69 規格外な三人
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男達の態度が悪かったのか、汽車を待っていた一般人に危害を加えたのが良くなかったのか、キュアエイジングが男達をバッタバッタと倒していく様を、みんな歓声を上げながら見ていた。
ロザリーは、まっすぐに突っ込んできた男の肩に跨るように乗っかる。
股間の部分が目の前に来たのか、一瞬気を良くした男だったが、見慣れた形に膨らんだ蒸れた下着に気づき慌てる。
「ぐぁっ、何だおま…お前おと……うぐぅっ!」
そのまま、首を股でがっちりとホールドし、後ろに一回転しながら地面に叩きつけた。
そんなロザリーに背後から、両手を握り振り下ろす男。しかし、振り下ろした拳は当たる事なく、空を切る。
前方に逆さまの状態で避けるロザリー。避けた瞬間、男の視界には下着が見えたが、下着の間から見慣れた物体がはみ出しているのが見えた。
「げっ! お前、おと…ぶるぅわぁあああああ」
男が言い終わる前に、逆さま状態で回し蹴りをしたロザリーの踵が綺麗に男の頬に直撃し、三回転程回って倒れた。
「君たちは何も見なかった。いいね?」
もう答える事のない倒れ伏した男たちに警告した。
しかし、背後からロザリーを羽交い締めにする男が一人。
「へへっ。男だってんなら、容赦なくボコっても文句言われねぇよな?」
「そうだね」
羽交い締めされていても余裕を持って答えるロザリーは、両足を持ち上げる。ロザリーが両足を持ち上げた事によって重心を崩し前によろける男。その一瞬をついて、男の背中まで回り込むと、首を両手で持って一気に横へ回し気絶させた。
それを見ていた観客の中の女性から黄色い歓声が飛んでくるが、ロザリーにはあまり興味がないようで詰まらなそうに衣装のズレを直した。
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メアリーの方はと言うと、一体どこから出したのだろうか。到底女性一人で抱える事の出来ない位大きな木製のハンマーを片手で肩に担いでいる。
その大きさに、メアリーの周りを囲んでいた男たちは、冷や汗を垂らし固まっている。
「ど、どうせハッタリに決まってる。女がそんなもの持てるかよ」
「そ、そうだよな。どういう理屈か分かんねぇが、全員でかかればいけるだろ…」
若干甘い見通しで、自分たちを勇気付けた男たちは一斉にメアリーに襲いかかるが、決着はほんの一瞬だった。
メアリーが軽く横薙ぎしたハンマーによって男たちは忽ちに吹き飛ばされ再起不能に陥ってしまった。
死屍累々といった程で地面に転がり声にならない声で呻いている。
あまりの衝撃だったのだろう。よくて打ち身。悪ければどこかの骨が折れているのだろう。起き上がる事ができず、最後の抵抗とばかりに悪態をつく。
「う、嘘だろ……。あんな重いもんを…」
「ぐぁあ……。痛ぇ…。バケモンか…」
「失礼しちゃいますね。最近の女子はこのくらい持てないとやっていけないんですよ?」
「女子って歳でもないだろ…」
ドスッ!
最後に失礼な物言いをした男は思いっきりハンマーで叩きつけられた。
その様子を倒れながらに見ていた男たちは口を噤み、意識を放棄したのだった。
その様子を詰まらなそうに見つめ、腰に手を当て、再度片手で軽々と肩にハンマーをかかえ直したのだった。
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件のミルキーはというと、ルイスたん人形を貶された事により我を忘れバーサーカーの如く暴走していた。普段の糸目でおっとりした姿とは正反対で、まさに鬼神。
さっきまで襲いかかっていた男たちは一人二人と容赦ない暴力で血と肉の塊になっていく様をただ震えながら見る事しかできなかったが、その中の一人が震えながらも、逃げ出した事で、堰を切ったように我先にと方々へ逃げ出したのだった。
勿論、ミルキーがそれを許す筈もなく、瞬間移動かと見紛うほどの速度で逃げ惑う男たちを一人づつ丁寧に血祭りに上げていくのだった。
逃げても無駄だと悟った者もいたのだが、今のミルキーには言葉は通じない。跪き断罪を待つ囚人の如く震え祈るが、祈りもむなしく、ただ怪物の餌食になるのだけなのだった。
そんなミルキーが我に返ったのは、周りにいた男たちが赤い物体に様変わりし、地面に転がっていたルイスたん人形が血に塗れているのに気付いた時だった。
そんなルイスたん人形を抱きしめるミルキーは、戦場で助けられなかった人を抱きしめ後悔する聖女の様に見えたと、後に観戦していたファンは語ったそうだ。




