第73話 異世界の秘境!うんちダンジョン⑥
第73話 異世界の秘境!うんちダンジョン⑥
073 2 014
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「ではロリガに聞きましょう。主様が『うんち迷宮』で大儲けするという話はどういう事なのです?」
美里としては食事での会話の第一声に『うんち迷宮』というワードを持って来る事に疑問が無い訳ではないが、ロリガの話にも興味はありエーリカの会話を静かに見守る方向へ定める。
「う~.....」
昼間から夕食の買出しに出るまでずっと泣き続けていた為か、ロリガは目を中心に酷く顔が浮腫み、思考も纏まらないのかただ唸り続けていた。それでもハムスターの様に蜂蜜パンを食む姿はちょっとだけ可愛いくも見えた。
「ロリガ何とか言いなさい」
「う~ん~」
エーリカが再度促すが、ロリガは唸り反抗的な目でエーリカを睨む、被害者であるヘルガ以外誰もロリガの援護をしなかった事にご立腹なのだろう。
ロリガを食肉にすると言う話が冗談と教えても、本人は「はいそうですか」と納得出来る筈もなく、かなりヘソを曲げ口を開く様子がない。
ロリガがあまりに怯える様子を見て可哀そうだとヘルガに怒られてしまった事もありロリガを許したのだ。
美里としては被害者でもあり人生で初めての嫁さんであるヘルガのいう事には逆らえなかった。
愛妻家を自負する美里としては、ロリガを庇いプンスカしているヘルガがとても可愛いと思い今夜は一戦交えようと心に決めていた。勿論2番嫁3番嫁も大事にしようとは思っているが今日はヘルガだ!
そんな中で不貞腐れたロリガを正面に抱えつつ、自らも4個目の蜂蜜パンを口に頬るヘルガは美里にこの空気を何とかしてほしいと目で訴えつつ5個目の蜂蜜パンを手に取る。
美里がどうしたものかと悩んでいるとエーリカが深い溜息をつき口を開く。
「ロリガ、いつまでもそのような態度をしていると本当に主様に肉にされてしまいますよ?」
もエーリカの冷え切った口調で再び食肉問題を口にすれば、ロリガがビクリと肩を跳ねさせ、手にしたパンを落としてしまう。
ロリガは怯えた目で美里の方を見やると目に涙を滲ませ、号泣寸前と言った状態になってしまう。
「エーリカ!ロリガを虐めるのはやめてあげて!まだ子供なんだよ!」
「我らと違い子供なのです、程々にしてあげましょう」
ヘルガは自分よりも圧倒的な戦闘力を持つエーリカにも臆する事なく噛みつく。そしてヘルガの横に座るオリガはヘルガを援護する。
「私もロリガもオリガも言うなら満0歳です」
「「確かに!」」
エーリカの指摘に美里とオリガが激しく同意する。そして0歳と言う内容にヘルガもヴィルヘルミーナもかなり驚いていた。思い返せば年齢やら細かい事を説明していなかったという事に美里は今更ながら気づき、この場で凡その事情を補足したが、結局は見た目が内面に反映しているのだろうという事実を元に扱う事になり、この日をもってエーリカとオリガはだいたい25歳、ロリガはなんとなく15歳という設定が決められ、クロアとクロエはそのまま生前の年齢を引き継ぐ事できまる。
「ロリガ、改めて言うが人が嫌がる事や馬鹿にする事を理由もなく口にしたらダメだ。自分が言われたら嫌だったろ?」
「ううぅ...ふぁい...」
「これからはお姉さん達の言う事をちゃんと聞くって約束できるな?」
「ふぁぃ...」
美里の言葉にはちゃんと返事はするものの、美里としては若干心配でを残したが、エーリカをはじめ美里よりもしっかりとした大人がいっぱいいるのだから、あとは何とかみんなに任せてしまおうと考え、美里はひとまず思考を放棄した。
「それでロリガは何を思いついたんだい?面白い話なら旦那様だってお前を見直していっぱい褒めてくれると思うぜ?」
ヴィルヘルミーナの言葉にロリガは目を見開く。ヴィルヘルミーナと美里の顔を交互に見やると逆転のチャンスを得たと悟り、美里へ思い付いたアイディアを嬉々として語りだす。
「えっとね、迷宮に————」
◆
