14 第二王子が来るらしい/お母様とお兄様は中二病のようです
「お父様、お呼びでしょうか?」
カーテシーをしながら、お父様へ礼をした。
「やぁ、私のかわいいクリス……」
どうしたのだろう。ものすごく窶れている。そして、変な前置詞もついている。
嫌な予感がする……。
「実はね、この国の第二王子、レオナルド殿下がこの領を視察に来るそうでね。なんでも、うちと隣のアンバーレイク公爵領の発展が目覚しいのと、レオナルド殿下の後学の為だそうで……。はぁ…。やだなぁ…」
そう言って頭を抱えてしまった。
「あの、お父様? こういうのって家族総出でお迎えしたり、お父様が領内を案内したりするのではないですか? なので、どうして私だけが呼ばれたのかわからないのですが……」
「それ本気で言ってる? 我が家でまともなのってクリスだけなんだよ? パパ一人でレオナルド殿下の相手なんてできないよ」
この親父がこんなヘタレだったなんて……。
「で、でもお姉様だって、他の人の前ではちゃんとできますよ?」
「うちがお茶会や、社交界・パーティーに呼ばれなくなったのはサマンサが原因なんだよ。何をしでかすか分からない」
お姉様は一体何やらかしたんだよ、ホント。すっごい気になる。あ、今はそれどころじゃないか……。
「お、お母様とお兄様もいるじゃないですか…」
「今の二人を見て本当に大丈夫だと思う? タイミングがね、最悪なんだよ……」
そうだった。私が書いた本の影響で二人ともまともじゃないんだった。
「ルイスは何言ってるか全然分からないし、レイチェルに至っては会話が成り立たないんだよ?」
いや、まぁ半分くらいは私が原因ですね、はい。不徳の致すところです。
「という事で、私とクリスでなんとか穏便に何事もなくレオナルド様には視察して帰っていただくという事で、ね。別にうちの領内にやましい所は無いけれど、身内が足を引っ張りそうなので、何とかクリスにはフォローをお願いしたい」
「……分かりました。まぁ、お父様には、この二年間好きにやらせていただいたわけですし、何とか頑張ってみます…。」
「頼んだよ……」
父は、無理矢理に作った笑顔を顔に貼り付けていた。
よっぽど心労がたたっているんだなぁ……。
父の書斎を後にし、階段を下りていると、外からお兄様とお母様が扉を開けて入ってきた。きっと稽古終わりだろう。
ただ、稽古をする格好じゃないんだよなぁ……。
お兄様はツインテールに右目に眼帯…。黒を基調とした姫袖とゆったりとしてフリルをふんだんに使ったティアードスカートのゴスロリ(うちのブランド服)で、右手は肘まで、左足は膝上まで包帯…。右足だけボーダーのニーソックスを履いてる…。頭にはヘッドドレスと小さい帽子…。
まさか、お兄様が中二病で女装までするなんて、一体何の作品に影響されたんだろうか。来年に学園へ入学するのにこのまんまで本当に、本当に大丈夫なんだろうか。
左手は右肘に、右手を右目の前に広げて「くっ……」なんて言ってるけど、一年もよく続けてるね。
お母様も似た感じの服だけど、ザ・魔王って感じよね。
黒と赤をベースにした細身の長袖のドレス(勿論うちのブランド服)。トップスと外側のスカートは黒で、内側は模様の入った赤いスカートに無駄に長いファーの付いたマント…。え? ちょっと待って…。何でツノの生えたカチューシャしてるの? というか、お母様の武器、木刀じゃなくて傘なんですけど…。そのファッションには合わなくない? どっちかというと、お兄様の方が合うんだけど…。
チラッとお兄様の武器を見る。真っ赤だ…。べっとりとペンキのようなもので真っ赤になってる。態々塗ったんだろうか…。どういう状況で塗ったのか凄い気になる。
「ふふふ…。クリスもこの紅東が気になるかい?」
さつまいもやんけ。さつまいもは紫か黄色でしょうに。今度、さつまいもを使ったデザートでも食べさせてあげよう。
「クックック…。最近、クリスは朝の鍛錬にも来ないな。我は悲しい。一度、このレインザッパーを見せてあげたいのだが……」
まぁ、傘ですからね。雨を弾きますよね。お母様は突きのスタイルだから傘でもいいんでしょうね。
いや、ちょっと前までちゃんと参加してましたよ? ただ最近はやたらポーズを決めたり、言葉遊びばっかりでちっとも体動かさないじゃないですか。まったく。
「あー…。すいません。ちょっと、右目と右手が疼くんで休んでました」
「何という事だ…。クリスも邪気眼に覚醒したというのか…」
「あー、そうですねぇ。疼きが静まるまで休みますね」
「「くっ……」」
くっ……じゃねぇよ。自分が書いた作品に影響されすぎ。とういか、二人とも影響されるのはいいですが、作品を統一してくれませんかね? ごった煮すぎます。
それに残念お兄様は来年から学園でしょう? まさか、その状態で行くんですかね。
これじゃあお父様も頭抱えるわ。
……私も頭おかしいフリしようかしら。




