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第6話  異世界市場でお買い物

006-1-0034 (編集版)

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ヘルガのインスラから出ると直ぐ正面に東外壁と呼ばれる壁が南北に大きく視界を遮る。


この壁を越えた先は都市外区、東の外壁のすぐ外には違法に建てられた貧民街(スラム)が存在するという。


今いる悪所もスラムではあるが、都市デルーカ内のスラムとなり都市法の適用範囲で納税により、市民権を得て都市の庇護を受ける事が出来ている。


しかし、都市外スラムは帝国法の適用範囲内ではあるのだが、都市法の適用から外れ、帝国への従属が求められるが都市からの庇護や恩恵は受けられないらしく、一部の職業の除いて都市内への出入りには入市税が求められる。


ヘルガに帝国内の都市の数や規模、人口等を聞いたところ「いっぱい?」と頭をコテリと傾げで答えた。


ちょっと可愛い。


確かにこの文明レベルでは都市の外の事等は興味の範囲外であろうし知る術もない。


ただし、このように壁外スラムが存在しているのは東外壁区の壁外だけらしく、理由は東区が都市デルーカで最も古い地区と言う事に由来するらしい。


中央区は200年前にデルーカが帝国へ併合された時に建設された地域でとてもきれいな場所だと言うがヘルガも入ったことが無いらしく殆ど情報を持っていなかった。


南区、北区、西区は200年前の大戦後、およそ150年前から都市の拡張計画が始まり、都市拡張時に壁外周辺に居住していた住民は強制退去になったのである。

そしてそれらの地域では都市拡張が繰り返される等で住み着く事ができないらしい。


北区、西区も東区や中央区とは内壁と言われる壁で分割され、中央側である内壁区と外壁区と別けて呼ばれ中央側の内壁区には富裕層、外壁区側には一般層と自然と住み分けられていた。


南区に関しては主に農業を主産業にしている地区らしく、そもそも都市壁外の都市管理内の農業地全体を指し、城壁の様な壁はないが腰の高さほどの位置積みで耕作、放牧等を分けているらしい。


神聖イース帝国併合後に入植してきた住人の多くは旧国家で建造された建物や地域を好まず、特に東外壁区は新しい都市民には人気が低く都市拡張が進むにつれ東外壁区はスラム化し悪所と呼ばれるようになっていった。



東外壁沿いの道を右、つまり方角的には南に10分ほど歩くと道の先に区壁と呼ばれている壁が見えてくる。


壁と言ってもその裾部分には幅3m、高さ6m程のアーチ形の通路があり、小さな馬車程度であれば十分通れる空間である。


通路内の天井部分に30cmの厚みが有る四角い木材で組まれた落とし格子の先が見え、有事の際にはこの凶悪な落とし格子を落として道を塞ぐのであろう。


アーチの下にはホームレス風体(ふうてい)の男達が夏の暑さから避ける為か集まっていた。


勿論臭い。


この中に死体が混じっていたとしても解らない程に臭い。この臭いは外壁沿いだけなのか心配になる。


正直一般的な飯処にもこの匂いが立ち込めていたら食事処ではない。もしこの都市全体がその様な場所なら早々に脱出を考えようと美里は心に誓う。


アーチ下を潜り抜けると、街の様相はだいぶ変化していた。何よりも臭さが明らかに和らいだのだ。


「この先はお店とか市場があるんだよ、お宿をとるならここから真直ぐいった旧都か今から行く市場を抜けて中央近くがいいかなぁ」

ヘルガの言葉に、これからの宿の心配があった事に気づく、そりゃあヘルガの部屋に転がり込むわけにもいくまい。


「安くて綺麗な宿とか知らない?」

「え?アタシが知っているのは木賃宿くらいだよ、カオルみたいな上品なお人が止まるような宿なんか名前も知らないさ」

アハハと笑うヘルガだが聞いた美里は、返ってきた返答にやや気まずさを覚えてしまう。


貧富の差、これが現代日本であればハラスメント案件だ。


とは言えこれだけ貧富や身分に明確に差があれば、当たり前の事だろうと誰も気にしないのかもしれない。


「でもカオルが泊まるようなお宿なら、一晩でうちのインスラ一回月分位しちゃいそうだよね」

美里は答えに窮したが、仮に高級ホテルの一部屋が一晩で8万円位と考えると、ミサトが住んでいたワンルームアパートと同じ程度の金額である。物価バランスは分からないがシックリとくる感覚である。


