第52話 異世界で厄介事に巻き込まれます③
第52話 異世界で厄介ごとに巻き込まれます③
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「モツパンおいしい........」
美里はまたぞろ発生した迷宮のトラブルの情報に現実逃避を始める。
「昨日突然迷宮ダンジョン広場に大量の資材を大量の都市軍兵が運び込んだけど、今中層で工事している軍と別口らしくて軍同士で揉めてるんだって」
ヘルガは蜂蜜パンの屋台の女将だけではなく、周囲の冒険者や露店主にも聞いて回り情報を集めてくれていた。どうやらオリガに促されていた様であるのは見て見ぬふりである。
「どうも今中層と下層を繋ぐ大坂路の手前に造っている安全地帯がティツィアナ様の指揮でやってるみたいなんだけど、新しく広場に資材を運んだのが弟のティツィアーノの手下らしくて理由は解らないけど険悪なムードらしいって」
ヘルガの聞いてきた話では詳細までは解らないが、またぞろ兄弟喧嘩だろうか?
「とりあえず状況を確認しなければ何とも言えないね。そういえばエーリカ、モノポリーから今日は報告は有ったの?」
「報告は日が昇り、冒険者の動向が落ち着いた後に私の元へ参りますので本日の報告はまだかと存じます。広場に行けば連絡取れますので判断はそれからが宜しいかと思います」
「今日みたいにギルドの皆が出かけちゃってたら報告はどうなるの?」
「我ら眷属は主様の存在は常に感じることが出来ますので、ダンジョン付近に居られれば主様の元へ先に参じるでしょう」
え?もしかして使役したアンデットから逃げたり隠れたりできないの?
ナニソレコワイ・・・
「どのみち俺もヘリュも広場まで行くつもりだったから、その時に確認するかぁ」
美里は彼自身が迷宮に近づくとフラグが立つのだろうかと辟易してしまう。
「いずれにしよ広場に行けば魔石土竜の人もいると思うから話を聞いてからだね、魔鉱石さえ手に入れば無理して迷宮に入る必要もないしね」
ヴィルヘルミーナは少し不満がある様だが、美里としてはあまり揉め事には関わりたくはない。
「んじゃあまずは迷宮ダンジョンに向かいますか」
美里の号令にギルド死霊秘法の面々が移動を開始する。
その時ヘルガが物足りなそうな顔をしているのを察してかオリガが蜂蜜パンを買い足してヘルガに与えていたのだが、オリガはヘルガを甘やかし過ぎではないかとも思ってしまう。
しかしハムスターの様に蜂蜜パンを食むヘルガたんは可愛く美里もついほっこりするのだが、ヘルガたんが中年になったら太りそうなので注意しなければいけない。
◆
迷宮前広場へ到着すると迷宮内に入れず立ち往生させられ殺気立つ冒険者達で溢れていた。
中央を見れば迷宮の入り口の門が閉鎖されている様で、門を閉鎖している都市軍兵と別の師団と思われる装いの違う都市軍兵の押し問答を取り巻く冒険者がやいのやいのと怒鳴りつけている。
既に暴動寸前であるのが見て取れる。
「今日は撤収だ、否な予感がする」
これは関わらない方がいいかと思い全員に指示を出していると常駐の都市軍兵と思われる装いの数人が美里を凝視している様子を感じた。
「直ぐに広場を出るぞ」
本格的に嫌な予感がしたため渋るヘルガの手を強引に引き広場の外へ向かう。
「なるほど、権能を使います」
オリガが都市軍兵が美里に向かってきてるのを察し、認識疎外の軍団祈祷を発動した。
広場を出ると急ぎ足で裏通りに入り追跡者からの追跡を少しでも回避できる様にする為である。
当然オリガの認識疎外は十分に効果を発揮してはいるが、美里を視認し真っすぐ向かっていたという事があまりにも不安すぎた。
そしてオリガの軍団祈祷と言えども、美里の持つ魔力量や魔術的存在感が大きい為、権能を持つ者や感覚的に鋭い物に補足される可能性も十分に考えていたのだ、事実ティオドゥラやミーカは魔力隠蔽を乗り越えているのだ。
◆
「モノポリーがやってまいりました」
美里達は東区の商業地区まで戻ってきていた、さすがにここまで兵士たちが探しに来ている様子は無く一息ついた時であった。
「やっぱり俺の召喚したアンデットだから場所が分かった感じかな?」
「その様ですね」
どうやら広場まで来たのに引き返したため、急いで使いを出したのであろうか。
少し緊張して喉が渇いたためカフェのような食堂の前に並んぶテラス席を陣取り、人数分の茶と菓子を注文するとモノポリーを迎える発言を促す。
しかし此処で美里は恐ろしい事に気づいてしまう。
