第50話 異世界で厄介事に巻き込まれます①
第50話 異世界で厄介ごとに巻き込まれます①
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―――――――――――――時は少し戻る
ヴィタリー鍛冶屋での注文から8日程過ぎた頃であった、それまでの間は美里は東壁街通りの測量や増えていく買取予定のインスラの確認等と忙しく過ごし、購入済みのインスラの本格的な工事も着工していた。
工事の始まった現場を見れば、身なりの良い者も多く東壁街区外出身ではない東区全体から来た職人も混ざっている事が解る。
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「エーリカ、予定より早いんだがお前の武器が出来たらしいんで明日取りに行こう、多分俺じゃ運べないから」
美里はその日の夜。ラヘイネンペラヘのメンバーから伝言を受け、エーリカの為に作成していた武器が完成した事を伝えヴィタリーの工房へ向かった。
他のメンバーもエーリカの新しい武器に興味があったのだろう、結局翌日は美里とエーリカ、オリガ、ヴィルヘルミーナ、クロアとクロエで向かう事になる。ヘリュは現在、キヴァ・エラマも活動が忙しくなっていた為、見送りだ。
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翌日、美里達の朝は遅かったのだが、基本的に夜寝てはいないオリガが毎朝の朝食を用意している、それがこの数日の日課である。
メニューは基本オリガ任せではあるのだが、塩気を好む美里とヴィルヘルミーナに対して甘味を好むヘルガの為に蜂蜜を含んだ古来ローマでも一般的な屋台パンへ更にタップリの蜂蜜を付けて食べていた。
驚いた事に蜂蜜自体は高級品乍らも割と一般的に流通していた。
飲物もクロアが用意してくれたお茶でウーロン茶の様な味にミント風の香りと後味がするミト茶と言う物に山羊乳を入れて飲んでいる。
かなりの量を毎朝買い出しに行ってくれているのだが、嗜好品として食事を必要としないエーリカやオリガ、クロア母娘もモリモリ食べている。
そして欠食児童を許さない教の教祖たる美里の指示にて、アルアとアルマにも朝食を買い別け与えていた。
実はアルアは基本的な読み書きが可能と判り、やらせてみては簡単な計算も正確に行えた。
今後人材は必要である事から現在は娼婦家業を引退させ、キヴァ・エラマの事務仕事を与えてもいた。
今後はキヴァ・エラマ本社完成後にはの売店を任る予定なのだ。
その為、既に売春婦は引退し日中にアルマとクロエへ読み書きを教えている。
そこにはたまにヘルガも参加して怪しい読み書きを矯正していた。
キヴァ・エラマへの勧誘を行った時にはアルアは丸一日泣き続けていた、それにつられてアルマも泣き止まず大変だったのだ。
キヴァ・エラマの寮が完成すると其方へ引っ越しする事も決まっていた。
生活苦に極限まで苛まれた母娘の日々は想像以上に厳しいかったのであろう。
「オリガさん、コノお茶チンして」
ヘルガがオリガにお茶を温めてくれと頼む。
なんとオリガを含め高位のアンデット達は魔力を熱変換してお茶を温められるのだ。
これを知って美里は『チンして』とお願いしていた所、以来ヘルガ達も温めてもらう時に『チンして』とお願いするようになってしまった。
もしも外に転生者や転移者が現れた時に聞かれたらどう思うのかと笑ってしまう。
面白魔法についてヴィルヘルミーナに聞いてみたが、通常の魔術師はそんな事は出来ないらしい。
どうやら権能で魔力を熱エネルギーに転換している様であった。
ヴィルヘルミーナは死んだら直ぐに美里の眷属にして欲しいと言い始めた。
クロアから死後直後であれば自分の魂のままで復活できるのだと聞き、是非にと頼まれた。
当然それを聞いたヘルガからも絶対に自分の魂のままで復活させてほしいと懇願された。
その時には、胸が大きくなる様に頼まれた。
「カオルの眷属にっていうかアンデットになったら子供は埋める?」
朝食中のヘルガの唐突な質問であったが、答えは誰からも返って来ない。
「じゃあ、死ぬ前に産んどかないとだなぁ」
ヴィルヘルミーナが独り言ちる。
保留案件となってしまったが、コッソリとクロアが悪い笑みを浮かべていたのは美里は見逃さなかった。
たまには呼んでもいないのに3階住人のヒルマとヤーナが朝早く起きた時に勝手にやって来た。
当然食事をせびる為であるが、朝食を共にするうちにキヴァ・エラマの風呂計画へ興味を持ちキヴァ・エラマへ入社希望をされた。
断る理由もなく承諾したのだが、その日のうちに働いている売春宿の主とは話がついた様でキヴァ・エラマの本社が完成と同時に娼婦稼業を引退する事に決まった。
そうして日々毎朝が賑やかになっていた。
余談ではあるが、毎朝クロアが行っていた主への奉仕活動であるオハフェ―――――
【自主規制】
――――――奉仕活動をクロアの許可を得てヒルマとヤーナもが寝惚けた美里の知らない間に行っていたが、ヘルガに気づかれ大事件に発展したのは恐ろしい体験であった。
◆
「金棒?戦槌いや槍でもないし杖か?」
