マモリガミサマ
多くの地には守り神がいる。
ある村に、村人を守り続ける「マモリガミサマ」がいるという。
よかった。やっと村があった。
自分はいろんな場所を旅してきた。前に見つけた村は良い村だった。人柄もよかった。村から続く道をずっと進んでいくと、別の村があることを教えてくれた。
村から出発してから、せっかくなのでその道をずっと進んできた。しかし、どこかで道を間違えたか、道がなくなり、山に入って恐怖しながらずっと歩いていたのだが、山を少し下った先で、ついに村を見つけることができた。
「とにかく、行ってみよう……」
村に着くと、多くの人が働いているのが見えた。そのうちの、畑仕事をしていた男が、こちらに気づき、ゆっくりと歩いてくる。
「こんにちは」とりあえず挨拶をしてみたが、男はそれに頷いて返す。
「迷子か?」
「迷子…ではありますが、私は旅人で、村を探していたのです」
男はまた頷いた。
「着いてこい」とだけ言って、どんどん歩いて行った。自分もとりあえず、男の後を追うことにした。
しばらく歩くと立派な家が見えた。入ると中には一人の老人が座っていた。どうやらこの村の村長らしい。村長は俺に村の者の手伝いをするなら、少しなら滞在してもいい、とだけ言って椅子に座って寝てしまった。
私は農家の男の家に泊めてもらえることになった。男の奥さんはとてもいい方で、私にこんな言葉をかけてくれた。
「好きなだけ泊っていっていいのよ。何もないところだけどねえ。まあやることがなくなったら帰ったらいいさ」私はその言葉からぬくもりと冷たさを同時に感じた。
次の日から私は村の手伝いをすることになった。といっても村で遊ぶ子供を見守るというだけの簡単なことだ。私は少し離れた場所から子供達がどこかに行ってしまわないか眺めている。元気だなと思いながら見ていると、子供達はこちらを指差して歩いてきた。
「ねえねえ。なにしてるの?」
私は笑顔で返す。
「君たちを見ているようにお母さんから言われたんだよ」
「そうなんだ。ねえ知ってる? あっちの森にはでっかいサルがいるから近づいちゃダメなんだよ。いってみようよ!」
一人がそう言うとほかの子がこう言った。
「危ないから行っちゃだめだよ! それより神社の横のとこで遊ぼ!」
行っちゃだめってところに行かせては私が怒られるだろうな。それに神社というのはすごく気になる。
「危ないところに行っては駄目だよ。神社の方に行って遊んだらどう? 私は近くで見ておくから」
「うん! じゃあみんな神社のところ行こ!」
一人がこういうと、子供達はさけびながら走って行った。
私がそのあとを歩いて追うと、五十段ほどの階段が見えてきた。あれを上るのか。かなりきつそうだが、仕方ない。
そう思って息を少し荒くしながら、私は子供たちを追って階段を上る。
上りきると、そこには小さな神社があった。美しい神社であった。子供達が少し離れたところで遊んでいるのが見える。私は疲れたので、しばらく神社の階段に座ってそれを眺めていることにした。
しばらくすると、突然頭痛がしてきた。頭の中で何かが聞こえるような気がする。
「出ていけ」と言っているのだろうか。いや、たぶん勘違いだろう。
気づくともうあたりが暗くなってきていたので、私は子供達を家に帰し、寝ることにした。
一人の子供が私にこう言った。
「お兄さんはまだ帰らないの?」
家に帰って男にそれを話すと「そうか。きょうはしっかり休め」と言ってくれた。聞いていた奥さんは、「そろそろ家に帰ったらどうだい」と言った。
そういえば、この村の人々はよく私に帰る日を聞いてくる。いや、遠回しに帰れといっているのだろうか。
その日は少し雨が降っていた。外から子供達の声が聞こえるような気がして、私は家を出た。
あたりを探しても子供達はいない。気のせいか、と帰ろうとするとまた子供の声が聞こえた。神社のところにいるのかもしれない。私はそう思い神社の方へ歩いた。
神社についてもそこには誰もいなかった。私がそのあたりを探していると、突然激しい頭痛がした。
「出ていけ」と今度ははっきりと聞こえた。私は恐怖で動けなくなった。
「デテイケ」「ワタシガマモル」そんな声が頭の中に響き続けている。
私は頭痛で立っていられなくなり、地面に倒れこんでしまった。
ある範囲の地域で行方不明者が多数出ていることが分かった。念のため調査に向かわせた調査隊員は帰ってきた後、森に近づいたとき、こんな声を聞いたと言った。
「デテイケ……ココハワタシガマモル……」
おそらくこの地域の守り神だと思われる。ここに向かったものから多く行方不明になっていることから、ここを立ち入り禁止区域とする。