42 教皇を運び出そう②
部屋にあったロープを二重三重に縛り、天井の括り付ける突起みたいのを利用して教皇を窓の方まで運んでいく。
流石に触らずに移動するのは不可能なので、じゃんけんで負けた人が誘導する係になった。私だ。
「うぅ……。臭いよう…。生臭いよう……」
「大丈夫よクリス。終わったらちゃんと消毒してあげるからね」
「お前らいい加減にしろよ…」
汚物扱いされた教皇が不満を露わにするが、誰も気にしない。
とりあえず我慢して、窓の方まで誘導する。
「オーライ! オーライ! ………ストーップ! じゃあ、そこから落とすわよ」
「まて、下ろすんだろ? 落とさんよな? というかこんな高かったか、ここ?」
だれも教皇の声に耳は貸していないようだ。
「じゃあ、行くわよー。さーん……、にー……」
「ま、待て待て、それは完全に落………」
「いーち!」
満面の笑みでお姉様がカウントダウンし、みんなで一斉にロープを離した。
「………ぁぁぁぁあああああっっっっああぁぁぁ………あぁ、あ?」
しかし教皇は落ちなかった。窓の外でさっきまでと同じ高さでプランプランと揺れていた。
「普通に考えて、重要参考人をこの高さから落とすわけないでしょ? 死んじゃうもの」
ですよね。そこまで考えてないワケないですものね。
「しかし、動いてないのにあの絶叫!」
プププと口元を隠しながら煽るように笑うお姉様。
「お前だけは絶対に許さんからな」
「いいわよ別に。もう一生会うこともないもの」
悔しそうに顔を歪める教皇。せめて頭突きを食らわそうと思ったのか頭を突き出すが、全く届かない。
「なぁにそれぇ…。まぁいいわ。ちゃっちゃと下ろしちゃいましょう。風に乗って生臭い匂いが顔に当たるもの」
「ぐっ…ぐぐぐ…」
そして一人歯ぎしりしながら睨む教皇を下すため、みんなでゆっくりロープを動かし下ろしていくが、あまりに重いのか愚痴がこぼれる。
「お、おっも! 腕がしびれる…」「明日筋肉痛になるんじゃ…」「このロープなんか臭くない? 手に匂い残らない?」「おい、サマンサお前も手伝え」「えー……」「手がしびれてきた…。限界……」
そんな感じでみんな限界が近づいてきているようだ。しかし、限界だったのはロープの方だったようで、窓の縁で擦れたことと、使い込まれたロープだったのが災いしたのか、ブチブチと音を立てて千切れていく。
地面まであと数メートルというところまで行ったのだが、教皇の重さに耐えられず、ブツッと音を立てて切れてしまった。
凄い勢いで落ちていく。あんなに大きい錘だもの。加速感が半端ないわ。
「「「「あ」」」」
「ああああああぁぁぁぁっ……………」
ベシャッ…………。
流石にみんな顔が引きつっている。これは計算外みたいな表情している。
一斉に下を見ると、結構下の方まで行って切れたのだが、吐瀉物の上でゴロゴロ転がっていた。無事で何よりだ。
下の方にいた人たちが上を見て叫んでる。多分怒っているんだと思う。
水色の髪の人がサムズダウンしながら叫んでる。多分降りてこいって事だと思う。
横を見ると、みんな苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「私、ちょっと下に降りるの嫌だわ」
「ぼ、僕も高いとこに登って、少し目眩が…」
「奇遇だな。俺も少し気分が悪い…」
「私はお兄様の指示って言っておくわ」
「お前……」
「では、私めは先に行って自分に有利になるよう言い訳をしておきます。行きましょうか、クリス様」
「そうだね」
さっさと下に行って手を洗いたい。
「ま、待ちなさいな」
「そうだ。みんな怒られれば一人一人の負担は減るぞ?」
「そういうのは責任者の役目ですので、失礼します」
「ちょ、待ちなさい」
お姉様が止めようとするが遅かったらしい。
ロザリーは私をお姫様抱っこすると、他の部下の人たちと一緒に窓から飛び降りた。
「へ? ちょ……、うわぁあああああっ……」
待って、待って。高所恐怖症って言ってなかった?
飛び降りたわけではなく、使ってなかったかぎ爪ロープを使っていたらしい。塔の中程で一旦着地し、そのままタンタンと壁を蹴りながら降りていった。
勿論、教皇から離れた場所に到着した。
「あの、ろ、ロザリー。こういうのはやめて欲しいんだけど。めちゃくちゃ心臓バクバク言ってるんだけど」
「すいません。一刻も早く手を洗いたいかなと…」
「それにしたってこれはないわ」
「善処します」
「それ、改善しないって言ってるようなものよ」
まぁ、いいや。とりあえず、水道か井戸を探す。状況の説明は他の人に任せよう。当事者じゃないし。




