第89話 死霊狩り③
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「こんな下らねえことに同盟要請だとぉ?」
「おいジリ、いつもの威勢はどうしたんだぁ?襲った女に逆に犯されちゃうから助けてってか?」
「うるせぇ!見てなかったのか、このデカは女やべえ!さっさと手を貸せ!!」
その場にいた殆どの冒険者は不快そうに顔を歪めていたりため息をついていたり、近くにいた仲間と顔を合わせて相談する等様々な様子であるが概ね好意的とは言えない反応が返ってくる。
それも当然なのか治外で活動する冒険者のだれもが無法な行為を快く思っている訳ではないのだ。
しかも無様に返り討ちにあったから仕返しするのに手伝えと言われてはいそうですかと言うわけにはいかない。
「笑わせんな素直にごめんなさいしとけ」
「恥ずかしいマネしてんじゃねえぞ」
さらに言えば相手は身なりのいい女子供の3人組である、いくら強いからとて冒険者が徒党を組んで袋叩きにすると言うのもは恥ずかしい行為である訳だから同盟を組んでいるギルドからの要請とはいえ反対する意見も出る訳である。
文句言いながらも一部の冒険者は目立たぬように武器を準備し、当的に適した手ごろな大きさの石をこっそり集めるものもいる。
普通であれば30人近い熟練冒険者が四方八方から投石を行割れれば無事では済まない、ある程度至近距離であれば投石は非常に高度な戦術なのだ。
古今東西の戦争の歴史を紐解けば、投石は非常にメジャーな攻撃手段であり日本の戦国時代の武田軍や紀元前のペルシア軍でも投石用の強肩部隊を組んでいたほどである。
屈強な男達が一斉に放る拳ほどある石が当たればただでは済まない、たとえ頑丈な兜を被ろうとも脳震盪を起こす可能性もあれば首が耐えられず骨折することもある。
最近でもデモと言えば投石はメジャーな攻撃手段でもあり、学生闘争等では火炎瓶よりも手軽に入手可能なため、重宝された。
そこらじゅうで簡単に調達可能で硬いだけではなく重量も恐ろしい武器、それが投石である・・・が北海道の人間から聞いたところでは「ヒグマに石なんかぶつけてもなんも効かんよ、軽トラで跳ねてもケロっとしてんだから。石当てたら逆に怒らせるだけっしょ」と言っていたのできっと野生動物や魔物には利かないと考えられる。
話を戻すと投擲物に対処するならば、投擲後に一斉に突撃してくるであろう人間への対応の難易度も跳ね上がる。
常識的に考えればヘルガ達の状況は積んでいる。
ただ今回に限っては冒険者達を警戒し監視を徹底している骸骨死霊達は、その動きを見逃さず冒険者たちの動向をエーリカ経由でオリガへ逐一伝達し、自分達も即座に攻撃を行える位置へと着いている。投擲姿勢に入った時点で、霊体衝撃を食らうことは確定である。
「てめえら、要請無視したっつってジェラルド報告すんぞ!こりゃあ同盟が軽く見られてんだ!」
「「「「・・・・・」」」」
ジリの怒声に同盟員達がヘルガ達には届かない程度の音量で舌打ちのサインを送りあっていた、それが戦闘体制へ移行するための合図であった。しかしどんなに小さな音でも至近距離で監視する骸骨死霊達には筒抜けであるのだが。
「はっはっは!クソアマ共、もう生きてこの村を出れると思うなよ。死ぬまで犯してやるぜ!」
ジリは戦局が決したと確信してか態度を大きくする。
30人近い冒険者相手に女子供3人が勝てる訳もない、そう高を括っていたのである。
「おい、勘違いするな。その女共は少なくとも魔術師か権能や加護持ちを疑え!」
「え?」
「武技の防護ぶち抜いて吹っ飛ばされてんだただもんじゃねえだろが、ただの武技って訳じゃえ。武技だとしても飛んでもねえ達人だろが、デカいのだけじゃなくチビもだ!」
「くそ、それで余裕そうな顔してやがったのか」
ひとりの同盟員の言葉でジリも他の同盟員もその可能性に気づく、戦闘スキルをいくつも持つ仲間がただ大きいだけの女に殴られであれほど吹き飛ぶ事はないということに。
「でけえから見落としてた・・・」
「え?」
確かに背が高く馬鹿力を持っているかもしれないが素人ではないのは少し考えればわかる事だったのだと意識を改めヘルガを睨みつける。
しかし、当のヘルガには思い当たる節がない。
