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女装趣味の私が王子様の婚約者なんて無理です  作者: 玉名 くじら
第3章

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10 ロザリーのカレーへの異常な愛情


           *      


 馬車の中で、御者側はお姉様、私、ロザリー。向かい側にはソフィアとプロフィアさんが座っている。

 ただ座っているのもなんなので、用意してもらったお菓子とお茶を出す事にする。

 お茶はポットに入れて持ってきているので、まだ暖かい。

 そして、お菓子はバスケットにマドレーヌとフィナンシェを詰めてきた。マドレーヌはプレーンとココアの二種類。フィナンシェはプレーンと紅茶と抹茶の三種類だ。流石ベルさんだ。用意がいい。


 「あら、丁度小腹が空いていたのよね。流石クリスね」

 「これ、ホント美味しいのよね」

 二人とも食べ物を見た瞬間に腹の音がなる。

 でも、バスケットを開けた時一番顔が綻んだのは、お姉様でもソフィアでもなくプロフィアさんだった。普段は微笑みの男装麗人なのに、今は完全に乙女の顔をしている。

 そして両手で掴んでリスみたいに頬張る。かわいい。


 「お、おいひぃです…」

 「いっぱいあるから、ゆっくり食べていいですからね?」

 頬張りながらコクコクと頷くプロフィアさん。

 お姉様もソフィアも二口くらいで食べてしまう。もっと味わいなさいよ。


 しかし、ロザリーは食べ物全般に関して全くブレないようだ。

 「クリス様、カレーフレーバーは無いんですか?」

 「ないわよ。たまにはカレー以外も食べなさいよ。知見が狭まるわよ?」

 「確かにそうですね…」

 私の言う事は素直に聞くんだよなぁ…。


 そんなロザリーだが、用意がいいのか、新商品のお披露目をしたいのか分からないが、ロザリーが持ってきたバスケットを開ける。中にはカレーパンが入っていた。本当にカレー好きねぇ。

 「甘いのばっかり食べてると、しょっぱいものも食べたくなるわよね」

 「え、それってカレーパン?」

 食い意地に定評のあるお姉様とソフィアが速攻で食いついた。


 「はい。クリス様と試行錯誤しまして、やっと満足のいくカレーパンが出来ましたので、いい機会だと思って持ってきました」

 「へぇ、気がきくじゃないの」

 「えぇ。サマンサ様の専属メイドをしていると、嫌でも気遣いが出来てしまうんですよね。私に感謝してくださいね?」

 一体ロザリーに何があったんだろう。お姉様への当たりが強い。


 「ねぇねぇ、ロザリーさん? これって何種類かあるの?」

 「はい。こっちの丸いのが、ビーフカレーパン。こっちの楕円の方がスパイシーカレーパンになります。どちらがいいですか?」

 どっちも食べるんだろうけど、どっちを最初に食べるのか迷ってるようだ。


 「まずは、ビーフかな…」

 ソフィアがビーフの方を選んでかぶり付く。

 「うわっ! 何これぇ。すっごく美味しいわよ。冷めてるのに、衣はカリカリのままだし、生地もサクサクでそこまで脂っこくない。中の具が大きくてゴロゴロしてるし、野菜も甘い。じゃがいもに人参はもちろんなんだけど、ちゃんと煮込んでるのに玉ねぎが残っててシャキシャキしてるし、お肉がホロホロと口の中で崩れていくわ。そして何より、具材を引き立てるこのルーよ。辛すぎず、甘すぎず。しょっぱさも丁度いいわ。今まで食べたカレーパンの中で一位だわ」

 「お褒めに預かり光栄です。ソフィア様。こちらもどうぞ」

 ソフィアの食レポに気を良くしたのか、続いてスパイシーの方を手渡した。


 サクッと一口かぶり付くソフィア。しかし、先ほどと打って変わって一、二回咀嚼したまま固まる。

 あれ、こっちは好みじゃなかったのかな?

