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第8話 異世界特典

008-1-006 (編集版)

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「ヘルガの住んでるインスラに空き部屋あるかな?」


ヘルガは一瞬キョトンするが直ぐに気を取り直す。


「まさかあそこに住みたいのかい?空き部屋は....その...うんあるけど...ボロ屋だよ?」とヘルガは明らかに戸惑っている。


彼女が悩むのも当然なことではある。


流石に昨日今日知り合ったばかりの男が同じ屋根の下に住みたいなんて言うのは気持ちが悪かっただろうか?


今朝からのやり取りと鵜呑みにする気持ち悪い男と思われている可能性は十分にある。


カオルと彼女の関係は客と娼婦である、自分をただの客や金ヅルとみているのだけであれば同じ屋根の下に住まれるのは広い視野で見ると邪魔でしかあるまい。


美里とて金が有るならちゃんとした宿を取るのが一番安全であるのは百も承知だが、所持金は無限ではないのだ。


問題は立地と臭いであるが、臭いに関してはトイレや下水設備が一般的でない世界ならば我慢するしかないであろう。


ではもう一つの問題であるが、普通に死体が転がっている様な地域は本気で怖いが、平和な国から来た美里にとって古代レベルの社会ではどこにいても危険だとも考えられる。だからこそ、この世界の常識を理解しているヘルガの傍に住むほうが安全を確保しやすいと考えた。


異世界の生活知識を持たない美里にとってRPGゲームで言えばチュートリアルをしてくれるNPCの様な存在なのだ。実際に生き死と背中合わせな世界では命綱に等しいと思えた。


そして物件自体も彼女の経済状況でも住めると言う格安物件というのはお財布面からみても非常に魅力的である。


ヘルガの住むインスラであれば手元の資金でも年単位で生活が担保できる、資金が尽きる前に収入を見つければ良いのだ。


他に頼れる人間もいない中、見知らぬ土地での住まい探しという難易度高めなクエストは早めに消化しておきたい。


ふと彼女を見ればヘルガがわかりやすいほどに考え込んでいる。


「でもねカオル、あそこはこの都市の中でも一番危険な場所なんだよ?」

「わかってるよ、でもヘルガが守ってくれるんだろ?それともヘルガは俺が近くにいるのは嫌かな?」

ヘルガは顔を赤らめる。


「そりゃ...一緒にいれたらうれしい...」

僅かな沈黙を挟み。モジモジし始めたヘルガから返ってきた答えは肯定である、そして顔真っ赤である。


ヘルガたん可愛いいいいいい!


しかし、ヘルガは売春婦なんて商売をして長らこんなにチョロくて大丈夫なのか、おじさんは物凄く心配になってしまう。


いや、彼女の収入を考えれば愛人契約をして安定した収入が得られると判断して色恋営業をかけている?!


つまり演技かもしれない!?


やばいやばい、おじさん危うく勘違いしてしまう所であった。しかし、ここは利益優先である。その演技に全額乗っかろう、そして今晩もヘルガたんにも乗っかろう!


「じゃあ約束して」

「?」


「カオルがとってもすごい魔術師だって事はわかってるけど悪所はとっても悪い奴がいっぱいいるからね?あ...あたしの言うことちゃんと聞いて、その、ずっと一緒にいること!離れたら危ないからね!」

ヘルガは大きい体を捩り耳まで真っ赤にしている。


くっ、ヘルガたんがものすごく可愛い・・・色恋営業おそるべし!昨晩の余韻もあり興奮しかない。


「じゃぁ、あたしも装備の手入れしないと」

「え?」

迷宮(ダンジョン)潜るんでしょ?」

「え?」

「え?」

一瞬ヘルガの言っている意味が分からなかったのだが、そういう話をしていた事を失念していた。つい先ほどそんな話をした気がする。


「そ、そうだね!」

「びっくりした、カオルはそのためにこの町に来たんだもんね。」

そんなことはないのだが、説明が難しいので話を合わせておくことにする。


しかし、そうなれば娼婦のお仕事を休まねばならない、危険な冒険者の仕事を諦めて娼婦をしているのだ、冒険者の仕事はそれほど儲からないのかもしれない。だが、護衛や案内を頼むのであれば本業の娼婦を休む事になる訳だから報酬を支払わなければなるまい。