しかしそこで美里は今知り得た情報の大きさに気づく。


生活費・・・


現金らしきものは持っていいるのだが、それは現状の資金として持っているだけで福利を生む物ではなく何時かは底をつく。


生きるには家賃のみならず衣・食等と色々金がかかるのは当然の事であるからに、何らか収入を得る手段をさっさと見つけねばならないと思い不安がこみあげる。


何しろ異世界でのの生活や古代の生活に詳しいはずもいない現代人なのである。


いや、ヘルガがいる。


別に娼婦のヒモになりたいわけではないが、今現在に於いて唯一頼れる存在なのだ。まずはめっちゃ奢って恩に着せようと心に誓う。


「え?なに?どうしたの?」

思わずヘルガの横顔を凝視してしまっていた、今不信感を与えるのは非常にまずいと考えた美里は、ヘルガを喜ばせる為の言葉を必死にひねり出す。


「あ、あぁ。あーすまん、ヘルガの顔を見てたら、もの凄く可愛らしくて見とれてしまった。あ。いや、今のはその......」

無い!自分でもこれは無いと言う回答である。これではただの気持ち悪いオッサンである。


「・・・・・・・・・・」

美里の歯の浮くような阿呆なセリフだったが、ヘルガの反応は意外にも悪くなかった。頬を染め右手で顔を覆い目をキョロキョロさせたかと思うと再び無言で歩き始める。


「めっちゃ刺さっとる...ヘルガたん可愛いやん...」

ヘルガの耳には届かないほどの小さな声が美里の口からこぼれた。


商業区も外壁沿いは悪所と近い為なのか、素性が良くなさそうな輩が昼から酔っ払いたむろしている。壁際は悪所ほどではないがやはり臭い。


だが大きく違うのが舗装こそされてはいないが地面は整備された様子があり、糞尿を放置している様子もない。周囲を歩く人間のガラは悪そうだが身に着けている衣服は結構ちゃんとしている。


明らかに壁からこっちらはワンランク以上の水準の人間であった。


更に外壁から離れ都市の中心方面に進むと怪しい雰囲気の人影が減り、明るく健全で活気のある情景が待っていた。そこは食堂(タベルナ)やポピーナとよ呼ばれる売春宿や食堂付宿が集まった地域に入っていた。


「あたしは普段はこの辺の路地で立ってるよ」

「ふぁへ?」

明るい声で突然のヘルガの職場紹介である。あまりに唐突な出来事に美里は変な声を出してしまう。彼女は娼婦である事をあまり隠す様子はないようである、それは美里にとっては意外に感じられた。


娼婦への価値観が現代日本と違うのか、もしくは住む階層故の価値基準なのか判らないが美里は「ソウナンダー」としか応えることが出来なかった。


しかし美里薫は男である、昨晩の出来事が頭によみがえると前を歩くヘルガのお尻へ視線が釘付けになる。

ツルペタで小尻だが、顔も声も自分好みでピッチピチなお嬢さんと繰り広げたの昨晩の一戦を思い出しテンションがあがってしまう。


これは、久々のエッチで正常な判断を妨げている可能性もあるのだろうが、ヘルガは美里基準ではとても美人さんだ。ツルペタだが・・・


ヘルガの容姿は生前の36年間の人生では、テレビや映画館の画面の中以外で見た事がない程に(美里には)美人に見える、判断力も多少失うのも当然ではある。


「その、カオルもたまにでいいから...買ってくれるとうれしいかな...だいたい売れ残ってずっと立ってるから...」

再び顔を紅潮させたヘルガがもじもじとしながら振り返り、美里へと営業をかけて来たが、美里の中に不思議な感情が沸き上がる。


「......やだなぁ」

つい口から否定の言葉が出てしまう。


「え?あ...そうだよね...アタシ胸ないし...背もデカイから...買うならもっと色気のある女の方がいいよね....」

ヘルガの表情が強張り、声を窄ませていく。明らかに顔が青ざめている。

美里はその様子に誤解が生じている事に気づいて咄嗟に否定する。


「ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃう!買う!買う買う買う買う!めっちゃ買う!俺がヘルガを買い占めたいって話!他の男に買わせたくないって意味の嫌だって話だよ!」

美里は頭や感情の整理がついていない状況のなかで突発的に出してしまった言葉だが、嫉妬や独占欲の様な物が心の中に生まれたのであろう、だってヘルガに女性として魅力を感じているのだ。