ミルクティ1杯大銅貨1枚・・・・以前、商店アーケードでヘルガと2人で飲んだミルクティは1杯大銅貨5枚だった気がする・・・物凄いボッタクリ・・・・・いや、かなりの高級店だったのだろう。ヘルガが緊張していた理由が物凄く良く解った。
「主様ご機嫌麗しく、喜ばしく存じます。広場でお見かけした為のですが、あの場では問題もあるかと存じまして追いかけさせて頂きました」
「いやいや、かえって助かった。今迷宮の広場で起こって居る事は把握できているかな?」
「昨日の夕刻より騒ぎがはじまり、軍属共、冒険者共の話を集めております」
「おお~!助かる!仕事できる子で助かる」
「恐れ入ります。では早速で御座いますが、現在広場の中には大きく分けて5つの勢力がおります」
「おおくね?」
美里としては軍Aと軍Bに冒険者の3つ程度と考えていた、勿論それは単純に考えればその通りではある。
「仰せの通り、軍の中の兵士にも『派閥』と言うしがらみがあるようでございました。最初に中層の大坂路で建造物を作り始めたのは都市長の指示である様ですが、そもそもの発案は長女ティオドゥラの様でした」
「ティオドゥラってあの怖そうな女のエルフか...」
迷宮の初探索のひに声を掛けて来た女性貴族を思い出す。
「実際の敷設の指揮はティツィアナと言う女エルフで御座いました。敷設内容は大坂路の上、中層側に関所の様な建造物を作り氾濫発生時に対応するための物でしたが、突然ティツィアーノと言う男が部下を引き連れて敷設工事の現場の指揮権を奪ったのです」
「え?平和的に?」
「攻撃的にで御座います。制圧当時には現場指揮官のティツィアナは不在で御座いましたので、ティツィアーノが強引にその場を取り仕切り始めて敷設内容を強引に変更し大坂路を『封鎖』すると言い始めたのです」
「封鎖?下層に入れなくなるっていうか下層から怪物が出てこない様にするって事かな?そんな事して大丈夫なの?」
「我々には問題は誤字ませんが、迷宮側はどう考えるでしょうか?正確な回答はしかねますが今回の怪物氾濫は、主様の懸念の通り我々デスマーチ軍団が入り込んだためと思われます」
「どゆこと?」
「確認出来ているのは、我ら骸骨死霊が迷宮で生まれた怪物モンスターを狩るとその分を迷宮ダンジョンはン防衛力を補なおうと怪物が生成を促進した可能性があります。しかし我々デスマーチ軍団が迷宮の霊体系怪物を積極的に捕食していた為、中層で魔素の供給が追い付かなくなり下層から怪物モンスターを補強しようとしたのではないかと考えられます。事実、我らが狩りを止めると下層からの怪物モンスターの流入は止りました」
迷宮でも実験は行ってくれていた様でモノポリーも優秀である。しかしモノポリーの話は続いた。
「迷宮の魔力は地下から湧く地脈から得られおります、迷宮その物ではなく大地から湧き出ている物で迷宮がコントロールしている物でもありません。今でこそ迷宮の主は最下層への侵略を拒む為のみ力を振るっておりますが、有り余る魔力が保有限界を超える様であれば前回以上の氾濫を起こす可能性もございます」
それはそれで面倒なにおいがする。
といっても封鎖した所で壁の向こうから50m級の巨人が現れて壁を崩壊させたり、外骨格装甲を持った巨人が門に突撃してくるなんて事までは無いだろうし、積極的介入と言う選択肢は無しだ。
「モノポリー達は危なくならないかな?」
「我々は下層への侵入を控えていますので判断は出来かねます」
モノポリーに偵察させているのは広場から中層迄である為、下層の状況までは判断する材料が今は無い。
前回の怪物氾濫の発生原因で、デスマーチ軍団の骸骨死霊に原因があったとすれば、迷宮がどういう物かを理解できるまで刺激をしない方が良いと考えていたからである。
「ん?あれ?迷宮の主?そういうのが居るの?」
「正確にはそれが人格を持つ者なのかを推し測る事は出来兼ねますが、仮に迷宮主と呼べる何かが主様と同様に、眷属として怪物を生み出している事は間違いありません」
「人間なのかな?」
「想像も出来ませんが怪物氾濫にはタイミングが悪く都市軍の下層訓練を行った事も大きな理由になったかと考え得ます」
「調べておきたいけど.....怖いなぁ」
モノポリーからの不確定な情報にあらゆる不安を感じ美里は異世界の未知の部分へ不安を募らせる。
「エーリカ、オリガ、最善は何だと思う」
「戦力を強化し、下層の制圧が最も早道で御座いましょう」
「魔鉱石を手に入れる為にも下層の制圧は必要でしょう」
情報が足りない以上、エーリカが言うように実力で情報を勝ち取るしかないだろう、オリガに関しては武器を作る為の魔鉱石で頭がいっぱいかな?