「ヘルガの衣食住の『面倒は俺が見る』から安心しろ」

「!?」

ヘルガが目を見開いて硬直する。


「嫌か?」

「嫌じゃない!絶対!嘘じゃないんだよね!?」

「ま...マジだ、嘘なんか言わないぞ」

「!!!!」

ヘルガの勢いに肯定の意思を返すと、興奮一転ヘルガは目に涙を浮かべる。毎日ご飯が食べれない生活をしていたのだろう、それはどれ程辛い事だったのだろうか想像すると美里も目頭が熱くなる。


食べたいものが食べれないではなく、食べる物その物が手に入らない辛さ。


少し足を延ばせば衣食住足りた生活をしている人間がいる、それを横目に娼婦として腹を空かせて町に立つ事はどれ程辛く苦しかったのであろうか、それを思う胸が締め付けられる思いがした。白靖様教徒としては良い子にはいっぱい食べさせなければならない、これは決定事項である。


「心配するな、これからは俺が毎日腹いっぱい食べさせてやる」

目の前に座るヘルガが両手で顔を抑え声を抑えて泣き咽んでいた。


ヘルガが泣き止んだところで店を出る、さすがに体の大きいヘルガが泣き出したことに衆目を集めていたため急ぎ者を飲み込んだ。


「大家さんに何かお土産を持っていこうと思うんだけど何がいいかな?」

「土産?」

「ほら印象をよくするために?」

「カオルって凄い気配りするんだね!大家なら酒!酒しかないね!」


善は急げとばかりに、ヘルガの案内で酒を売っている商店(タベルナ)へ向かう。商店(タベルナ)に入り驚いたのは、酒の種類の少なさである。少ないと言うより葡萄酒(ワイン)蜂蜜酒(アクアムルサ)麦酒(アリカ)とと言うビールっぽい酒の3種類しかないのだ。


葡萄酒(ワイン)が一番高いらしく1等級と2等級があるが赤ワイン一択である、仕込み年や銘柄は一切ない。


蜂蜜酒(アクアムルサ)と言う酒は蜂蜜と水と酵母で作られた酒らしくデルーカでは一番親しまれている酒でこちらも酒精(アルコール)の強さによって1~3等級があるらしい。


味よりもアルコール度数が優先されるのは何か理由があるのであろう。


大家は大酒飲みで蜂蜜酒(アクアムルサ)が好きと言う事なので、1等級の蜂蜜酒(アクアムルサ)を大き目の酒壺で購入、美里自身も興味があったので蜂蜜酒(アクアムルサ)麦酒(アリカ)を中ぐらいの酒壺で購入する。


この商店(タベルナ)は酒屋と言うより飲物屋らしくアルコール以外にも果実酢(ポスカ)果実水(テーフルトゥム)と言う飲み物がそれぞれ数種類置かれていた。


果実水(テーフルトゥム)はその場で絞った果物の汁に果実酢(ポスカ)を足したソフトドリンクの様な物で、その果実酢(ポスカ)も水で割って飲むものの様である。

冷蔵庫のない時代、どこの国もアルコール類やは日持ちする為、昔は水の代わりに重宝されたと言う。魔法の世界、神聖イース帝国でも似た状況の様である。


果実水(テーフルトゥム)果実酢(ポスカ)等の酢類も防腐性が強く保存のきく飲料として販売しているのかもしれない。

都市内でも井戸水にはそれなりに雑菌もいるだろうし貧弱現代人美里は腹を壊しかねないと考え、クランベリーとハスカップの果実水(テーフルトゥム)果実酢(ポスカ)も小瓶で購入する。


少し楽しみである。


帰り道の露店で本日の夕食と明日の朝食分の食材を購入する、美里には善し悪しが判らない事もありヘルガに好きなものを買うように促す。


「カオル、あの、蜂蜜のパンが食べたい」

ヘルガは恥ずかしそうに一つの露店を指し示すと気に入りの蜂蜜を練り込んだパンを勧めてくる。どうやらコンビニ中華まんサイズ一個が大銅貨(イソ・クパリ)3枚する少しお高めのパンである。