「あ、いや。俺はヘルガたんの事は、今まで見た誰よりも魅力的....と思う」

「え?あ...うん、あ...りがとう...じゃ、じゃあ、その、カオルだけに売ろうか...な?」

「お...おう」

「約束…だよ?」

「お…おう」

「えっと...じゃぁ、とりあえず、ごはん食べにいこうか」

「おう」

ヘルガはその整った顔を今日一番真っ赤に染めると、右手でちょこんと美里のシャツの裾を摘まむと市場方面へと歩みを戻す。


ヘルガは、たまにすれ違う人と挨拶を交わしている。挨拶している相手も路上娼婦(たちんぼ)が多い、少ないながらも昼から春が売られている様だと心のメモに記録する。


そしてやはりヘルガは人柄がいいのだろう、会う人間の多くはヘルガに対して非常に好意的に見える。美里を見ても何かを聞かないのは、ヘルガの客に見えているからなのだろうか?


しばらく歩くと東区の動脈となる内壁前の大通りへと到着する。大通りに入ると2階建石造りの建物が建並ぶが、見渡す限り悪所で見られた拡張型のインスラは見当たらない、だが建造物の外観を見れば同じ時代の建物である様にも見える。建物の上の増築された部分だけがないのだ。


美里は疑問に思い建築には何かのルールでもあるのだろうかとヘルガに問う。


「だいぶ昔に大きな火事があったらしいよ。その時にインスラの上につくった木の部分から一気に火が移ってあっという間に地区全体に広がったらしくって、それからは新しくインスラの増築したら駄目の法律ができたんだってさ」と教えてくれた。


大火災以降はインスラ増築自体が禁止とされたらしいのだが、都市全体に存在している古いインスラを今から撤去すると言えば暴動が起きかねない。つまり新しく増築が駄目という事なのだろう。

そして大通りから見えない場所や、悪所での新規増築は見て見ぬふりをしているのだろう。


大通りを更に南へ歩いた場所に本日の目的地、市場のある大きな広場に到着する。その景色は、なんとなく昔ネット動画で見たモロッコのジャマ・エル・フナ広場の市場を想起させた。


派手さはないが大きな広場内に統一された規格の大きなテント張り屋根の屋台が規則的に並んでいて、悪所にいた時とは想像出来ないほど文化的な市場である、活気に溢れているが粗野な行動をとる輩は見当たらない。この市場が非常によく管理出来ていることが伺えた。


市場を見て歩くと思っていたよりも清潔感があり、嫌な臭いもない。トイレは在るのかとヘルガに尋ねれば、広場の一角を指さし排便壺を置いている場所があると言う。そこで無料で排便できるそうだ、ただ尻を拭く藁が欲しい時は銅貨(クパリ)一枚程必要らしい。


排便壺は農家が肥料にするため、無料で回収されるのだそうだ。


農閑期には悪所の壁沿いに溜まった糞尿の混ざった土も(さら)いに来るそうであるが、変わりに土を足す事が無いので穴だらけなのだろう。ちなみに商業区ではちゃんと土を足して馴らしていくらしい。


市場に並ぶテントが思いのほか大きいく「ここは凄いな」と呟くと、へルガが自慢気な笑顔を見せる。


ドヤ顔をしているヘルガも中々可愛い。


「じゃあ、早速ヘルガのお勧めの店へ連れてってくれ」と言うと、ヘルガは待ってましたと美里の手を引き満面の笑みで、真直(まっす)ぐに目的の屋台へ案内してくれる。


ヘルガご希望の屋台は、日本では見たことが無いような大きさの腸詰(ソーセージ)を大きなグリル、アサード料理の様な焼き台で大量に焼いていた。


腸詰(ソーセージ)は見たところ生腸詰(ソーセージ)の様で、焼く前の腸詰(ソーセージ)はとても柔らかそうである、太さは直径5cm、長さが30cm、色は赤黒く形はまっすぐ、実がプリップリであった。


屋台で焼かれる腸詰(ソーセージ)からは濃厚な脂が炭の上へと滴り『ジュ』と音をはじけさせれば、周囲に膨らんだ肉の香りにアーモンドやナッツを炒った様な香りと香草の爽やか香りが混然遺体となり歩く買い物客の鼻孔を捉える。旨味の権化たる香りは正に暴力的である!


