第54話 異世界で厄介事に巻き込まれます⑤
第54話 異世界で厄介ごとに巻き込まれます⑤
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「やはりカオルだったか、探していたぞ」
いえ、勘弁してください。
「店主、人数分シガ茶をくれ」
え?座るんですか別の席ですよね?
ヴィルヘルミーナ以外の護衛は別の席に分れて座ったのだが、このエルフ何だか図々しすぎる。
「お貴族様、夫婦水入らずに突然割り込むのは無粋ではないですかね?」
ヴィルヘルミーナが辛辣な一撃を加える。
「まさにその通りはあるが急ぎカオル殿と話をしたく思って探していたのだ、許されよ奥方」
ヴィルヘルミーナ口調は柔らかく微笑んでいるが、有無は言わさない迫力がある。ヘルガと言えば天上人である上級貴族からの声掛けとあり酷く緊張してしまっている。
何より勝手に注文を終え、席につかれてしまっているのは断られることはないという意識があるのだろう、なるほどこれが貴族かと理解する。
とはいえ、貴族様と話す事等は何もない、正直今直ぐ帰ってほしいし、むしろ帰りたい。
「カオル、お前の魔術の師は誰だ?流派は?」
師?!流派?!何それ良く解んない、本をタップしているだけなんですが?
「上手く隠してはいるが飛んでもない魔力量を保有しているのはもう知っているぞ?今は魔力を隠す魔法か何かだろうか?そんな魔法など私は知らん」
なんて答えれば!?
「師の名前くらいは教えても問題なかろう?」
師ってなに?本読んだだけですとか言ったらお手打ちになる?
よし、ひと先ずココはミーカに押し付けてしまおう!
「ミ....」
「ミーカ殿もカオルの魔術は初めて見るとと言っていたしなぁ」
あっぶね・・・・嘘ついてお手打ちコース選択してしまうところだった。
「な....内緒ってありでしょうか?多分信じてももらえないと思うんで」
「....................」
めっちゃ胡乱な目で見られている。
「ふぅ、今はそうしよう。ところで色々聞きたい事はまだあるのだが、貴様のギルドに名前はあるのか?」
「えっと、死霊秘法っという名前です....」
早く帰ってほしい、お茶の入ったコップを持ちつつ小心者の美里はコッソリとカップを持つ右手の中指を立て心の中の怒りをブツケつつ笑顔に本心を隠す。
しかしティオドゥラは、その一瞬の動きを捉えていたらしく目を見開く。
「カオル貴様は貴族の出なのか?」
「え?先祖代々平民の出ですがナニカ?」
「あぁ....いや....うんその..........貴族の作法に詳しいようだと思ってな」
ティオドゥラが何故か少し目を逸らし顔を紅潮させる。
「その、私は男勝りでな....そういった事には慣れていない。ま、先ずは貴様の事を聞かせて欲しい」
ティオドゥラの様子が変だが、適当に流して早くお帰り頂きたい。
そ・し・て・何やらヘルガとヴィルヘルミーナの目が怖い・・・・・・
上級貴族のティオドゥラの手前、2人ともキレる事はないが、ヘルガに関しては美里を見つめる目に深淵の怨嗟を籠めている。
美里本人には何が何やら判らないが、『アダ』さんの件もある、美里が何かわからないうちにマナー違反をしたのかもしれない。
これは後でミーカに理由を聞かねばなるまい。
「こほん、話を戻そう。カオルお前は何者だ?」
「え?平民?というか冒険者?ですが?」
「出身は何処だ、帝国ではあるまい?」
「えっとずっと東の島国?」
「何故疑問形なのだ?」
「東西南北が良く解らないですし人の居る所にもあまりいなかったので?」
「ふむ。と言う事は帝国民ではないのか?」
やばい、不法入国って話になるのか!?
「冒険者は市民権を得る金の為にはじめたのか?」
「え?あっはい、そうです」
大丈夫っぽい。
ティオドゥラは少し眉間に皺を寄せ、考え込むように黙りこんでしまう。
ヘルガとヴィルヘルミーナに助けを求めようと視線を向けるが、2人とも我関せずである。
ヘルガに至っては完全に臍を曲げているため、帰ったらまた現代チートテクニックで逆に謝らせてやろう。
「ふむ、カオル、私の元に来い」
「「「えっ?!」」」
「あぁ、ギルドの者も構わん。むしろ貴様のギルドなのだろ?今回迷宮氾濫を制圧したのは」
ばれてる?ミーカが口を割ったのかと疑うが、それは直ぐに否定される。
「ミーカ殿ははぐらかしてはいたが、実際に敗走した我らが見れば、ミーカ殿のギルド魔石土竜ではどうにもならぬ様な状況と言うのは解っていた。そのミーカ殿にはカオルには関わらない様にと言われたが、私はお前に興味が沸いたのだ」
「えっと・・・え?」
美里は何と答えてよいのか判断がつかなかった、ただ厄介事が舞い込んだと言う事は理解出来た。
「ま、まぁ貴様も私には興味があるようだしな」
ないよ!?
