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第55話 異世界で厄介事に巻き込まれます⑥

第55話 異世界で厄介事に巻き込まれます⑥

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「都市軍って言うとティオドゥラ様からの呼び出しかな?」

「ティツィアーノの野郎の使いっす!」

「これ絶対面倒臭い奴だ…インスラに来てるの?」

「ファミリーのアジトの方っす、お(エサイアス)が相手してんすけど旦那の事をウチの幹部って思ってるみたいなんすよ」

直ぐに逃げ出したいのだが、このままではエサイアスやラヘイネンペラヘに多大な迷惑がかかりそうだ。


「呼び出し理由は何か言ってた?」

「細かい事は判りませんがカオルの旦那を出せとすごんでるんでさぁ、武装した兵士達が10人以上居るんですよ」

これ完全に拘束する気じゃないの?マジコワイんですケド?!。


「あ!」

「どうしたん?!」

ヴィルヘルミーナが何かを思い出したような声を上げ、美里がヴィルヘルミーナへ顔を向ける。


「ラヘイネンペラヘのアジトって.......エーリカとオリガ達の帰り道では!?」

「事件が発生する気しかしない。!!!!」



「早く連絡しないと死人が出そうだね.....」

「「うん」」

ヴィルヘルミーナもヘルガも納得である。


「アジトに行くけど、既に事件発生後なら急いで荷物を纏めて逃げよう。未然であれば話を聞いて何か害されると判断出来る様なら、抵抗してもいいと思う」

「カオル!大丈夫だと思うけどデルーカを滅ぼすとかはやめてくれよ」

ヴィルヘルミーナの一言に、周囲にいた人間が一斉に恐怖の表情で美里を見る。


既に東区全体はラヘイネンペラヘと美里達デスマーチ軍団(レギオン)が真の支配者である事は噂として東区全体に知れ渡っている。


当然、ここ最近の異常な街の変化を見ればその影響力は大きい事がその場にいた皆理解している。


中には迷宮ダンジョンの覇者であるギルド魔石土竜(ませきもぐら)までも支配下に入れたとの噂も流れているのだ。


それも、美里がこの街に来てから半月足らずの時間で為なされたのである。


その美里の妻の1人であるヴィルヘルミーナの一言には現実的な事と想起させるに足る重みがあった。


「うーん、殺されるくらいなら抵抗はするよ?でも刃傷沙汰は極力避けて逃げる方向がいいかな。それとラヘイネンペラヘとキヴァ・エラマに関しては俺たちが金で依頼しただけの関係って事にしておこう」


「みんな!聞こえたね?!ラヘイネンペラヘとキヴァ・エラマは金で仕事を依頼しただけの相手だ!!もしもカオルが居なくなってもラヘイネンペラヘとキヴァ・エラマはちゃんと皆に仕事と(ねぐら)をくれるからね!」


ヴィルヘルミーナの前言に周囲にいた人々は異口同音に了承する。


娼婦たちには環境改善や収入の増加。娼婦をやめたい人間や仕事のない人間への雇用創出とラヘイネンペラヘとキヴァ・エラマは今や東外壁区のみならず東区全体の未来であり、それを脅かす輩は総じて敵なのである。



「安心してくれカオルの旦那!何かありゃ旦那は他人ってバッサリ切り捨てるぜ!」

ラヘイネンペラヘの若衆は満面の笑みである。


「お、おう....ありがとう?じゃあ準備したらラヘイネンペラヘに行くので小一時間ほど待たせておいてくれる?」

「がってん承知!」

元気よく挨拶するとラヘイネンペラヘのの若衆は元気に戻っていく。


「バッサリ切られるらしいよ?」

ヘルガが笑っている。

「ぷっ...バッサリって!!」

ヴィルヘルミーナも少し噴き出し、周囲の人間も同様に笑っいだす。


「悪意が無いのは解ってるから笑わないで、泣きたくなる。ちなみにあいつの名前わかる?」

「アルポだよ」

近くに居た娼婦が笑いながら教えてくれた、あいつの名前は絶対忘れない。



美里はコッソリと骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を使い、エーリカへの連絡とラヘイネンペラヘでの状況の確認の手配をするとインスラヘの帰路を急いだ。