調理は素焼きをした腸詰(ソーセージ)焼網(グリル)台の横の大皿へ積み上げ、注文が入った分を再度焼直して仕上げるスタイルである。焼きが頃合いになった所で塩漬された大きく長い葉を何枚か腸詰(ソーセージ)に巻くt、その上から茶色いクレープ風の穀物生地で包む料理の様である。


「これこれ!これが食べたかったんだよ!いいかい?カオル!」

ヘルガは興奮を隠しきれず美里に期待の目を向けている。当然だと了承すればヘルガは屋台の親父に2本注文する。


「めちゃうまそうだな、これは絶対にうまい匂い」

「すごく美味しいから期待してて」

ヘルガも待ちきれない様子で、口元が緩みっぱなしである。


「一回だけパーティーのみんなで一人一本づつ食べた事があるんだ。あの頃も稼ぎ良くなかったし大奮発でさ、もう一度食べたかったんだよね!」

店主が調理の仕上げをしている間にヘルガが嬉しそうに思い出話を始める。死んでしまった仲間の話する流れ!?


これ悲しい話なる奴だと思ったが、ヘルガはそのままの笑顔で舌なめずりし涎が垂れるのをを我慢しつつ出来上がるのを今か今かと待っていた。うん暗く成る様子は皆無でなによりである。


昨晩ヘルガに聞いたホットドック的な食べ物の話に形状が似ている、こんなデカい腸詰が銅貨一枚くらいなのだろうか?この世界の物価は本当にわからない。


調理が終わり親父が「銀貨(ホペア)4枚だ」と手を出してきた。

ホペアホペアホペア....銀貨(ホペア)!?銀貨4枚か?形状が似てても流石に銅貨一枚の物とは別だったらしい。


財布の中には銀貨(ホペア)は18枚、大銅貨(イソ・クパリ)は2枚入っている、今の美里には死角はない。


OK大丈夫問題ない。何かあっても茶巾通帳もある。


それはそうだ、ヘルガにはちょっといいものを食べさせると言いこの屋台に来たんだし、前に奮発していたという位だ、見るからにデカイ腸詰(ソーセージ)だし、前世の価値からみても決しておかしくはない値段だ。



見た目も大きいが、手渡しされるとこれが結構な重量がある。日本人の感覚で、これが1人1本は間違いなく大き過ぎる、食べきれる気が欠片もしない。


財布の中から銀貨(ホペア)を取り出そうとすると、ヘルガと親父の2人が手元を凝視している、何事かと思えば親父が珍しい財布だなと感心していた。


なるほどこの世界でコインが入るジッパー付き長財布は確かに珍しいのだろう。よく見れば赤いアロハシャツもかなり目立っていそうだ。

周辺を見ても鮮やかな色や模様のある服を着ている人間を見ない。これは早めに現地民の標準的な衣装を手に入れたい。

急いで食べて服を買いに行こうと算段をとると、腸詰(ソーセージ)一気にかぶりつく。


否、かぶりつこうとした瞬間美里の全身へと衝撃が走る!

大きな口を開けて腸詰をお口に咥えこむヘルガたん、エロカワイイ!


「な、な、何みてるのよ!早くカオルも食べなさい」

ヘルガが美里の視線に気づくと、一口目を急いで咀嚼し一気に飲み込む。気恥ずかし気な様子で美里を叱るとその可愛らしい頬を赤らめる。


おぉ神よ、異世界転移ありがとう。


そうだ、この店はヘルガが楽しみにしていた屋台なんだ、服なんて後でいい、先ずはこのヘルガとおすすめの腸詰(ソーセージ)をしっかり味わって食べるのだ!


そして今夜、ヘルガに俺のソーセージを食べて貰うんだ!と心に誓い改めて美里も腸詰にかぶりつく。 


腸詰(ソーセージ)を口に含めて先ず感じたのは熟成しさせた獣脂を香ばしく焼き上げた旨味と香り。

ジビエ肉にありがちな血が残ってしまった時の不快な(くさ)みが感じられない。血抜きは完璧だ。


腸詰(ソーセージ)の皮目は香ばしくパリッ焼き上がり、噛むごとに気持ちの良い歯ごたえがあるのだが中の肉は想像と違いかなり柔らかい、アミノ酸の分解を促すためにしっかりと熟成させている?しかし食感を残す為、肉はかなり荒く引いている様だ。


