17 やっぱ偉い人と知り合いになってると話が早い
*
大体、三十分くらいだろうか。バタバタと忙しない音を立てながら、パジェロ将軍が部下を引き連れ入ってきた。
それと、同時に右側の壁に大きな穴が出来た。
ガラガラと崩れた壁穴の向こうでは、エリーがニコニコしながら手を振っていた。
「あら、クリスちゃん。ヤッホ〜」
エリーはのんきだなぁ…。
ほんの少しだけ見えた向こう側はこの世のものとも、あの世のものとも思えないくらい死屍累々としていた。とりあえず、気づかないフリしておこう。
エリーに向かってニッコリを手を振り返す。
不自然な笑顔になってないだろうか。薄暗いから分かんないよね。
そんな様子を見た将軍は一瞬言葉に詰まってしまう。
将軍にもニッコリと微笑んであげるが、将軍はこれ以上ない程疲れきっており、何から処理すればいいのか分からないといった感じだ。
「ク、クリスティーヌ嬢……」
どうやら、これで本人確認が出来ただろう。
呼びに行った方の男も、後ろの方に控えていたが、ほらやっぱりといった顔をしている。まぁ、肝心の疑い続けた男は、私のお尻の下で気絶したままなんだけどね。
「あの、どうしてその男の上に乗っているんです?」
「ちょっと襲われそうになったので、少し眠っていただいただけですわよ。座り心地は悪いですね…」
おほほほほ…と、笑ってごまかすが、疑心暗鬼といった顔をしている。
「「「「「「ほんと、すんませんっしたーーーーー!!!」」」」」」
詰め所にいた衛兵たち全員が九十度のお辞儀で謝罪してくる。
七割くらいの人は立っているのもやっとといった感じだ。生まれたての子鹿のようだ。
空はもう、太陽が地平線に沈もうかというくらいの薄暗さになっている。
ふと、城壁を見ると、余裕で馬車が行き交い出来るくらいの大きな穴。いや、トンネルが出来ていた。もし、修復するとなったら大変そうね。自業自得だから知らないけど。
エリーとお姉様は明らかに不満そうな顔で衛兵たちを詰っているが、暴れられたからなのか、そこまでネチネチとは言っていない。
寧ろ、ソフィアの方がヤバイ。カスハラかってくらい、理不尽な事をネチネチと言い続けている。まぁ、実際言われたんだろうね。私も言われたし。それを倍返しにしているだけだから、敢えて止めはしないけどね。
「むぅ…。それくらいにしてやってもらえませんかね?」
「なんでよ! こいつら私になんて言ったか知ってる?」
「なんて言われたのですか? 後で私から口頭で注意しますが…」
「〜〜〜〜〜! そんなの私の口から言えるわけないでしょっ! 恥ずかしい、もう最悪よっ!」
パジェロ将軍が、ソフィアを宥めるが、よりヒートアップしているようにも見える。あんなに怒ったソフィアは初めてかもしれない。地団駄を踏みながら「もう! もう!」と怒っている。前の方にいる衛兵たちも居心地が悪そうだ。
あんまり、止めようとしないのは、衛兵たちの方が悪いからだと理解しているし、ソフィアはあれでも公爵令嬢だからね。そりゃあ、扱いに困るでしょうね。
天を仰ぎ呻く将軍。
「なんで、こんな事に…。今日はウィリアムの手料理の日なのに……」
それはご愁傷様です。
そんな将軍と目が合ってしまう。将軍は苦笑いをしながら呟く。
「普通、尋問されたらみんな怯えたりするもんだが、御者の人だけだそうだ。もし良かったら騎士団に入らないかい?」
まぁ、御者のおっちゃんは一般人だし、仕方ないね。
しかし、まさかの勧誘。しかし、汗臭そうなところは是非とも遠慮したい。正直、あの密室も微妙に臭かったし。
「申し訳ありませんが、その話はお断りさせていただきますわ」
「そうか、残念だ」
「でも、将軍が来ていただいたおかげで、疑いが晴れましたわ。ありがとうございます」
「なーに、構わんさ。もともといい加減な仕事をしていたこいつ等が悪いんだからな。寧ろ怪我とかをさせていなくてホッとしたよ」
将軍って気遣い出来るんだ…。もっとガサツなイメージだったんだけどな。人って見た目で判断しちゃだめね。私の周りは見た目と中身一緒の人が多いからね。こまっちゃうね。
しかし、貴族であるお姉様、エリー、ソフィアはあんなに感情を露わにして怒っているのに、流石従者。ロザリーとプロフィアさんは落ち着いているわ。
そう思っていたんだけど、もしかしたら呆れてものも言えないのかもしれない。よく見たら、能面のように無表情だし、視線は明後日の方向だし。
ある程度、ストレスを発散出来たのか、三人とも少し落ち着いたようだ。ソフィアに至っては、まだ肩で息をしているが、まぁそのうち収まるでしょう。




