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第78話 200年前②


「おにぎりいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

それを目にした時だった、兎頭人(シュメ-ルコボルト)の携帯していた糧食を見せられた途端、美里は今日一番の雄叫びをあげた。


ポタをはじめとした兎頭人(シュメ-ルコボルト)達は勿論、骸骨(スケルタル)死霊(レイス)やエーリカ達迄も一瞬体を強張らせる。


ポタと美里が落ち着いて話し始め、長い語りになるであろうとポタと美里が腰を下ろしたことで緊張が和らぎをみせ、その様子に兎頭人(シュメ-ルコボルト)達も地べたへと腰を下ろした時である。おもむろに兎頭人(シュメ-ルコボルト)の一人が一塊の包みを開けた姿を美里は見てしまった。


開いた包みの中には『おにぎり』らしき食べ物が包まれていたのだ。色見た目は黒いがその黒い粒は確かに米であったのだ。


歓喜の声を上げ、『おにぎり』をもつ兎頭人(シュメ-ルコボルト)の一人によつんばいで近寄るともう一つ別の香りを嗅ぎつけその正体をも目にしてしまう。


「お漬物おおおおおおおおおおおおあおおおあおあおあおおおお!!!」

「ごめんなさいい!!!」

おにぎりを取り出した兎頭人(シュメ-ルコボルト)は、自らが何かとんでもない非礼をしてしまったのではないかと涙ながらに謝罪を始めてしまう。


その光景に再び兎頭人(シュメ-ルコボルト)達が緊張で硬直し、エーリカをはじめとした血盟(クラン)デスマーチ軍団(レギオン)の面々も現状を理解できず固まってしまう。


「すまん!つい興奮してしまった!!」

美里は我に返り泣き出した兎頭人(シュメ-ルコボルト)へ近づき頭をなでつつ謝罪するのだが、それがまた怖かったのだろう、手にもった握り飯をその手から溢す。


「*おおっと*」

ヴィルヘルミーナが冒険者らしい素早い動きで飛び込み、握り飯の地面到達を防ぐと泣いている兎頭人(シュメ-ルコボルト)へ手渡し、彼女もその場にゆっくりと胡坐を組むと笑顔で兎頭人(シュメ-ルコボルト)に語りかける。


「驚かしてわるいねぇ、アタシの旦那様はとんでもなく変わり者だが、敵意が無い人間に悪い事をする方じゃないんだ。たぶんアンタが持ってたソレが旦那様にとって凄く美味しそうなものに見えて思わず嬉しくて声をあげちゃったんだ。許してくれるかい?」

兎頭人(シュメ-ルコボルト)が鼻をすすり震えながらも頷いてくれた。それを見たヴィルヘルミーナは再び笑顔をつくり彼女に礼を告げる。


「カオル様は米がお好きなのだろうか?」

「はい、大好きですよ。私の生まれ育った国はお米で成り立っていると言っても過言ではない場所でして、このお米とは少し違うんですが久しく食べていなかったのですこし興奮してしまいました」

ポタが恐る恐る確認すると美里は満面の笑顔を作り答える。


「え?カオルお米好きなの?」

「旦那様の国の料理も食べてみたいねぇ」

小さな声でヘルガが口にすると、ヴィルヘルミーナも続く。説明しにくい部分もあるので余計なことを言ってしまったと思いつつ美里は米料理は自身の魂の食材と答えた。


「えっとカオ....」

「これってあたし達が食べても大丈夫なものかい?よかったら分けてくれないかい?」

ヘルガが美里へ何か語り掛けようとしたが重なるようにヴィルヘルミーナが兎頭人(シュメ-ルコボルト)へ質問をすると場の空気を戻そうと明るい口調でポタがカットインして答える。