ヴィタリーから差し出されたエーリカの新しい武器、それはヴィルヘルミーナをして見た事が無い物である。
「まぁカオルの旦那からは金棒って依頼じゃったが、出来てみて思ったんじゃがこいつは杖の部類だろうな」
ヴィタリーが一息つくと再び口を開く。
「戦杖とでも言う新しい武器じゃ」
「戦杖?!」
自らの武器となる物の名を耳にし、エーリカは表情こそ動かさなかったが、心のうちは歓喜に満ちていた。
「じゃぁ、この世界で初めての武器?世界で最初の戦杖って事になるのかな?」
「そうじゃ!ワシは世界で初めての武器を作ったんじゃぞ!うぉおおおおおおおおおお」
ヴィタリーが両手でガッツポーズを取り大声で叫んだ。
「エーリカ、これ使える?」
「我が主様、素晴らしい武器をありがとうございます。まるで我が腕が増えたかのような感覚で御座います」
エーリカが自らに下賜された武器を持ち、数回振り回すと歓喜の笑みを浮かべ美里へ感謝の言葉を伝える。
戦杖の形状は長さが約2m緩やかな角度の稲妻のような形状で平べったい板状、峰は山型で縦から見れば長細い六角形をしていた。
戦杖全てが魔鋼製で持ち手部分の拵えは1mm程の幅の横溝を掘りグリップ力を上げている、このグリップの加工はこの時代としては画期的でヴィタリーが特に気合を入れていたという。
「魔力の通りが素晴らしい....」
戦杖を手にしたエーリカがソレに魔力を籠めると戦杖全体に葉脈の様に広がった魔力の筋が全体に至ると戦杖ウォーロッド全体が薄く緑に光った。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおお」」」」」
それを見た死霊秘法の面子も工房の面子も思わず大きな声を出し驚愕する。
エーリカも興奮が抑えきれない様子で、工房の外に出ると戦杖を振り回し風切る轟音が振動となり周囲に轟く。
ヴィタリーが鋼の棒を取り出し外に飛び出すとエーリカに鋼の棒を叩くよう地面と平行にして横へ突き出した。
キン!
エーリカが振り下ろした戦杖は太さ5~6cmある鋼の棒を鮮やかに切断してしまう。
その結果にはエーリカやヴィタリーのみならず、周囲にいた人間すべてが歓声を上げた。
「ヴィタリー、私の金棒はいつできるのです!?」
興奮が隠し切れなくなったオリガがヴィタリーに詰め寄るが材料の関係で質が劣っても良いならば20日程度と言う。
まず美里が依頼したデザインが複雑だったという事が原因でもある。しかしオリガとしては質が下がると言われ納得できるはずもない。
「どれ程の魔鉱石が必用なのです」
殺気に似た怒気を籠めたこえでヴィタリーを脅迫…もとい質問をする。
「前に前回と同じくらい欲しいと言ったじゃろう、なにせあれよりも豪華な造りの注文をされとるんじゃ、仕方なかろう!魔晶石や魔石は十分貰っとるんじゃがのぅ」
ヴィタリーはおっかな吃驚な回答していたが、それを聞いたオリガは目を輝かせる、なにせ今目の前で見せつけられた美しい戦杖よりも豪華な造りと聞いてしまったのである。
「主あるじよ!魔鉱石の回収の為、早速ダンジョンへ入ってよろしいでしょうか!?」
「お、おう」
魔鉱石は既に残っていた手持ちの袋半分の量を渡してあるが、つまりはもう半分が足りない。
オリガの勢いに美里が了承するとギルド死霊秘法のメンバーが歓声を上げた。
「私達も欲しい!迷宮に行こう!」
ヘルガとヴィルヘルミーナだ、彼女達も目の前で見せられた美しい武器が欲しいと思ってしまった。
「魔鉱石が有るのは殆ど下層だからアンデット達に任せよう」
美里は正直、血盟デスマーチ軍団があるのだから、嫁ポジションの2人に危険なダンジョン下層の探索は必要ないのではないかと進言したのだが
「そんな甘えた事はしたくない」
「闘いたい!」
ヘルガとヴィルヘルミーナの意見で明日は朝一番で下層に探索する事を決められてしまった。
オリガは仮の武器として、ヴィタリーからタダ硬い鉄の棒を借りた、と言うより奪っていった。
明日は美里とヘリュは探索にはいかず様々な事業の会議や関係各所とのミーティングである。
ヘリュに全ての計画を落とし込んでいるので実際は彼女に丸投げも出来そうなのだが発起人がサボるのも具合が悪い。
◆
その晩は翌日の迷宮探索の作戦会議だ。
当然目的は魔鉱石の採掘である。
4号改めモノポリーが行う毎朝の報告時で魔鉱石のを見つけるのは可能であろう。
採取自体も骸骨死霊達で可能であるが骸骨死霊達では外に運び出すことが出来ない。
ここ数日も中層の探索は行っていたが、下層までは入っていなかった。
理由は前回の怪物の氾濫により、下層の怪物の脅威を減らす為に都市軍兵が中層側の下層入り口部分で安全地帯の様な壁をの建設工事を始めてしまい、冒険者の通行を禁止していたのだ。
いままでは下層入り口に安全地帯と呼ばれる管理区域は設けられて無かったのだが、今回の事件で安全地帯と言うよりも防壁や砦と言った物の様な建造物を作る事になった様である。
一先ずは中層の魔鉱石既に全買い取り尽くしている、下層でも骸骨死霊に収集させる予定なのだが、今の状況では下層に入れるかが現地に行かねば判らない。
ギルド死霊秘法の迷宮探索はいつもタイミングが悪い。
今回の問題は事前に察知出来ただけましではあろう。




