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第5話 異世界での生活がはじまります②

005-1-003 (編集版)

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美里薫 享年36歳、異世界転移で送られた世界の記念すべき1日目である。


ヘルガの住む集合住宅(インスラ)を降りてゆくと2階の大家さんの住居らしく、1階まで下りるとそこは大家が営む麦藁(むぎわら)細工工房であった。


「ヘルガが男つれこむたぁ目づらしいな」

「うん、連れ込み料払うね」

「おぅ」

どうやら、売春宿ではないのだろうがヘルガの仕事柄そういう事もあるのだろう、そういう場合の取り決めがある様だ。


しかし、昨晩はお金を払ったわけでもない。


美里は少し悩んだのだが今日のところは食事をごちそうする事で良しとしようと考えた。ヘルガは小さな皮の茶巾袋から大銅貨(イソ・クパリ)何枚かを大家へ手渡していた。


多分、日本円で数百円くらいだろうか、安い・・・この世界の物価や価値基準は日本のソレとは大きく違うのだろう。

正直、日本でヘルガ級の女の子と一晩中マイムマイムしたら胸が残念なのを

差し引いたとしても10万や20万はくだるまい。


一晩の宿も取れたことを考えると破格に過ぎる。


大家の爺ちゃんは見たところは60歳手前位だろうか、こちらには顔を向けず黙々と手を動かしている、なるほど職人である。


横には孫であろうか12~13歳位の娘が作業を手伝いつつもチラチラとこちらを気にしているが、やはり昨晩の戦いの残滓を美里の背中に見ているのであろう、顔が赤い。


(残念だが君が俺と戦うにはあと5年は必要だ)

そう美里は心の中で語る。


「ヘルガをアンアン言わせ取ったのはおめえか、不感症を豪語していたヘルガがあんな声出すなんて思ってもみなかったぁ」

美里達が横をすり抜けようとした時だった、大家がぼそりと口を開き、その降格を軽く上げている。


「あーあーあーきーこーえーなーいー」

顔を紅潮させたヘルガは耳を両手で塞ぎ、すたすたと外へ向かってしまうので、おいていかれまいと美里も軽く会釈をして後を追う。


ヘルガはこう見るとウブ過ぎて娼婦とはとても思えない。


あれ?ヘルガって不感症なの?昨日のは演技なのかな?確かに昨晩のヘルガの声は激しかった・・・これは


やっぱり演技では無さげ?


「何されたんだよ…あんな凄い声…ゴニョゴニョ・・・」

孫娘が去り際にポツリと呟いていたのを、美里の耳はハッキリ捕らえていた。僅かに内またをモジモジしていたのも見逃さない!


キリッ(`・ω・´)


美里も面と向かって言われれば恥ずかしくもあるが、昨晩のヘルガとの戦闘では前世終盤ではほぼ失われていた『人』として『男』としての自信が取り戻せた気もしていた。ヘルガには感謝しかない。


しかし、異世界はまだまだ転生者である美里薫にとって問題が溢れている


まず一つ目、日中になると気温が上がるせいか、とにかく臭い!マジで臭い!

4階も臭いと言えば臭い。


風呂のない世界の住人の部屋だと言われれば納得も出来るレベルだ、だが1階は別格である。


1階の階段付近から明らかに糞尿の臭いが籠るエリアが存在したのだ。


ボットン便所であろうか?


肌感覚で25度くらいの気温である、糞尿も一晩おけば醸されて中々のスメルを放っている。扉はあるのだろうが決して誤魔化せていない。


異世界で最初の難関である。


次に道路だ、外に出たが昨晩は暗くはっきりとは見えていなかったが、インスラを出た目の前には10m程の高さの石壁があり、壁に沿って10mななさそうな程の幅の1本道が真っすぐ続いている。


道路も道路でだいぶ臭い!


