第49話 異世界で事業を始めます③
☆第49話 異世界で事業を始めます③
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美里達は鍛冶屋を出ると区壁を超えて自らが住む悪所のインスラへの帰路に着く。
区壁を超えると、東外壁沿いの真っすぐと北へ向かう道をみて思案していた。
「次の区壁まで目算で約2km、幅1m.........調整を入れて1.5mはみた方がいいか。
深さは.....汲み取りを考えるとせいぜい1m、グリーストラップは1.5mくらいか?」
美里は頭に描いていた下水のシステムを考く。
「あーでもこの辺は雨がどのくらい降るんだ?雨と雪を計算してなかった...ヴィー、このへんは雨期みたいなのはある?」
「雨期ってなんだい?」
無い様である。
「大雨が降って水があふれてきたり何日も雨が続く時期なんだけど」
「ないと思うよ?ただ夏を過ぎると雨が少し多くなるかな、でもすぐ雪の時期になるから雨の時期って言えばそれくらいかな」
やはりない様だ。
逆に降雪量や雪解けが心配になる。
「雪ってどれくらい降るのかな?」
「去年は凄かったね」ヘルガがウンザリそうにみんなに向き同意を求める。
「確かに腰近くまで積もったからね、ひと月は仕事にならなかったからな」ヴィルヘルミーナも苦笑いである。
「昨年は同じ農場の小作人や農奴がたくさん凍死しました....」
「友達いっぱい死んだ....」
クロアとクロエの話が重すぎる・・・・・・・・
「ワフゥン」
クロもクロエの様子に悲しそうな鳴き声を漏らす
「ってクロいつの間に!?」
後ろを見ると、見回りをしていたらしきラヘイネンペラヘの女が頭を下げる。
「おお、クロのパートナーは彼女なのか」
「ちちちちがいます、クロさんはクロエさんクロエさんのです!」
物凄く焦ってるけどよく見たら最初の話し合い日に叩き起こしてしまった人である、ギルド死霊秘法ンに対しての恐怖心はギルド魔石土竜と同じ位に植え付けられているのだろう。
話を聞くに彼女はクロ達死犬の世話係をしているらしい。
言葉を理解するので大変ではない様だが、ブラシがけや餌やり等もしてくれているらしく、犬達に尻尾の感情表現が増えてきたのは彼女のお陰ではないかと言うのがクロアの意見である。
「そういえばお姉さん名前は?」
名前を聞いていなかったので社交辞令的に聞いたのだが、彼女の顔が引きつり、後ろから強い悪寒・・・否、殺気を感じた。
振り返るとそこには美里の顔を無表情で見つめるヘルガとヴィルヘルミーナの顔があった。
「と、とんでもない!とんでもないよ2人とも!カオル様に手を出そうなんて思ってないよ!」
彼女が顔を青くしていた理由が解った気がした。美里が笑顔で若い女性に声を掛けた物だから嫁候補にでもしようとしているのではないかと勘違いしたのだろう。それを察した彼女が否定をしたと・・・
後から知ることになるのだが既存の嫁が反対する時には無言で威嚇するというのが通例らしい。
所変われば色々な風習がある。
ヴィルヘルミーナは直ぐに機嫌を直したのだが、ヘルガはインスラヘ帰るまでハイライトの失せた視線で美里の顔を凝視し続けていた。
無言の圧力が怖い。
一応彼女の名前は『アダ』さんというらしい、今度お詫びに何か差し入れでもしようと思う。
◆
美里はその後数日を、町の散策や東外壁沿通りの道路状況や井戸の位置などの確認をして作業の計画を固めていった。
その間エーリカとヴィルヘルミーナとヘリュ、オリガとヘルガとクロア母娘&クロに班分けしそれぞれのレベルで迷宮ダンジョン中層の深部の探索を行い日々充実した生活を送り実力の底上げをする。
もちろん骸骨死霊達の護衛付きだが、主な探索目的はヘルガとヴィルヘルミーナの戦闘訓練であった。
美里は正直、血盟デスマーチ軍団が在るのだから嫁ポジションの2人にはダンジョン探索等は必要ないのではないかと進言したのだが、
「そんな甘えた事はしたくない」
というヘルガ。
「闘いたい!」というヴィルヘルミーナの意見を汲んだ形であった。
◆
ラヘイネンペラヘ行った5日後にはエサイアスより確保されていたインスラの改修工事に目途が立ったと連絡があり、直ぐにラヘイネンペラヘのアジトで作業する大工や職人たちの頭領と話し合いが行われた。
殆どの手配はエサイアスが済ませてくれていたので、この日はどの様な建物にするか、特に半焼していたインスラは1~2階の木造部分が完全に消失し3~4階部分も倒壊寸前であった。
結果から言えば左右のインスラを含め木造部分を全て取り除き作り直す事に決まった。
構造は出来てからのお楽しみであるが、そのために耐久力の高い木材を集めるのに通常の4倍近い金額がかかってしまう。
インスラは地域毎で同一の企画で建築されているため本来であれば作業は直ぐに取り掛かれたのだが、今回の増築部分も内部の構造も特注物件である。
改めて設計して図面から引き直す必要があり施工開始には時間がかかる。