ヘルガとヴィルヘルミーナはインスラへ戻ると、急ぎ荷物を纏めてすぐに持ち出せるよう準備を行う。


その間に美里はロリガへ都市軍からの召集理由によっては、この街を逃げ出す事になると説明すると周囲の荷物を纏めさせた。

インスラ付きの骸骨(スケルタル)死霊(レイス)に一体にモノポリーを急ぎ呼びに行くよう迷宮(ダンジョン)へ送り出す。


次に美里はモノポリーの到着までにトラブルが起こらぬよう、骸骨(スケルタル)死霊(レイス)へエーリカ達がトラブルを絶対に起こさぬよう伝え、間に合っていれば鍛冶屋に別名ある迄待機するように伝言した。


「間に合ってればいいけど....」

美里は独り言ちる。


直ぐに鍛冶屋に向かった骸骨(スケルタル)死霊(レイス)から、エーリカ達に現在は問題なく指示あるまでは、そのまま鍛冶屋で待機するとの回答が返ってきた。返事の内容を確認すると美里は安堵する。




暫くするとモノポリーが美里の元へと参じ、空を飛べるアストラルは便利だなぁと思いつつ、かなり急いでくれた事に安堵する。


「モノポ、唐突で悪いけど予定通り迷宮(ダンジョン)に転がっていた人間の死体は集めてある?」

「都市軍の建設開始前に下層の遺体も収集し中層の危険路と呼ばれている枝道の最奥へ集めております」

「見られたりしたなさそう?」

「天井擦れ擦れを飛び運びました故に冒険者には気付き用は無かったかと存じます」

「わかった、ご苦労様」

「恐れ入ります」

美里はモノポリーとのやり取りのあと少し考えこむ。


「じゃあ、やってみるか...」

美里はしばらく思案し口を開いた。


「試したい事があるんだけど、実際どうなるかわからない実験でもあるんだ。もしかしたら君が壊れたりするかもしれないけどいいか?」


「然り!この身が主様のお役に立てるなら喜んで!」

美里はしばらく考え込み、やがて意を決して整理済みの荷物、バックパックのサイドポケットから1つの破れた小袋を取り出す。


「ふぉおおおおおおおおおお」

ロリガがソレを見止めると驚嘆する。


その取り出されたものと言うのは、バーガークイーンのオマケフィギアである。


「こ....これは.....もしや?!」

「すまない、まだ何も検証してないんだけどモノポに使いたいと思う。お願いがあるんだけど裏切ったり、最悪俺と俺の仲間に攻撃をしない様にして欲しい」

「このモノポリーこの身、存在が朽ちようとも主様の....我がカオル皇帝陛下(インペラトル・アウグストゥス)の為のみ存在いたします、貴方様を傷つける事等決してございません!全ては我が陛下の為に!!」

「ちょ、なにそのカエサルみたいな名前って今はそんな事突っ込んでる時間ないか。では早速使うからね?頼むよ?!暴れないでね!マジで!マジだよ!」


「お任せください!」


美里は死霊秘法ネクロノミコンに記載された『Seance to the necromancy(触媒降霊術)』の項目をタップした。


その時感じた魔力マナの消費は美里の持つ魔力マナの全体量から見れば1割程度ではあったが、体にかかる負担、もしくは美里薫の魂への負担は激しく、表現するならば巨大なblueHole(ブルーホール)へ急激に引きずり込まれていくような感覚、美里はソレに激しい恐怖を感じた。




モノポリーを中心に黒い闇の渦が広がると瞬く間に美里を含む部屋全体を包む、ほんの数秒の出来事ではあったがその場にいた美里、ロリガ、ヘルガ、ヴィルヘルミーナには数時間に感じたという。



「力が....我が主よ.........力がみなぎっております」



そして眼の前に現れたのは頭部に豪奢な王冠を頂き、大きなラウンドシールドを左腕に備えその手にはやや長めの(ランス)を握り、左の腰には2本のグラディウスを佩き、右の腰には骸骨の頭が3個は入りそうな革袋を提げ、腰後ろには手斧、右手には王笏(おうしゃく)を持ち、豪奢なファーがあしらわれた白くも薄汚れ所々が破けたマントを羽織り、他にも汚れてはいるが宝石があしらわれた首飾りや指輪に腕輪を付けた姿、まさに『古戦場で死体漁りする骸骨の王』となったモノポリーが立っていた。


