第71話 異世界の秘境!うんちダンジョン④
第71話 異世界の秘境!うんちダンジョン④
071 2 012
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「ローストビーフと言うのは興味深いですね」
エーリカがその想像に顔をほころばせる。
「うわーん」
「ふむ、確かにエーリカの言う通りローストビーフと言う料理も興味深いですが、私はその前に仰られていたミートローフと言う料理にとても興味が惹かれます」
「うわーん」
「私は東坡肉と言う料理に興味が惹かれましたわ」
クロアも生前は食べることが出来なかったであろう美里が語り聞かせる思い出の『肉』料理を想像しクロエと食べたいと語る。
「うわーん」
「あのね。クロエはハンバーグってっ食べてみたいです!」
クロエは美里が『肉』料理の英知の到達点と語った料理に興奮する。
「うわーん」
「旦那様の言う料理は何でも美味しそうだねぇ」
ヴィルヘルミーナは美里の語る美里の故郷の料理を想像すると口の端が閉まらない様子である。
「うわーん」
「ロリガ、ちょっとうるさいぞ!」
美里は、盛り上がってきた料理話を邪魔する食材を一喝する。
「うわーん、あるじーたべないで~!ロリガいい子だからいい子にするからぁ~!」
当然具体的な料理名が並べられ、おっぱい肉として食べられてしまうのでは無いかと不安なロリガが泣き止むはずもない。
「いやお前は悪い子だぞ、許さないよ?」
だが強に限っては美里に涙は通じない。
「うわーん」
美里はロリガの悪戯な態度に対して、今回ばかりは本格的な教育的指導が必要だと考えた。ロリガを食肉にしてやると法螺を吹き様々な地球の美味しい料理をギルドメンバー達へ語って聞かせていたのだ。
もちろん美里もロリガを食肉加工して食べる気はないし、何なら自分で言っておきながら食人的な話にちょっと気持ち悪くなってはいた。
だが美里の意を理解したメンバー達がその話に全力で乗っかった事で話が盛り上がった結果である。
勿論、誰一人として食人等は頭の片隅にもない為、ものすごく盛り上がったのだが、エーリカが新しい料理を紹介する都度、ロリガに冷徹な視線をやる事でロリガがさらに怯えてしまったのは誰一人気づいてはいない。
たっぷりと脅かされたロリガは、美里の貫頭衣の腰部分を両手でちょこんと掴み、トボトボトボトボと引っ張られる様に追従する。
その姿はまるで大好きなお父さんに怒られた甘えん坊の様にも見えていた。そんな様子を後ろから見ていたヘルガも、泣いているロリガは可哀そうだと思いつつも心の奥で何か温かいものが沸き上がる。
「うわーん食べないでええええ!」
「ロリガ静かにしなさい。主様、どうやら関所にまもなく到着いたします」
エーリカから声がかかる。
とは言え街道の左右には高さ20mはある木々が立ち並び視界の多くを閉ざし日差しもさえぎられ視界が確保されていない。どうやら骸骨死霊たちからの知らせがあったのであろうか、美里の視界には関所らしき建物は肉眼で捉える事が出来ていない。
「問題はなさそう?」
「先行している骸骨死霊からは兵士が8人程いる様ですが特に警戒するような様子ではないとの報告でございます」
「ノワール達も一緒に通って大丈夫かな?」
「ふふふ、止めようとしたところで、そこらの兵士に止められるものでもありませんので問題ないでしょう」
エーリカは暢気な笑顔で返すが、裏を返せば止められたら押し通るってことかな?荒事は避けたいのだがと思う美里ではある。しかし前情報では関所のすぐ先は、そこそこ広い川が流れており、迂回して川の中を渡るよりは堂々と橋を渡ろうと言う話で決めていた。
暫く歩けば木々が開け、大きく切り開かれた場所に構造物らしき物が複数と見え始めた。そこに見えた建物は関所と言うより、『小さな家』である。
集落と言うには建物が離れすぎている、切り開かれた空間も地面がむき出しでただ切り開かれただけと言う様子。
耕作地でもなさそうであり、植林をしているような様子もなく、家がある以外は『凄く広い空き地』である。エーリカによれば『凄く広い空き地』の更に先へ行くと関所と思しき石造りの塔が立っていると言う。
『凄く広い空き地』に到着するとキョロキョロと見回す美里に気づき、北側の村に物資を運ぶ為の物資の集積地になってるんだとヴィルヘルミーナが説明してくれた。集積地とは言い得て妙で、本当に4軒の小屋があるだけでサッカーコートが1面は取れそうな広さの、誰もいない何もない空き地が開けていた。