翌朝、美里達は夜明けとともに『うんち迷宮』へと出発する。宿の裏手、湖の淵で待機していたクロ、フェン、ノワール、ネーロへ声をかけると、睡眠の必要がない不死怪物達はいつでも準備万端で軽快な足取りで美里の元へ寄って来る。
周囲を見回し、懸念していた周辺の冒険者からの攻撃などはなかったようで美里は一安心する。昨晩屋台に買い物に行った感覚では、食糧事情も悪くないこの村で敢えてこの巨大な箆鹿と大型の狼や犬にちょっかいを出そうと言う事もなかった。
そもそも、この世界では食糧確保や治安確保、または迷宮以外で無暗に動物や怪物と戦うって考えはないのである。
クロが美里に飛びつき親愛の挨拶をすると、ノワールもそっと美里へ頬を寄せ・・・・美里を跳ね飛ばす。
加減を知っていたつもりだった様だが個体差が大きく、クロとフェルが飛びつきイッパイイッパイの状況だったため、思いのほか派手に転がってしまった。大きな怪我はしなかったが、虚弱生物美里は巨大生物と言う物の恐ろしさを経験する事となった。
早朝とは言え冒険者や狩人が多い村である、美里達の泊まっていた宿の周辺にも既に多くの人の姿が窺えた。
そんな中で3m以上の体高を持つノワールとネーロはあまりに目立つ。昨日も多くの人間に目撃され、その度に驚かれ叫ばれていたが、今朝も黒箆鹿を初めて目にする人々は驚き混乱を生んでいた。
普通に考えればクロやフェルも犬型動物としてはかなり大きな体躯なのだが、ノワールとネーロの迫力の前に存在が霞み目立たなくなっている。
一行は昨日入ってきた門には向かわず、宿の前の道を壁沿い東に向かう。宿の従業員から『うんち迷宮』n話を聞いた際、しか道だと教えてもらっていたのだ。
進んだ先は壁が大きく崩壊し瓦礫を寄せた様な場所に木造の門がこしらえてあり門番が立っている。
クロエやロリガ、5号(仮)に6号(仮)といった子供達が随行していたためか、ノワールやクロ達が安全だと考えた村の子供達が、早朝にも関わらずいつの間にか集まり、東の門までチョットした大名行列を作った。
門を通過するとすぐ目の前には森が広がり、ウロステート村から『うんち迷宮』に向かう為に切り開かれた雑な道が東へと伸びている。
森を進み、これと言ったトラブルもなく昼前には目的の『うんち迷宮』に到着したのだが、そこは迷宮と言うよりは森の中に開けた原っぱと言ったような場所であった。
かろうじて数人の冒険者が『うんち迷宮』の入口付近に居た事でソコに迷宮がある事が察せられる。
夜間に迷い込んでいたら『うんち迷宮』は間違って落ちてしまうかもしれないと思えるほど目立たず、近くに寄れば本当に穴なのだ。
付近を見回せば周辺の木の幹を壁にしたタープやテントらしき物が散見出来る。おそらくは迷宮へ入る冒険者たちのものであろう。
「うぉ箆鹿か!!」
「うわひゃあ!?」
流石に森の中で出くわしたノワール達の巨体は恐怖の対象の様で、慌てふためき、テントで休んで居たであろう他の冒険者たちもその騒ぎに顔を出す。
クロアとヴィルヘルミーナが先行し、事情を説明すると警戒を解く様子はなかったのだが近づくことが許された。
流石にノワール達を迷宮へ近づける事は波風が立つと思われた為、クロアと5号(仮)、6号(仮)を先に居た冒険者のキャンプと離れた場所に陣取らせ待機してもらう。
『うんち迷宮』は事前に聞いていた通り大きな穴である、ノワールでも問題なく落ちてしまうほど大きい穴だが、想像していたような悪臭がする場所ではなかった。
考えてみれば四六時中誰かが用を足しているわけでもなければ、すぐ上にこれほどの空き地があるならば浅い場所に居る時なら上まで上がった方が安全に用が足せるのだから浅瀬は汚れてはいないのであろう。
しかし予想外だったのは、迷宮の穴を廻る階段であった。予想以上に棒である。四角い石らしき材質の棒が壁に螺旋状に生えている、しかも規則的で正確にだ。
明らかな人工物ではある。ヘルガやヴィルヘルミーナ、そしてクロアも迷宮は人ならざる者が生み出した空間だと言うのだが美里は根本的な迷宮の成り立ちには興味があり、そういった意味では『うんち迷宮』に興味がある。
『うんち迷宮』は上から見ると階段と階段の間は隙間があり、降りるには勇気がいる。これが糞尿がそこらに垂れ流されていれば滑落の恐れもある。