その存在感は、明かにエーリカやオリガをも凌駕する威圧を放ているのだが、不思議と美里の中で恐怖はまったく無かった。


物まがまがしくも強大な力を持つ『古戦場で死体漁りする骸骨の王』が美里に使役された状態である事が感覚でハッキリと感じ取れていた。


「ふぉぉおぉぉ.......」

ロリガはモノポリーへ羨望の目を向け唯々その進化の姿を見つめていた。


「心より、心より感謝いたします我が偉大なる主様!」

モノポリーの膝を付き骨ながら歓喜に打ち震えていた。


「このフィギアの設定に書いてあった能力が一部でも手に入れば、あらゆる死体を使役化できるかもしれない。万が一俺たちが街から逃げ出した場合に、可能ならそれらを使ってダンジョンの制圧とかしてもらいたい。連絡はマメに取れる様にしたいから、行き先が決まったら使いをだすよ」

「我が主の御心のままに」

見るからに恐怖の象徴と言った姿のモノポリーに家事づかれるのは小心者である美里としては絵面的に気後れしてしまいそうだが、今はそんな時間すら惜しい。


「ふぉぉおぉぉ.......」

ロリガはモノポリーが得たかもしれない強力な権能(ユニークスキル)に驚愕し、自らも触媒を使い受胎を成せば物凄い力が手に入る事に期待しヘルガより少しだけ大きく育った胸を膨らませる。


そんな視線を感じたのか美里はロリガを一瞥する。


ロリガの進化も考えたが、しかしまだその時ではない。何より今回の『Seance to the necromancy(触媒降霊術)』で感じた魂への負担に強い恐怖をも感じていたのだ。



「ロリガ、時が来たらお前も進化させる、その時は絶対裏切るなよ!」

「ういっす!ロリガはごしゅじんの愛の奴隷!絶対裏切らないから今からカモン!」

「今やったら俺死にそうだから、暫く待ってて」

「う....うい」

流石にこれ以上は無理強いと思ったのかロリガは不承不承(ふしょうぶしょう)に受け入れる。


「って言うか武器とか装備がすげえな」

「魔力がすごい武器」

美里がモノポリーの装備に感心しているとロリガがモノポリーの装備を舐めまわすように観察していた。


ヘルガとヴィルヘルミーナは一連の様子を呆然と見ていたが、次第に自らの夫となる男の更なる力を目の当たりにし、女としての本能が込み上げて来るのを理解する。


「もう一つ試してみるか....」

「試すって?」

ヘルガが美里の独り言にこたえる。


「まだ俺の魔術で試してみたい事が幾つかあるんだ、機会(タイミング)が無くって試せていないんだけど....もしかしたら回復や欠損した体の再生、物体...武器とか装備とかへのアンデット化?使役化っていうのかな...他にも細かい事は幾つか在るんだけど....試して見たい事が.......」


一同がどよめくが、誰よりも声を上げたのはヴィルヘルミーナである。


「私の指が.....治るの?!なんで試してくれないんだ!!!直ぐにでも頼む頼むカオル!旦那様の望む事なら何でもする、たまに入れたそうに(いじく)りまわしたり舐めたりする――――――――


【自主規制】


【自主規制】


――――――――も好きにしてくれて構わない!カオルの為ならば100人でも子供を産む!」

ヴィルヘルミーナの興奮は既に正気を疑う程である。


興味深い・・・もとい飛んでもない言葉も出たが、興味がないわけではないので聞き逃さない。

しかし、ヴィルヘルミーナへ試さなかった理由もちゃんとある。


「成功するかもわからない、俺の持っている魔法は死霊秘法(ネクロノミコン)死霊術(ネクロマンシー)なんだ、基本的に死体に使い魔法だ。どんな問題が起こるかわからない魔法を大事な嫁さんに試すわけにはいかないだろう?」