「勿論大丈夫じゃ、カオル様のお口に合うか解んねえが腹を壊したりはしないとおもうぞ?北の国の人間も食べてたしな!」

ポタがそういうと、先ほど泣かしてしまった兎頭人(シュメ-ルコボルト)がオズオズと美里へオニギリを差し出してくる。

美里は笑顔で受け取ろうとしたが、ヴィルヘルミーナが美里を制しておにぎりを手にして、おにぎりの端をひと食みする。


「うん、悪くはないね、旦那様が口にしても大丈夫」

ゆっくりと咀嚼すると安全を確認したのか笑顔で美里の口元へおにぎりを向ける。


少し気恥ずかしい気もしたがみさとはおにぎりの匂いを嗅ぎ、ヴィルヘルミーナの手にあるソレに噛みつく。


美里は、目を瞑り難しい顔をしながらモグリモグリとゆっくり咀嚼する。


———————ゴクリ


「うん」


美里は一つ頷くと、ヴィルヘルミーナからオニギリの残りを受け取り口の中に放り込む。


嬉しそうに美里はムシャリムシャリと米粒を深く味わうために咀嚼する。


「うん」

美里はまたも頷く。


「どうかな、ワシらの米は」

ポタが問いかける。


「俺の知ってる米とはだいぶ違うが確かに米ですね。味も悪くない」

無遠慮な物言いだが美里の率直な感想だったが、表情は確かな満足を表現していた。見た目は長粒種の黒米の様だが、思っていたより粘りがあり触感がよかった。


兎頭人(シュメ-ルコボルト)がもう一つどうかと包みを差し出すと、美里は添えられた漬物に興味を持ち手を伸ばす。


漬物の見た目は(わらびの様な形状で色は深緑の漬物である。

美里は漬物に鼻を寄せ、香りを確認すると目を丸くする。


ポタはその表情に美里が漬物の香りを好ましく感じていることを察し、どのような感想が生まれるのか期待をする。


美里が漬物を口へと放り込む。


コリコリと小気味よい咀嚼音が静かな部屋に響き渡る。


コリコリコリコリコリコリコリコリ・・・ゴクン


美里が大きく息を吸い込み、その瞳を閉じたまま恍惚の表情で天井を仰ぐ。


「香りがいい、なんといっても香りがいいですね。それに歯応えが心地いい。癖が無く野菜自体の風味は控えめでサッパリしているが....この懐かしい香り、それにこの味、醤油の様な味がする...これは普通にうまい、日本人好みに仕上がっている!」

美里が悦に入っているとポタが衝撃の一言を放つ。


「カオル様は醤油もご存じか!」

「え?」


「味噌を作った時にの出来る汁だが」

「え?」


「味噌は知らんか?大豆を寝かせて作る食べ物だ」

「え?」


「寝かしておくと汁が染み出てきての、それが醤油になる」

「それは溜醤油(たまりじょうゆ)では?」

溜醤油(たまりじょうゆ)?」

「え?」

「え?」


ところ違えば品かわると言う事なのだろうか?


ポタと話していくうちに似たような物でも翻訳で当て嵌められただけで若干違う物なのだと理解する、味が醤油である事に変わりはない。


結論付けするなら、彼らの生み出す『味噌』と『醤油』とは美里の知る現代日本の『味噌』と『醤油』ではなく、細かい分類も種類も存在しない手作り『味噌』と『醤油』であった。だがこれは美里がこの世界で生きて行く中で日本の味覚が手に入ると言う貴重な情報なのである、彼の中で兎頭人(シュメ-ルコボルト)の価値が高騰していく。


美里も詳しく知っていたわけではないのだが、日本の『醤油』のルーツは『たまり醤油』であり、鎌倉時代に大陸から『径山寺(きんざんじ)味噌』が伝わり、『径山寺(きんざんじ)味噌』が作られる過程で副産物として『たまり』、現代で言う所謂(いわゆる)溜醤油(たまりじょうゆ)』の原型が生まれ、室町時代にはいり職人たちの試行錯誤の末に『生醤油』が生まれたと言われている。

正確に言えば現代で言う『溜醤油(たまりじょうゆ)』は味噌の副産物である『たまり』とも違い、『溜醤油(たまりじょうゆ)』という確立した製品として存在し、一般的な『濃口醤油』や『薄口醤油』よりもお高めなお値段設定となっている。


蛇足すれば現在日本では醤油は、日本農林規格で5種類に分類され『濃口醤油』『薄口醤油』『溜醤油(たまりじょうゆ)』のほかにも『白醤油』と『再仕込醤油』が存在する。


美里もデルーカの都市内で『魚醤(ガルム)』を数種類(いくしゅるい)か眼にはしていたが、豆類から作られる植物性の醤油とはまるで別物である。


食事にはあまり拘りを持たない美里ではあるが、転生してからはそれはあくまで日本国内に住んでいることが前提であった事を痛感していた。


やはり日本人にとって醤油は欠かせない調味料なのだ。


魚醤(ガルム)』が存在している古代ローマ帝国時代級の環境で『味噌』と『醤油』に類似した調味料が存在するのはかなりの奇跡ではなかろうかと思える。


日本でも『醤油』は鎌倉時代に原型が生まれ、(推定で)室町時代までの約400年の時をかけ、『味噌』から『たまり』、『たまり』から『たまり醤油』、『たまり醤油』から現代の『醤油』が生まれている。そもそもの『味噌』自体も存在が危うい異世界である。『味噌』や『醤油』が美里の知るソレならば『巨人の方に乗る』美里であれば数年で『醤油』に辿り着く事も十分に可能である。


