11 エリーの魅力に止まる馬車
小腹も満たされたのか、暫くはみんな無言になる。ウトウトしてきても天井からは相変わらず、「フン、フン」という声とギシギシという音がするので気が気じゃない。
プロフィアさんは残ったお菓子を美味しそうに食べてる。よっぽど気に入ったらしい。ちなみにカレーパンにはもう手をつけていない。
ビーフカレーパンの方は、いつの間にかソフィアのお腹の中に収まっている。
「あぁ~、満足ぅ~」
お腹をさすりながら、ソフィアがだらしなく姿勢を崩す。
そんな時に、天井からコンコンと音がして、ハッと姿勢を正すソフィア。パブロフの犬みたい。
「ね~えぇ、前の方からぁ、王家の紋章のついた馬車が来るわよぉ?」
あぁ、きっとレオナルドの馬車だろう。今日は珍しく遅いんだな。
ここで、レオナルドに捕まると、この後の予定でちょっとめんどくさくなりそうなので、ちょっと隠れながら窓の外を見る。
確かに、王家の紋章が馬車の側面に描かれている。うちの馬車にも我が家の紋章が描かれているはずなので、もしかしたら、確認のために止められるかもしれない。
そんな王家の馬車は、速度を落とすことなく過ぎ去っていった。
それを見てホッとしたのも束の間。大きく左に弧を描くようにしてグルッと転回してきた。そして、そのまま馬車の後ろにピッタリとくっついた。
「うわぁ…。ストーカーってやーねー」
そんな風に軽口を叩くソフィア。自分のこと棚に上げてない?
そうだ、いいこと思いついたわ。
天井にいるエリーに向かって声をかける。
「ねぇ、エリー聞こえる?」
「聞こえるわよぉ。どぉしたのぉ?」
「後ろになんか馬車がくっついて来てるじゃない?」
「そぉねぇ。もしかしてぇ、私に気づいたのかしらぁ?」
これはいい流れだわ。そのまま勘違いしてもらおう。
「そうかもしれないわね。ちょっと、後ろの馬車に手を振ったり、投げキッスしてみたらどうかしら?」
「あらぁ、それいいわねぇ。私の愛を受け取ってくれるかしらぁ」
さて、どうなるかな?
「あなた、えっぐいことするわね…」
「そうでもなくない?」
「まぁ、あなたがそう思うんならいいけど」
ソフィアと一緒に目から上だけを出して、こっそりと確認をする。後ろから、覗くようにお姉様も見ている。
「あ、止まったわ」
「止まったわね」
「御者の人、なんか震えてない?」
「よく見えないけど、御者の人が中に確認取ってるわね」
レオナルドが乗ってると思しき馬車は、その場で止まって動かなくなってしまった。
「心中お察しするわ…」
後ろの方でお姉様が小さく呟く。振り返ると合掌していた。いや、まぁ、確かにレオナルド的には不幸だけれども…。窓の外を再度確認すると、馬車はどんどんと遠ざかっていく。まったく動く気配が無いのが逆に怖い。
私も軽く同情していると、天井からコンコンと叩く音がした。
「どうしたの? エリー?」
「おかしいのよぉ? 投げキッスと、セクシーなポーズをとったらぁ、馬車が停まっちゃったのよぉ。おかしくない? 全速力で走ってきてもいいのねぇ? なんでかしら?」
「中の人が違ったんじゃない?」
「そぉかしらぁ? ざーんねんっ!」
エリーの口調からは、本当に残念がっているのかは分からなかった。
「なんか、レオナルドかわいそう…」
「えっ!」
「そうね。クリス、今回はちょっとやりすぎよ」
「えぇ……」
「でも、面白かったからいいわ」
二人とも実際そんなこと思ってないだろうに。
プロフィアさんは下を向いて、ロザリーは横を向いて笑いを堪えていた。
笑いの沸点低くないかしら?