昨晩はエッチな事をしておいてなんだが、なんだかヘルガとデートをしているみたいで少しドキドキする。


楽しいデートを終え帰路に就いた。




「じゃぁ、ひと月で大銀貨(イソ・ホペア)1枚だ」

早速ヘルガから大家の爺さんへと入居の口利きをして貰い、4階の一番奥にある角部屋でヘルガの隣部屋を契約するに至った。といっても契約書はなく口頭契約であったのだがあっさりしたものである。


といっても大家も最初は良い顔をしてくれたわけではない。


なぜか?それは大家以外の住人達は全員女性と言う事と、昨晩のヘルガの激しい嬌声が主な原因である。嬌声の話をされればヘルガは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしつつも昨晩の様な騒音問題は極力控えるよう約束してする。


横にいた孫娘は何やら赤面しつつ小声で何かを言っていたが、無事拠点を確保することが出来たので問題なしだ。


「まぁヘルガが連れて来たってんなら、そんな男を信用しねえ訳はねえし断ったらヘルガに殺されそうだしな」と大家も断るつもりも無かったようではあった。

ヘルガは大家からも信用あるようだ。気さくだし美人だし、本当に良い人物と知り合えたものである。


一通り入居の話が纏まり簡単な世間話になる。大家には挨拶の1等級のミードを渡し軽い世間話をしていたのだが。何故か紹介の中で、正式に迷宮(ダンジョン)探索(ダイブ)のパーティーを組むような話に加えて結婚を前提にヘルガとお付き合いをしていると紹介されてしまう。


そんな約束はした事実はないのだが、入居用に話を盛ったのかな?ヘルガは信用できるし可愛いので野暮を言わず、そのまま流れに身を任せる事にする。恋人なら夜のダンスは割引してくれるかもしれないと下種心を心のそっと忍ばせる。

ふと大家に孫娘はいるが、両親を見ていないなと気になった。家内制手工業で藁細工を作っている様子だが一緒に作業していなかったし、売り歩きでもしているのかな等と軽い気持ちで聞いたのだが、父親は居ないと言う。


これは空気の読めない質問をしたのかと肝を冷やしたが。


大家の実の子供は娘で婿養子を取ったらしいのだが、碌に働かない穀潰しで妊娠時期に娘の堪忍袋が切れたらしく孫娘が生まれて直ぐに嫁と当時の住人が共謀して拳の説得を行った結果、円満に離縁したという話であった。


大家曰く、大の男の命乞いと言うのは見ている方が辛かったと語られる。


ナニソレマジコワイ。


お嬢さんは一緒に住んでいると言うが日中は商業区にある親戚の経営する食堂(タベルナ)へ働きに出ているという。夕暮れも近いし日が落ちる頃には帰ると言うのだが、そんな話を聞くと会うのがちょっと怖い。


ヘルガの部屋に置いていた荷物を、新しく借りた美里の部屋へ移動させていると、何故か当然の様にヘルガが美里の部屋についてくる。


何か手伝おうかと言うのだがする事は特に無い、だって荷物を移動するだけなのだから。


現在このインスラ住んでいるのは、大家の爺さん以外は全員女性らしく3階の住人達もヘルガと同じ職業、つまり娼婦が4人とその子供1人が住んでいるだけと言う。


聞く所によれば3階の部屋は全て埋まっているらしく、4階は事情が有り彼女(ヘルガ)の部屋以外の3部屋全べてが空き部屋だったらしい。


事情?ヘルガが口を濁したため追及しなかったのだが、直感で大島てる案件だと察する。


美里の借りた部屋の大きさはヘルガの部屋と変わらず、ベッド1台に収納箱が1台、窓に鎧戸がついているが窓自体は無いただの四角い大穴が1か所あるだけである。


当然だがこの世界には布団もマットレスも無い。日本だって布団が生れたのは江戸時代、一般化したのも明治時代である事を考えれば納得である。


ヘルガの部屋もベットはあるがマットレスに当たるのは藁筵(わらむしろ)の様な物を敷いただけで簡素なものだ。冬は獣の毛皮や外套を掛け物をするらしい。彼女の部屋のベッドは今は昨晩の粗相の臭いが残っている。


臭いけど少し興奮もする。


あの藁筵(わらむしろ)はもしかすると大家が作っているんだろうか?


ともかくヘルガの部屋と同じ固い木枠のベッド、現代でいうならベッドフレームのみの為、とても固い。


しかし美里には秘密兵器がある、そうキャンプ道具だ!


