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第61話 異世界で迷宮の封鎖をしよう②

第61話 異世界で迷宮の封鎖をしよう②

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(フィアー)恐怖(オブ)付与(デス)

モノポリーから発せられた魔法は精神干渉系の魔法の中でも恐怖を与える魔法の最上位魔法であり、精神的に弱い者が受ければ死に至る恐ろしい魔法であった。


「うあああああああああああああああああ!!」


「ぐあああああああああああああああああ!!」


「ひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」



魔法の効果範囲で昏倒していた兵士達数名も喉が潰れんばかりの悲鳴をあげていた。

(フィアー)恐怖(オブ)付与(デス)の影響を受け、悪夢を見せられていた。


しかし本来の魔法の発動指定対象であるティツィアナは周囲を把握できる精神的余裕は残されていない。


対魔法装具と、自らの持つ強力な魔法抵抗力で抗うも、彼女もまたその凶悪な精神干渉魔法の影響に辛うじて抗っていた状態であった。

それは正に僅か首の皮一枚レベルの話であり、言い換えればティツィアナの脳内は恐怖と正気が激しい渦となり闘っていた。


「うわぁああぁぁあああぁぁぁぁああぁぁ!!」


「愉快、愉快」


「たす.....てあああぁうあああ!!!」


「それも一丁だ、(フィアー)恐怖(オブ)付与(デス)

骸骨王(モノポリー)は愉快そうにもう一度ティツィアナへと精神干渉魔法を放つ。


「はあああがうあうあああうあうああああ!」


「愉快、愉快」

頭を掻きむしり、涙を流し、泡の様に飛び散る唾液、其処には上級貴族の子女として、そして凛とした美しいエルフだった姿は消え失せ、正気を失わぬように必死に抗う哀れな娘の姿である。


「愉悦であるなぁ小娘」

「ゆるして....おね.....あああああ...ぐあああぁあぁ!」


「ふうむ、何であったか主様の楽し気な踊りがあったのう。娘よ、お前は幸運であるな」

「たすげで....うぐう.....うがううああうあ.......」


「たんたんたらら....たんたんたらら♪たんたんたらら♬たったった♪」

「うぐぐ.....あぅああああぁ....」


のた打ち回り鎧から守られない素肌部分には多くの擦り傷が増え血が滲み出し、掻きむしられた毛髪は地面に散乱していた。


ティツィアナは精神力の強さと膨大な魔素(マナ)量により正気を手放さずにいた事が此処に至ると不幸にも見えた。


美しかった頭髪は悲惨な程に乱れ、絹の様な肌は血と嘔吐にまみれ物乞いよりも酷く汚れていた。



「さあ、眷属たちよ主様の為に歌い舞え!」

骸骨王(モノポリー)の号令に、骸骨(スケルタル)死霊(レイス)は宙に円陣を作り歌い舞う、骸骨(スケルトン)も地に円陣を作ると歯を鳴らし音階を作り踊り始める。


「ひいいいいあいあああいあやああああああ!」

ティツィアナはこの場の人間として唯一意識を保ちその恐怖の光景を目の当たりにした。


Ushavtem mayim b'sason♪


mimainei hayeshua♪


Mayim♪ Mayim♪ Mayim ♪Mayim ♪


Hey, mayim b'sason♪


Mayim♪ Mayim♪ Mayim♪ Mayim♪


Hey, mayim b'sason♪


Hey♪ hey♪hey♪hey♪


Mayim♪ Mayim♪ Mayim♪ Mayim♪


Hey, mayim b'sason♪


Hey♪ hey♪hey♪hey♪


日本人が聞けば青春の甘酸っぱい1ページを思い出させる『マイムマイム』である。

砂漠に住む民が約束の地へたどり着き、砂の大地で井戸を掘り水を得た喜びの歌も、死の恐怖に襲われ、骸骨王(モノポリー)の前でのた打ち回り、骸骨(スケルトン)骸骨(スケルタル)死霊(レイス)に囲まれ、許しを請うティツィアナには呪いの儀式にしか見えてはいない。





やがて彼女の中で恐怖の臨界を迎えた。





地上では死者の行進後、都市軍兵や冒険者が消えた広場でもその異様な光景が始まった。


突然広場の空をさ迷っていた骸骨(スケルタル)死霊(レイス)達が中央、迷宮(ダンジョン)の門を備えた小さな建物を囲むように円陣を組みまわりだすと、広場を埋め尽くす数千の骸骨(スケルトン)達も、門を中心に大きな円陣を幾重にもつくり周り踊りだす。


やがて何処からともなく聲が響きだし、広場の周辺を警戒する都市軍兵や冒険者達の耳に届きだす。


不気味な声は歌となり拡声魔法により広場周辺へと響き渡る。


音楽は無く歌と骨が鳴り響く。


その声は全てが女性(ヘルガ)(こえ)と同じである。


拡声魔法と数百の骸骨(スケルタル)死霊(レイス)(こえ)は不気味にも荘厳で、聞くものに畏怖の念を与えた。



Ushavtem mayim b'sason♪


mimainei hayeshua♪


Mayim♪ Mayim♪ Mayim ♪Mayim ♪


Hey, mayim b'sason♪―――――



そして、その舞は後世に『死者達の宴』として地の底の神、死の世界の神、迷宮(ダンジョン)の神、様々な神が起こした事として吟遊詩人により、数百年の間語り継がれる光景となり、一部では神話の一説、一部では子供への寝物語、そして一部では愚か者として歴史に名を遺した男の笑い話として綴られる。




