台が立ち並んでいた。

 あぁ、なるほど。教会の信者さんや子供達って食べるものもない状態だったものね。これなら堂々と援助出来るってわけね。

 よく見ると昨日、いや今日かな? 夜に会った人たちも何人かいたので、軽く会釈して挨拶をする。


 「うぉっ、天使にゃん」「こっちの仕事回ってよかった」「メイド服めちゃかわ」「疲れが飛ぶわぁ~」等とよく分からないことを口走っている。やっぱり徹夜だと疲れておかしくなっちゃうのね。

 包丁や火を使ってるから疲れてると危ないよ?


 後ろからお姉様が「ほーら、道開けてー」と入ってくると、「げぇっ、悪魔」「こっちは呼んでないんだけど」「やられた。天使で釣って地獄行きかぁ」等散々なことを言っている。


 「あら、ホントに地獄が見たいならいいわよ。次の任務でそういうところ推薦しておくわよ」

 「「「「すんませんっしたー」」」」

 一斉に全員がくの字に折れ曲がって謝罪した。

 「まったく、失礼しちゃうわよね。私だってほらクリスと一緒だとダブルで天使でしょ?」

 私を抱きしめたお姉様を見て、みんな苦い笑顔を浮かべている。別にお姉様だって可愛いとは思うんだけどね黙っていれば。


 「…………まぁ、いいわよ………。とりあえず、私たちも炊き出しのお手伝いしましょうね」

 そう言ってお姉様が箱を開けると、冷んやりと冷気が漏れた。へぇ…。クーラーボックスだったんだ。

 そんな氷が大量に入った箱から取り出したのはお鍋にすっぽり入るサイズの丸鶏だった。他にも香味野菜とかあるね。


 「お姉様、それどうするんです?」

 「ん? これ? ここにこれ詰めて焼くのよ」

 「あぁ………。煮込むんじゃないんですね……」

 「いや、みんなガッツリいきたいかなーって」


 焼くのも煮込むのも、今からだと時間が足りない。というか、そんなの胃腸が弱ってる時に食べられるわけないでしょ? あ、でも若いと大丈夫なのかな?

 とりあえず、今回はそんな数人分しか作れないのじゃなくて、多く作れるものにした方がいいでしょ。


 「お姉様、それは後で持ち帰って一人で楽しんだ方がいいかと…」

 「なんで? 美味しでしょ?」

 「それ一個で賄えます?」

 「うっ……。そうね。分かったわよ。で、クリスは何か考えがあるの?」


 辺りを見渡し使えそうな食材を見る。

 豚汁とかカレーがいいけど、無い調味料とかあるから、あるもので作るとなると……。

 「とりあえず、大鍋があるので、シチューとかスープとか……」

 「みんなと同じの作ってどうすんのよ。ここは一発目立つものを…」

 「あ、そういうのいらないんで…」

 流石に暴走気味のお姉様を止める。ちょっと強く言いすぎたかな。シュンとしている。でも、本当に落ち込んでいるかわからないので、そのまま放っておこう。


 「では、私はカレーを作りましょうかね」

 「え? スパイスあるの?」

 「勿論ですとも。それと、サマンサ様の持ってきた丸鶏を使えばチキンカレーにもなりますからね」

 「おぉ。なんか凄く頼もしく見えるわね。あ、でも辛くしすぎちゃダメよ」

 「分かってますとも。誰かさんと違って、私料理もうるさいので…」

 「あー…、でも米なくない?」

 「小麦粉がありますので、ナンを作れますよ」

 「さすがっ!」

 「いやぁ、それほどでもありますがね。もっと褒めてくれてもいいですよ」

 じゃあ、私は辛さが苦手な人用にクリームシチューでも作りましょうかね。

 ロザリーがもっと褒めて欲しそうにしているけど、気づかないふりを続けましょう。


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