実際のところヘルガは魔力を活用し戦闘に用いる武技を正しく使えないのである。正確に言えばこの世界の人間は大なり小なり魔力を自然に使用しているのだが、武技と呼ばれる技術として使えていないのだ。
武技は多くの冒険者が使える技術である。ギルド魔石土竜のメンバーであれば全員が使えるし、ヴィルヘルミーナも使える。割と冒険者必須の技術であるのだがヘルガは経験も浅く、師に当たる人間もいない為、知識で知っている程度の話なのだった。
だが修練をしなくても魔力を内包する異世界人のヘルガには武技に似た効果は出せる。
つまり思いっきり殴れば魔力が乗る現象と呼ばれるものである。
武技を使えば100ある魔力を100乗せることが出来るが、素人でも1くらいのマナが乗っているのである。才能があれば10くらいは乗るかもしれない。
しかしヘルガにはそこまでの才能はない、冒険者としての戦闘経験でせいぜい5くらい乗せられるようになった体のなのである。
つまりヘルガにとってはナニイッテンダコイツくらいの意識しかない。
だがこの喧嘩を始める時に男達への恐れはなかった、目の前に立つ男達が生き物として不思議と威圧感を感じず、動物として明らかに格下と感じてしまったのだ。
とはいえヘルガにしてもそのことを不思議に感じたが、エーリカやオリガ、クロやシュバルツ等々の圧倒的な相手が身近いれば確かにプレッシャーは感じにくいだろうと納得してしまうし、見た目で言っても骸骨死霊の大群を毎日のように見ているのでいまさらであると結論付ける。
そもそもこの世界では死霊と言う存在は迷宮奥地に生息する超危険な魔物なのだが・・・ロリガがよく虐めているのを見ているせいか、ヘルガはそのことをすっかり忘れ、美里のお手伝いさんくらいに考えていた。
「そいつ本当に女か?!」
「ちっ・・・そうか確かに・・・胸がねえ、そうか男か!?このデカイ女は女みてえな男か?!」
「女っぽい顔に騙された」
「ほかの2人が女だから騙されるとこだった、あの胸で女の訳がねえ!」
「顔が似てるから勘違いしちまった、あの胸で女のはずがねえ」
「そうか、姉妹だと思わされていた・・・姉妹なら一人だけ胸がなさすぎるはずがねえ」
「なるほど!高度に隠蔽された姉弟だったのか!」
口々に放たれる冒険者達の言葉にヘルガは表情を失い、ロリガは思わず吹き出すが、ヘルガから極寒の視線を感じ直ぐに笑いをこらえた。
「・・・・・・・・っ、ぶふぉwwwwww」
いや、こらえられなかった。
「お前、その粗末な物を引きちぎられたいのですか?」
ヘルガが泣き出しそうになった瞬間オリガが鬼の形相で怒声を放つ。
「揺らぎだ!こいつ魔術師だ!高度な隠蔽してる多分かなりデカイ魔力持ってる気をつけろ」
「待ておめえら!」
魔術師風の冒険者が叫ぶと冒険者たちが一斉に攻撃体制へ移ろうとしたが、同盟員と思われる男が静止する。同盟員達はその指示に顔を強ばらせ傾注した。集団の中で上位存在であることが伺える。
「まぁネエさん達、ちっと聞きてえんだが、アンタらもどこかの集団や血盟の人間かぃ?」
「答える必要がありますか?」
男は警戒謎していませんよと見せるように笑顔を作りやさしくヘルガ達へ問いかけたが、オリガは冷たく返す。オリガ声は冷たく怒りに満ちたいた。
「まぁそんなにイキリ立てんなよ、この人数相手に無事に帰れるとは思っていないんだろ?少し話をしようじゃねえか」
男は平然を装いニヘラとわらいオリガを宥めるが、オリガもヘルガもその表情は変わらず憤慨の表情のままである。
「問題ありません」
「え?」
「多分大丈夫だよね」
「え?」
「ちょうよゆう」
「え?」
同盟の冒険者もヘルガ達の回答は予想外だったのか面食らう形であり、そのほかの冒険者たちにとっても予想の埒外であった。
そしてヘルガ達3人の表情を見れば緊張の様子もなくむしろ余裕すら感じさせているため、本心からの声なのだと感じさせた。
剛腕を振るい次々に男達を薙ぎ倒していた見せていたヘルガは冒険者から見ても一本線が切れていると判断が出来たが、背が高くも非常に女性的な印象のオリガや、幼なさを残すロリガまでもが落ち着き払っている様子は熟練冒険者から見て不気味な警戒心を抱かせていた。
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