まずは一緒に転移してきたキャンプ道具の中から、エアマットとエア枕に空気を吹き込んでベットの上に設置する。次に秋冬物のスノーカモ(雪原迷彩柄)の封筒型寝袋(シュラフ)を取り出し、乗せて完成である。


寝袋は良い物を買った方がいいと勧められ、どうせ死ねば金はあの世に持っていけないのだとセットで8万円のややお高めの物を購入。買っておいて本当に良かった、お金は有っても異世界で存在しない物を買う事は出来ないのだ。


流石に屋内でテントは使わないのでテント関連はそのまま脇に寄せ、ヘルガの部屋でも使っていたキャンプチェアとテーブルセットをベッド横の狭いスペースヘ設置した。


キャンプ用なので割とコンパクトな為、置くスペースは十分にとれる。


そして昨晩も使用したランタンをキャンプテーブルの上に置き、太陽光充電器と食器セットを取り出す。


「使う物はこんな感じか」と美里は一息つき、ベッドの使い心地を見ようとした所、物珍しさと興味に負けたのか有無を言わさずヘルガが(うつぶ)せに飛び込む。


美里が冷ややかな目でヘルガを見ていると、驚く事にヘルガは瞬時に眠りに落ちてしまっていた。


昨晩の激しいマイムマイムもあり疲れていたのだろう。美里は未使用の寝袋の最初の使用権をこのままヘルガに譲ずる、さぁ十分に堪能してくれたまえ、代わりに今晩はヘルガを堪能しようではないか!


ヘルガが眠る横でそのまま荷物の整理をするのだが、彼女(ヘルガ)の寝顔をチラ見する、何度もチラ見する、そう美里は夜を待たずにちょっとエッチな気分なのである。


20歳の宝塚男役系北欧ツルペタ高身長の美女が無防備に寝込んでいる、下着をつけていない貫頭衣(ワンピース)一枚の無防備でである、服の裾をチラリと捲ればスッポンポポンのポンなのだ、正直理性を抑えるのに必死である。


しかし煩悩を抑え込むというのは中々にきつかった。


そして美里は異世界転移後に自分自身の身体に異常を感じていた。


転移後から明らかに体調がいいのだ。


この10年を振り返ればいくら寝ても取れない疲労感と倦怠感、どれほどマッサージ店に通っても消えない肩コリ、24時間感じる腰の痛みに座りっぱなしが原因の内痔核(ないじかく)の発症。


特にこの1年は癌の発症のせいか少し歩けば息が切れ、腰痛は更に悪化し常に痛みが走る、加えて食欲不振や自律神経が乱れての異常発汗に免疫低下により治ることがない帯状疱疹(たいじょうほうしん)発症等々、常にコンディションは最悪であった。


それが昨晩ヘルガとの異世界初の戦闘の最中に気づいてしまった、体の不調が無くなっていた事を。健康とは不調がない状態、意識しなければ気づかなかい物だったと思い知らされる。


だが、それは死んで転生の様に転移してきた為にリセットが行われたと考えられたのだが、体力とその回復力には説明がつかない、まるで10代の頃の様に体力と精力が(みなぎ)っていたのである!




10代の様に…




10代の体力・・・精力・・・性欲・・・つまり『そういう』事なのだ。


美里は自信に強く言い聞かせた。ヘルガはの『ソレ』は商売道具である、飯と服を買ってあげたとしても商売は商売、商売道具には正当な報酬を払わなければいけないし、何より現代日本人。同意が無いのは絶対ダメ!




耐えろ!俺の性剣ポークピッツ!




美里は意識をそらす為、死霊秘法(ネクロノミコン)を開き小難しい文章を読むことで煩悩の払拭を図る。


死霊秘法(ネクロノミコン)』はファンタジーでは有名な神話に出てくる死霊術(ネクロマンシー)の秘法である。実在するというのは流石は異世界、まさにファンタジーである。


昨晩、簡単に目を通したのだが、その大半が美里の頭では理解が追い付かない内容ばかりである。


文字は美里が知る如何なる文字でもなかったが、異世界転移の特典『翻訳』によって内容の多くは理解が出来、『読むだけ』であれば可能である。


しかし、記載されている内容で地球に無い単語等は翻訳されず、翻訳されていても自分が知らない単語では理解は出来ない。専門的な内容で文章が書かれていれば翻訳されていても当然理解が出来る筈もない。