そして『米』も古代米ではあるが存在しているのならば『白米』の存在にも期待が膨らむ。美里はヘルガとの初Hに匹敵する興奮を覚えていた。


そして美里は貴重な醤油と味噌の供給源である彼らを逃がすまいと揉み手をしながらポタへと交渉を持ち掛ける。


「ポタさん、兎頭人(シュメ-ルコボルト)さん達が作っている味噌と醤油って少し分けて頂く事は可能でしょうか?」

「え?あぁ、どうだろうか...基本的にワシらが食べる分しか作っていないからのぅ........」

ポタ達としては非常に困惑していた。突然現れた怪物(モンスター)であるはずの幽霊(ゴースト)の集団と、それを使役する人間からの言葉に戸惑うのも必然であろうし、戦力を目の前に置かれている状況では交渉もお願いも要求となり脅迫とも取られ兼ねない。


だが美里としてはこの機会を失えば次に『味噌』と『醤油』が手に入る機会がいつになるかも知れない、多少は強引でも確保したいところである。


「帝国金貨で買取できますか?それ以外にも魔石や鉱石、皆さんには手に入り難い食材と物々交換もできます!」

「む、交易と言う事か?」

「はい!」

「そうか、そういう事なら村の者とも話をしてみなければならんが....その南の、帝国側の人間との交易は今までなかったので一度話を持ち帰らせてほしい」

やはりポタとしては強請(ゆすり)たかりの類の警戒をしていたのだろう、正当な取引であると言う事ならば多少は受け入れる事が出来る様である。


ポタの答えに美里が若干不安そうな顔をしていたからであろうか、エーリカがゆっくりと美里の横からポタの前まで歩み出る。


「お前達は我が主様との取引に問題があるとでも?」

そこでエーリカが冷たい笑顔で問いかける。脅迫めいたその問いには骸骨(スケルタル)死霊(レイス)に囲まれている兎頭人(シュメ-ルコボルト)達の表情が一瞬にして凍り付く。


「こら!エーリカ、そんなカドの立つ言い方はやめ...」

美里がエーリカを窘めようと声を上げた時、今度はヴィルヘルミーナがポタへと歩み寄り、彼の小さな肩へガッシリと腕を回し悪い笑顔を浮かべながらエーリカの話に全力で乗っかっっていく。


「なぁ兎頭人(シュメ-ルコボルト)さんや、アタシらとアンタらは友達になれたと思ってるんだけど、ソイツはアタシの勘違いだったのかなぁ?」

はい、完全な脅迫です、まごう事なき恐喝事案です、日本なら通報待ったなしです。美里は空かさずヴィルヘルミーナの頭をペチリとはたき止めに入る。


「ポタさんすいません、うちの家内は冒険者あがりな事もあって少々粗野な部分もありまして、お気を悪くされないでください。もちろん村の方々と話し合ってからで結構です是非良いお返事をお待ちしています!」

「そ、そうだな。ワシ等としては帝国の通貨は使い道はないからな。物々交換であればやりやすい」

「ご提案があれば可能な限り対応します、魔石なら融通はつくかもしれません」

むしろ今の美里としては魔石であれば一番扱いやすい品物である。その提案には兎頭人(シュメ-ルコボルト)達も興味があるらしく反応が良い。


「それでは死者都市(ネクロポリス)の探索の後になるんですが、許可を貰えたらみなさんの村に伺えればと思っているのですが........」

美里の放った言葉に、兎頭人(シュメ-ルコボルト)達が本日何度目になろうか一斉に表情をこわばらせる。


「そ...それは.....ちょっとそれ困る」

ポタは周囲に浮かぶ骸骨(スケルタル)死霊(レイス)達を見回し口ごもる。当然美里が来ると言うのならば、この部屋に(ひし)めくこの骸骨(スケルタル)死霊(レイス)の集団もやってくると言う話なのだから心中穏やかなはずもない。


その様子を察した美里も自らの言動に配慮が欠けていた事に気づく。




「それなら問題がない!」

ドヤ顔のロリガがない旨を張り美里の横へとやって来た。


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いつも拙作をお読みいただきありがとうございます。ちょっと更新が滞っていて、皆さんに忘れられている気がしてならない今日この頃です。詳細は活動報告で書こうと思いマス〜。




もしチョットだけでも面白いかも?と思われたらイイネやお気に入り登録をいただけると作者の生きがいになりますのでよろしくお願いいたします。

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