その『死者達の宴』は翌朝、その愚か者と愚か者を護る城の高級衛士達が迷宮(ダンジョン)広場に現れた時にゆっくりと終わりを告げる。


愚者(ティツィアーノ)が広場の入り口前へと到着すると、全てのアンデット達がその姿を睥睨する。

その光景を見た者は異様な光景に恐怖し、今後の流れを待つ彼らに強い緊張を与える。



高級衛士の1人が緊張の面持ちで広場入口に一歩踏み出すと、一斉に広場に居る数千の骸骨(スケルタル)死霊(レイス)達が地面を踏み鳴らす。


その様子に高級衛士が恐怖し歩みを止める。


雑然と踏み鳴らされていた歩調が暫くすると、一定の歩調に変わり2踏すると1拍のテンポに変わっていく。

その最中に晒される高級衛士の様子はまるで闘技場(コロシアム)に放り出された生贄の奴隷のようにも見えた。



高級衛士が引きつり大量の冷や汗を流し振り返ると、自らの主となる愚者、ティツィアーノの表情を確認した。


無情にもティツィアーノは顎で更に前柄歩み出すように指示をする。


高級衛士は唾をひと飲みすると、恐怖に抗い歩み出そうと勇気を振り絞ったその時であった。


迷宮(ダンジョン)の門が開き、其処に骸骨王(モノポリー)が現れ、広場の骸骨(スケルトン)達は一斉に膝をつき、骸骨(スケルタル)死霊(レイス)達は骸骨王(モノポリー)の周囲を遠巻きに囲む。


骸骨王(モノポリー)が門から歩み出ると、骸骨王(モノポリー)の後ろには、4列縦隊の骸骨(スケルトン)が続き、その一部は何かを高く抱え骸骨王(モノポリー)の後ろに続く。


近付くにつれ高く抱えられていた『モノ』は人間だと言う事が解る。


1体の人間につき6体の骸骨(スケルトン)が高く掲げる。


やがて骸骨王(モノポリー)は代表として歩み出ていた高級衛士の手前10m程の場所で立ち止まると、続く骸骨(スケルトン)達が骸骨王(モノポリー)の横を抜け、更には高級衛士の横をも抜け、広場入口へ丁寧に『モノ』を並べていく。



―――――その数43体



骸骨(スケルトン)達は人間を置くと順次モノポリーの後ろへ3列横列を作り膝をつく。


数千のアンデットが控えるその光景は正に恐怖の象徴であり、骸骨王(モノポリー)をこの迷宮(ダンジョン)の主と錯覚させるに十分な効果があった。



「この地でも最も愚かなる物、ティツィアーノは来ておるであろうか?」

骸骨王(モノポリー)の声は拡声魔法により広場周辺の地域にまで轟く。


ティツィアーノと率いていた高級衛士隊はその言葉に表情を強張らせる。


「ティツィアナ様!?」

ティツィアーノを護る高級衛士の1人が横たわる人間の中に、ティツィアナを見止め言葉に発する。

ティツィアーノもその言葉により横たわる人間の中に姉のティツィアナの姿を見つけると――――――――




――――恐怖に襲われた。




彼女の美しかった姿はそこには無く掻きむしられた頭髪、のた打ち回り鎧を付けていなかった場所につけた傷と体中に塗り込まれた嘔吐物や液体、そして身ぐるみを剥がされて肌着のみ、裸同然の姿は乞食よりも哀れ。



「貴様がティツィアーノか?」

骸骨王(モノポリー)の言葉に、一斉に全てのアンデット達が自分を射殺す様な視線を向けた事を感じた。



ティツィアーノは恐怖した、唯々恐怖に支配された、それは精神魔法によるものではない、ただ弱い心が崩壊したのだ。



「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

ティツィアーノは咄嗟に背を向けると一目散に逃げ出した。

その光景に恐怖が伝播し、彼を護る高級衛士も全力で走りだす、代表として前に出ていた高級衛士も置いてかれまいと走り出す。

何事か理解出来なかった周辺の都市軍兵や冒険者や市民にも恐怖が乗り移る、集団非ステリーである。


叫びと悲鳴が周囲を巻き込み、広場入口からその周辺、そして広場周辺へとそのパニックが広がる。


拡声魔法にて耳にしていた言葉、深夜に轟くマイムマイムの歌声、睡眠不足と不安を抱えた市民に迄広がったパニックはやがて迷宮(ダンジョン)地区全体を恐慌状態に陥れる。



骸骨王(モノポリー)は予想だにしていなかった事態に呆然と立ち尽くしていた。










「なんぞこれ?」

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