48 帰る人と来る人
食事も終わりちょっとゆっくりしていると、ソフィアが今更な事を言ってきた。
「ねぇ、なんでクリスとお義姉様は今日もメイド服なの?」
「さぁ? なんでですかお姉様?」
「そっちのがいいかなと思ったのよ」
うーん。最近のお姉様を見ていると、このアバウトな説明で納得させられるって思ってる節あるのよね。何か考えがあってのことなんだろうけど、私にはよく分からないや。
そういえば、エリーはメイド服じゃないんだな。もう着れないくらいボロボロにしちゃったのかしらね。
肩出しの白いワンピースは、昔見たアニメを思い出させた。もうあの二の腕が入る服はないんじゃないだろうか。私の腰くらいは軽くある気がする。
その格好で来るのかな? 深窓の令嬢の役は無理があるだろうけど…。
と思っていたら違ったらしい。
「じゃあ。私たちは帰るわねぇ」
「「えっ⁉️」」
私とソフィアが同時に驚いてしまった。無理もない発案者の一人なのに、このタイミングで帰ると言いだしたからだ。
「え、何で? 迎え行かないの?」
「んー……、行きたいのは山々なんだけどぉ…、ちょっと別の緊急の用事が入っちゃってぇ…、どうしても抜けらんなくってぇ…」
突き出した唇に人差し指を添えて、腰を振りながらゆったりと話す。
「そうなんだ。じゃあ仕方ないわね!」
あれ? ソフィアさん急にドライですね。というか、気持ち嬉しそうに見えるのは気のせいですかね?
「というわけでぇ、あとはよろしくねぇ。近いうちに会いに行くからねぇ」
「えぇ。そうしてちょうだい」
お姉様も厄介払いができたような表情で話す。
「あ、お見送りとかはいらないからねぇ。このまま走って帰るから」
「寝てないのに凄いね…」
「んふ。クリスちゃんだけよぉ。心配してくれるのはっ!」
別に心配で言ったわけじゃないのよ。凄い体力あるなぁって思っただけで。
「じゃーあ、プロフィア行きましょうか」
「はい。ではみなさん、お先に失礼いたします」
お姉様もソフィアもプロフィアさんにだけ手を振っているような気がするのは気のせいだよね。
エリーたちが出て行って少し経った頃、お姉様が意気揚々と話し出す。あんまり寝てないのに元気だね。まだ深夜のテンションが続いているのかな?
「それじゃあ、私たちも行きましょうか」
連れ立ってエントランスホールに行くと意外な人がいた。
「おぉ、ソフィア」
「え! お父様! 何でここに?」
確かに。偶然会うような場所じゃないわよね。
「手紙をいただいてな」
「私が早馬を出したのよ」
バツが悪そうな顔をするソフィア。
「年頃の少女が無断外泊するなんて言語道断だぞ」
「うぅ…。ごめんなさい」
「でも、サマンサ嬢からの手紙ならば許そう。今回だけだぞ」
「ありがとうお父様」
「いや、いいんだよ。(下手に頭ごなしに叱ったら、後で何されるかわからないからね)」
「アンバーレイク公爵閣下…。今何か?」
「い、いや…。何も。何もないですぞ。あっはは…はぁ…」
公爵はお姉様に苦手意識もってるんだろうなぁ…。
「しかし、こんな凄いとこに泊まるなんて、お金大丈夫なのか?」
心配は尤もよね。お金もあまりないし、従者も連れてきてないものね。
「心配いらないわ」
お姉様がない胸を張って堂々と言い放つ。
この後、公爵に立て替えてもらうとか言いださないよね?
公爵もそれを言われないか気が気でないようだ。ある意味娘さんを人質に取られてるようなものだしね。
「もう既に支払い済みよ」
「お、おう。そうでしたか」
「なにか?」
やっぱり疑ってたんだね。私もだけど。
「いやね、先ほどここへ来る途中でものすごい勢いで走っていく二人組がいましてな。いやぁ、まさに美女と野獣って感じだった。まさか、払えずに逃げていたなんてことはないと思ったんだが…」
もう走って移動してたんだ。凄い体力。でも、まぁそう見えてもおかしくないのかな?
「あの二人は気にしなくて大丈夫よ。ちゃんと払ってあるから」
「サマンサ嬢は随分と顔が広いんですな」
「えぇ。商会を運営しているもので…」
多分そういうことじゃないと思うのよ、お姉様……。
「それで、どうして私は呼ばれたのですかな?」
「そっちのがよりらしく見えるからよ」
公爵相手にその言い方はどうかと思うわお姉様。




