第48話 異世界で事業を始めます②
第48話 異世界で事業を始めます②
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美里達は翌朝出直してラヘイネンペラヘへとやってきていた、今日の要件は先日の迷宮産の収穫物の販売相談である。
しかし手持ちの素材の量は半端ではない、今日持ち込んだのは美里の持つ60ℓバックパック程の容量があるズタ袋3袋分だ。
品質を考えなければ中堅の4~5人ののパーティーが中層で必死に闘って得る収入の10日分でやっと1袋である、それが中層深部の魔力で高結晶化した魔石や魔水晶、そして魔鉱石が詰まっているのだ、価値は中堅パーティーのそれとは雲泥の差と言える。
「旦那....こりゃあ無理だわ....うちでも捌ききれねえ、それに魔石公社の買取価格は流通価格の6割だ、公社の買取価格の1割増しで買取は出来るが量がなぁ....」
「急がないんで分割とかインスラの購入資金に充当していただいてもいいっすよ?」
「わかった、魔石は全部現金で買い取とろう、魔水晶はうちじゃ無理だが建物の売り買いで酢帰ると思う、もしかすると現金よりも安くインスラが手に入るかもしれねえな。魔鉱石も出来そうだが俺には価値は解らねえ、どうせならヴィタリーん所へ行きゃあ武器作成に使えんじゃねえか?」
エサイアスは目利きの出来るファミリーのメンバーを呼び計算させる。
結局、魔石を選別した所、魔石は持ち込んだ袋の2袋分となり、清算すると金貨32枚と大銀貨4枚小銅貨1枚になった。思いのほか質が高い魔石が多かったという。
ヴィルヘルミーナに言わせると、これでも以前いたパーティーの稼ぎの1年分に相当する金額だと驚いていた。
残りの魔石と魔水晶は半分をラヘイネンペラヘ卸し、半分を迷宮公社へ卸す事に決まる。
魔鉱石は公社へ下ろすよりは、エサイアスのアドバイス通りヴィタリーと相談して武器等にする事にした。
ちなみに公社では買い取り価格の保証をしているらしいが計算の出来ない冒険者を騙したり、品質や等級をごまかして不正に懐に入れる物もいる為、売買時はしっかりと確認するようにエサイアスから教えてもらった。
その後は事業に関しての簡単な相談を終行い、そのままヴィタリーの工房へと向かう。
工房へ向かう間も頻繁にリビングコープスや死犬達と擦れ違い気恥ずかしい思いをするがヘルガを始めとした皆は誇らしげである。
◆
「親方いる?」
入り口近くで作業をしていた小僧さんへ声を掛けると直ぐに奥の作業場へヴィタリーを呼びに行ってくれた。
恐らくエーリカとオリガのインパクトが凄かったのだろう、その目は怖い客が来たとの考えを物語っていた。
「おう、カオルの旦那どうしたい?まだ全部出来てやしねえぞ?」
「寧ろ何か出来てるの?」
「短剣やら短槍は在りものを研ぎ直して拵えだけだからとっくに出来とる、レイピアとスティレットも拵え取る途中だ、ちょっと待っとれば直ぐ出来るわぃ」
特注品ではないので在庫の調整だけだったらしい。
「金棒はまだだ、精錬からだから時間がかかる」
「丁度良かった、魔鉱石っての持って来たんだけど今から使えるか?」
「本当か!みせてみぃ」
およそ1袋分の魔鉱石を見せると、品質の高さとこの重さを持ち運んでいたエーリカの怪力にも驚いていた。
「かー!これだけの魔鉱石ならいいもんつくれるぞぃ、魔水晶が足らん、急いで調達せにゃいかんの」
高品質の魔石と魔水晶の入った袋を見せるとヴィタリーは大声で雄叫びをあげる。
「こいつぁすげえなぁ、カオルの旦那。こんな品質の魔晶石ましょうせきは初めて見たわ、俺ぁこんな凄い魔水晶なんか初めて見た。見たことねえ!初めて見た!」
驚き過ぎである。
「もしかして無理っぽい?」
「馬鹿言うな!無理だと思っても、嘘ついてでも俺が叩く!」
周りに唾の飛沫が飛び散るのも構わず真っ赤な顔のヴィタリーが大声を上げる。
「嘘はつくなよ?駄目ならだめって言ってね?」
「うわははははははは、俺が出来なくてもこの街で、この品質の魔晶石ましょうせきを扱った鍛冶屋なんか聞いたことはねえ」
「まじ?」
