第7話 異世界商店街でお買い物
007-1-005 (編集版)
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城塞都市デルーカの一般的な服装と言うのは割とシンプルである。
ヘルガ先生に聞くところ、都市デルーカが属する神聖イース帝国では男女共に、いわゆるトーブに似た足首近くまで隠したロングワンピース風な貫頭衣が主流である。
そう、石油王が着ていそうなあれだ。
素材は麻製が基本で、胸元には0~5個程度のボタンがあり、基本的な型は男女の区別は無いらしく女性の多くは帯や縄状のベルトを着ける姿も見られる。
貴族階級や帝都の金持ちは綿製のうえ、襟や袖口や裾等に華美な刺繍をあしらっている。
当のヘルガも今日は年季の入っている、ボタン付きの麻製の貫頭衣であるが、昨晩の物と比べるとかなり綺麗な物に見える。
昨晩着ていたのはボタンが無いタイプのかなり見すぼらしい麻の貫頭衣で、着丈を調節する為なのか帯代わりに紐を使い乳房のすぐ下で結んでいた気がする。仕事の時は帯の下に織り込み足でも出すのだろうか、色々想像がはかどる。
足元を見ると殆どの人はサンダルを履いているのだが、一部貧民は素足も多い、ヘルガと言えばボロッボロのサンダルだと言う事に気づく。
返して美里の身に着けている者は派手なアロハに七分丈のデニム、めちゃくちゃに目立つ。足元はkeenのサンダルであるのがギリギリセーフであそうか。いずれにしてもこの街で見た誰よりも上質かつ派手な格好である。
食事中に市場を見渡した印象では、着ている服の色は生成(色を抜かず素材の色のまま)が主流で、ほぼ皆がこの色で、稀に純白を見かけた位である。
別に襟元やボタン周辺に刺繍を入れている人物を見かけたが、ヘルガに聞いたところ、麻製の貫頭衣でも刺繡入りは結構値が張るらしく綿ともなれば桁が2つ違うらしい。
染色した服を着ている人間が少ない理由を知っているか聞いた所、寒い時期や夜間の冷え込む時に着る上着には様々な刺繍を施した艶やかな物や染色した毛糸の編み物もあるらしいがかなり値段が張るらしく平民が着る物も大銀貨数枚するらしく悪所で着ている人間は少ない様だ。
そもそも染色された生地はこの国で高価らしく、貴族や商人は鮮やかな色の貫頭衣も着る事はあるようだが、平民には手が届かないと言う。
つまり美里が来ていアロハシャツの様に派手な絵柄の染色物は見たことが無くヘルガには相当な高級品に見えていると言うので、故郷では平民でも着ている一般的な物だと説明するがヘルガは目を丸くしていた。
アロハシャツの話が出た為か服屋へ向かう中、ヘルガから色々と質問漬けにあった。
「どうしてこの街に来たのか」
「どんな魔法が使えるのか」
「どんな場所で生まれたのか」
「この街にはいつまでいられるのか」
等々々々・・・・・・・
色々な質問があったがほぼ答えは
何もわからないが正解だ。
「とりあえず決めていない」もしくは「口では説明しにくい」と言葉をはぐらかし、この街に滞在する予定である事とを伝える。
「暫くって、やっぱり迷宮に潜るのかい?」
ヘルガが目を輝かせて質問してきた。
迷宮?迷宮?え?ナニソレコワイ。
確か昨晩の話に迷宮の話も出てきた、それに迷宮に興味が無い訳ではない。ヘルガの友達を食べちゃうようなモンスターがウロウロしているおっかない所なんぞ正直御免こうむりたい。
しかし、死霊秘法や魔法については色々確認しなければいけないだろうし、実験や研究のために迷宮に入る必要性があるかもしれない。
「まだ決めてはいなけど、入る時には案内を頼めるかい?」
と聞けば満面の笑みを作り間髪入れず了承される。
そういえば彼女は冒険者をとしてこの街に来たのだ、もしかすると俺が手練れの魔術師と思い込んでパーティーを組もうとか考えているのだろうか?これはやばい。俺はゴキブリ以上に大きい生き物は殺したことが無いのにダンジョンとか怖すぎる。
これは早めにネクロノミコンを使いこなせるようにしないと、異世界人生も高速で終わってしまう。
そんな話をしているうちに、広場から少し離れたアーケード商店街のような建物に到着した。
トルコのバザールみたいと言えばわかり易いだろうか、建物の中心が通路になっていて左右に店舗が設けられている。
アーケードの入り口はこじんまりとしていたが頑丈そうな木製の門戸があり、恐らく夜間等は厳重に閉鎖されるのであろう。中に入ると意外に広く、高さは10m程道で幅は5~6m位であろうか。
壁は石積みのシンプルなものだが、面白いのは隣の店舗と店舗の間に看板代わりなのか店舗名らしき文字が書かれた細長い統一した色と形の旗が垂れ下がっている。
店舗の敷居から旗の幅程度までは、商品陳列が許されている様だったが、どの店も非常にセンス良く陳列され、まるで陳列方法すらも美しさを競っているようにも思えた。
アーケード入り口付近には壁飾りのような物を売る店が向かい合っている、続いて雑貨、その奥が衣類である。
更に先にはカフェの様な店が並び、更に奥を見ると皮革製品、絨毯、貴金属と奥に行くほど高価な店舗が並ぶ。
先程の市場と同じでこのアーケードも非常に清潔で治安がよさそう、と言うより軽装だが統一感のある武器防具を装備した警備員と思われる男達が2人1組で周回している。
ヘルガに聞くと、都市軍兵らしく高級店が多いため見回りに来ているらしい。重点警備指定地域とかなのだろか?
