第58話 異世界で新たな旅が始まります
第58話 異世界で新たな旅が始まります
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「この辺でいいのかな?」
美里はギルドメンバーと事前に打ち合わせしていた合流地点と思しき湖を見つけ着陸すると周囲を見渡す。
街道から大きく外れた位置にある森の中の小さな湖である。
「クロが来てくれて良かったかもな、骸骨死霊がいっぱいいてもぬくもりは無いからね」
クロの背中を撫でつつ周囲を見渡す。
特に何者かの気配もなく、有ったとしてもクロや骸骨死霊達が対応してくれると思うと割と気が楽ではある。
「クロ!今日は俺とテントの中で一緒に寝るか!」
そういうと美里は背中の大荷物を下ろし、エアーテントセットの設営を始める。
実は初めての設営なのでタドタドしいが、購入したテントはオススメしてくれた店員さんに感謝したくなるほどに簡単に完了した。
ペグで固定し、タープを張るとテントの中にエアーマットを敷き寝袋をその上に敷く。
「こんな状況だけど、少しわくわくするなぁ。キャンプって初めてだし...うーん、夏だと熱いし焚き火は要らないなぁ、今日は食事を作る事もないし」
美里は考えを独り言ち、早々にテントの中へ入るとLEDランプを点灯させ、テント内にクロを招き入れた。
「なぁクロ、変な事になっちゃったなぁ」
「わふ」
クロが小さく返事をする。
「みんな無事に都市門から脱出できたかな?」
「ワン!」
クロは元気に返事をした、これは大丈夫だよと言っているのだろう。
「クロ、これからどうなるのかな?」
「わふん」
クロは頭を傾ける。
わかんないよな。
「あー、朝ごはんとか買ってきて貰うのお願いしとけばよかった!」
「ワン!」
これは肯定だな。
「ラヘイネンペラヘの人達に迷惑かかってないかな?」
「わふぅ」
クロも心配なのかな?
「キヴァ・エラマは大丈夫かなぁ、一応ラヘイネンペラヘが大丈夫なら大丈夫だよね?」
「わふぅ」
その反応はどっちだ?
「あぁ、折角インスラがいっぱい手に入ったのに。まぁ事業計画はヘリュに伝えてあるし、連絡は骸骨死霊を使えば出来るし、マメに連絡取れれば大丈夫だよね」
「ワン!」
うん、これは肯定だな。
「あ!今からでも朝ごはんを買ってきて貰える様に骸骨死霊に伝言すればいいのでは!」
「ワン!ワン!」
あ、これはクロも賛成の様だ、朝ごはん欲しいよね。
「よし、じゃあ伝言.....伝言か..........メッセンジャー用のレイスとかに特化した特殊進化とかできるのかなぁ?」
「わふぅ」
うん、わかんないよね。
美里は死霊秘法を開くと、アストラルの進化項目に目を通し、召喚の過程や階位付与の過程で容姿の変化が起こる事を思い出し、一時期SNSで話題になった声帯模写が出来る鳥『コトドリ』、チェーンソーや映画のビーム兵器の音を再現する鳥を思い出す。
いや人間の言葉で会話が必用だ...可能なら歌とか歌える幽霊ゴーストがいい、それなら音楽が鳴らせるとか良いな。等々欲張り設定を夢想する。
「とりあえずは一体作ってみよう」
「ワン!」
同意かな?