「モノポリー達は迷宮の魔力で自己強化は出来るの?」
「少しづつですが可能でございます。ただ中層の魔力量は多くは無いので、偶に下層からやってくる幽霊を喰らう方が強化には有効で御座いましょう」
美里は少し考えこむ。
「迷宮主が存在するとして、都市軍に通路を封鎖された場合に何を考える?そもそも迷宮ってどういう存在なんだろう?」
「調べてるのも楽しそうだね」
美里の疑問にヘルガは楽しそうに笑う。
「とりあえず暫くは迷宮に入れなそうだし、迷宮の調査をモノポリーに任せるしかないかな?」
「主様、怪物の氾濫を意図的に起こすのはいかがでしょうか?」
オリガである、魔鉱石が欲しいのは判るが事件性の強い行動は控えたい。
「えっと、あまり他の人に迷惑をかけるのは避けたい」
「死人がでなければ宜しいのでしょうか?」
オリガが危ない事を言い始めました。
「駄目」
「怪物モンスターのスタ...」
「駄目」
「封鎖している中層の....」
「駄目」
「一時的に...」
「駄目」
「あんぜ....」
「駄目」
怪物を氾濫させれば人が死ぬ確率がある、美里にはそんな悪意が介入する行為は極力避けたい。
「あの.....その...」
美里の揺るぎない拒否に普段は凛としたオリガもしどろもどろになる。
「ねぇカオル!何とかならないの?!魔鉱石が必用なんだよ?」
口を開いたのはヘルガだ、気持ちは理解出来るが揉事を起こしてまでの事ではないと思う。
魔鉱石の一般流通量は非常に少ない事は解っている、相当量の確保には間違いなく迷宮ダンジョン下層への探索が必要なのは明白だ。
両腕を汲み、美里は思案する。
「怪物の氾濫は論外として、とりあえず迷宮に入るとなれば都市軍と問題を起こす事になる、暫くは静観しよう」
「都市軍と言うのは、あのティオドゥラとか言うエルフの女が最強なのでしょう。モノポリー指揮下の骸骨死霊であれば、あの程度の雑兵の1000や2000は瞬く間に殲滅できましょう。そのまま我がデスマーチ軍団の兵も増えて一石二鳥で御座います」
エーリカがとんでもない事を言い始めた、美里としては物騒極まりない発言は放置できない。
美里にとってはティオドゥラは面倒事イベント発生のフラグと考えており、面倒事を嫌う美里としては正直接触を避けたい相手である。
次に見かけたら心の中で中指を立ててやろう思うほど避けたいと思っている。
実際に中指を立てても異世界ならば意味までは解るまい、笑顔で呪ってやろう。
「みんな、聞いて欲しい」
美里は真剣な面持ちで皆に向き直すと皆居住まいをただす。
「俺はデスマーチ軍団は正義の味方で在りたいと思う、決して殺戮者じゃない。もちろん悪い奴には容赦するつもりはないが敵対する意思を持たない相手を殺すのは極力避けたい」
美里の考えに、ヘルガは少し嬉しそうである。
「だからこそ信頼於けるエーリカへ、デスマーチ軍団の軍団長を任せたんだ。対話できる相手とは極力話し合いで平和にいきたい」
「我が主様の御心みこころのままに」
軍団長と呼ばれエーリカは美里へ恭うやうやしく頭こうべを垂れる、その表情は恍惚を讃えていた。
「今日は解散して、各自で買い物でも...あれ?」
暫く雑談しゆっくりと過ごし、シガ茶を飲み終わり美里が席を立とうと考えた時であった。
「エーリカとヴィルヘルミーナは?」
2人が居ないのだ。
ふと周囲を見回すとエーリカとヴィルヘルミーナが誰かの肩をがっしり掴んでいる、まるでカツアゲをしているヤンキーの様に・・・・・被害者は誰だ!?
謝罪する準備をした方がいいだろうか?