 そんなソフィアは目をグルグルと回し、顔がだんだんと赤くなっていく。

 「かっっっっっっっらっっ! 何よこれ。辛すぎ! ちょっと無理。え? 待って。中真っ赤んだけど。スパイシーって言ったって限度があるでしょ! ちょ、水! 何か飲み物ちょうだい!」

 涙目で訴えるソフィア。そんなに辛かったのか。そっちは私途中までしか監修してないから知らない。しかし、よっぽど辛かったらしい。物凄い早口で捲し立てる。


 「ソフィア様…。カレーには沢山の香辛料が使われているんですよ? 飲み物なんか飲んだら効能が薄くなってしまうじゃないですか…」

 カレーに一家言あるロザリーがソフィアに訥々と薀蓄を語りだす。

 「うっせーバカ! 辛いんだよ! 飲み物よこせ!」

 形振り構ってられないソフィアがキレだす。舌を出してヒーヒー言っている。


 しかし、普段からお姉様の身勝手な行動に慣れているのか、お姉様二号(ソフィア)にロザリーが持参したポットからコップに液体を移し手渡す。

 そのコップの中身を検めずにそのまま飲み干すと同時に目を見開くソフィア。

 「あなた、これカレーじゃない…。まぁ、甘口だからいいけど…」

 「えぇ。カレーは飲み物ですからね」

 ドヤ顔をするが、ここまでくると異常だわ。

 まぁ、辛さが収まったようで良かった……。


 「あ、待って。これ後から辛いのが来る。うわっ。ちょ、なんなん? ねぇ、カレーじゃない飲み物ちょうだい!」

 呆気にとられて見ていたら、手に持っていたポットとコップをソフィアに奪われる。そして、コップにお茶を注いでは飲み、注いでは飲みを繰り返した。もうお茶残ってないんじゃない?


 「はぁ~っ。死ぬかと思ったわ」

 ジロッとロザリーを睨めつけるソフィアと残念がるロザリー。

 「残念です。カレー仲間が出来ると思ったのですが…」

 ロザリーのカレーへの異常な愛情。お姉様への心配をやめて如何にしてカレーを愛するようになったのだろうか。私には分からないわ。


 ソフィアがもう食べられないと私に食い掛けを押し付けてきたけど、勿体ないから仕方なく食べるんだけど、そこまで騒ぐほど辛………。辛いわ。喉の奥がチリチリヒリヒリする。胃酸が逆流してきた時の痛みに似ている。こういう時は普通の飲み物飲んでも収まんないのよ。炭酸水とかないかしら? あれが一番効くのよね。


 しかし、この激辛カレーパン。スパイシーなんて謳っているけど、そんな生易しいものじゃないわ。これは流石にソフィアに同情するわ。

 そんな生暖かい視線をソフィアに向けたら、見当違いの回答をされた。

 「なぁに? もしかして間接キスで興奮しちゃった? してくれたよね? したわよね? ね?」

 カレーパンの激辛を忘れるくらい鬼気迫る感じで脅迫してくる。何がソフィアをそんな突き動かすの?


 そんな激辛カレーパンだが、お姉様とプロフィアさんが普通に食べている。いや、プロフィアさんの額に薄っすらと汗が滲んでる。もしかして無理してます?

 「プロフィアさん、無理しなくてもいいですよ?」

 「いえ…、だいじょ……ぶです。口つけちゃったんで。辛いんですけど、はい。なんとか…」

 一般人には、辛すぎるんだよこれ。辛けりゃいいってもんじゃないでしょうに。


 でも、お姉様には別の意味でイマイチだったようだ。

 「うーん。私はもうちょっと辛くてもいいかな。これ結構マイルドよね?」

 三人で『こいつマジか』って感じでお姉様を見る。

 ただ一人、ロザリーが『分かりますか?』って感じで見ている。実際二人は仲いいよね?


 しかし、折角のカレーパンだが、一部の人にしかウケないような作り方はダメなきがする。

 「ねぇロザリー。こっちのスパイシーの方なんだけど、中辛、辛口、激辛の三種類に出来ない? こんな辛いと一般に広まらないわよ」

 目を見開き驚くロザリー。そして、腕を組むとうんうんと頷き出す。

 「やっぱり、クリス様は慧眼ですね。確かに…そうですね。ちょっと自己中心的な自己満足になっていたようです。カレーを普及させるのにコレではいけませんね。帰ってすぐに残りの二種類を作りたいですね」

 最後の方は尻上がりに、お姉様を見ながら言うが、お姉様はまったく意に介してないようだ。


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