ある程度の距離ごとに地区を分ける壁があるというのだが、舗装されていない道路はでっこぼこ、道端の所々に穴がある、汚物の臭い、何かが腐った臭い、現代日本では嗅いだことのないような臭い・・・


「なぁヘルガ、トイレとか上下水設備はこの街にはないのかな?」

美里の問いかけにヘルガは首を傾げた。


『トイレ』と『上下水道』がどのような翻訳をされているかは不明だが、言葉を変え身振り手振りで伝えてみる。


結果『上下水道』という言葉が存在していない事が判明する。


古代ローマ帝国レベルの文明であれば、有りそうな物だがどうやら文明という物は、前世の世界とは進歩の仕方は同じではないらしい。


トイレについては最初は首をかしげていたが、暫くすると『オマル』という言葉が飛び出てきた。


目を丸くしていると笑いながら『オマル』も貴族や金持ちが使うものらしく一般的には家の中で排便壺と言う物があって、その中にすると言う。悪所では溜まったら外壁側にそのまま捨てるというのだ。


排便壺の中身は毎朝、大家の爺さんがインスラ前の壁に捨ててくれているらしく・・・そりゃあ道も臭い訳である。


ヘルガの住まうインスラの1階の階段下に排便壺があり、住人達はそこで排便をするらしい、そして便所としての扉はない、丸見えである。


そりゃあ臭い訳だと得心する。


恐る恐る尻を拭くのはどうするのかを聞いてみた所、排便壺の直ぐ脇の壺に藁屑が入っているので、それを(ほぐ)して前も後ろも拭くと聞き、少しだけホッとする、素手でなくてよかった。


この衛生環境では疫病が蔓延しそうな気もするし潔癖大国日本から来た美里としてはとても気になるため聞いてみた所、実際この帝国でも5年前に疫病の大流行があったらしく悪所では半分近い人間が罹患して亡くなったと笑っていたのだが、まったく笑い事ではない。


異世界の死生観は美里の持つそれとはだいぶ乖離が見られるようで全く安心できない。


そして市場方面へ進むと見てはいけないソレが目に飛び込み美里は眩暈を覚える。死体だ、明らかに人間の死体が数体転がっている。


「ヘルガ?」

「見ない方がいいよ、こういうのは貧民街(スラム)じゃよくあるから、カオルは見ないほうがいい」

ヘルガは一瞬死体を見ると一瞬驚いた表情をしたが、その後は何も言わずに前を向き歩き続けた。見知った顔なのだろうか?


しかし死体放置は流石に臭いとか治安が悪いとかのレベルの話ではない。


「カオルは悪所は初めてかな?酷い所でしょここは......」

ヘルガは気まずそうに笑っている。


「おいおい、ヘルガに会えただけで差し引き滅茶苦茶良い所だよ」

誤魔化すように明るく返す。しかし気遣いだけではない、臭いけどこんなモデルの様な美女と一晩を過ごせたと思うと得た物の方が大きいとは思える・・・臭いけど。


ヘルガは美里言葉に驚いたのか足を止めると目をパッチリと見開き振り向く、しばらく美里の顔を見つめ固まる。


「え?、あ...そ、むこ、少し...あ...歩けば直ぐ区壁です...だよ、そこを潜れば少しだけマシになるからね、さっさと行こう」

突然再起動したかと思うと顔紅潮させ、前に向き直り早足で歩き始る。


早い、さっきより早い。美里を置いてけ堀にしてしまう。照れているのだろうか?あまり褒められ慣れていないのだろうか?実に可愛らしい、ヘルガたん可愛いしかないぞと美里はにやついてしま。


金持ちにだと思われただけこんなにも女受けが良くなるのかと感心する。


「そうだ、カオルの歳はいくつなの?どこからきたの?」

何気ない質問だ、はい来ました異世界転移のテンプレ課題!転移者ではなくても聞かれる質問でもあるが、嘘をついて今後の会話に(ほころ)びが出るのも良くはない。


しかし、異世界と言う概念がどう通じるかがわからない、特に文化レベルが低い土地では一言間違えれば『まさかの時の宗教裁判』というやつだ、言い直しや訂正で許されればいいが、突然火あぶりなんて話は勘弁してほしい。