しかし一部の建具などは統一規格の物を大量に作る為、部品毎に同時に色々な工房へ発注をかけ、インスラ木造部分完成と同時に組み立てられるように計画された。
この国ではそもそもひとつの工房で全ての工程を行うというのが基本であったため、一部の反感は有ったがエサイアスからの依頼であり施主が今噂のカオル様と言う事で複数の工房での分担する作業が認められた。
職人のアンデットを召喚するのも有かもしれない。
並行して家内制手工業を生業としている腕のいい職人達にも新しい規格の商品を大量に発注していく、それと同時にティモスが声を掛けた路上娼婦達を集め各工房への手伝いやこの世界では無かった食事のケータリングサービス等をキヴァ・エラマで行わせたのは各職人が協力的になった一因であろう。
問題は東区の町から路上娼婦という低価格帯の性風俗産業が激減した事であったが、突然の好景気の話を聞きつけた他地区からの職人の流入が始まり、それに合わせて他地区から路上娼婦も集り杞憂に終わる。
新たに流入した路上娼婦や路上娼婦に身を落とそうと流れて来た者の中には手に職を持つ持つ者が多く、地域の裏産業を管理するラヘイネンペラヘが勧誘しキヴァ・エラマの構成員として取り立て組織が拡大する事となる。
然し増加した人員を屋根の下に寝かせるため、ラヘイネンペラヘからの大号令で東区大半のインスラの持ち主が全ての空き部屋を短期の木賃宿として開放し、悪所全体の人と金の増加の流れを安定させた。
通常の木賃宿は大部屋に横になるだけのスペースを貸し出すだけのであるが、キヴァ・エラマから出る日当は仕事により差があれど銀貨2~10枚である。
中央値は3枚程度なのだがそれでも仕事始めと仕事終わりには炊き出しが貰える。木賃宿も大銅貨5~10枚が相場である為、その日暮らしもままならなかった女達には天国であった。
有能な技術を持った女は優先でキヴァ・エラマで正規雇用されラヘイネンペラヘの紹介で優先的にインスラへ入居する事も出来た。
美里の提案により、子連れの者は無償で託児所が設けられ、日中は犬たちに護られつつ遊び、勉強も運動も出来きた。
そのうえ欠食児童が多い事を知り、美里のポケットマネーで毎日蜂蜜を練り込んだパンと山羊乳がオヤツに振る舞われたのだ。
食事時には『白靖様頂きます』と言い手を合わせる儀式が行われた。
口々に『東区では白靖様とは何者かと言う話が話題に上がると、みんながお腹いっぱい食べれるように祈ってくれている神様だとカオル様が仰っていた』という話から始まり、今や『満腹神様』として土着信仰にまでなっていた。
その様な話が広まるのはあっという間であり。路上生活や生活苦でもない者までがキヴァ・エラマへ仕事を求めてくるようになってしまい、技術があるか母子家庭でもなければ仕事を与えにくくなっていた。
それでも好景気に沸く東外壁区悪所周辺では路上娼婦ですら笑顔で仕事を出来る様に変わって行った。
大きな理由の一つがラヘイネンペラヘによる路上娼婦の管理が始まった事にある。
以前は場所代名目で行っていたが現在は管理売春化し徹底した女性の安全と衛星の確保を行い、安価で安定した避妊草の販売や客を拭く為の濡れタオルの貸し出し、客を取る際にちょんの間と呼ばれる部屋貸し等も始めていた。
この濡れタオルと言うのが好評で、今までは壁に手を付き尻を突き出し、ただ出し入れするだけだった商売が、
【自主規制】
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また事後もタオルで拭いてくれるという、この世界、時代では考えられなかったホスピタリティだ。
粗暴な客は構成員を増やしたラヘイネンペラヘと警備剣となったリビングコープス犬達に地域から追い出された、しかし好景気に沸くこの地域では客は減らない。
然し客が増えれば娼婦全体の相場はあがり、銀貨1枚から10枚の世界であった物も今やどんな安娼婦でも銀貨5枚が最低価格のラインになってしまった。
もう一つの変化はギルド魔石土竜の連中が東壁街区に拠点の一部を移した事である。
ミーカの指示でもあったが、この地域で金を落とす事で美里とラヘイネンペラヘの印象を良くする腹積もりだったが、これも良い効果を生み、他の有力ギルドまでもが東区活動を始め宿を拠点にし始めた、当然ここにもキヴァ・エラマによるテコ入れがあり、短期間で衣食住の改善が行われたのも一因であった。
路上娼婦の質が上がれば売春宿ポピーナの客はおのずと減ると思われたが、しかしそれは安価で買える路上娼婦のサービス向上が理由である。
つまり売春宿でしか出来ない技術を提供したのだ。
【自主規制】
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となり、東区の歓楽街のサービスが都市の他の地区と比べられない程に向上した。