それ以外にも雨や雪等が降ってきたらと思うと探索にはかなり危険が伴うであろう。
「いまどの位の人が潜ってるの?」
「俺んとこ合わせて20人くらいだな、嬢ちゃん達ゃ.....潜る....訳じゃないよな?」
ヘルガが声をかけると、見張りをしていたらしき男は身綺麗で動物を連れた、この場にそぐわぬ集団を警戒した様子で睨みつける。
「ちょっと見学をしたいと思ってね、旦那様が珍しい迷宮に興味を持ったんだよ」
「あぁ、お貴族の魔術師様か納得だな。最近は上の方で金が出にくくてな、かなり奥に潜らなきゃ金は出ねえんだ。んだもんで探索する人間も今は少ねぇしな。浅い所で邪魔しねえんなら何も言わねえよ」
訝しんだ視線の冒険者に、ヘルガが声をかけると、美里達の目的が金採掘ではないと理解し警戒をやや緩めていた。
事前情報ではだいたい2~3人のパーティーで潜るのが基本らしく、他パーティーは互いにある程度離れて行うのが暗黙の了解だという。
唯一とも言える怪物のスライムは壁面に湧き出るのだが、壁の窪みの空間に湧き出る事が多く、窪みを起点に採掘をすると言う。
深く潜るほど金を保有したスライムが多く現れるらしく、熟練のパーティーはかなりの深部まで潜っているらしい。この暗く足場の悪く明かりの届かない迷宮を降りていくのもかなりの危険が伴うのことが察せられた。
「名前に似合わず、結構怖い迷宮だな」と美里はつい呟いてしまう。
美里が目の前に口を開けた迷宮を覗いている間、ヘルガ達は周辺の冒険者達から様々な情報を仕入れてくれる。
どうやらここ数年『うんち迷宮』ので金の採掘量が落ち込み、滑落事故や冒険者同士のトラブルで命を落とすケースが増え、結果的に探索する冒険者の数は激減してるという。
そんな話をしている間にもエーリカは迷宮内部に骸骨死霊を先行させていた。
当然不可視化しているのだが、次々とダンジョンへ降下して行く骸骨死霊を魔眼でとらえたヴィルヘルミーナは何やら苦い顔をする。
骸骨死霊の内部探索の報告を待つ間、クロア達が陣取りしている木陰に合流し簡単なミーティングを行う。
今回は、ロリガの大儲け作戦のため周辺調査を含め数日のキャンプを予定していた。
ほんの1時間ほどで先行部隊からの第一報がやってくる。1kt程まで潜った情報である。
『うんち迷宮』入口の最初の1段目を時計の文字盤で言う6時の位置とすれば10t、約20m毎に壁面の窪みがあるという。
壁の窪みの位置は正確に0時、3時、6時、9時の位置に設置されているようで窪みの深さは窪み毎に違うらしい。
「その窪みをトイレにすればトラブルは減るのでは?」と美里が疑問を口にするとヘルガが否定する。
どうやら話は逆で、窪みは探索者の休憩地点にもなるため、そこを便所にすると問題になってしまうらしいのだ。
具体的な理由を聞けば、階段で休憩するのは慣れていても危険らしく体を休めるなら体が安定できる深めの窪みが好ましく、荷物を置くにも重要な場所である。そんな場所を汚せば他のパーティーとトラブルにも発展するらしい。
特に『うんち迷宮』では滑落事故が多発している、底の見えない『うんち迷宮』ではパーティー同士でトラブルになったとしても証拠隠滅が完璧に整う、いざトラブルとなれば躊躇は無いのだろう。
「いったいどれだけの死体が地下に眠っているのでしょう?」
クロアの一言に、その場にいた全員が目を見開く。
「宝の宝庫?!」
ロリガが予定外の利益を口にする。
「そういえば、どれだけ深いんだろう?」
「いま探索させている骸骨死霊達に最深部迄の調査をさせております。どのみち『アレ』を支配下に入れることが出来れば全ては主様の物となるのです、この機会に全て調べておきましょう」
ヴィルヘルミーナが疑問を口にすればエーリカは楽しげに答える。
「普通に迷宮って言う事を考えると、一番下に降りてからが本番って事はないかな?」
「調査結果が楽しみですね」
ヘルガの疑問に皆が頷きオリガが優しく答える。
そもそもが何処迄の深さが在るのか誰も知らない迷宮なのである、最深部がどうなっているのかはまだ誰も知らないのだ。