つまり死霊秘法(ネクロノミコン)は美里にとって医学書や工学書を読んでいる様な物なのである。


文字の他にも理解困難な数式、図式、描写が記載されているのだが、関数や虚数解グラフの様な複雑な物から何を示すのか解らない立体的な図。見たことのない文字を含めた複雑な数式にどこかで見たような魔法陣等も記載されている。


『基礎の章』と題されたネクロミコンの最初の項目には『生命の理』『魂の理』等と言う死霊術必要な基本知識を深める説明も記載されていた。


オカルトに興味を持つ人であれば垂涎(すいぜん)の書籍であろうし、この一冊で『月刊ムー』の特別号が100冊は出せたであろう。


意外にも美里はこういう理解できない項目もちゃんと目を通すタイプであった。理解できない文章も繰り返し読み返すことで理解や気づきが生まれることもあるのだ。自力で気づかなくとも、今後経験することや別の学びを得たときに突然理解できることもある。


基本項目を読み進めると死霊秘法(ネクロノミコン)は意外に論理的で、今まで美里が思い描いていたファンタジーの魔法とは違い、魔法と言う形で生命関連の(エネルギー)を理解し行使する科学の一種の様に考察できた。


今の段階で死霊秘法(ネクロノミコン)について理解出来たのは、この世には***から生まれた魔力(マナ)と言うエネルギー体で構成される様々な物質(マテリアル)が魂を形成する魂と魄と□□□(文字化)の素となっている。******は生命の構成要素の一つである、魂が****の******を得て基礎的に構成される。***にて確定した***に魂魄が***して*******が行われる事で肉体宿り生命の基礎となる。

生命は神が構成する*****上で構成され、人の言語を介し疑似的に神の*****へ変換させる技術体系が死霊秘法(ネクロノミコン)であるらしい。


翻訳出来ず文字化けしている箇所が多いが、現段階の理解では神様の技術を人間が再現する凄い技術らしいと理解した。


ただ美里の目的は、死霊術の深淵を理解する事ではなく、死霊術を有効に使う事である。


死霊秘法(ネクロノミコン)の素晴らしい所は、各項目にある文章の所々に記されている、アンダーバーが引かれた色違いの太文字表示部分をタップすればその項目の魔法が手軽に使用可能と言う親切設計である事だ。


このハイパーリンク風の謎文法な謎構成の呪文は物凄く長い文章で綴られている。


それこそ一つの文章を読み上げると、短い物でも専門書の1ページ字程度、長い物は専門書の数10ページを超える。この呪文を正しい発音で一字一句間違えず、唱えなければいけないという難題をこなさなければならないらしい。


発動される魔法の内容は、一部文字化けをしているが前後の文章で、唱える呪文の意味や、その魔法の特性、注意事項までが記載されている安心設計である。


実は昨日は、ヘルガの前で2つの呪文を発動していた。


一つ目は最初の方のページに記載される、『霊視(スピリチュアルヴィジョン)』と言う呪文で、魔力(マナ)、魂、幽霊と言ったエネルギーが見えるようになる魔法である。


試しにタップするとヘルガの体がうっすらと輝いた、呪文の前後の文章をを確認しそれがヘルガの生命力だと理解出来た。


体力ではなく生命力、恐らく魂の力だ。


そしてタップするだけで魔法が発動される事を理解した美里は、死霊術=アンデット召喚と言うイメージがあった美里は、簡単な召喚の魔法を試そうと考えた時、自動的に初級の召喚魔法のページが開いたのだ、そして開いたページに記載されていた呪文『霊魂(ウィルオウィスプ)』を発動させた。


魔法を発動させた際に、感覚的にだが魔力の流し方や意識の仕方で威力や大きさなどの調整を意識下でコントロール可能なことを理解できた。


恐らく本来は呪文を読み上げる際に必要な値を変更させて調整する必要があるものを、電子書籍化された死霊秘法(ネクロノミコン)ではタップひとつで発動出来るように脳内イメージで行えるように設定されたのではないかと考えられる。