思わず中コッソリと脇の下迄引いた右手で中指を力強く立てた、勿論悪意が気づかれない様に笑顔でである。
「ばっ、わ判った。今日は、その、うん。今日の所は迷宮行政管理区の建設でトラブルが有ったので行かねばならなくてな時間が取れん、具帝を野放しには出来なくてな。また話がしたい、住まいは何処だ?」
「え?あ。今は東城壁区の悪所に住んでますが、もうすぐ引っ越す予定なので何かあればミーカさんに伝言をお願いします」
伝言しても応じるかはしらぬ!と心に強く念じ、クソッタレな気分を再び右手の中指に加え左手の中指もコッソリと立てる。
しかし、流石にイライラして来た為、笑顔を忘れて睨みつけてしまったかもしれない。その結果、ティオドゥラは立ち上がり顔を赤くしていたため、流石に悪意がばれて怒らせたかと思ったのだが、無言で振り返ると護衛に戻る旨の合図を行い小さな声で
「その...なるほど、ハーレムギルドの長と言うだけはあるな、なるほど、うん、その、情熱的だな...」
非常に小さな声であったがヘルガとヴィルヘルミーナの耳に届いたかは不明である、残された席には何やら不穏な空気が流れ始める。
「カオル、あの女に何かしたの?」
目から完全にハイライトを消したヘルガの追及が始まった。
「いや知らんがな!」実際に何も知らない。
「絶対何かしたような感じだったよね!」
ヘルガはヴィルヘルミーナへ向き直すとと同意を求める。
「確かに様子はおかしかったが、何かしたようにも見えなかったが.....それが魔法で助平を働いたなら確認のしようもない。姉嫁様も判るだろ?カオルだぞ?」
どういう意味だ?!
「あ.....そうか....もう!もう!カオルはもう!」
ヘルガは両手をブンブン振って悔しがる、犯人が解っているのに何をしたのか証拠が無くて逮捕できない。そんな気持ちなんであろう。
「しまった!」
突然のヴィルヘルミーナの一言に一瞬びくりとしてしまう。
「カオル!軍の工事がいつ終わるか聞いてくれよ!」
ヴィルヘルミーナが思い出したようにカオルへ噛みつくが美里にとってはあまり重要な話では無かった為失念していた。
「自分で聞いてくれよ」
「「貴族相手に出来るわけないでしょ!!」」
2人に同時に逆に怒られてしまった。
「なんか弟が色々面倒そうな話してたね?」
美里の言葉にヘルガとヴィルヘルミーナはそれはそうだろうと納得していた。
「有名なの?ティオドゥラ様の弟って」
「私が知ってるのは傲慢で我儘ってことくらいだよ」
「あたしも、才能を3人の姉に全部持ってかれた出涸らしってくらいかないあ」
中々辛辣な噂であるが、今まで見聞きした様子では間違ってはいなそうである。
だが、あまり噂をするとフラグが立ちそうなので弟君の話を打ち切り、空気も悪くなった事もありインスラへ戻る事になった。
市場で目をひいた服や生地と裁縫道具を大量に買い込むと帰路に就く。
「なぁ、面倒事になった場合に逃げるとすれば何処に行くのがいいかな?」
流石にこれだけのトラブルが続けば拠点の移動も視野に入れたい。
「「え?」」
流石にヘルガもヴィルヘルミーナも驚くだろう。この都市を逃げ出すのでは、2人が美里と一緒になる意味がないのだ。
「勿論2人には十分な金を残していくし何かあるなら出来る範囲で責任は取るよ」
ヘルガの目に明確な殺意が籠るが、手が出る前にヴィルヘルミーナがヘルガのとの間に入りヘルガを諫める。
「カカ、カ、カオル馬っ.....いぐ.....わだ、わだじも....ぐす」
ヘルガ号泣である、また早まってしまった。
「すまん、早まった。その時は2人とも、逃げる時はついてきてくれるか?」
「いぐぅう~~~~~」
「先にそう言えばいいんだよ、これ以上ヘルガ姉嫁様を虐めてくれるなよ」
「すまん、ただそういう事も起こりえるかもしれないって話はしておいた方がいい」
「あぁ、私の旦那様はどえらい大物だったみたいだしな」
「嫌になった?」
「早く子種が欲しくなったよ」
「ヴぁダじもほじいいい~」
結局、重要な話にもなる為、インスラへ戻り死霊秘法のメンバーを集めて話し合う事にした。
何とか厄介事は回避出来たと安心していたのだが、異変は商館の立ち並ぶ商業区のスラムへ差し掛かった頃に再び降りかかったのであった。
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「カオルの旦那、都市軍から出頭するようにって使いが来てる」
ラヘイネンペラヘの若衆である。
いやん。