頭の中では少しエッチな事を考えつつも真剣な顔で答える。



「大丈夫、失敗しても恨んだりはしない!」

「駄目だ、アンデット達が怪我をした時に試してから試そうと思ってたんだ、生きている人間に行うには不安があるんだ」

「それでは第一段階の検証は問題ございませんね」

そこにはクロアが立っていた。


「モノポリー落としなさい」

クロアは両腕を前に伸ばすとモノポリーに命じる。


美里には一瞬意味が解らなかったが、モノポリーは意味を察し手にもった王笏おうしゃくを手放すと腰に佩いたグラディウスを抜き放ち一閃。突き出された両腕を切り落としたのだ。



「「えええええええええええええええええええええええ!」」



ヘルガと美里は思わず声を上げてしまうがヴィルヘルミーナだけは冷静であった。

そしてヴィルヘルミーナはクロア両腕を胸に当てゆっくりとクロアへ頭を下げる



「クロア姉嫁様(あねさま)へ、心より感謝を」

ヴィルヘルミーナの言葉に美里は冷静さを取り戻し、その意図に気づく。


「あぁ、もう!怖いから先に説明して!それに失敗するかもしれないのにいきなり腕は駄目!絶対!駄目!」

「うふふ、申し訳ありません旦那様。もし失敗しても口での御奉仕は可能で御座いますから心配しなくても大丈夫ですよ?」

クロアに旦那様と呼ばれ一瞬ドキッとしたし、ご奉仕に関しては大歓迎ではあるが、切断された部分から少しづつ垂れ出す血を見ると話している時間もない。



死体(アンデット)だからなのか流れる血は少なく、少しづつ流れ出る勢いは弱まっていく。

しかし傷口からは少しづつ血が流れているし、冷静さが戻り始め残酷な情景にめまいと吐き気がし始める。


しかし、迷う理由は無い。


美里は死霊秘法(ネクロノミコン)を開きクロアの両腕に『material creation(物質作成)』を発動する。




ヴィルヘルミーナの持っている腕の方に。




一瞬その場にいた全員がクロア本体ではなく腕の方なの?と疑問を持った。




――――――――変化はない




そう思われた瞬間、切り落とされた両腕が一瞬ピクリと動いたと思うとヴィルヘルミーナの腕から飛び跳ね床に落ちる。


心配そうにクロアの後ろへ隠れていたクロエが、ピクリとした腕に驚いたのか『ビクッ』と可愛く跳ねた。


恐る恐るロリガが床に落ちた腕のうち右手を思われる腕を手に掴むと腕は釣り上げられた魚の様にピチピチと暴れ始め、ロリガの腕を逃れ器用に指を足の様に使いクロアの頭の上まで駆け上がる。


落ちていた残りの左腕も同じようにクロアに駆け上ると左肩へと落ち着く。



「どうやら、私の体を離れて私とは別のの個体となった様です。しかし私の眷属化しているため意のままに命令が可能で御座います」

クロアから衝撃の事実が告げられると、クロアの意志なのか両腕はクロアから飛び降り踊るように彼女の周りをを周っていた。


美里としてはクロアの体に戻ってくっ付くと考えていたのだが、今の方法ではクロアの腕が治らないのだと理解し再び死霊秘法ネクロノミコンの『material creation(物質作成)』をクロアの失われた腕の傷口を指定して発動する。


