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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第1章

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15 王子様が領内を視察するようです

 待ち望んでないようなイベントに限って早く訪れるもので、本日王子様が視察に来るそうです。

 前世でも無理矢理に作り笑顔をして仕事をしていたなぁ…。

 はいはい、スマイルスマイル。にっこにっこにー。

 

 とりあえず、顔をスマイルという名のワックスで貼り付けておく。

 馬車からキラキラ~って感じで王子様が降りてくる。

 「レオナルド殿下、ようこそオパールレイン領へ」

 父が恭しく礼をする。

 「ふむ。よく来たなデボネアの息子よ。まぁゆっくりしていくがいい」

 尊大! 不敬! 怖いもの知らず! なんで、魔王ムーブしてるんですかこのお馬鹿!

 というか、国王様呼び捨てはまずくない? ダメじゃない? 知らないよ私。

 「祝福の鐘を鳴らそう(ようこそ)」

 「え? 何ですか…」

 「灼熱の業火に焼かれ、魂を焦がし給え(お初にお目にかかります。お会いできて嬉しいです)」

 お兄様さぁ……。

 「あっ、はい…。よろしくお願いします?」

 レオナルド殿下も戸惑ってますね。私もです。

 お父様は青通り越して顔白いですね。だんだんと紫っぽくなってる気がします。

 目のハイライトが消えてたらこ唇になったらもう終わりですね。

 一番ヤバいのは従者の方々ですね。怒りたいのを我慢してる人と、意味分かって笑いこらえてる人半々。我慢してるから全員すごい顔してる。窒息しそう。

 こういう時は深呼吸しましょう? 吸ってー吐いてー、吸ってー吐いてー。

 「お初にお目にかかりますレオナルド殿下。オパールレイン家が長女、サマンサです。今日の佳き日にお会いできた事、大変嬉しく思います」

 誰だお前?

 それはそれは見事に猫を被った挨拶と、完璧なカーテシー。普段の良く言って天真爛漫なお姉様とはまったく違う。やればできんじゃん。普段からそうしていればいいのに。

 「あ、あぁ、貴女が、あ、あの噂のサマンサ嬢ですか……。そ、その聞いていたのとは随分と違うようで……」

 「はい? どのような噂でしょう? この後の視察で是非ともお伺いしたいですわ」

 「そ、そそそんな、とんでもない。高々風の噂。根も葉もない嘘みたいなものです。どうかお気になさらず。はははは……」

 おいおい王子様怯えてるぞ。一体どんな噂なのか私、気になります。

 ニコニコしてるけど、お姉様。変なオーラ出すの止めましょうか。

 さっきまで窒息しそうだった従者の方々が泣きそうな顔してますよ。

 本当に何をしたんですかね?


 あぁ、自分の番か…。えっと…。

 「初めまして、レオナルド殿下。クリスティーヌと申します」

 簡素すぎたかな…。そう思って、レオナルドを見ると、惚けたように顔を赤くしている。あぁそうか今日少し暑いものね。少し汗ばむくらい。

 「それではこの後は、私とこのクリスとで我が領内を案内したいと思います」

 えっ? ちょっと待って。勝手に見て回るんじゃないの?

 確かに、他三人に難があるかもしれないけど、暑そうだし、まずは室内で休まれた方がいいのでは?

 「そうですね。今すぐに行きましょう。実は見てみたいところが結構ありまして…」

 渡りに船みたいな顔してる。ちょっと焦ってるのは勘違いじゃないよね。

 「あら、でしたら尚の事私も一緒に行った方がいいのではなくて?」

 「⁉️」

 おいやめろ。もうレオナルドのライフはゼロだぞ。これ以上は泣いちゃうぞ?

 あぁ、でもめんどくさいからお姉様に全部任せちゃおうかな。

 「そうですね。お姉様のがお詳しいでしょうから、そちらのがよろしいかと…」

 「いえ、クリスティーヌ嬢には是非とも来ていただきたい」

 「あら、でしたら私も一緒ではないといけませんわね。クリスはまだ幼いですからね?」

 「いや、私がいるから大丈夫……」

 「え?」

 「街の事は、このサマンサが詳しいようですので、案内させます」

 「ちょおっ!」

 流石のレオナルド様も変なツッコミ入れてる。

 ババ抜きやってんじゃねえんだぞ?

