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ある神  作者: 月夜ケイ
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カラカラサマ

 ある村に古びた社がある。そしてその社には、「カラカラサマ」がいるという。




 この村は俺を盛大に歓迎してくれた。来るものは拒まず、水、食料を与え楽しんで貰えるようにする。それがこの村の風習だそうだ。

 俺は一人で旅をしている。何か目的があるわけではないが、この旅で何かが見つかれば良い、と思っている。

 そして、気のせいではあるのだろうが、この村は俺を呼んでいるような気がした。



 村長はかなり話しやすい人だった。優しく、穏やかな喋り方で、食料や水を快く与えてくれて、さらには宿まで貸してくれた。

 この村は良い村だ。温泉もあった。なかなかにいい湯だった。

 今はこの村の中心となっている道を歩いているのだが、本当にいろんなものがある。最高の村だ。

「...ミ...ズ......」

 ...え? 今誰か「ミズ」と言ったか?

 俺の目に入るのは、道の脇にある社だ。勘違いではあるのだろうが、ここから声が聞こえたような気がする。

 よく見るとその社の中には小さい家があり、その上にはゾッとするほど奇妙なミイラが座っていた。

 辺りはもう暗くなってきている。帰らなくては。 そう思っても何かが俺を引き留める。

「...ミ......」

 やはりこいつだ! このミイラが俺に話しかけている。

 逃げたくても、 たち止まったままの俺の足は動かない。

 汗がどんどん流れてくる。 俺は疲れ、もらった水を飲もうとして気付く。

「ミズか...水でもぶっかければ良いのか?」

 だんだん腹が立ってきた。

 なぜ俺は、何も関係ない、何をしてくれるかも分からんミイラの前で止まらなければならないんだ。

 イラつく脳でかんがえ、俺は水を一口飲み、残った水を全部ぶっかけてやった。

 座っていたミイラはいつの間にか居なくなり、そこには代わりに女の子 の人形が座っていた。




 宿に帰ったあと、様子を見にきた村長を部屋にあがらせた。今日のことを話すと村長はこういった。

「おそらくそれは、この村のカラカラサマ、です。村の皆を干からびさせぬようこの地に水を与えてくださる代わりに自身はミイラのようにカラカラに干からびてしまうという言い伝えがございます」

「祟り神かなにかじゃないか? 俺が干からびるところだったぞ」

「はっはっは...カラカラサマに気に入られたのですよ。 カラカラサマというのはもともとこの村にすんでいた少女が水不足により亡くなり、この地に水を与えてくださる悲しくもあるありがたい神様なのです」

 それを聞くと、少し悲しくなる。

 おもいっきり水をぶっかけたことにも少し罪悪感が生まれた。




 俺は村にいる間、毎日その少女に水をあげ続けた。今度は飲ますように、ゆっくりと浴びせてやった。初日以外はあのミイラを見ることはなかった。

 もしかしたらあれは暑い日に見た幻覚だったのかもしれない。

 この村は不思議だ。村を見るといくつか小さな社があった。おそらく水不足でなくなったものは神として祀る、という習慣なのだろう。

 この村は暑い。汗が流れ落ちる。



 俺は長い間この村に滞在したが、そろそろこの村を離れることにした。といっても、これ以上旅を続けても 何もなさそうなので俺はもう家に向かって進んでいる。

 今日もものすごく暑い日だ。

 俺は汗を手で拭き、最後にもらった水を飲む。もう空だ。

 しかし、もう家につくのだからそんなことは関係ない。

 俺は久しぶりにあせで濡れた手で玄関を開ける。懐かしい光景だ。

 だが別に新しさはない。

 それより、水が飲みたい。

 水は家に少ししかないはずだ。どこかに買いにいかなくては。いや、まあネットでも買えるか。

 俺は水を探しながらながら汗を拭う。

 暑い。

 さっきからずっと汗が流れている。水はどこだ。水を飲まなければ本当に干からびてしまう。

 水...水......




 俺は目を覚ます。疲れて眠ってしまったのだろうか。

 それよりも水を飲まなければ本当に干からびてしまう。

 水を飲まなければ。ちょうどよく、目の前に水が来た。

 そんなことあるか。普通。よく見ると、男が水の入ったペットボトルを持っていた。

 おい、その水をくれ。

 死にそうだ。

「...ミ......」

 声がかすれて伝わらない。しかし男は立ち止まってくれた。

「...ミ......」

 声を出す前に、歩いていってしまった。

 水、水...

 道を歩く足音か聞こえてきた。声が出なくても、出さなくては。

 死んでしまいそうだ。

「...ミ...ズ......」

 目の前で水筒を持った一人の少女が立ち止まる。




 外はもう暗いと言うのに、村はお祭り騒ぎであった。

 報告を聞いた村長も、今日はこの村最高の祭りに参加する。

「そうか、やはりそうだったか! これでようやくこの村はカラカラサマの呪いから解放された!」

 外から歓声が聞こえる。

 報告しに来た村民がいう。

「しかし、あの男は大丈夫なのでしょうか」

「そんなものは気にせんで良い。今日はこの村からカラカラサマがいなくなった日なのだ」




 ある町で、人が完全にいなくなっているのが確認された。

 その町には、大量の社が発見され、町人はこれを信仰していたと見られている。

 調査をしに行った者の一人が行方不明となり、 未だ見つかっていない。

 ここをひとまず立ち入り禁止区域とし、調査は打ち切る。




「...ミ......」

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