05 みんな自分のことしか考えてなくない?
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「なるほどねぇ。ま、ホントかウソかは置いておいて、私はどんな役なの? ラスボス? 悪の大王? デストロイヤー?」
あれ? 意外な事にお姉様が食いついてきた。てっきり『ふーん』って感じで興味なさそうにするもんだと思ってた。というか、何でそんな物騒なものに憧れてるんだよ。目をキラキラさせて聞いてくる役所じゃない。
しかし、悪の大王か…。魔王って言わないあたりちょっとかわいい。
「え、えっと、すいません。モブです」
「モブ……………」
それを聞いたお姉様は意気消沈して、がっくりと項垂れてしまった。
「(で、実際はどうなの?)」
「(あなたとの恋路を邪魔する悪役令嬢よ。でも、クールでカッコよくて、たまにお助けキャラになったりするのよ)」
「(じゃあ、別に言ってもよくない?)」
「ダメよ!」
こそこそ話していたのに、最後だけ声が大きくなる。一体何がダメなんだろう…。
「何がダメなのぉ?」
両方の拳を顎に近づけ考え事をしていたエリーが、その声に反応する。
「や、何でもないの。ちょっと、変な事を思い出しただけだから」
「あら、そうぉう?」
「え、えぇ…。何でもないのよ。おほほほほ…」
ソフィアは誤魔化すの下手くそなんだから、あんまり喋らないほうがいいんじゃないかな。
「そっかぁ…。乙女ゲームねぇ。私やった事ないんだけど、逆ハーレムを作るゲームよねぇ…」
口角を上げて、指折り数えるエリー。
「リアムきゅんでしょ、レオちゃんでしょ、あれ、あと何人いるのぉ?」
「基本五人で隠しキャラが三人ね」
「あら〜。八人も平等に愛せるかしらぁ」
何でエリーが、逆ハー狙いしてるのよ。
「そのうちの一人はクリスだから諦めなさい」
「えぇ! そんなぁ。ねぇクリスちゃん。男装する気ないかしらぁ?」
「いやー……。予定にないですねぇ…」
「あら、残念。七人で我慢するわっ」
簡単に諦めてくれて良かったー。ホント、本当に良かったー。
隣から物凄く深いため息が聞こえた気がしたが、気付かないフリをしておこう。
「(ちなみに、攻略キャラのテオはショタで男の娘よりだし、隠しキャラのロザリーは女装メイドしてるから五人がいいとこでしょうね…)」
「(ふーん。ねぇ、隠しキャラのあと二人って誰?)」
「(あなたのお兄様ルイス様と、レオナルドの兄、第一王子のライオネルね)」
お兄様には様付けなのに、王子には様付けしないんだ…。
「(じゃあ、四人だね。今お兄様女装してるから)」
「なんですって!!」
だから、またそんな大きな声で叫んで……。って立っちゃったよ。
「どうしたのよ。さっきから落ち着きないわね」
流石に二回も叫んだら気になるよね。お姉様が訝しげにこっちを見つめてくる。
「い、いや、その…あの、なんか、クリスがパンツが脱げそうだって」
「何ですって?」
私じゃなきゃ見逃してたね。今お姉様の目が妖しく光ったわよ。
「ふぅ…。仕方ないわね。私が見ててあげるからここで直しちゃいなさい」
ほらね。こうやって真顔で堂々とセクハラ発言するんだから。どうするのよ。
睨めつけるようにソフィアを見ると、ばつが悪そうに口をモニョモニョしている。
ここからどう切り返すのかお手並み拝見といきましょうか?
「すいません、お義姉様。私も脱げそうです」
もっといい言い訳思いつかなかったの? みんなポカーンてしてるわよ?
「そ、そう? じゃあ、その、えっと直してくる?」
「あ、はい。すいません。ちょっと失礼します」
そう言ってソフィアは私の袖を掴んで引っ張る。
「えっ!」
「いいから、ちょっと来て」
「あっ、はい」
そのまま引っ張られながら、部屋を後にする。
出てくるときにちらっと見たけど、なんか生暖かい視線を感じたのは気のせいだろうか。