 「では、四人で行きましょう? ね、お父様」

 (今日は、猫かぶってるし大丈夫でしょうお父様?)

 (あの状態の時のサマンサの方が危ないんだぞ?)

 (嘘でしょう? 大丈夫そうだからお姉様にお任せしようと思ってたのよ?)

 (クリスは私に死ねと言うのかい?)

 (そこまで言わせるお姉様って一体何なんですの?)

 「何をこそこそ言ってるの? 早く行かないと日が暮れてしまうわよ?」

 「「「あっ、はい」」」

 因みにお母様とお兄様は謎のポーズをとり続けていた。見送りにしては斬新ね。

 もうあの二人はダメかもしれない。

 きっとそのうち思い出して悶絶する日が来るんでしょうね。



 馬車の中では、レオナルド殿下の横に父ジェームズが座り、対面にはお姉様が座っている。ニッコニコのお姉様と泣きそうなレオナルド殿下。これ、わざとやってますね。

 「あー、鳥が飛んでるなぁ。一羽か二羽か…。影にもなってるから三羽と見せかけて二羽かな……」

 お父様…。現実逃避しないでください。

 重い空気の中、馬車は領都のオパルスへと着いた。

 そんなに時間は経ってないと思うのだが、非常に疲れた。帰ってお風呂入って寝たいよ。うん。今日はそうしましょう。風呂入って速攻で寝ましょう。

 まぁ、適当に王子様にフォローしとけばいいでしょ。

 多少の粗相は、お姉様で相殺出来るでしょう。

 そうして、レオナルドと着いてきた従者に街を案内した。

 思いの外、お姉様がちゃんとできている事にビックリしてる。

 ただ、全部食べ物のお店なんだよなぁ…。いや、食文化も大事よ。でも、もうちょっとバランス良く…。あぁ、私がやればいいのか。

 「それにしても、この街はの方々はその、何というか奇抜だったり、露出が多かったり、実用性に乏しい格好をしてますね。あっ、別にその変というわけではなくてですね、似合ってるとは思うんです。それに道行く人々皆可愛いですし…」

 今言った人たちの九割は男だぞ。まぁみんな可愛いのは認める。そうなるようにした訳だし…。

 「えぇ、そうですね。皆さん生活に余裕がありますので、着ているものもオシャレに着こなしてますよね」

 「何処で売ってるんですかね? 母に調べてこいと言われて……。いえ、何でもないです」

 「うちの商会で販売してますよ?」

 「えっ? 商会って伯爵家で運営しているのですか?」

 「いいえ、私とお姉様でやっていますよ。ラピス・ラズリ商会という名前です」

 「へぇ、凄いですね! ん? お姉様? サマンサ嬢の事ですか?」

 「そうですよ。営業に関しては凄く頼りになります。一応、ラピスとラズリに分けてまして、ラピスブランドがお姉様。ラズリブランドが私ですね。取扱商品が微妙に異なりますが、機会があったら是非お越しください」

 「ん? うちの店? 今から行きますか?」

 話を聞いていたお姉様が割って入る。

 お姉様口調が砕けてますって!

 「い、いえ、今日は視察ですので、時間があるときにまた来ます」

 「あ、そう? じゃあ来た時は全品20%引きにしてあげるわね」

 「はは…。ありがとうございます」

 私が案内している時、何故かレオナルドがこっちばっかり見てる。視察に来たんじゃないのかな? よそ見ばっかりしてダメだなぁ。

 あ、反対側にお姉様が居るからですね。



 次に、港と港隣接のショッピングモールへ行った。

 この国最大の貿易港だから当然来るよね。

 まぁ、モールがオープンしたのは少し前なので、物珍しさからか結構人が入ってる。

 船で来た人も結構入って買って行ってくれている。

 一応、モールに関しては、領内や地元の店にも出店もしてもらってる。

 お陰で、地元の経済もうなぎ上り。

 「こんなに沢山のお店が大きな建物の中にあるなんて不思議な感覚ですね」

 レオナルドは珍しいのかキョロキョロしてる。

 こんなにキョロキョロしてるのはレオナルド様か田舎者くらいです。おっと。

 「あっ、ここにもクリスティーヌ嬢のお店があるのですね。…………へぇ。あの、こういった服はクリスティーヌ嬢は着たりするのですか?」

 「ええ、勿論着ますよ。着もしないものを売ったりしませんよ?」

 というか、着たくて作ってる訳ですしね。

 (クリスティーヌ嬢が着ているところを見てみたかったり……)