衣料品の店は古着店、規格品の新品店、オーダーメイドの店があり、値段を見るとそれぞれ価格の桁が変わる。
都市は貨幣経済が根付いているのか値札を普通につけている。価格が解り易くて小心者の日本人にはありがたい。ヘルガに聞いても値段交渉は基本したりはしないそうだ。
衣類の店舗では、基本的に客が直接手に取って選ぶのではなく陳列した製品を選び店員に指示して出してもらい初めて触れて確認できる形式だ。日本だと高級ブランド店でしか聞いたことがない。
古着店を少し見た後に、新品の店を見て回る。値段差のわりには品質の差が少なく見えた為、結局は古着店に戻り、生成で非常にシンプルな3つボタンの貫頭衣を2着を銀貨9枚で購入した。
「あと1着、いいのを頼む」
ふとみればヘルガが寂しそうに服を見ていた為、美里は店主に目配せをすると、店主も察し、お勧めとに5つボタンの白い貫頭衣を見せて来た。
丸襟で袖口と襟元ボタン周りには、近くで見ると細かく丁寧な刺繍が施されている一品だった。
「え?まさか?え?」
ヘルガが混乱している間に値段を聞き支払い購入する。
まさか1着で大銀貨2枚と銀貨5枚とは思わなかったが、嬉しそうなヘルガの顔を見て満足する。
くそ!あの店員、マジでいいのを持ってきよった。
何度も何度も感謝をするヘルガに
「女連れで服を買いに来て、男だけが買うって恥ずかしい真似は俺の生まれた国にはない」と照れつつ強がる。
美里の中で彼女への好意が芽生えているのは本心だが、この世界の知識を教えてもらえる唯一の人間だ。そう考えれば安いものである。
たぶん。
購入した服は日本から持ち込んだ買い物用の大き目なトートバックに押し込み、さらにはヘルガにサンダルを購入。それもヘルガには高級品だったのだろうか目が巨どっていたが有無を言わさずに押し付ける。
通路の先へ進むと衣服売り場の先に荷はカフェスペースがあり、そこから香ばしいミルクティーの様な香りと甘い焼き菓子の様な香りが漂ってくる。
美里のお腹はまだ持たれ気味ではあるが、少し歩き疲れていた事もあり休憩を取る事に決める。
ドリンクメニューを見ると1杯大銅貨5枚のミクル茶という香辛料入りのホットミルクティだけの為、それを2杯注文。同じく大銅貨5枚の小さな団子型のドーナツの様な菓子を2つ頼み、銀貨2枚を支払うと空いていた席へ座る。
一息ついてヘルガに話しかけようとすると、何故か座らずに先程以上にキョドっている
「ヘルガ、どうした?」
「えっと、その...このカフェって凄い高いしアタシみたいな貧乏人が座って怒られるんじゃないかと思うんだよ......」
聞いて見ればこのアーケードは富裕層向けな店らしく、当然このカフェもみすぼらしい格好の自分がここに座っていいのか怖かったのだという。
その気持ちは何だか判る、なにせ生前・・・むしろ時間間隔的には昨日になるのふだが美里も同じ経験したばかりなのだ。そして日本のお洒落カフェを経験している美里にはさほどの脅威ではない。
どうやらヘルガは美里が新品の服を求めた為、高級な店が並ぶアーケードに連れて来てくれたようだ。
結局古着を購入したのだが彼女には敷居がかなり高い場所に勇気を振り絞り案内してくれたのだろう。
「俺といるんだ、堂々としておけ」
と古着しか買わなかった癖にカッコつけておく。赤い顔をしてモジモジし始めたヘルガたんマジ可愛い。
しかし美里は後日、広場の店でミクル茶が銅貨5枚、パイのような大きめの焼菓子が大銅貨1枚であるのを見た時に愕然とすることになる。