濃厚なジビエ肉、その旨味は一口目から強烈な満足感を与えてくれる。


咀嚼をする度に腸詰(ソーセージ)の中に閉じ込められた肉汁が口に広がり、噛む毎に練り込まれた複雑なハーブの香りが広がる。

セロリやパセリに似た馴染みある香りに加え仄かな辛みが見え隠れする、これは山わさびか?!山わさびが余分な脂のしつこさを中和している、ここまで絶妙なバランスで味わえる様にするにはかなりの研鑽が必要なはず。銀貨(ホペア)2枚の価値は十分にあると思える。


そして忘れてはいけない巻かれた塩漬けの葉だ、こいつは塩漬けではなく実は酢漬けだ、個性の強い獣脂のしつこさを山わさびで中和し、酢漬けの葉の爽やかさで口の中をリセットする。



そしてこの厚めのクレープ!



は・・・一口ちぎって食べてみたがバッサバサだ・・・これは小麦でも蕎麦でもない、別の穀物の全粒粉であろうか?ヘルガに尋ねたところ鹿麦というらしい。南側の国では鹿位しか食べない麦と言うのが語源らしいが、デルーカ周辺でも自生している為、この都市では穀物の中で一番流通が多いのだそうだ。


甘みが無く、生地自体にも少し酸味がある。


正直これ自体は美味しくはない・・・なるほどこの穀物の生地は手を汚さない為の包み紙のような物か。


しかし美里の感想は直ぐに誤りだと気づく。


腸詰(ソーセージ)と併せて咀嚼を繰り返すと口腔内で肉汁を吸い込み、互いを内包し始め絶妙なバランスを取り始めたのだ。


これは正に!腸詰(ソーセージ)界のセカンドイパk...


「カオル!カオルってば!聞いてる?」

ヘルガは美里の様子を見かね体を揺する!


「どうしたの真剣な顔で、ちょっと目が怖いよ?」

ヘルガが口の周りを腸詰の脂でテカテカさせた顔で心配そうにのぞき込んできた。


「すまん、独特の味だが美味い!どんな材料が使われえているのか考え込んでしまっていた、それとヘルガたん可愛いなぁおぃ!」


上目づかいで覗き込むヘルガへ、素直に味に感心した事を説明したうえで少しからかってみた。


「う...うん、おいしい...でしょ?市場でもいちばん...にんき....なん.....だ」と頬を染めヘルガは無言になり、黙々と腸詰を食べる事に集中し始める。


多少からかいが過ぎたかと反省しつつ、この食べ物は冷たいビールが飲みたくなると、今は懐かしき故郷の飲み物に思いをはせる。最後に飲んでからまだ24時間経って無い位ではあるが。


しかしこの大きな腸詰(ソーセージ)も半分も食べればかなり腹が膨れてしまう。

流石にもう無理と手を止めヘルガが食べ終わるのをまちつつ周辺の屋台を見回した。


屋台の商品の被りが見当たらない気がする。なにか取り決めやらがあるのだろうか、更に観察していると一つのテントでちょっとづつ違う料理を作業同線が違う別の人間が出している。


つまり同じ様な料理を扱う店を同じテントに集めて合同で調理してそれぞれが売っていることに気づいた。


非常に合理的。


このテントの配置は購入商品や集客数等の導線をブラッシュアップして配置されている。何よりその発案を受け入れ活かせる土壌があると言うのは文化レベルの高さの証左だ。


地球の歴史を勉強したと言っても、古代の実際の生活様式やそこに住む人々の生態は専門的に学ばなければわからないものだ。それに単純に地球の感覚とは照らし合わせられない。


地球だって古代ローマ帝国には上下水道に井戸の自動汲上げ、蛇口に公衆浴場、巨大娯楽施設やエレベーターまでもが存在したのに帝国滅亡後、数百年それらの技術が失われたって事実がある。文明や文化は切欠一つ有るか無いかで想像もしない方向に進むのかもしれない。ましてや今いるのは魔法が存在する異世界なのだ。


美里が関心していると少し離れた場所で小さな子供が美里を見つめている事に気づく。


最初はアロハシャツが目立っていると思ったのだが、大人達は一瞥する程度でそれほど気にはしていないようだ。


よくよくみていると、子供は美里の手元を見ている。見るからに薄汚れ、見るからに貧困、痩せこけた欠食児童である。


転移前の神社の出来事のせいか、腹をすかした子供を見るのがどうやら辛くなったようだ。


欠食児童が食べ残しを出るのを待つために屋台の脇に設置された食事用のテーブルを監視しているのだろう。

周囲も子供を気にする様子はなく放置しているのだ、日常風景なのかもしれない。


「カオル、切りがないよ一度与えると顔を覚えられる、その後は始末に負えなくなるんだ....腹を空かせてる連中も必至だからね」

ヘルガは美里の考えている事を察し、アドバイスをくれるがその時はその時と考えで子供のもとへ歩み寄る。


欠食児童はビクりとしていたが、もしかすれば食べ物がもらえると期待し泣きそうな顔でその場に留まっていた。


「腹いっぱいで俺はもう食えん、いるか?」というと尻尾を振り笑顔で手を差し出してくる。




しっぽ!?




