第60話 異世界で迷宮の封鎖をしよう①
第60話 異世界迷宮の封鎖をしよう①
060 2 001
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「にげろおおおおおおおおおおおおお!」
「幽霊だ、いやアレは幽霊の上位種だ!上位種の死霊だ!」
モノポリーは迷宮内で待機していた骸骨死霊の大半を可視化させ、迷宮内中層の中央通路から一斉に上層の入口へ向け移動をさせた。
突然の事でもあり、迷宮の中層と上層の要所要所を固めていた多くの都市軍兵が霊体系怪物への対策が出来ず、戦う事もままならずに敗走の選択を余儀なくされていた。
しかし、心優しき召喚主、美里薫の心を汲み、モノポリーを始めとした骸骨死霊達は迷宮内の兵士達を脅かし、追い立て、抗う物が居ても軽い痛みと恐怖を与えるのみで殺さずに迷宮から追い出す事へ注力してた。
そして上層の中央道、つまりは迷宮の出口に繋がる道には魔法で生み出した霊魂で道を照らし、その場に居た迷宮産の怪物も不可視化した骸骨死霊達が余す事無く排除し、安全に逃げ出せるように計らう親切ぶりである。
中には魔術師も居たが、攻撃しようにも呪文詠唱を始めると不可視化した骸骨死霊により魔力吸収を行い、生きるに必要以上のな魔力を奪い取り、戦う事が出来ない様に調整される。
主に普請と護衛の為に配備されている都市軍兵達にはこの強力な霊体怪物に対して成す術がなくただひたすら迷宮の入口へ向かう他無かった。
這う這うの体で迷宮の入場門から飛び出してきた兵士達の混乱が広場にいた他の都市軍兵や冒険者達へ伝播するのに時間はかからなかった。
それは数日前に発生した怪物の氾濫の再現を容易に想像させたからである。
騒ぎが伝播しつくす頃、広場の上空を見上げると、突如数百の骸骨死霊が一斉に可視化する。
恐怖を讃える悲鳴で広場が埋め尽くされていた。
そして入場門の上空高くよりモノポリーが複数の骸骨死霊に支えられ、迷宮広場入場門の前にに降り立ち、恐怖付与の魔法を発動させる。
『古戦場で死体漁りする骸骨の王』
その姿は、その場にいた都市軍兵士や冒険者達にとって初めて見る超常の怪物、決して人が超える事の出来ない超越した存在である事を直観する。
「死神....」
「まさか.....迷宮主か!?」
「尋常ではない化物」
「俺は死ぬのか?」
等々と震える声で口々に呟かれる。
「愚かなる人間共!迷宮の道に矮小な砦を立てるのは見過ごしてやろうと思うたが、よもやよもや塞ごうと考えるとはあまりに愚か!無知蒙昧なる人間共よ!我は此処に宣言する!愚かなる地上の人間共の迷宮への立ち入りを禁じよう!」
『古戦場で死体漁りする骸骨の王』の力を得たモノポリーの宣言は広場のみならず、拡声魔法により周辺地域の隅々までも伝わるように拡散される。
超常の恐怖に足を竦ませ動くことが出来ないでいた都市軍兵や冒険者達はその言葉を呆然と聞いていたのだが、広場の外から響き渡る悲鳴に更なる混乱をきたす。
硬直する体に僅かな勇気を振り絞り広場の入り口を見る。
其処には大量の骸骨、その数は1000を軽く超える骸骨の大軍勢がゆっくりと広場に雪崩こみ、訓練されているかの様にサッカーコート2面は有る広場の壁の内周をに整列し取り囲んでいった。
そもそも恐怖で動けなくなっている兵士や冒険者達は二重三重に積み重なる恐怖の光景に死を覚悟する。
やがて広場を取り囲んだ骸骨の数は壁の内周に数重の列となり、デルーカ中の都市軍と冒険者の全てを集めてもソレを上回る程の大群となっていた。
モノポリーの権能である死者達ノ不思議国を都市各地に点在した墓地や地下墓地で発動させ、あらゆる死体骸骨化し使役化してやってきたのだ。