よくよく考えてみれば、ヘルガの収入は一発で銀貨2~5枚、客は取れても多くて1日3人としても客がつかない日もある。路上娼婦は天気が悪ければ仕事にならないし、月に数日の体調不良が来れば仕事は自動的に休みだ。そんな状況であれば月の収入は金貨1枚にも届かないのかもしれない。
それどころか、雨期などの季節事情が入れば収入が無い月と言うのも起こりえる、真冬だと外で春を売るというのは客から見ても拷問の気がする。となれば貯蓄は必須だ、ヘルガは普段から節制した生活を強いられているのは容易に想像できる。
たまの贅沢で腸詰巻きと言う訳にもいかなかっただろう。この世界は、この都市は徒歩圏内で港区と足立区が混在したかのように貧富の格差は激しいようだ。
昨晩抱いたヘルガの体は筋肉質で腹筋ゴリゴリの陸上競技系アスリート的な印象だったが、アバラがだいぶ浮いていた、缶詰をあんなに美味そうに食べていたのもそういう事かもしれない。
無知とは恐ろしく、そして恥ずかしい、昨晩に限れば粗相をしてしまったヘルガは人生で一番恥ずかしい夜ではあったとも思うのだが...。
そして美里もようやく気付いた、本当に恐ろしいのは手持ちの現金が無くなり美里自身が無一文になる事である。そこに気づいた美里は一刻も早く金を稼ぐ手段を見つけないといけないのだと。
となれば異世界物の基本だ、先ずは冒険者ギルドに登録して、クエストを受けるというのが王道である。
ではどうすればいいか?
こんな時の為のヘルえもんである。
「えっとヘルガ、迷宮に入ろうかとか少し考えているだけど、この街の冒険者ギルドってどこにあるのかな?」
「冒険者ギルドかい?ダンジョンも在るからね、いっぱいあるよ?この町は大森林にも金になる素材やモンスターも多いし?」
何か違和感がある答えが返ってきた。
「いっぱいあるの?」
「デルーカって言えば冒険者の集まる一番大きな都市だからね。でもカオルは私と入ってくれるんだろ?他にも人を集めるの?」
よくわからない。
「最初は危険のない所で2人っきりがいいかな」
「2人っきり...」
ヘルガは少し頬を赤らめる、本当に顔によく出る子であるが油断してはいけない。彼女は売春婦である、演技の可能性も否めない。
話を詳しく聞けば、どうやら冒険者ギルドと言う全国にチェーン展開していていて冒険者全体を管理し、新人教育を行い、持ちこんだ素材を何でも全部買い取ってくれて、受付になぜかかわいい女の子が多数いる様なコンビニライクな冒険者ギルドと言う組織は存在していないらしい。
この世界で言う冒険者ギルドは、基本的に仲間同士で狩りをするチームの様な物らしい。もしくは戦闘を専門職にして戦争に参加したり旅の商人を護衛するする傭兵団と言うのもあるらしい。
考えてみれば電話や通信機がないこの世界で、そんなコンビニ組織の設立なんか普通に考えて容易な話ではない。
現実世界でも、広域ネットワークを組織出来ていたのは国家を除けばキリスト教の教会が最初だったと記憶している。
それも金銭や個人間の信用ではなく信仰という狂気の理由で組織の安定が担保されていたのだ。
まず多神教のこの世界では難しいだろうし。安全且つ確実な通信手段が存在しなければ困難に過ぎる。
魔法でどうにか出来るのだろうかとも考えるが、現実に出来ていない以上はかなり難しいのであろう。
コンビニ組織が無いと言う事は、自分で冒険者としての経験を積んでいかなければならない・・・
あれ?ヘルガってもしかして超重要人物なのでは?
拙作「のんねく」をお読みいただきありがとうございます。
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