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店によっては現代の高級風俗店でも見られるようなサービスも提供されるようになった。
美里の助言で東区には存在しなかった高級店化を目指した店舗はドイツの有名な高級FKKのような形式のサービスを提供し始め
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美里の最終的な計画では、将来的に路上娼婦はすべて排除しアムステルダムにある赤線地帯や大阪の飛田新地の様に完全管理の元で安全な一大観光地化を目指してもいた。
上級なサービスは上級の客を呼び、向上心のある店はさらに上目指し高級な客を呼ぶ好循環が発生する。
この商機を逃すまいと、ラヘイネンペラヘを仮拠点としているキヴァ・エラマへの各種商人達の相談は後を絶たなかった。
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およそ着工から1ヶ月でキヴァ・エラマの拠点となる3件のインスラが完成する。
東外壁区の壁沿通り中心からやや北に位置する建物は、正面から向かって一番右の建物の横に抜け道がある途中の庭部分には井戸がある。
3軒ある建物の向かって1番左がキヴァ・エラマの商館本店となり1階にはカフェ風の売店を置き、2階が事務所になっている。
仕事の朝は事務所で配属先を指示され食券を貰い1階の食堂で日替わりの食事が配給される。
仕事終わりには再び2階の事務所で報告した後にも日当に加えて食券を貰うい1階で食事が至急された。
1階のの売店タベルナにある飲食スペースは壁際の僅かなカウンターだけであるが、ほとんどの者は寮住まいの為、自分の寮へ持ち帰って食べていた。
2軒目の真ん中の火災現場となっていた建物は1階が倉庫になり、2階部分は半分が吹き抜けになっていて、もう半分も倉庫、軽めの部材などは滑車で2階へ運び保管されている。
そして3軒目こそキヴァ・エラマの特徴的な施設であり1階部分に簡易的な仮風呂を作ったのだ。
とは言え上下水設備が整っていない為、沸かした湯でタオルを濡らし、温まった肌に石鹸を塗り込み濡れタオルで肌を擦り垢を取る。最後は石鹸と赤を拭きとった後に薬効と花の香りを付けたクリームでマッサージをする。
垢すりとマッサージは専門の従業員が選ばれ重労働乍もこの仕事は人気部署となっていた。
また、サービスを受ける側の従業員も施術の気持ち良さにに思わず寝てしまう物も居るのだ。
日中もこの仮風呂は有料で娼婦を含めた街の女達も利用可能であり、銀貨1枚の安価で使用することが出来た。
最底辺の生活をしていた彼女達にはまさに天国であり、賢く、優しく、美しい(身綺麗にしているからそうみえているだけかもしれないが)、キヴァ・エラマの商会頭のヘリュはカリスマとなっていた。
余談だがオスクとティモスはヘリュの愛人として認識されていた。
そしてこの3軒のインスラには大きな特徴がある。
それは3階4階部分、現代人であれば間違いなくこう呼ぶであろう『3段式のカプセルホテル』だと。
カプセル一つ一つは頑丈且つ広めに設計されていて1.5畳ほどあり多少の荷物も置ければ小さな子供連れであれば子供大人1人子供2人位は何とか寝る事が出来きた。
職人達には制作時に奴隷部屋かと言われる事もあったが、入居してみれば数日で大人気となり部屋は直ぐに埋まってく。
入居者はキヴァ・エラマ関係の女性に限られたが、冬場は暖房が付き部屋には常に飲むことが出来る綺麗な水が常備され建物の前には快適な専用の公衆トイレが3つ、日中には掃除も丁寧にしてくれる。なにせこんな寮の入居費が月額で銀貨2枚なのだ、人気にならない筈がない。
日給換算だが給金も良い為、月のモノが来ても安心して休む事はできた。
この世界の女性には天国と言えた。
キヴァ・エラマの活動が始まり半月もすると所有するインスラは16件にのぼり、遂次改装されて行き、本社周辺の建物は主に女子寮や託児所、北側の建物は職人達が住まう男性寮も設置され、人気が出てきた仮風呂は男女別で7件まで増設されていた。
最終的には45軒のインスラの買収が決定しその他にもエサイアス個人やラヘイネンペラヘ関係者が10件以上のインスラを所有していた様であった。
キヴァ・エラマ所有のインスラ1階部分のタベルナは飲食店と共には、この時代には見る事が出来な女性用品の店が安価で販売されるようになる。
改革を推し進める為に魔石土竜から回収した採取物の莫大な分け前とギルド死霊秘法のパーティーの収益の一部もつぎ込まれた。
僅か3か月後にはで東壁街区からスラムと悪所と呼ばれた地域が消え去り、都市有数の繁華街が生れた。
しかし、美里が進める改革はまだ準備段階が終わっただけなのである。
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次回はすこし時間が戻ります




