第67話 異世界人叫ぶ
第67話 異世界人叫ぶ
067 2 008
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父であるテオドージオはティツィアナの様子に絶望する。目覚めたティツィアナは錯乱しのた打ち回る、その姿は見るに堪えない光景であった。
そんなティツィアナを姉ティオドゥラが強く抱きしめ、大丈夫と繰り返し優しく声を掛けつづけるが、息を荒くし振るえ枯れた声で呻くばかりである。
「落ち着いたか?無理はしなくていい」
暫く無言で重苦しい時間が流れ、次第にティツィアナが落ち着きを見せるとティオドゥラが優しく声を掛けティツィアナの頭を優しく撫でる。
「お...お姉様にお話ししたい事があります.....」
「聞こう」
ティツィアナは今だ震えが止まらない様子ではあったが、ある程度の冷静さを取り戻したことに安堵しティオドゥラは優しく答えた。
「あの...」
ティツィアナは父テオドージオの様子をちらりと見た事に、彼が同席している事が望ましくないのだと察し、ティオドゥラが退席を促すと不承不承ながらもテオドージオはティオドゥラに後を任せて退席する。
テオドージオの退出後、しばらく沈黙が流れたが、ティオドゥラは焦らずただ妹の言葉を静かに待っていた。
「骸骨王は...」
やがて意を決したティツィアナは自分の体を優しくも力強く抱きしめた姉に振るえる声で語り始める。
「骸骨王........彼の者の力は異常です、あの様な存在は見た事も聞いた事も御座いません.....まるで物語や神話に登場する神をも脅かす存在。その.........お姉様にも手に余る相手だと存じます。加えて12000体を超える不死怪物の軍勢です、この都市の戦力では返り討ちに会うのは必定.......」
「だが、迷宮を封鎖されているのだ。倒さねばこの都市が緩やかに滅ぶ事になる」
「滅びません、骸骨王は争いを好んではおりません、無駄に骸骨王を刺激すれば、それこそ今直にでも都市は滅びます」
「だが相手は怪物だ、滅ぼさなければならないんだ、それにあの卑しき怪物はお前をこのような目に合わせたのだぞ!許せる訳がな―――――――――」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ティツィアナがティオドゥラの言葉を遮るように突然叫び出し、ティオドゥラは突然の叫びにティツィアナが恐怖で発作を起したかと考えティツィアナの体を強く抱きしめる。
「大丈夫だティツィアナ、もう怖い事は無い。姉が此処にいる、もう怖い事は無い、たとえ卑しい不死怪物の軍勢がこの城へやって来たとしても必ず私が......」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「大丈夫だ!ティツィアナ!この私がいる限り蟻の子一匹この部屋には入らせない!骸骨王如きはこの姉がこの世から―――――――――」
「お姉様あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!これ以上喋らないでえええええええええええええええ!!!!!!!!」
「何故!?」
ティツィアナの混乱ぶりに困惑しつつも妹を少しでも落ち着かせようとティオドゥラが再び荒れ狂う妹を強く抱きしめた。
だが当のティツィアナはソレどころではなかった、それは姉ティオドゥラの発言を止める事に文字通り必死だったのだ。
骸骨王やら不死怪物やらを侮辱する発言、いまのティツィアナには看過できる事では無かった、何故なら・・・・
部屋の天井には溢れかえる骸骨死霊が犇めき、姿を隠蔽して彼女らを睥睨しているのだから。
しかもティツィアナの他に人が居ない時には、あの恐ろしいマイムマイムを踊り続けると言う地獄、それこそが彼女が正気でいられない本当の理由である。
これはもう蟻の子一匹どころか、すでに制圧されているも同然なのだ。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!!知らなかったとは言えお姉様の暴言を、骸骨死霊達に聞かれた!怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い!
ティツィアナにとっては生きた心地がしない。
とは言えティツィアナの思いとは裏腹に良くも悪くも骸骨王は、無駄な殺生を好まない、むしろ感覚的な話で言えば美里のソレの影響が強く、わりと話し合いが通じる。
むしろ、この世界で生まれたと言えど美里に召喚されたばかりの為か、まだまだ深く物事を考えるような感覚が育まれておらず、過酷な時代であるこの世界の者から見ると想像もつかない程に『単純』のだが彼女達にはそんな想像は及ぶはずがない。
「お姉様!カオル様、冒険者カオル様のお知恵をお借りしましょう!彼ならきっと優れた知恵をお持ちの筈です!」
「カオル?強力な魔術師であるのは知っていたがティツィアナもあの男を知っているのか?」
「え?あ、えっと、噂で?」
「まさか、ティツィアナもカオルの事を調べて......そうか、ティツィアーノですら存在に気が付いていたのだ、お前が何も気づかぬ訳もないな....」
「え、あ、はい。かの者の偉大な魔力を感じられたのはお姉様だけではありません。わ、私を見くびらないでくださいませ」
「ふむ....」
◆
「ティツィアナの様子はどうだ?」
「大分落ち着いた様子です、もう大きな心配は必要ないかもしれません、流石は私の妹です」
「私の娘だ」
「貴方の子供と言うのならばティツィアーノが居るでしょう」
「あれはお前の弟だ」
ティツィアナの部屋の前で待っていたテオドージオはティオドゥラが部屋を出るのを小一時間待っていた。
「それを言うならもう少しテオドージオの教育に注意を払ってほしかったものです」
「子育てと言うのは口で言うほど簡単な物ではないのだよ、お前も子供が生まれれば判る」
「ふむ、ではそのご意見は子供を産んでから改めて問答をしましょう」
「ん?当てがあるのか?」
「え?あっ...どうでしょう.......アプローチは頂いています」
「え?」
テオドージオは春の訪れの気配を見せた事が無い娘の意外な回答にここ数日の事件の数々を一瞬忘れてしまうほどの衝撃を受けていた。