「テンプレで言えば遥か東の島国だ、享年…じゃなくて歳は36歳だな」

翻訳出来なかったか、言葉の一部が理解できなかったのか。ヘルガは一瞬キョトン首を傾げたが直ぐに驚いていた理由が意外な物だったと判明する。


「36?!36歳?!そっか、魔術師だもんね、そっか、凄い魔術師だもんね!」

「いくつにみえたん?」

「25くらい?」

驚くヘルガに聞き返すと、またしても首をちょこんと傾げて回答するヘルガだが、その姿がとても可愛らしい。


しかしこの世界の魔術師は老化が遅いのだろうか?


異世界の人類の老化過程が解らない、もしかすると同じ人間に見えて地球人と異質な生命体の可能性もある、そこについては追々調べて行く必要がある。


とは言え文化レベル、医療、生活習慣、食習慣、生活環境等々、老化にかかわる要因はそもそも多い。


美里自身の経験でも自分が子供の頃の60歳イメージはもうヨッボヨボの爺さん婆さんだったが、現代での60歳でも若々しく40歳と言っても通じる人も多い。


近代日本でも、国民の栄養環境の改善、経済的理由を除いた栄養バランスが改善されたと言われる時期は昭和50年代である。古代に近い環境では栄養バランスや医療状況は悲惨な事が予想できよう。


糞尿や死体がそこらにまき散らされているこんな街では推して知るべしだ。平均寿命も30歳を割るのではないだろうか?こんな劣悪環境であれば60歳まで生きたらご長寿さんなのだろう。


「おどろいた大家とそんなに変わんないんだ…」

ヘルガは心底驚いているがいやいやこっちが吃驚(びっくり)だ。


「大家いくつなの?!」

「40歳くらいだったっけかな?」

ヘルガが人差し指を唇の横に当てて考えるその仕草が可愛い。


「横にいた子....お孫さんは!?」

「孫娘、今年で11歳っていってたかな?」

こっちは大した年齢の誤差は無し!


「カオルは…若い子が好きなの?」

「ちゃいます!」

ヘルガの不愉快そうな問いかけに、不審者認定を受ける前に光の速さで否定する・・・のだが・・・もしやヘルガたん嫉妬か?


「そっか......なら...いいけど」


なるほど大家が40歳で孫がいる年齢って事は、15歳くらいで子供を作って、更に子供も15歳くらいで子供作れば計算は合う。

それが一般的な世界なら11歳にもなれば結婚や出産もあり得る話なのかもしれない。ロリコン扱いではなくもしやライバルの確認なのかと美里はすこし嬉しくなる。


しかし流石に自意識過剰だなと自省する。


ただヘルガからは好意をヒシヒシと感じている、それが商業的な理由だとしても正直もの凄く嬉しいし、生前のデスマーチ生活をしていた時にはとても考えられなかった奇跡であろう。


もはや異世界基準の予測は難しい、ラノベのパターンでは風呂もトイレも電気も普通にあって魔法で掃除洗濯出来てってのが当たり前だったが、現実にはそんな訳はない。


魔法が存在する世界と言っても文化や文明の進化には一定の法則はあだろうし、見た目が古代ローマ風味でも恐らくは別物である。


この世界に転移したのだから慎重に考え、この世界の諸々をしっかりと覚えていかなければならないだろう。


不思議と前向きに考える事が出来るのは異世界転移で健康な肉体を手に入れた為なのか、それともヘルガの様な美女と出会った・・・と言うか一晩中マイムマイムな時間を過ごしてテンションアゲアゲだからであろうか?