そして『タッチ発動』に加え、一度発動した『呪文』は次からタップすら必要ないという便利機能があるのだ。


これはまさにチート能力である、御与え下された白靖(しらやす)様には感謝しかない。


この死霊秘法(ネクロノミコン)は美里薫がこの異世界で生きるための生命線であり飯のタネでもある、早急に使いこなさねばならない。


しかし、説明書きを読んだだけの魔法の理解が浅い状況で魔法を安易に使うのも危険である。


加えて、昨晩に頂いた白靖佐久比売(シラヤスノサクヤヒメ)様のメールにあった『お体が慣れるまでは魂へ大きく負担がかかると思われ、力の使用は段階を踏み徐々に慣らしてゆく必要がある旨を御留意ください』と言う一文と、ポンコツ秘書の言っていた『魔力は枯渇すると最悪死にます』が脳裏に浮かぶ。


美里は目を閉じ天井を仰ぐ。


呪文を構築する際にに盛り込む必要のある構成要素『霊体構成(アストラルコンポジション)』『物理構成(マテリアルコンポジション)』『精神構成(スピリットコンポジション)』『次元値構成(ディメイションコンポジション)』『階位値構成(ランクコンポジション)』の『値』と『構築順』を召喚に応じ調整を自分で考え無ければいけない。

そして、その構成させた物凄く長い呪文を延々と正しく唱えなければならないと言う荒行をタップ一つ可能にしてしまうこの力は本職の魔術師をガチギレさせそうである。


もしかするとコノ世界にも同じ事が出来る存在がいるかもしれないが、ヘルガが無詠唱は初めて聞いたと言っていたし、希少技術という事かもしれない。どんな魔法や技術かわからない世界である、なるべく敵は作らないに越したことはない。


当然『無詠唱』に関しては隠した方が無難である、なにか隠ぺい方法を考える必要がある。


昨日は咄嗟の事で召喚時の構成は『小さい』『弱い』と言う曖昧な条件でイメージしたため可愛らしいゴルフボールサイズの霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)が出現した。


死霊秘法(ネクロノミコン)が5種の構成要素、それらの各値が必用最小で構成して召喚されたと思われる。


しかし、この無詠唱魔法は発動から完成まで数秒である、流れ星にお願いをするレベルで考えなければいけないのだろうか?これは今後の課題の一つになる。


実験開始だ、先ずは昨晩と同じような霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)を出してみる。


それぞれ発動時に構成値のイメージの方法やタイミング、構成値に変化を加える。


20個程召喚してみたが疲れは感じない。


同時に召喚する数を増やしてみるが同時発動数に制限も感じられない。


もしかすると呪文の発動は魔力(マナ)量依存で、魔力(マナ)さえあればいくらでも召喚出来たりするのだろうか?


霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)は念じるだけでも移動させたりで来る、口頭命令も可能の様で割と細かい命令でも聞いてくれる。


次に意味の解らなかった『階位値構成(ランクコンポジション)』の実験を行う、『階位値構成(ランクコンポジション)』だけかなり強めの『値』と念じ発動する。


意識が一瞬ぶれる。意識していなかった使用魔力が勝手につぎ込まれたようだ。


各項目には相関関係もあるようだがイマイチ理解が及ばない。しかしこれらの調整は感覚で慣れる物だろうと考え注意して検証する必要があるだろう。


霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)召喚が完了するとバチバチバチと言う強い放電音が部屋に轟き、出現したソレは大きさこそ変わらないのだが、神々しさを感じる光の渦の様であった。


美里は出現した圧倒的な存在に驚き、咄嗟にソレを消し去ると勢い余って全ての霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)も消えてしまう。


具とベッドを見ると霊魂(ウィル・オ・ウィスプ)召喚で発せられた音に、居眠り中のヘルガも目を覚まし咄嗟に身構えていた。


流石は元冒険者、危機管理能力が高い。


「いま何かすごい音しなかった?」

ヘルガが部屋を見渡し、何事も無さそうな事を理解すると美里に状況確認をする。


「えっと...すまん、今オナラをしました...」

咄嗟に適当な理由をつけるとヘルガは一瞬ポカンとしたが、「まぁカオルだから」とフフリと笑うと体勢を楽にする。


ヘルガが起きた為、魔法の実験は休憩である。


「それにしてもこの敷物すごいね!色柄は珍しいけどフッワフワだし触り心地も何だかサラサラで...瞼を閉じたとたん寝ちゃった...」と愛おしそうに寝袋に頬ずりをする。


