15 信用する男と疑い続ける男
「あら、そう? 私、オパールレイン家門が次女♂クリスティーヌなんだけど?」
「オパールレイン家に次女なんていたかな? というか、次女の発音おかしくなかったか?」
おや、もしかして私を男だと知る数少ない人の一人なのかしら?
軽く首を傾げると、扉の前で仁王立ちしていた男が顔を青ざめさせながら、椅子に座るもう一人に耳打ちする。
「(いるよ。お前が足繁く通ってる店の看板に描いてあるマスコットキャラクターの元になった方、だと思う…。多分だけど…)」
「えっっっっっっっっっ!!!!!」
物凄く間抜けな声を出しているけど、信じてもらえたのかしら?
「まさかぁ! そんなわけないだろう? 目の前のこのチンチクリンが? うそだぁ!」
一体どんなことを話したのか非常に気になる。
「お前、アレだろ? それってあの創作の人物じゃないんか?」
「(姉が勝手にキャラクターにしたってはずだぞ?)」
「え? 実在する。マジで? 目の前のこれが?」
指差しながらこれ呼ばわりしてくる男。失礼だなぁ。
さっきから、創作だの、実在だの何なの? 私、都市伝説みたいな扱いになってるの?
「(おい、バカ指さすな! そもそも、仮に盗賊だとして、あんなに肌艶や髪の毛が綺麗なワケないだろ?)」
何を言われたのか、失礼な男も口元を手で隠し、こそこそ喋り出した。
「(いやいや、盗賊だって、元の素材が良かっただけかもしれないだろ?)」
「(お前……。それはないだろう…。いくらなんでも…)」
仁王立ち男の方が何やら呆れている。会話するのを諦めたのか、耳打ちをやめると、私に向き直り、騎士の礼をとる。
「クリスティーヌ様、大変申し訳ございません。今すぐに、紐を解きますので…」
「あっ、はい」
しかし、案の定それを妨害する失礼男。
「いやいや、待て待てお前、それは駄目だって。勝手に外しちゃ駄目だろう」
「む! お前こそ、このままだとどうなるかわからないぞ?」
「いや、こんな怪しいのに、結局盗賊でしたーってなったら、お前責任取れんの? 俺やだよ。飛ばされんの」
「いや、それは……」
「ほら、な? 出来ないだろ。とりあえず、まだ縛っとけ」
失礼男の発言で、また振り出しに戻る。仁王立ちさんの方は、申し訳なさそうに眉をハの字にしている。
そして、再び、失礼男に耳打ちする。
「(なぁ、よ~く考えてみろ? この状況であんなに落ち着き払ってるんだぞ? どう考えても、修羅場をくぐってきた貴族だと思わないか?)」
「(盗賊だって修羅場くぐってるだろ? 寧ろ貴族より多いだろ)」
「あ、あぁ…。そうだな。そう…だよな」
「そうだろ? さっき、様付けして呼んでたのは大目に見てやる。まぁ、他の奴らが喋っちまえば、こいつの正体も分かるだろ」
しかし、納得いってないのか、仁王立ちさんは眉間に深く皺を寄せて考える。
「あの、何か…、他にあれば…。その、知り合いとかおりませんでしょうか?」
知り合いかぁ…。王都に知り合いなんて、レオナルドくらいだけど、馬車ですれ違った時に置いてきちゃったし、流石に、王妃様呼ぶわけにもいかない……。
そこまで、考えて心当たりと、失礼野郎に一泡ふかせる人物を思い出す。