ぼさぼさで膨らんだ頭をよく見るとそこには大きな獣耳がある!


「ケモミミきたあああああああああ!」

美里は思わず叫んでしまい、驚いた子供は硬直する。周囲の人間たちも何事かと美里達を一瞥するが獣人の浮浪児が何かやったのだろうと直ぐに興味を失う。


目に涙をためた欠食児童は、ものすごく踏ん張って泣かないように我慢している。


「すまんすまん、可愛い耳と尻尾のある子を初めて見たんでちょっと嬉しくなってしまったんだ」

男の子か女の子かわからないが10歳にはなっていない頃であろう、臭いが可愛い欠食児童は明らかにキョトンとした顔をしていたが、また泣きだしそうになる前にほらと食べ残した腸詰を手わたす。


欠食児童は驚くほど喜び、突然両ひざを地につき、受け取った腸詰を一度鼻先へつけ次に高く手を伸ばし再度鼻に近づけ再度掲げる。


感謝の踊りか何かなのだろうか?後でヘルガに聞いてみよう。


欠食児童は再び立ち上がると「ありがとうございます旦那様」と小さな声で御礼を伝え深々と頭を下げるとそのまま走って悪所の方向、つまり貧民街へ向かっていった。


「カオルは何か、警戒心が無さすぎるね」

ヘルガは呆れているが、少し優しい顔である。


「何かあったらヘルガが俺を守ってくれ、代りに飯代の心配はいらなくなるぞ」と伝えると


「うん!美里は警戒しなくていい!私が守ってあげる!」と嬉しそうにあまり豊かではない胸を叩く。



ヘルガたん可愛い・・・



美里は本当の意味での貧困を知らない、豊かな国の出身だ、社会保障が整い、治安もいい土地で育ち、義務教育のおかげで、転移前の世界の物ではあるが読み書き計算、科学に物理、古代から現代へ続く歴史を知識として知っている。この世界とは違い、魔法のない世界ではあるがメタな感覚があるのは活用次第で大きな強みではある。


「異世界知識チート...そんな物は論理的に不可能だな」

険しい顔で呟く。


異世界に来てハッキリわかった事がある、マクロで歴史観が理解できてもミクロでの人の生活は知らない。歴史も社会情勢も文化も民族性も把握出来ていない異世界で知識チートするなんてご都合展開は自分に出来る筈はない。


だが欠食児童は救ってやりたい、不幸な子供は見たくはない。あと臭いのはどうにかしたい。


たとえ世界を作り変える程のチート能力があったとしても、自分の力では人間やそれに準じた種族が相手である以上、全てを救えるなんて100%ありえない。


でも終わる筈の人生に機会を与えてもらい異世界転移してきたのだ。


何物でもなかったつまらない社畜人生を塗り替える何者かになりたい、今度こそ公開の無い人生を謳歌したいと言う気持ちが美里の中には芽生える。


美里が頼るべきは異世界特典の死霊秘法(ネクロノミコン)になるだろう。


死霊術で異世界を貧困を救う・・・・・鬱展開しか思い浮かばねぇ。


今はまず死霊秘法(ネクロノミコン)で出来る事の把握と、この世界のルールを知ることが必要だ。何をするか、何が出来るかはゆっくり考えよう。


「ヘルガ、頼みがある」

真剣な面持ちでヘルガに向かい合う、ヘルガもその様子に緊張が走る。








「目立たない服売ってる店しらない?」

キリッ(`・ω・´)










美里薫 享年36歳 異世界でどう生きていくのかを模索する。


拙作「のんねく」をお読みいただきありがとうございます。


お楽しみいただけましたでしょうか?ちょっとでも続きを読みたいな~と思っていただけたら是非イイネやお気に入り登録をいただけると嬉しいです。それでは次回もよろしくお願いいたします。

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