「骸骨死霊、誰か実験体になってほしいんだけど、立候補してくれる人いるかな?」
その場にいた数十に及ぶほぼ全員が集まってきてしまう。
「まずは1人でいいんだ」
美里は申し訳なさそうに、いち早く来てくれた個体を指定して死霊秘法を構える。
今回は素体が居る為、成長や変化のための階位値ランクを付与を行う事にし、関連ページを開くと『階位値構成』を発動したのだが、またしても大きなミスを犯す。
美里薫は学習しない男である、『声真似』『歌を歌う』『音楽が流れる』を意識したが、容姿を考え忘れていた。
発動が始まってから伝言メッセージ幽霊ゴーストの容姿について思いついてしまったのだ。
伝言メッセージ死霊レイスにするなら骸骨死霊のままは、メッセージの受け手が怖いじゃないかと。
「ヘルガ?!ヘルガと同じじゃだめだ、もう『いっぱいいる』。違う子?!?誰?女の子は駄目だヘルガが怒りそうだ!ああ、歌を歌うなら歌手とかモデルに!?歌手と言えば?!」頭の中が混乱してしまう。
そしてまたしも考えている間に魔法は完成してしまった。
「ナニコレコワイ....」
「わふん......」
流石にクロもヤッチャッタナコイツみたいな目をしている。
生れた姿は黒い塊であった、恐らく色々考えすぎて混乱したからであろうと思われたが、怖いのは顔だ・・・顔・・・・・・いっぱいある・・・・むしろ顔しかない・・・塊全体に前後左右統一感なく骸骨の顔がある。
黒いモワモワっとした塊が浮きモワモワの部分が全て顔なのだ、しかも顔が変化する・・・・・・・しかもみんな喋る・・・・・滅茶グロイ。
何だか、この全体像に見覚えもある。
「思い出した虚群体だソシャゲに出て来たゲームのオリジナルモンスターだ実際見るとグロイな....えっと喋れる?」
美里は新しく生まれた高位の眷属へ恐る恐る確認する
「「「「「「可能で御座います」」」」」」
「?!」
全ての顔が同時に返事の声を出す、物凄く吃驚びっくりした、クロも全身の毛を逆立てって驚いている。
「吃驚びっくりした、全部同じっぽい声だね、変化したりも出来るの?」
声も変えられるのだろうかと疑問に思ったのだ。
「「「「「「可能で御座います」」」」」」
今度は老若男女様々な声が出て来た。
「これは凄い!すごい眷属が出来たかもしれない」
「お喜びいただけた事、心より安堵しております」
最初にグロイとか言っちゃったのを気にしているのかもしれない。スマヌ。
「えっと、人間型や骸骨スカル死霊レイス型にはなれる?」
「「「「「「申し訳ございません、基本的な形状の変化は出来かねます」」」」」」
美里は怖いままなのかと、心の中でそっと落ち込む。こんなのを見たら普通の人はSAN値直送待ったなしである。
「「「「「「しかし、様々な声や様々な音を再現可能で御座います」」」」」」
「音?!まじか!」
これは凄い!
「「「「「「精神系魔法も様々使用可能で御座います」」」」」」
「まじか!便利じゃん!どんなのがあるの!?」
「「「「「「恐怖付与」」」」」」
「え?」
やだ怖い。
「「「「「「混乱付与」」」」」」
「え?」なにそれ怖い。
「「「「「「鈍化付与」」」」」」
「!」
「「「「「「睡眠付与」」」」」」
「!!」
「「「「「「昏倒付与」」」」」」
「!!!」
「「「「「「即死」」」」」」
「コワ!」
「え?もしかしてデバフ特化?!」
「「「「「「ふふふっデバフもまだまだありますが...勇敢付与」」」」」」
「おおぉ!」
「「「「「「笑い付与」」」」」」
「おぉ?」
「「「「「「爆笑付与」」」」」」
「おおぉ?」
「「「「「「失禁付与」」」」」」
「え?」
「「「「「「感度3000倍!(センシティビティ)」」」」」」
「え?!」
「「「「「「ではなく感度増加!(センシティビティ)」」」」」」
「ビックリした...ってなんでそんなネタしってんの?!」
「バフとデバフ魔法が得意なんだね」
「「「「「御意」」」」」
「歌とかは行ける?」
「「「「「然り!」」」」」
「不可視化は出来る?」
「「「「「然り!」」」」」
「有能!!!!」
「「「「「在りがたき幸せ!」」」」」
これは色々使い処があるな・・・・複数体居ればかなり便利とも考え、虚群体を更に2体生み出す。