 「えっ? 何か言いました?」

 「いっ、いいえ。何でもないです。はっはは…」

 「そうですか?あ、何かお付きの方々がもう結構買われてるようですよ?」

 知らないうちに従者の方々がショッピングを楽しんでたようです。既に何人かは着替えているのですが、こうして見ると、王族の視察に見えないね。コスプレ集団にしか見えないや。

 レオナルドは、お姉様の口利きで20%オフでボードゲームを買っていた。

 流石に、服は買えなかったかぁ……。ヘタレめ。


 最後に、地方の農村へ向かった。

 流石に馬車だと時間がかかるね。そして、お尻と腰が痛い。のび~。

 愛用のクッションを持ってくるのを忘れたのが悔やまれる。

 昨日のモールで買って乗っけておけば良かったと、激しく後悔する。

 レオナルドも馬車から降りてくる。

 先に自分が降りていたことにちょっとショックを受けてた。何でかな?

 農村には不釣り合いな格好の集団がきた訳だけれども、私の趣味と実益の結果、街中と大して変わらない風景が広がってる訳で。

 それを見ていたレオナルドが唐突に語り出した。

 「少し、驚いてます……」

 え、何が? 主語がないから分かんない。どのことだろう。

 「こうして見て回ったのですが、領民の方々は皆、笑顔なんですね」

 洗脳はしてませんし、変な宗教も作ってませんよ?

 「普通なら、貧富に差があるものですが、皆一定水準以上の生活レベルなのは凄いことです。佇まいや、着るもの、食べるもの、住むところ。それに、文字を読み書きして、計算もできる。作っているもののレベルも違う。他では見られないです」

 いや、生活レベルを上げてうちの物を買ってもらおうとして始めたことなので、そんなキラキラしい目で見ないでほしい。

 「昨日の、港や街中でもそうですが、凄く治安もいいですね。びっくりするような人も居ましたが……」

 まぁ、趣味は人それぞれですからね。自分は人のこと言えない。

 治安に関してはよくわからないな。裏路地とか倉庫街とかは流石に連れて行けないからぱっと見で安全と評されてもなぁ……。でも、お父様も言ってたけど犯罪率凄い減ったとは言ってた気がする。ほぼ地面だって。

 そういえば、お父様も一緒に来てるはずなんだけど……。

 仏のような顔して空気になろうとしてる。ダメでしょ、今王子様すっごい感心してるから説明しないと。

 というか、お姉様も従者の方々も興味なさそうにしてますね。聞いてたのは自分だけですか、はいそうですか。

 その後、お父様とレオナルドがいろいろと話し合っていた。自分の本分忘れたらダメよ本当に。


 そうして、街の中や最近完成した港近くのモールに農村など、数日かけて回って、今日が最終日。

 借りてきた猫のように、静かにうちに泊まっていましたね。

 その頃には、レオナルドのお姉様への恐怖心も少し和らいだ気がする。

 ただ、そのレオナルドが事あるごとに、

 「クリスティーヌ嬢は、何がお好きですか?」 

 「クリスティーヌ嬢は、普段何をされてるんです?」

 「クリスティーヌ嬢は、お城に興味ありませんか?」

 「クリスティーヌ嬢は、………………」

 ちょっと時間が空くと、私への質問責めが多い。合コンじゃねえんだぞ?

 極め付けは、視察最終日の夕飯前に、

 「あ、あの…。クリスティーヌ嬢。もし、差し支えなければクリスと呼んでもよろしいでしょうか?」

 「え? あ、あぁはい。どうぞ」

 「本当ですか? では、私のこともレオと呼んでいただけますか?」

 「えーっと、恐れ多いです…」

 「呼んでくれないのですね…」

 「流石に呼び捨ては出来ませんので、レオ様でお願いします」

 「本当は様付けもいらないんですが、仕方ないですね」

 何をそんなにウキウキしているんだろう。疲れてて、上の空な返事を返してしまったが、確かレオ様呼びすればいいんだよね? ハリウッドスターかな?

