34 集中力は持続しないらしい
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キャロルとクライブ。そして、エリーとプロフィア他数名が大聖堂裏手から侵入する。
「いくら何でも不用心すぎるだろう…」
クライブが難なくドアを開けて呆れ返る。
「まぁまぁいいじゃないのお兄様ん。壊さずに入れたんだからぁ」
「お前その薄気味悪い喋り方どうにかならないのか?」
「まぁ! 薄気味悪いだなんて失礼しちゃうわっ」
「その裏声混じりの甲高い声だと、寝ているやつが起きてしまうだろう?」
「あっ、そっかぁ。じゃあ戻すわぁ。………おほんっ………あー、あー……。……これでいいか?、兄貴?」
「あ、あぁ…。急に元に戻すから怖いぞ。まぁ、いいけどさ」
そんな二人を黙って見ていたキャロルが口を開く。
「本当に仲がいいのね」
「本当にそう見えるんなら病院に行ったほうがいいぞ」
「んふ。お兄様ったら照れちゃってぇ」
「おい、元に戻ってるぞ」
そんな下らないやり取りをしていると、奥の方から高位の法衣を着た男がヨロヨロと歩いてきた。そして、クライブ達に気がつくと、大声を出そうとするが、さっと動いたクライブによって意識を沈められた。
「危なかった。おい、変なやりとりは止めにしてさっさと仕事を片付けるぞ」
法衣の男を紐で縛り、口元を布で塞ぎ、通用口の外に転がしておく。
明らかに他の人達と違って血色が良かった。いや、寧ろ赤いくらい。
「酒臭いな。坊主が酒浸りとは…」
「先に一階のを片付けてからゆっくりやったほうがよくない?」
「そうだな。子供達や尼さんには絶対に手を出すなよ。まぁ、この時間は眠ってるだろうがな」
そう言って、それぞれ一階部分を影のように移動し、一人、また一人と意識を刈り取っていく。
「ふむ、ここから先は寝床か…」
ここから先は踏み込むまいと、クライブがその場を足早に去ろうとした瞬間、階段の上から少女の声が聞こえた。
「誰?」
か細くたどたどしい声だ。こんな夜更けに見慣れない人物がいるのだ、ビクッとしてその場に立ち竦んでしまう。
どうする事もできずに、来ている服の膝の辺りをギュッと強く握っている。
これが、狩るべき対象なら、咄嗟に攻撃に移っていたが、相手は少女だ。そんな事はできない。
「すまない。起こしてしまったな」
少女の前に行き、膝をつき、目線を合わせて少し綻んでみせる。
「怖い思いをさせてしまったかな?」
「お兄さんは、悪い人?」
恐る恐るといった程で、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「どうだろうな。ただ、悪い人を懲らしめるために来たんだ」
「そうなの?」
「あぁ。だから、今日はこのまま眠ったほうがいい。明日になればきっと楽しい日々に変わるから」
その言葉を信じたのか、クライブの人となりを見たのかは分からないが、少女の顔には恐れがなくなっていた。
「ほんとに?」
「あぁ」
「ん。わかった。ばいばい」
「あぁ、バイバイ」
そう言って少女はたどたどしい足取りで元来た階段を上っていった。
騒がれずに済んで良かった。こういった事はあまり得意ではないクライブは深く溜息を吐く。
「ふぅ…」
「あらあら、あんた子供相手にキザったらしい事言って。かっこ良かったわよ。正義の味方さん?」
ニマニマと面白いものを見たといった感じでクライブを揶揄うキャロル。
「そんなんじゃないさ」
「あら、でも様になってたわよ。随分とアンノン的だったしね。ちょっとした演劇でも見ているみたいで良かったわよ。これなら文化祭もオッケーね」
「ふん。俺もエリオットみたいにハーレクインに徹しれたら楽なのにな」
肩を竦めて、おどけてみせる。
「あれは、そういうものじゃないと思うけど。でも、子供の扱いが上手いのね」
「まぁな。もう一人かわいい方の弟がいるからな」
「その言い方はどうなのよ」
「俺もエリオットも、テレンスにはこっちの世界には足を踏み込ませたくないんでな」
「テレンスって、三男の子よね。でも、今日来たクリスティーヌ嬢みたいなこともあるわよ」
「そんな日が来ない事を祈るばかりだな。そうならない為に俺と愚第がやってるんだ」
「まったく。ホント愚直なんだから。でもそういうの嫌いじゃないわよ。アンもね」
「本当か?」
目を見開き口元が緩む。
「アンタがアンの事好きなのバレバレよ? 堅物同士お似合いだと思うけどね」
「そうか…。俺、これが終わったら…」
「やめときなさいよ、そういうの。絶対今言うべき事じゃないわよ。胸の内に大事に仕舞っておきなさい」
「そうだな。じゃ、とっとと見つけて終わらせますか。で、他はどうなんだ?」
「礼拝堂まで見たけど、だらしない酔っ払ったやつしかいなかったから、簡単だったわ。全員外に積んであるわ」
「そうか。なら、あとは証拠を探すだけだな」
「もう調査に入ってるわよ」
「そうか……。俺、この仕事向いてないよな?」
「そんな事ないんじゃない? アンタんとこの男装した執事が凄すぎるだけよ」
「うぅっ…」
途端に自信を無くし、がっくりと肩を落としたクライブをキャロルが慰めていた。