今日はとんでもなくマナを使ったので、これ以上の魔力消費は少し怖い。
「じゃあ、今日進化した個体は『塊魂』と呼ぶね」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「御意」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「じゃあ君、最初の仕事なんだけどエーリカへ間に合いそうならご飯と水をたっぷり買って来るように伝言お願い」
「「「「「御意」」」」」
耳に煩い・・・・
「じゃあ、寝るまで色々試してみよう」
その晩、美里は眠気が来るまで塊魂へ様々なテストを行い、住処を失った事を忘れる程に楽しい夜を過ごした。
◆
「カオルお待たせ!無事でよかったぁ!」
ヘルガは美里の姿が確認出来た20m程先から大荷物を持ったまま、全力で走り出すとそこから?と言う距離で美里の胸に飛び込む。
「主様、御無事で何よりでございます」
「主よ御無事で何よりでございます」
「あるじよかったー」
後からゆくりと歩いていたエーリカとオリガはひときわ大きな荷物である。
「カオル様大変お待たせして申し訳ございませんでした、ご無事を心よりお喜び申し上げます」
クロアさんは日に日に品が良くなっていく、色気もやばい。
「ひゃあああ」
美里に挨拶をしようと待っていたクロエはクロの熱烈な洗礼を受けていた。
「旦那様、お待たせして申し訳ない本当に無事でよかった」
ヴィルヘルミーナも意外と大量の荷物を持っている、東の城門から12kmほどの距離、しかも森の中まで来ているので大変だったと思うが、流石5年間鍛錬を欠かさなかっただけあり疲労の色はない。
逃亡間際に塊魂の伝言を聞き開いていた売店で持てるだけの食料を買い集めたというのだが、集合地点への到着は夜通し歩いて昼近くなっていた。
空からは解らなかったが、日が昇り明るくなった周囲を見回せば、岩や樹の根が飛び出し背が低いが雑草も多く、かなり大変な道のりであったと想像できた。
とはいえ美里はほんの数分前に死霊秘法の到着を知らせてくれた塊魂に起こしてもらっていた為、のんびりしていた事に少し申し訳なさを覚える。
早速、朝食を受け取り、食事を取りつつ昨晩の互いの状況の情報交換を始めた。
「あるじ、ミーカから手紙」
「みんな、無事に合流出来て嬉しいよ、特に問題はなかったかな?」
ロリガから手紙を受け取ると皆へ労いを伝える。
「撤収の御指示を頂いた時、折よく鍛冶屋にミーカが同行していた事が幸いしまして、奴の根回しもあり東門はスムーズに出ることが出来ました。最悪門の破壊も考えていた為、目立たず済んで幸いです」
エーリカからの報告に、色々と助けになってくれたギルド魔石土竜の頭目の顔を思い出す。
「あの爺さんには本当に世話になったなぁ、ところでオリガの武器はどうなるのかな?」
「そこに関しましては、完成後にキヴァ・エラマでヘリュが受け取り、その後に我らが滞在しているであろう場所へ届けさせる手筈となっています」
「新事業は大丈夫かな?」
「ラヘイネンペラヘもキヴァ・エラマも特に問題が飛び火した様子は無いようですので、計画通りに進むかと存じます。定期的に連絡を取れば問題は無いでしょう。今後についてもミーカが手を回すよう指示しておきました」
「なんか、今回は俺の浅慮のせいで突然色々ごめんな」
美里の謝罪に異口同音否定をする。
「アタシはカオルに捨てられたらどうしようって心配だったよ!」
「捨てねえよ!」
ヘルガは相変わらずである。
「実は私も気が気ではなかった」
「捨てねえよ?」
ヴィルヘルミーナも可愛い奴だ。
「というか俺の眷属が居ると、俺がどんなに逃げても居場所がわかるらしいよ?」
心配していたと言うが、今は無事合流出来た皆の顔は笑顔である。
「じゃあ、今日はとりあえず夜通し大変だったと思うし少し休んでくれ、今日は此処に一泊して明日から移動しよう.....ミーカさんの手紙に面白い事が書いてあったからね、そこに向かってみよう」
美里の顔には不安は無く、ミーカの手紙に書かれた面白そうな情報に胸躍らせていた。
こうして、美里薫享年36歳 異世界での本当の意味での冒険が始まる。
第一章 完