 塩対応に近いことしてたのに、なんで好感度上がってるのか不思議よね。



 夕食時、あまりのストレスなのか、お父様が出発前の半分の細さに見える。

 ナイフとフォークが無を切って、無を口に運んでる。

 お母様とお兄様は相変わらずですね。

 「やはり宴は血に限る…。(夕食時にワイン)」

 「くっくっく…。生命の源のなんと甘美なことか…。(トマトジュース)」

 意外だったのは、お姉様が今も淑やかに食事をとっている事。リバウンドで数日手がつけられない事にならなければいいのだけれど。お父様の心労が限界そうです。



 翌日―――――

 ちょっと気になった事をレオナルドへ聞いてみた。

 「あの、レオナルド殿下…」

 「レオ!」

 「あ、ごめんなさい。レオ様」

 「うん! それで、何かな?」

 「いえ、母と兄の奇行なんですが、流石に不敬すぎると思うので、お咎めとかは……」

 「あっはっは…。大丈夫! 大丈夫ですよクリス。うちの母。あぁ、エテルナ王妃も最近何に触発されたのか、影響を受けたのか分からないのですが、同じことしてますからね」

 「えっ?」

 「以前からおかしいところは多々あったのですが、今回は父が窘めても戻らないんです。なので、もしかしたら流行病かなとか思ったのですが……」

 まじか。そんなとこにまで影響を及ぼしてるなんて。

 実際、街中にもチラホラと奇行に走る人がいたけど、レオナルドが特に気にしてなかったのはそういう事だったんだな。

 まぁ、病気には違いないんだけどね。遅効性の毒みたいな病。

 有害図書として焚書された方がいいんじゃないかな? 他人事だけど。

 そのうち国全土に爆発的に広がる恐れがあるかもしれないね。だいたい二八週後くらいに。

 そしてみんな頭を抱えて悶絶するんだね。私みたいに。

 「いえ、大丈夫だと思います。母も兄も去年くらいから、あんな感じですが、来年くらいには発狂して頭を抱えてのたうち回って収束すると思いますので、どうか温かい目で見ていただければ大丈夫です。多分」

 「それは、致命的なのでは?」



 そうして、何とか王子様の馬車を見送り、肩を撫で下ろした。

 二人はずっと変なポーズを取っていたけれど、ブレないね。

 「サマンサ、クリス。お父さんは疲れたよ」

 「でしょうね」

 「ほとんど、私たち二人でやってたじゃない!」

 「そ、そんな事はないぞ! そ、そうだパンケーキ食べに行こう。な? 疲れた時は甘いものが一番だよな?」

 「あら、いいですわね。勿論、お父様が出してくれるんでしょう?」

 「二人の店だろうあそこは? たまにはご馳走してくれてもいいんじゃないか?」

 「ここは言い出した方が払うべきでは? お父様?」

 まだ、時間かかりそうですかね?

 「ちょ、ちょっとクリスどこ行くんだ?」

 「いえ、時間かかりそうなので、メアリーと行こうかなと思いまして」

 「ちょっと、協調性なさすぎじゃないかしら?」

 お姉様にだけは言われたくないわ。

 「そうだわ、クリスに払ってもらいましょう。ゴチになります」

 「本当かい? 流石、クリスさん。サスクリ。ゴチになります」

 こういうところ見ると親子なんだなぁと思ってしまう。

 「じゃあ、今回だけだぞ。打ち上げを兼ねてクリスさんが奢ってやろう」

 「「わーい」」

 ノリいいなホント。他の所の貴族はちゃんとしてるんだろな、多分。

 その後、なぜかついてきた母と兄の分も合わせて私が支払う羽目に……。

 せめて良心的な値段の頼めよ。何で四人とも一番高いの頼むんだよ。

 「魔力を維持するには膨大な甘味の贄が必要なのだ(甘いの大好き)」

 やかましいわ。魔力なんてないだろ。

 店内で一番異彩を放ってるし、目立ってるし。これが、この領を治める貴族だとは思われないんだろうな。

 え? みんな知ってますって? ははは……。嘘でしょう?


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