「さっきまで丸めて凄い小さくなってたよね。物凄く軽いし、これは旅用の装備だよね?こんなに凄い物初めて見たよ。本当にお貴族様ではないのかい?」ヘルガは目を輝かせて美里の方に体を乗り出す。


「ちゃうちゃう、お貴族様が悪所に住もうとは思わんだろ」

「でも、こんな凄い物を持ってるのが知られたら盗みに来る奴が出てくるね、内緒にしないとね!」と困った表情になったが、既に死霊秘法(ネクロノミコン)で解決策を見つけていた。


「それは対策出来そうだから大丈夫だ、魔法で他人が部屋に入れないようにするよ」と伝えておく。


「あたしも入れないの?」とヘルガが寂しそうに呟く。

「え?ヘルガたんが盗みに来るの!?」

「ち、ちがうよ...たまにさ...ほら...ゴニョゴニョ」

あぁ、お隣に常連客が引っ越してきたんだもんね、そりゃあ営業かけたいよね。


「俺も持ち合わせはいつまでも続かないよ?」

「バカ!カオルからお金なんか取らないよ!」とヘルガが突然激高し美里は突然の事に、すまんと一言謝罪するのがやっとだった。


部屋に重苦しい沈黙の帳が下りる。


暫くしてヘルガは意を決しに口を開く。


迷宮(ダンジョン)...そう迷宮(ダンジョン)に一緒に潜るんだろ...?あたしに護衛させるんだよね?」

絞りだした声は細々と震えていた。


そういえば大家との話の時にもその話をやけに強調していた気もする。


「カオルは娼婦は嫌かい?その、女としては......魅力は無いかな?」


ヘルガは(うつむ)いたままで今にも泣きそうである、いやもう目にいっぱい涙を溜めている…目を潤ませたヘルガたんも可愛い…


娼婦は嫌か?正直それがヘルガであれば全然ありである。


確かに娼婦を生業にしている人間には高いリスクがある、性病の感染や托卵妊娠(たくらんにんしん)、それに貞操観念、それらの問題は古来からある処女信仰の大きな要因でもあるのだ。


然し彼女(ヘルガ)が体を売っているのは、遊ぶ金欲しさに体を売るパパ活女子や未来を想像出来ない頭の悪い援交少女の様なモラルの欠如ではなく、生きる為、食べる為に仕方なくと言うのが彼女の話の節々から理解している。


それは彼女にとっては辛く、大きな心の傷である事も。


正直言って彼女(ヘルガ)は美里の好みど真ん中である、性格も良く話した感じでも決して頭は悪くないし、この世界で美里薫が生きていく為に必要な知識を持っている。


そこでふと美里の脳裏に『異世界特典』という言葉が浮かぶ。


初めての土地で、初めて出会った人間、そしてこの世界のチュートリアルをしてくれる・・・しかし今はそれ以上に重要なことがある。


美里自身が彼女を気に入ってしまった。


そして彼女(ヘルガ)は『娼婦』としてではなく『女』として美里の近くに居たいとそう思ってくれている。本心ならば本当にうれしい。


もしかしたら演技・・・そんな言葉も美里の頭の片隅にはまだ残っている。


「ヘルガは俺だけの女になりたいって言う事であってる?」

今確認するのはこの一つだけだ。


美里が問いかければヘルガは迷いなく頷く。


「会ったばかりで変だよね...ちょっとアタシおかしくなっちゃたかもしれない、でも......その...」

見た目は宝塚男役然としたヘルガが、今は非常に弱々しく、そして小さく見える。


妙齢の美女が勇気を出してここまで言ってくれている事に美里は感動する。


異世界の常識を知らない美里にとってこの話は利益も大きいが、それ以上に美里自身も既にヘルガを気に入ってしまっているのだ。


答えは決まっている


「正直嬉しい、こちらからもお願いしたい」美里は笑顔で答えたると、ヘルガは大粒の涙を溢し美里へと抱き着いた。










美里薫 享年36歳 彼の下半身はもうバッキバキであった。








拙作「のんねく」をお読みいただきありがとうございます。


本作はお楽しみいただけましたでしょうか?ちょっとでも続きを読みたいな~と思っていただけたら是非イイネやお気に入り登録をいただけると嬉しいです。


それでは次回もよろしくお願いいたします。

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