25 やさぐれたヒロイン
中は絢爛豪華な金と白で構成されていた。悪趣味~。
こんなのにお金を掛けるのに寄付を募っているのか。矛盾してない?
こんなの絶対に上のやつがお金をふんだくっているんだわ。最低ね。
でも今は憤るより、目的のヒロインさんとやらに会うのが目的だ。
ソフィアが入り口近くに立っていたシスターさんに声を掛ける。
「あ、すいません。ちょっとよろしいですか?」
「はい。何でしょうか?」
このシスターさんも今にも倒れそうなくらい痩せ細っている。
何とか笑顔を作っているが、痛々しい。
「あの、マーガレット。という女性を探しているんですが…」
「マーガレットさん…ですか? それでしたら、あちらの中央右側の座席の方で掃除をしている方ですが…」
そっちを見ると、よろよろと倒れそうな女性がいた。
「ありがとう」
「いえ…」
シスターさんにお礼を言って、その女性の元へ近づいていく。
「あの、ちょっとよろしいかしら……」
言い終わるや否や絶句してしまう。確かに可愛らしい顔立ちをしているが、栄養失調と疲労からか今にも倒れてしまいそうだ。寧ろ、立っているだけで精一杯といった感じか。出会った頃のソフィア以上にガリガリだった。
眠いのを精一杯我慢しているのだろう。瞼が半分ほど閉じかけているし、何よりクマがすごい。ブラック企業で百連勤くらいしたらこうなるのかしら? そのくらい見た目がボロボロだ。
「何かしら……って、あなた……」
鋭い目つきで気だるげに返すが、ソフィアを見た途端、目を見開いて固まってしまう。
そして。数回口をパクパクさせると、ようやく言葉を口にする。
「ソフィア・アンバーレイク……」
ニコッとソフィアが笑う。
「そうよ。初めまして、マーガレットさん。他に何か分かるかしら?」
そう言われて今度は私たちを不躾にジロジロと見る。まぁ、余裕がないのは分かるんだけどね。
「もしかして、サマンサ・オパールレインと……、え? 嘘でしょ? もしかしてエリオット・エンジェルシリカ⁉️」
「あら……。私も随分と有名になったのね…」
「んー。あってるけどぉ、違うわぁ。い・ま・は、エリザベス。エリーって呼んでねぇん!」
キュピンとウインクするが反応がない。
「良かったわ。それを知っているってことは…」
ソフィアが話している途中で遮るように話し出すマーガレット。
「何? 悪役令嬢二人と、選択肢を間違えたら敵になるやつが来るなんてね。私がこうして弱ってるのをいいことに潰しにきたってことかしら? 悪役令嬢ともなると考えが違うわね」
吐き捨てるように言うが、すかさずソフィアが否定する。
「違うわよ」
「えっ?」
まっすぐとマーガレットの目を見据えるソフィア。
「私は本来迎えに来るはずだった男の代わりにあなたを迎えに来たのよ。まぁ、あなたの気持ち次第だから、今日はその事を伝えに来ただけなんだけどね」
「え? 何で…。えっ? えぇっ?」
言ってる意味がわからないのか、予想外の答えに戸惑っている。
「どう…して、あなたなの?」
「あなたを迎えに来るはずの男はね。もう亡くなっているのよ。それに、その家の方達が知らなかったというのもあるわね。まぁ、その人達も高齢でそう簡単に来れないから私達が代わりに来たってわけよ」
「ほんと? 本当に? やっとこの地獄から抜け出せるのね?」
「えぇ…」
「教会なのに地獄とは…。これは言い得て妙ね」
「そうねぇ。神は不在のようね」
マーガレットが、その言葉にポロポロと涙を流し、手で顔を覆った。
お姉様とエリーが淡々と感想を呟く。
ソフィアがマーガレットの背中をさすると、崩れるよに椅子に座って俯いてしまった。
まさか、ソフィアにそんな博愛精神があるなんて、驚きだわ。
そんなマーガレットが一頻り泣いた後、赤く腫らした眦を拭う。
「あ、ありがとう…。私、誤解してたわ。悪役令嬢はみんな、ヒロインを目の敵にしてると思ってたわ」
「いや、そんなことないでしょうに…」
「私、行くわ。こんなとこ居たくないもの!」
「そうね。えーっと、手続きってどうすればいいのかしら?」
「調べてきたんじゃないの?」
思わず突っ込んでしまった。大人ぶったソフィアが優しく対応してるから、全部手回ししてるもんだと思ってた。
「大丈夫よ。確か、貴族なら寄付金と書類提出でオッケーな筈よ」
「「「へぇ~」」」
私とソフィアとマーガレットが同時に納得する。
「じゃあ、すぐやっちゃいましょうか」
ソフィアが自信満々にしているが、ソフィアが調子づいてる時って、大抵上手くいかないんだよね。
ソフィアが周りをキョロキョロしていると、大聖堂の右奥の方から誰かが近づいてきた。