黒い靄がクロアの傷口を包んだかと思うと物の数秒で腕を再生していった。



「「「「おおおおおおおおおお!」」」」

美里とクロアを除いた皆が驚嘆の声を上げ、美里はほっと一息つく。



頭のクロアは当然のこととばかりに微笑む。



「これは....使えるな。第一段階成功か。クロアさんは成功するって解ってたのかな?」

「そうなると知っていたと言う感じでしょうか」

アンデットに対しての成功を安堵しつつ、飛び跳ねる両腕を見るが、眷属化したと言っているのだ、美里は今は思考を放棄し後をクロアに任せる事に決める。



「カ....旦那様」

ヴィルヘルミーナが膝をつくと掌をかるく合わせ緩く合掌をしたか思うと顔を下に向け何度も何度もその手をゆっくり上下、胸元から頭上へ3度動かす。



「旦那様、どうか、どうか私の指と目を........どうか」



どこかで見た仕草だと思ったが、以前市場に居た子供に食べ残しを上げた時の仕草である。あの後ヘルガに確認をするのを忘れていたが、やはりお祈りの(たぐい)なのだろう。



「えっと、クロアさん?痛かったりとか何か違和感あった?」

「私には全くございませんでした、むしろその...心地よく御座いました」

クロアは何故か頬を染め答える。


クロアへの確認を終えると美里は目を閉じ大きく深呼吸をする。



「どうなるのか何が起こるか安全の保障はないよ?」

「勿論だ、成功しようとしまいと何が起ころうと私の身も心も尻の穴の初めても旦那様に捧げる!」

うん。最後の一言は口にしなくていいからね?でも言質(げんち)は取ったから覚悟しておけよ?




絶対忘れないからね!




「折角クロアがここまでしてくれて止めるのは無しだよね....ヴィー立って」

覚悟を決めた美里が大きく深呼吸をすると、ヴィルヘルミーナが立ち上がる。

ヴィルヘルミーナは、指の欠損をしている左手を前に差し出すと、美里は意を決して『material creation(物質作成)』を指を指定し発動する。



「あ、.....あぁ....あん」

何故かヴィルヘルミーナが甘い声をあげると、見る見るうちに欠損していた指が生えてくる。



「あああああああ、あああああああああああああああああああああああああ!」

再生した指を確認し、違和感なく動いたからであろう。ヴィルヘルミーナが大きな声で泣きだした。


「ヴィー、まだ目が残っているだろ?それとも目は止めるか?」

「やって下さい、旦那様!目も目もお願いいたします!!」

「畏かしこまるなよ、ヴィーは俺の嫁さんだろ?なら出来る事をするのが夫の務めだ」

ヴィルヘルミーナが美里に抱き着き熱いキスをすると唾液にまみれた舌をこれでもかと言うほど激しく絡ませた。


しかし美里の視界のはじに一瞬殺人鬼の姿が見えた気がした。

そう、ヴィルヘルミーナの後ろに見えるヘルガの目が今日イチ怖いのだが、こんな状況なんだから勘弁してくださいと心で叫ぶ。



興奮状態のヴィルヘルミーナを引き離すと目を覆う布を取らせる。初めて見たが傷が深く瞼が割れ3cm程の深さの2本の生々しい傷が見えた。


生前の美里であれば卒倒しそうな傷だが、不思議と異世界生活で心が強くなったのかヴィルヘルミーナに対しての好感なのか恐怖も嫌悪もない。



「いくよヴィー」



「はい旦那様」



ヴィルヘルミーナの目を指定し、『material creation(物質作成)』を発動する、そして予定通りに見る見る傷が塞がっていくその刹那、美里の脳裏に『階位』指定のイメージが現れた。


咄嗟の事でつい『階位』の付与もしてしまい、かなり多めに魔力(マナ)を持っていかれた気がする。



「あああああああああああああああああぁ」

ヴィルヘルミーナが嬌声(きょうせい)の様な叫びをあげて崩れ落ちそうになった所をヴィルヘルミーナの後ろに立っていたヘルガが咄嗟に支えベット上へと座らせる。


ヴィルヘルミーナは力なく姿(しな)り倒れ込むと何度かビクンビクンと体を跳ねさせる。


まさかと思うがエッチの事後の感じにも見え、ヘルガからは美里に冷たい眼差しが向けられた。



「ヴィー?大丈夫?」

「はい、旦那様.....その...旦那様は魔法も...その........そんな感じなんだね....」

どんな感じなの?!ヘルガたんも睨まないで!!


