28 新食感
なんだかんだで、もうお昼ということで飲食店含め多くの人で賑わっている。流石は王都だ。
ただ、今回は屋台で気になったものを食べようという事で屋台が沢山立ち並ぶエリアに来たのだが、結構目移りしてしまう。
こういう時は、無難に肉串とか食べればいんだろうけど、折角王都に来たのだから変わったものが食べたい。
キョロキョロと周りを見回していると、いろんなお店から呼び込みされる。
その都度毎にお姉様とソフィアとエリーが買い食いをしている。よく入るなぁ…。
私もとりあえず何か食べようかなと思って、威勢のいいおばちゃんに呼ばれた店に来てみたのだが、これは何だろうか。
「ねぇおばちゃん、これは何?」
「これかい。これはさね、バナナの炭火焼だよっ!」
「バナナの炭火焼……。おいしいの?」
「美味しくなかったら店やってないさね。どうだい一本?」
「じゃあ、はい。一つください」
「あいよっ!」
おばちゃんの威勢に負けて買ってしまった。チョコバナナなら分かるんだけど、これはどうなんだろう。
「はいよ、お待ちっ!」
そういって手渡されたバナナは何かのシロップがかかっていた。
恐る恐るといった程で一口囓る。熱いけど中はトロトロ。バナナ自体は淡白だけど、このシロップと相性がいい。これは意外や意外。おいしい。
「おばちゃん、これおいしいわね」
「そうかい。それは良かったさね」
快活に笑うおばちゃん。これも屋台の醍醐味だなと思っていたら、屋台の後ろの裏路地の方で修道服を着た子供達が何かを漁っているのが見えた。
「ん? どうかしたかい? あぁ、あれかい」
私の視線に気づいたのか後ろを見て得心するおばちゃん。
「前はあんなんじゃなかったんだけどね。いつからかあんな風に食べ物を漁ったりしているんだよ。この国の宗教だってのに、なんだってそんな食べ物に困ることがあるのか不思議さね」
確かに。孤児院ではなく、教会なのにね。しかも王都のど真ん中。
「ここに来るまでに募金活動もしてたけど、それも?」
「そうさね。上の方針らしいけど、今じゃみんな気味悪がって近づこうとしないねぇ。かわいそうだけどね、ああやってずっと続くと、ねぇ…」
やっぱりあの教会やばいんじゃ無いだろうか?
かわいそうだけど、王都じゃ何もできないからね。
「うん。ごちそうさま」
「また、よろしく頼むよー」
食べ終わり、おばちゃんに礼を言って立ち去る。
お腹の容量的にはあと一件くらいはいけるかな。というか、他のみんなはどこに行ったんだろうか?
「お! お嬢ちゃん、これ買っていかないかい?」
こんどは若い兄ちゃんに呼ばれたので近づくと、何かを揚げたもののようだ。
「これは何?」
「これかい。これはバナナに衣をつけて揚げたものだよ」
なんなんだこのバナナ推しは……。うちの国ってバナナ栽培してたかな?
まぁいいや。さっきも意外と美味しかったので、これも買ってみることにする。
「ふーん。じゃあ、一つくださいな」
「あいよっ」
袋にいっぱいの揚げ物が入っている。見た目はフリッターとか唐揚げみたいな感じ。衣にはゴマがついてるね。
「お嬢ちゃんかわいいから、ちょっとおまけしたよっ」
「あら、ありがとう」
そう言って、一つ囓る。なるほど。さっきのバナナと同じ種類なのかな。でも、揚げると食感が変わるね。お芋みたい。衣はそこまで甘くないのね。
さっきもそうだけど、お菓子でお腹いっぱいになっちゃったわ。
まだ半分くらい残っているなと思ったら、後ろから声をかけられた。
「あら、やっと見つけたわ。クリスすぐ居なくなっちゃうんだもの」
それは、そのままお返ししたい。気付いたら居なくなっていたのはあなたたちの方よ?
「それはそうと、クリス何それ、唐揚げ? ひとつ貰うわね」
いいよ。とも言ってないのにひとつ摘んで食べるソフィア。まぁ、もおうお腹いっぱいだからいいけどさ。
「何これ?」
肉だと思ったのに食感が違ったからだろう。不審そうな顔で聞いてくる。
「バナナだけど」
「バナナァ~?」
よく店主の前でそんな感じの物言いができたわね。
「ま、これはこれでおいしいからいいけどね。でもちょっと紛らわしいわよ?」
「別に何にも言ってないじゃない。というか、ソフィアはそれ何持ってるの?」
「これ? 分かんない。あんまり好みじゃないからあげるわ」
「えぇ……」
店先でそんなやり取りをするものだから、兄ちゃんが苦笑いしている。
ずいっと渡された串はよく分からなものが、まだ3つ刺さっていた。
とりあえず、一つ食べてみる。
「もっちゃ、もっちゃ、もっちゃ、もっちゃ………」
………うーん。なんだこれ。新食感? なかなか喉に入っていかない。咀嚼回数が増えるだけで、なかなか飲み込めない。美味しとも不味いとも違う。何というか、無味? いや虚無に近いのかな。何とか飲み込めた時には顎が疲れて攣りそうだった。
口直しにさっきの揚げバナナを食べようとしたら、ソフィアが全部食べてしまっていた。
「ちょ、それ私の」
「あ、ごめん。なかなか後を引くものだから…。お兄さん、これ美味しかったわよ」
「いやぁ、可愛いお嬢さん二人にそう言ってもらえて良かったよ」
満更でもない笑顔で鼻の下を伸ばしている。
しかし、どうしたものか。あと二個残っている。もう食べたくないなぁ。ソフィアに返そうかなと思っていたら、後ろから声をかけられた。