使役された骸骨の軍勢の個々の能力は非常に弱く、美里の持つ死霊秘法とは違い最低位の能力しか与えることが出来ない。
熟練の魔術師であれば10体や20体などモノの数にならない脆弱な怪物である。
しかし現実的に目の前にいる数千の骸骨の持つ数の暴力は決して個体の強さがどうのと言える状況ではない。
「此度のみ許そう、人間共よ。この広場より立ち去れ!」
モノポリーの声が再び響き渡る。
「待ってくれ!骸骨王!」
都市軍兵の1人である、モノポリーの王冠を見て骸骨王と呼んだのであろう。
彼も恐怖付与により、いやソレが無くても恐怖に支配されたであろう状況に勇気を振り絞る。
「何事か、発言を許す?」
「私の大事な主が中に居る、彼女を返してくれないだろうか?!」
「何故?」
モノポリーの冷ややかな答えに恐怖する。
「愚かなる人間よ、我は告げたぞ。道を塞ごうとする愚者の命を許す理由は無い」
「違います!中におられる方...ティツィアナ様は塞ぐ事はいたしておりません!」
「ほう?問おう、どういう意味であるか?」
「はい、ティツィアナ様は大坂路上に簡単な壁を作るだけの予定だったのです」
「続けよ」
「それを邪魔し、領主様の命にも逆らい迷宮の通路を塞ごうとしたのは弟のティツィアーノ様です、別の者なのです!ティツィアナ様に罪は有りません。」
叫ぶ兵には一つの疑問があった、彼は中層の安全地帯を監視していた部隊の隊長である。
突然現れた強力な怪物の骸骨死霊に襲われ追い立てられつつも殺された兵士がいなかった事を殿であった彼は確認していた。
追い立てられ、痛みを与えられたが1人の死者も重症者も見る限り見当たらないのだ。
骸骨王には、少なくとも今は人を積極的に殺すつもりがないのではないかと。
「そのティツィアーノなる者は何処にいる?」
モノポリーは今現在、ティツィアーノがラヘイネンペラヘにいる事は知っていたがあえて知らぬ素振りをする。
骸骨死霊の伝令にて美里の動向は細目に知らされているがあえて衆目の中この場の兵士に問いかけていた。
「此処にはおりません」
「では不敬なるティツィアーノをここへ呼び出せ、我が裁こう。早くしなければ中に残る人間共は余すことなく我が眷属となるやもしれんぞ?」
「それは....」
兵士隊長の一存で上級貴族を連れて来る等と約束が出来る筈もない、彼は口を濁すしかできず立ち竦む。
「愚かなり、神に背きし者『ティツィアーノ』を此処へと引き立てよ!」
モノポリーは都市中に響き渡る大音量で叫ぶ。
「今より広場に残った人間全て我が眷属の贄としよう」
続いて広場内にのみ轟く声で冷たく告げる。
一斉に広場を囲む骸骨達が2度足踏み、1拍手のテンポを綺麗に揃え幾度も繰り返す。
広場中を激しく煽り立て始めると、モノポリーが再び恐怖付与の魔法を唱えると広場は臨界を超える恐怖に襲われた人々の阿鼻叫喚に包まれる。
「「「ひいいいいいいいい」」」」
一斉に音出しを止めた骸骨が広場の奥側の個体からゆっくりと歩み出す。
その様子に冒険者や商人のみならず都市軍兵も統制を外れ我先にと広場の入口へ殺到しこの場から散り散りとなり逃げ出してゆく。
ものの1分程で迷宮広場にいた生者は姿を消し広場に残ったのはデスマーチ軍団のアンデットと一人の勇敢なティツィアナの忠臣のみであった。
「去らぬのか?矮小なる者よ」
「我が主を此処にて待つ!」
「.....許そう、帰ってくるかはわからぬがな」
モノポリーはしばらく思案すると言葉を残し迷宮の中へとゆっくりと歩み出す。
1人その場に残された兵士は最大の恐怖が目の前から消えると脱力し其の場にへたり込んでしまう。
既に彼にとっては周囲を囲む骸骨や骸骨死霊への恐怖は感じていなかった。