「目は見える?傷跡はうっすら残っていたが瞼の表面は問題なく再生している」


ヴィルヘルミーナはゆっくりと瞼を開く



「..える....ぼやけてるけど....見える............あぁぁ.....あ....ああぁぁぁあああああぁぁぁあぁぁあぁあああ.....」

ヴィルヘルミーナがまた泣き始めたが、5年も失っていた光を取り戻せたのだ、その感動は計り知れない。


しかし、つい『階位』指定がイメージされた為、『階位』を入れてしまった。しかし指の再生やクロアの手には起こらなかった事象が何故発生したのかが不明である。

実験が一つ終わればまた一つ生まれる。魔法は奥が深そうである。


「きゃ!」

ヴィルヘルミーナへ目に異変が無いか確認をしようとした途端である。

立ち上がろうとしたヴィルヘルミーナが突然バランスを崩して床に知りもちをついてしまう。



「どうしたの?!」

ヴィルヘルミーナをヘルガが抱き起していたが、ヴィルヘルミーナは天井を指さしたままで硬直していた。


美里が天井を見ると「あぁ」と納得する。そこには不可視化した骸骨の死霊レイスが天井いっぱいに浮いているのだ。


ん?不可視化させている骸骨の死霊レイスが見えている?


「ヴィー?骸骨(スケルタル)死霊(レイス)が見えているの?」

「え?あ!そうか、旦那様の召喚した死霊(レイス)か....心臓が止まるかと思った」

ヴィルヘルミーナは状況を理解して安堵しているが、助け起こすヘルガには意味が解っていない。


そこで美里が気づいたのはヴィルヘルミーナの再生された右目が左目と同じ淡い水色の瞳ではなく、血の様に赤いのだ。



「目が赤いな...」

「旦那様、右目だけ死霊レイスが見える............それに旦那様の....これは魔力?」

魔力?そういえば骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を含めてオリガの軍団(レギオン)祈祷(プレイア)が発動している筈。

可視化していない骸骨(スケルタル)死霊(レイス)は美里でも存在が解るだけでハッキリ見えているわけではない。



「魔眼と言う物でしょうか?」

クロアが言い得る言葉を発した。


『階位』か・・・・よく考えて見たらこの目の色はクロのそれに近い。


「その目は目立ちそうだな、多分ヴィーも権能(ユニークスキル)を取得したのかもしれない、暫くは隠してた方がいいね」

美里の言葉にヴィルヘルミーナも逡巡したが素直に従い先ほど迄つけていた眼帯代わりの布を手にする。



「すまんな、今度可愛い眼帯を作ろうな」

「頼むよ旦那さ.......え?!」

眼帯代わりの布を今までの様に巻き付けていた時である、ヴィルヘルミーナが違和感を感じた様だった。



「あれ?あ、あれ?見える........目を隠しても見える?見えるのとは違う?でもわかるって言うか見える?あれ?ナニコレ」

『階位』恐るべし・・・・・しかしこれは研究の必要性は大きい。




「なにより体が戻ってよかった、今は時間がないから後でじっくりとその目の確認をしないとね。なんか凄い力が手に入った見たいだけど嫌じゃなかったら嬉しいが、どうかな?」

「旦那様!」

ヴィルヘルミーナはと美里に飛びつくと、器用に体をひねり彼をベッドへ押し倒すとその唇を奪う。

そうかと思うと耳や首筋までも舐めまわす。


これは獣人が本気で発情した時の興奮の行為であるが、彼女は人目を(はばか)らずに発情したのだ。


「ヴィー!ヴィー!ちょっと待って!今はそんな時間ないから!」

「ヴィルヘルミーナ!離せカオルから離れろ!」

美里はエサイアスが待っている為に止めたが、ヘルガは嫉妬の限界を超えていたのが理由であったであろう、何発かヴィルヘルミーナを蹴っていた。



美里はヴィルヘルミーナが落ち着きを取り戻した事を確認すると、今後についての説明を行う。


まず美里は一人でラヘイネンペラヘへ向かう。


当然だが安全の為に不可視化したインスラ周辺へ展開している骸骨(スケルタル)死霊(レイス)の、約100体を共にする。



まず今回の召集が横暴な目的であれば抵抗して逃亡、

友好的な場合は、不可視化した骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を伴い召集に応じると大きく分けて話を進める。


逃げる場合は、骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を使いに出しこのインスラへ向かわせる。

そして東外壁区の街門から荷物を持って脱出する様指示をした。


友好的な場合は適宜になるが骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を伝言させて方針を都度擦り合わせる事なる。


同様の内容を骸骨(スケルタル)死霊(レイス)を使い、エーリカ達へ知らせる指示をすると、美里はラヘイネンペラヘに向かう事にした。










だが、小心者の美里薫は足取り重く、気も重かった。

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