23 朝から元気ね
食堂と思しき広い部屋へ入ると、オードブル形式でテーブルに料理が並んでいた。
過去形なのは、お皿にはあまり料理が残っていないからだ。
奥の方を見ると、三人。お姉様とソフィアとエリーが物凄い量を皿に盛って食べている。そこには優雅さも淑やかさも気品も何一つ無かった。まるで海賊の食事みたいだ。
横のテーブルでは、プロフィアさんが申し訳なさそうに食べている。
とりあえず何かお腹に入れたいので、トレーとお皿を持って何か残ってないか見て回る。
申し訳程度に残っていたサラダとハムとスクランブルエッグを乗せ、ラスト一個のロールパンを持って、プロフィアさんの横に座る。
「おはようございます、クリス様」
「おはよう。プロフィアさん」
「ちょっと、何でこっちに座らないのよ!」
「テーブルの上に物を置くスペースがありますか?」
「………ないわね。というか、それっぽっちで足りるの?」
「そんだけ食べといてよく言えますね。これしか残ってなかったんですよ」
「ああ……」
納得したのか、再び食べる事に集中する。食欲が勝ちすぎてませんか?
他にもお客さんいるだろうに…。
室内や入り口を見るがそれらしい人はいない。まぁ、まだ朝早いしね。
とりあえず、食べてしまおう。
追加で持ってきたコーヒーを一口飲む。大抵こういうところのって、インスタントとか、何種類か出るコーヒーマシンがあるって感じだけど、全然違うわ。なんかヒゲのすっごいおじいさんみたいなホテルマンの人が淹れてくれたんだけどめちゃくちゃ美味しい。
苦味と酸味は軽めなんだけど、コクがあって後味の甘みが丁度いい。朝から苦めの強いのよりこっちのが好きだわ。
……はぁ、落ち着く……。
コーヒーの香りだけでも落ち着くわぁ…。
後ろで食べる音さえ聞こえなければね……。
で、今日何するんだっけ?
高級ホテルに泊まるのが目的じゃないわよね。昨日色々ありすぎて忘れてしまったわ。そもそも何で王都に来たんだっけ……。
「最近、クリスの物忘れが激しいのを、お姉ちゃんは心配よ」
「心を読まないでくださいよ」
「いやぁ、こんな読みやすい顔なかなかないわよ。ねぇ、ソフィア?」
「えぇ。勿論ですわ。お義姉様。でもそういうところが堪らなく可愛いですわ」
「まぁ、可愛いのは認めるけどさ…」
「でたよ…」
「でましたわね……」
何が? 変な事言ってないよね?
二人とも呆れて溜息をつくのはいいんだけど、口の周り拭いたら? 食べ物のカスがいっぱいついてるわよ?
みなさいエリーを。口の周りを長い舌で一舐めしただけで綺麗になったわよ?
「…コホンッ…。まぁ、いいわ。今日は昨日できなかったヒロインに会いに行きます」
あぁ~。そんなこと言ってたわ。すっかり忘れてたわ。
「で、どこにいるか分かるの?」
「勿論。この王都でいっちばん大きな教会にいるのよ」
「あそこかぁ……」
お姉様がすっごく嫌そうな顔をする。
エリーも眉間にしわを寄せる。なんか行くのが不安になるな。
「じゃあ、私たちは着替えましょうか」
「え、何で?」
「そっちのが都合がいいからよ」
お姉様の泊まる部屋に通され、無造作に服を投げられる。
そうして、私とお姉様とエリーはメイド服に着替える。よくエリーのサイズにあったメイド服が……。あってないわ。パッツパツじゃない。パッツパツすぎて腕が下までちゃんと降りてない。
「ねーえぇ、これよりもっと大きいサイズないのぉ?」
「おかしいわね。用意したサイズで入ると思ったんだけど、二の腕が太すぎるのよ」
「おかしいわねぇ…」
昨日の腕立て伏せの影響じゃないですかね?
というか、これうちのメイド服じゃないね。よく言えばシンプル。アンバーレイク公爵家のメイド服じゃない。
「……ぐずっ……。まさか、まさか、クリスがうちのメイド服を着る日が来るなんてね。分かったわ。一生面倒見られてあげるわね」
なんか、勘違いしているのが一人…。眥に涙を溜めて拭っている。
「私たちはアンバーレイク公爵家の使用人としてついていくわ。生憎と公爵家への就職は考えてないの」
華麗にスルーするお姉様。
「なんで、そんなメンドくさいことするんです?」
「メンドくさいところにいくからよ。まぁ、行けばわかるわ」