モノポリーは骸骨死霊へ、モノポリーの眷属となった骸骨を使い門前に放置されていた建築資材で広場入り口へ運ばせ入り口を封鎖させるように命じ、自らは迷宮内に集めいていた冒険者達の死体を次々に眷属化していく。
◆
「円形陣!防御に徹しろ!援軍が来るまで耐えるのだ!」
中層最奥、下層へと繋がる大坂路の上で行政管理区の建設指揮を執っていた大貴族にして都市長の次女であるティツィアナは部下達を必至に鼓舞していた。
作業中に飛び込んできた愚弟ティツィアーノの部下達が作業中の資材搬入を妨害し、作業中のティツィアナ達に撤収するよう求め言い争っていた最中、突然下層から押し寄せた幽霊や中層側から集まってくる大型の虫型怪物の大群から身を護る為に呉越同舟の僅か42名の兵を纏めて防衛戦の指揮を執っていた。
誤算である、まさか前回の怪物の氾濫から僅か数日で通常は数十年と言う感覚でしか発生しないと言われる怪物氾濫が再発生したのだ。
最悪なのは下層から現れる幽霊ではなく中層側からの虫型である。
霊体系の下位種である幽霊であれば、ティツィアナの防御魔法で接近を防ぐことも出来た、しかし物理から身を守るのとでは対応が全く違い、同時に対処する事が困難である。
護衛の魔導士も戦士も既に体力も精神も限界が近く、多くの兵士は普請の為の装備である、既に現状は詰みであった。
「ティツィアナ様....アレを....」
「援軍か?!」
中層側より大量の人陰が迫る様な足音が聞こえたかと思うと虫型の怪物が次々と崩れ落ちていく。
「な....」
ティツィアナは愕然とする、それは援軍と思われた人影が骸骨と骸骨死霊の群れであったのだ。
「怪物の同士討ち?!」
1人の兵が呟くと、瞬く間に都市軍を襲っていた怪物が新手のアンデットの集団に駆逐されていく。
理解の及ばない状況に疲労困憊であった兵士達は困惑する。
新手のアンデットの集団は兵士達には目もくれず周囲の怪物のみを屠る。
「助かったのか?」
1人の兵士が呟くが、答えを返す者はいなかった。
やがて周囲の争いが終わり、静けさがその場を支配すると、王冠を頭に頂く一体の骸骨が都市軍の集団へと歩み寄る。
自らが苦戦していた怪物の氾濫を瞬く間に屠り去る集団の主と思しき王冠を頂く骸骨を刺激しない様に、全ての兵が緊張の中で骸骨からの反応を待っていた。
「我はこの不死怪物を支配せし者である、愚かで矮小なる人の代表は1歩、我が前に出よ」
骸骨の王は都市軍の前に立ち止まると重く冷たく女性の声で語り掛けて来た。
「私だ」
ティツィアナが前踏み出しモノポリーの前まで歩み寄る。
「あなた方は我らを....助けて下さったと解釈してもよろしいのでしょうか?」
「それはお前達次第であろうよ」
モノポリーが返答をするや否や、ティツィアナ以外の兵が全て気を失いその場に崩れ落ちる。
ティツィアナはその光景に血の気を失い恐怖のあまりに叫び、全力で逃げ出したい気持ちを必死に抑える。
「矮小なる娘よ、貴様らは愚かしくも迷宮を封鎖せしめようとしておった、その他にも愚かな行為を重ね、我が主の怒りを買ったのだ」
「え?はっ?あるじ!?迷宮の?!」
ティツィアナは突然の内容に狼狽する。
「頭が高い、先ずは両ひざを付き頭を垂れよ!」
ティツィアナは湧き上がる恐怖に抗うことが出来ず、言葉のままに両ひざをつく。
眼の前に立つ骸骨王の覇気に呼吸すらままならず体中の毛穴から冷たい汗が噴き出す。
抗えぬ恐怖に手足の震えが止まらず、吐き気すら迄込み上げる。
「小娘、許す名乗れ」
「ティ...ティツィアナ=デルーカ」
彼女の命運を決める審判が始まった。
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