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ある神  作者: 月夜ケイ
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ヒノカミサマ

 ある村に、燃え続ける火があるらしい。なぜ燃え続けるのかは分かっていないが、燃える原因は「ヒノカミサマ」であるらしい。




 旅というのは楽しいものだ。特に、目的を決めずにただ歩き、目的を探す旅が私は好きだ。

 いつかは家に帰らなければならない。仕事をまたしなくてはならない。しかし、旅はそんなことがどうでもいいことだと私に教えてくれる。

「あんなところに煙が上がってる」

 不思議だ。人でもいるのだろうか。

「行ってみるか」

 まあ、どうせ暇だし。

 俺は煙が見える方に向かって歩き出した。



 煙が近くなってきて、煙の元の炎が見えてきた。かなり大きい火のようだ。

「あれはなんだ?」

 木が削られて、等間隔に並べられている。

 柵だろうか。廃村でもあるのか?



「これは……」

 まだ新しい家が並んでいる。そして、そこには、何人も人間がいた。

 一人の女性と目が合った。やばい。かもしれない。自分から目を離さずに、その女性は近づいてきている。

 たぶんこれはやばい。しかし、少し興味が湧いてきてしまった。

 その女性は、柵越しに話しかけてきた。

「あの、入り口ならあちらです」

 そう言って、その女性は左の方向を指差した。

「え、あ、ありがとうございます」

 ものすごく興味が湧いてきた。入ってみるか? まあ暇だから入るか。少し怖いが。

 俺は女性に指差された方向へ向かって歩き出す。



 歩いていると、村の中に炎が見えた。キャンプファイヤーかなにかだろうか。やはりこの村はおもしろい何かがありそうだ。



 柵に沿ってしばらく歩いていると、柵のこちら側に男性が立っているのが見えた。おそらくあそこが入口だ。

「すいません。村に入らせていただけませんか」

 急に話しかけてしまったので、少し驚いた顔をされた。

「客人か……歓迎するよ。少し待っていてくれ」

 その男性は、柵の囲いが二メートルほど開いている場所から村の中に入っていった。


 しばらくすると、村からおじいさんが出てきた。

「こんにちは。私はこの村の村長をしています。旅のお方ですか。歓迎しますよ」

 そういって村長は礼をした。

「ありがとうございます」

 俺も合わせて礼をする。

「何も無い村ですがね。まあ『ヒノカミサマ』でも拝んでいってください」

「あの、その『ヒノカミサマ』とは何ですか?」

「あ~ヒノカミサマというのは、この村の中心にある炎のことですよ。この村はそれを神として崇め、その火が消えてしまわないよう、守っているのです」

 なるほど。この柵は昔宗教的な対立があって立てているものなのかもしれないな。まあ単純に獣から守るというのがあるのだろうが。

 これで俺の興味は全て解決したのだが、せっかくなので、『ヒノカミサマ』というのも見ていこう。しばらくここで過ごすのも良いかもしれない。




 それから俺はしばらくこの村で過ごしてみた。『ヒノカミサマ』というのは大したものではなかったが、この村は良い村だった。宿も無料ではないが貸してもらえ、金が使えるので特に困ったことはなかった。

 村には立派な温泉もあった。

 今は温泉に行った帰りの散歩をしている。この散歩コースは、実は柵越しに話した女性が勧めてくれたものだ。特によく話すというわけではないがたまに温泉で会うことがあり、その時に勧めてくれた。

 歩いていくと『ヒノカミサマ』が見えてきた。

 暗くなってきた辺りを照らす『ヒノカミサマ』は、美しく燃えていた。

「きれいだな……」

 大したものではないといったが、やはり実物をみると、美しいものである。そもそも、炎というものがものすごく美しいものであり、それがものすごく大きく迫力のある飾られ方をしているので、それは当然であった。

 あの屋根は、雨で火が消えてしまわないようにする工夫だろうか。地面には何の工夫も無いので土が濡れたらまずいような気もする。そもそもなぜ、この火は消えないのだろう。

 それにしても、きれいだ。

「ボリッ」

 足で何かを踏み砕いた。なんだろう。

 下を見ようとしたが、何も見えない。

 あれ?

 どうなってるんだ?

 俺は前を見るが何も見えない。

 目が開いていないわけではない。

 俺は真っ赤な美しい炎を見ているのだから……。

 ……やばい! ここは……。

 ……炎の中だ……。

 大丈夫。俺はまだ目を開けて前を見られている。逃げられる!

 俺は慌てて逃げようとする。

 しかし、もう遅い。睨まれてしまっている。

 俺は炎と目が合った……。

 見えない方が、幸せだったかもしれない。




 最低だ! 私は人を殺してしまったのだ!

 いくら自分が生贄になりたくなかったからといって! でもこうするしかなかったのだ!

 本当に悪いのは私か!? だれかを生贄にすることこそ間違っている!

 生贄はもう、終わりにしよう。

 女性は、消しきれるわけはないと思いながら、水をバケツいっぱいに入れて、煙の上がる方に向かって行った。





 ある村の跡地で、爆発が起こったことが確認された。

 地面は全て焦げ、家は全壊であった。

 ただひとつ、残っていたのは、爆発の中心にあった大きな炎であった。

 調査隊員10名のうち、9名が炎を見つめながらあるいていて行き、未だ帰還していないため、ここを立ち入り禁止、及び厳重警戒保護地域とし、特別保護する。

 「炎を見つめながら歩いていった」ことについては、厳重な警戒のもと調査を進めるものとする。




 目が合ったのは、単なる炎か、『ヒノカミサマ』か。

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