生前、何度も転職を考えたことがあった。仕事を探すのも新しい人間関係を作るのも新しい仕事を覚えるのも面倒だと終ぞ実行にはいたらなかった。


死んだ気になって新しい環境に飛び込めば、もっと楽しい人生もあったのかもしれない。


それこそ気の持ち様で様々な可能性が在りえたかもしれないと考えたが、横にいるヘルガの顔を見ると全てがどうでもよくなっていた。


だって昨日、この美人と一晩中踊り明かしたのだ、もう過去なんかどうでもよくもなる。


実際に死んだのかは一考の余地もあるのだが、異世界転移した今はこの世界で生きていくのだ、半ば強制的な前向転身なのかもしれないが今から頑張れるのだ。


「えっと...カオルは結婚はしてたりはしてるの?」

ヘルガがから直球が飛んできた。もしかしたら本当に男として見られている?


いやいやいや、相手は売春婦である、単純に客としての値踏みをされているのだ、相手はプロなのだ勘違いしてはいけない。


嫁がいたら足しげく通う事は困難であるのだ、その確認だ。


しかし万が一と言う事もある。ここはこのヘルガからの投球に対しシッカリと打ち返すか、それとも送りバントか、それとも見逃しか…いや、ここは桃色の未来を信じて打ち返そう!


『していない』と口を開こうとした瞬間、ふと脳裏に茶巾袋の一件が思い浮かぶ。


あの金を見られていた!?


多分、この世界では結構な金額だった筈。


本当にお金の音に気づかなかったのだろうか?


否、あの時には金貨を見て、あえて茶巾袋だけを話題にした?...これはどう言う事なのだろうか?


お金は見ていない場合。今は現金が無いけれど身なりが良いから貧乏ではないだろう。独身ならば女を買うに躊躇(ためら)いもない、超上客だガッチリ営業しよう。


うん。普通に考えればありそうだ。


お金を見ていた場合。金持ちだから結婚してあげる...という話であれば.......


ありだ!ヘルガは売春婦と言う部分に膨大なリスクを感じる、背が高く、胸が残念ではあるが、顔が正直に超好みである。


話した雰囲気では素直で真面目そうでもある、なにより20歳の娘と結婚なんて奇跡ともいえる。これはあり!あり一択だ!


とはいえ現実には『超上客だガッチリ営業しよう』これが一番可能性が高い。


しかし...最悪のパターンもあり得るのだ。


お金を見てこう考える。大金を目にして魔が差すという話はよくある事だ。この人当たりの良さもデレも全てが演技、初見で金持ちや貴族と考えたヘルガは美里を客として誘い込んだ、そして今朝の茶巾袋の大金を見た事で、騙して奪おう、いや!いっそ殺してしまおうと考えたという話も十分にある。


異世界転移24時間以内でデットエンドは避けたい!24時間以内に2回死ぬと言う状況はギャグマンガでしかあってはならない展開だ!ここは危険を避けて様子見一択・・・安全が担保されるまではそれが正解である。


送りバント・・・心は決まった。


「独身です!!」


キリッ(`・ω・´)


どうせ一度死んでいる!お金だって元々無かった様な物だ!もし惚れられたならハッピーがラッキーである。

南無八幡大菩薩、1/2の可能性にhappy_lucky_shirayasunosakuyahimeへ柏手連打でお祈り捧げてて全額ベット、今夜はヘルガと全力ベット!


何だか物凄く気合を入れて答えてしまったせいか、ヘルガも勢いに驚き目を丸くしている。


うん、空気が読めなかったのか?!こういうのは慣れていないと肝心な所で失敗する、生前にもっとコミュ力を鍛えておくんだったと猛省する。


しかし、その猛省は杞憂に終わる。


「そ、そうなんだ」

ヘルガは顔を赤らめて、それだけ言うと区壁に到着するまで無言になってしまった。


おや?おやおやおや?


これは特大ヒットを打ち込んだようだ。

異世界転移ええやん!










美里薫 享年36歳 異世界にていきなり彼女ゲットなるか?!

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