もしかすると地下水脈につながってたりすれば、死体や遺品の回収は不可能に近い。途中から迷路になっているかもしれないし、魔法使いの事務所があったりお宝の部屋が待っているのかもしれない。そう考えると子供の頃みたゲームや漫画を思い出し美里はテンションを上げる。
キャンプを張り一息ついたところで美里はヴィルヘルミーナとヘルガ、エーリカとオリガ、そして実験の発案者ロリガを連れて『うんち迷宮』へと移動する。
クロア母娘と5号(仮)に6号(仮)、動物のフレンズは今回お留守番と決める。
美里は『うんち迷宮』まで来ると最初に降りるエーリカの跡を追って恐る恐る階段を降り始めたが、想像以上の不安定さを感じ、足がすくむ、周囲を骸骨死霊が固めバランスを崩しても支えてくれるとはいえ怖いものは怖い、ものすごく怖いのだ。
やっとの思いで最初の窪みへと到着するが、地上から約10t程になると明かりをつけなければ殆ど地上の光は入らず、LEDライトでは心もとなく感じ、人目も切れたと判断した美里が霊魂を召喚して周囲を照らす。
明かりが広がる窪みの中は横が0.5tにも満たない幅で奥行きは0.5t強と言ったところであるが美里が入って擦れ擦れの高さの天井で何のために凹んでいるのかが全く分からない。
しかし、ヴィルヘルミーナだけは魔眼の力により何か意味の有る場所に見えていると言う。
「これは多分先があるね、石と石の間からマナっぽい何かが流れてくるのが見えるよ」
窪みの前に立った彼女がほほ笑むと『うんち迷宮』の新発見に興奮しているようであった。
「開け方とかわかりそう?」
「解らないけど、一か所だけ石の表面に知らない文字か記号の様なのが光ってて何かありそうだよ。触ってみるかい?」
「トラップかもしれないからちょっと待って、どんな文字が書いてあるのかな?」
美里は自分たちには見えない光についてヴィルヘルミーナから詳細を確認するも、美里の知識にもそれらしい物は無く首をひねる。
「じゃあ窪みの正面から離れて、触る前に落ちないように骸骨死霊に周りを固めてもらおう」
美里の言葉にエーリカが地上にいた骸骨死霊を100体呼び寄せる。
不可視化しても骸骨死霊の恐ろし気な姿が見えてしまうヴィルヘルミーナは暗い迷宮で見る骸骨死霊達の群れに何とも言えない表情をする。
いくら大穴とは言え、自分達の周辺に100体のレイスが集まれば、空洞部分は仄かに光る骸骨の柱よろしく蠢いているのだ、間違いなく怖い。
安全を考慮して光が浮かぶ石をヴィルヘルミーナが指示し、骸骨死霊が押す事に決める。
心臓がばくばくとさせた美里の合図でヴィルヘルミーナは骸骨死霊に光った石の位置を伝える。彼女が窪みの正面から離れたのを確認した骸骨死霊がそっと石に触れる。
キーン
何か高音質の軽い金属音がした。
しかしそれ以外の変化は起こらず、骸骨死霊もどうしたものかとヴィルヘルミーナの顔を見る。
「今度は一つ上、左隣の石が光ったよ」
ヴィルヘルミーナの言葉に次も押してよいかの確認であろう、骸骨死霊が美里を見つめた。
「じゃあそっちも触ってみて」
美里の許可が出たため、骸骨死霊は光る石に触れる。
キーン
再び金属音が発せられる。光る石はヴィルヘルミーナ以外には見えないのだが金属音は皆の耳に届いている。
「今度は真下の石が光った」
キーン
「今度は...」
キーン
「次は...」
キーン
「........」
キーン
「」
キーン
そして7回目の光る石に触れた時、変化が起こった。
ゴロゴロゴロゴロ……
今まで窪みだった壁面に積まれた石が、まるで折り畳まれていくかの様に開き、通路が現れた。
「これは....お宝の匂いがする!」
「ふっ.....ふふふふふ」
ヘルガが冒険を前にした輝く少年の目をしている。そしてヴィルヘルミーナも笑いが止まらずかなり興奮しているのが解る。
そう彼女達2人は冒険者なのだ。
「旦那様!入ろう!」
ヴィルヘルミーナの目が欲望に輝いていた。
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やっと冒険らしい冒険が始まる…?