おそらくは北側の村の開拓や噂の北方遠征の輸送拠点なのであろう。
広場を抜け、れば少し先に関所となる四角い石の塔が立っているのが見えはじめる。しかし広場同様に塔の周辺には人影が見当たらず、その事をエーリカに確認すれば、どうやら塔の中に隠れてしまったと言う。
美里も一瞬疑問に思ったのだが、その答えは至極単純に、ノワール達が原因であったようだ。
こんな巨大な生物が2頭も連れ立って歩けば、どう考えても怖い。漫画や小説であれば巨大箆鹿が突進してきても、正面から一太刀で倒してしまい、はい御仕舞なのだろうが、現実に角までの高さが6m、おそらく体重も2tはあろうかと言う生き物が正面から突っ込んでくれば、100kgにも満たない人間では、一太刀で倒したとしても、慣性を持って衝突され吹き飛ぶか潰されるのは確定である。
地球の地上では、こんなに大きい箆鹿は居なかった。そもそもこれほど巨大な陸上生物は存在はしないと思われるのだが、異世界とはかくも恐ろしい場所である。
当然この異世界でも人間は人間である、巨大生物2頭をたった8人の人間で無暗に制止しようと言う事はないのだ。逆の立場なら美里も間違いなく隠れる。そう考えると今朝すれ違った商隊も相当肝を冷やしたことであろう。
塔に近づくと建物の上の方に空いている小さな窓から兵士達がこちらを覗き見ているのが確認できた。
遠目からでも判るほどに警戒、いや怯えている様子に美里は心の中で深く謝罪するのだが、怪物や巨大生物がゴロゴロいるこの森で、そこまでの及び腰で兵士業がやっていけるのか少し不安にもなった。
一行が塔までたどり着いたが、やはり警戒してなのか兵士が出てくる様子はなく、1階にある大きく頑丈そうな木製の扉もしっかり戸締りされている様子で完全に出てこないつもりだとは理解できた。
しかし、この塔を見回しても受付のような物もなければ、門も仕切りもなく美里としては関所と言った印象が浮かばない。このまま通り過ぎていいのか躊躇していると塔の屋上から声がかかる。
「おぉぃ....お嬢ちゃん、そのデカイ箆鹿はお嬢ちゃんらの仲間なのか?」
高さで言えば8m程の高さの塔である、どうやらノワールの背中に乗っている5号(仮)を見つけて話しかけていたようである。見た目が可愛らしい少女の為か、かなり警戒のレベルが下がったようだ。
どうやら権能でエーリカが指示したのか5号(仮)が兵士と簡単な会話を重ねると、止められる事も問題もなく関所を通過する事が出来た。
「なんだか関所って感じではなかったね」
「今は向こう側に村や集落が幾つか出来てるから、特にやる事もないんだろうね」
ヴィルヘルミーナが言うには、以前は北側から現れる怪物や蛮族に対しての警戒に必要な塔だったと言うのだが、北側に生まれた村が大きくなり防衛の中心となった事で、今はほぼ塔の管理人的な仕事が基本になっていると言う。
また、傍にある広場はデルーカと北の村を行き来する旅人にとっては安全を確保できる野営地としての役目もあったらしい。
今朝すれ違った商隊もあの広場で野営したのであろうか?
「では橋を渡りましたら、主様達はノワール達にお乗りください」
エーリカの指示で、生身の人間である美里とヘルガがノワールへ、ヴィルヘルミーナがネーロの背中に乗り込む。
基本的に披露しない不死怪物は速足で移動しても疲労しない、今は美里に疲労の色が出たため、生身の人間は騎乗しての移動となった。
なぜ最初から乗らなかったかと言えば・・・
「高い!怖い!高い!高い!ゆっくり!ノワールゆっくり!」
6mの目線は小心者の美里にとってはかなり恐怖であったのだ。しかし暫く移動すると、慣れ始めたのか次第に美里も景色を楽しむ余裕が生まれ、この旅を楽しむ事が出来たようである。
ノワール達の歩みは思いのほか早く、美里の腕のスマートウォッチを見ると時刻にして18:00過ぎには目的の村が見える場所まで到着する事が出来た。
だいぶ北にある地域で夏場の為かまだまだ空は青かく、時間的に良い頃合いである。
「なんかこの村?村だよね?凄いね…」
遠めに見える城前に美里は『村』の様子に息をのんだ。
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更新がギリギリ間に合いました…数少ないブクマが増えてて嬉しい!
ひゃっほい!