「マジじゃ!!こんな高品質の物は高価なのもあるが、公社が市民にゃ卸さん。
だいたい帝都に持ってかれて貴族が独占するんじゃ、扱いたくても物が出回らねえんだ」
公的機関に管理させる弊害の様だ。何故そんな話になっているのかを確認すると貴族にとっては魔法武器と言う物はステータスらしく、権力に物を言わせて無理やりにでも集めているのだそうで金を積めばいいという話では無くなっているのだそうだ。
参考までに魔水晶が魔法武器造りの中でどんな用途になるのかを知りたい。
「武器には詳しくないんだが、魔水晶で作ると何が違うんだ?魔石と違うの?」
「なんじゃ、んなことも知らんのか?カオル殿は貴族じゃないのか?」
「違う違う、ただの平凡な魔術師だよ」
ヴィタリーは何故か胡乱な表情で美里を見るが溜息ひとつ付く。
解せぬ。
「まぁ、魔石を精錬時に練り込むと魔鋼に練りあがる、知っての通り魔鋼は使用者の魔力を吸って切れ味を増したり丈夫になったりするが、魔水晶を練りこめば武器も使用者に合わせて成長や進化を起こす武器になるが大量に練り込む必要があるし高品質の魔鋼に精錬できるかは魔水晶の品質と鍛冶師の腕が必要になる。ただ今回はこんな純度の高い魔鉱石迄あるんで叩くだけで高品質な魔鋼が出来る、それにこれだけ高純度の魔水晶を練りこめば物凄いもんが出来る!!」
「成長?って形が変わったりするの?!」
「旦那は本当に物を知らんのだな」
とヴィタリーがつまらなそうに頷く。
「遠くの田舎の国から来たからね、国や人が違えば文化はまるっきり変わるんだよ。多分俺の田舎の鍛冶屋と話をしたらびっくりするよ?」
「なぬ!例えばどんな話じゃ?」
ヴィタリーが興味を持ったのか体を乗り出してくる。職人としての探求心が強いのだろう。
「鍛造で叩く回数が数千回とか数種類の金属を重ね合わせて層にして作るとか聞いたことあるけど細かい事はした無いんでそれは故郷の鍛冶屋に聞いてくれ」
「なんじゃそしゃ....層に....なるほど、数千回ってのはなんじゃ、どんな意味があるんじゃ....いゃ....」
美里に鍛冶屋の知識等は無いが日本の戦国の世の鍛冶師は世界的に見て狂っていたという話は聞いたことがあるだけなのだがヴィタリーは根が真面目なのか真剣に考えこむ。
「ヴィタリーさん、また持って来たら魔鉱石とか魔水晶手に入るかもしれないんだけど、持ってきたらまたお願いできたりする?」
「本当マジか!やるぞ!他の鍛冶屋に持ってったら張倒すぞ!」
何故か脅された・・・解せぬ。
「でも内緒でお願いしたいんだ。」
「....理由を聞いても?」
「そんな10回も20回もお願いしたら周囲とトラブルになるかもしれないんで、秘密が守れない場所にはお願いできないんだよ、もちろん何時かはバレるだろうから、極力って話だけどね」
「約束しよう!だから100回でも200回でも持ってこい!凄ぇ物を打ってやる!」
何故か両手で胸ぐらを捕まれる、脅されてますマジ怖い。
興奮しすぎのヴィタリーの目が怖いが、これだけ真剣であれば信用してもいいだろう。
「じゃあ、今回は細い方にお願いしてもいいかな?」
「承知した、しかし日数は予定よりかかるかも知らんぞ?」
その話を聞くとエーリカの目が輝く、『細い方』はエーリカに特注した武器なのだ。
「日数より品質だよ、出来によって次もお願いするか決まるから頑張ってね」
「誰に言ってやがる、任しとけ。んじゃぁ完成したらラヘイネンペラヘへ使い出しゃいいか?」
「この辺に回ってくるファミリーの人間に伝言してくれればいいよ」
「承知した」
「持ってきた量で2本分足りるかな?」
「足らんな!あんなデカいもの二本は無理じゃわい、特に太い方の金棒、金砕棒と言っていたか?あれにゃ魔鉱石がもう一袋欲しい」
「じゃあもう一本分の材料も取ってくるよ」
「あるんかい!わかった、2本目は作らずまっとくぞい!!」
「ちょろまかすなよ?」
「余った分を代金にしてもいいぞ!」
「わかった、出来た時に話し合おう」
先にエーリカの武器から作る事をオリガに謝罪し、次の武器はオリガの為に材料を用意すると告げるとオリガは笑顔で了承する。
「その次は俺のも作って貰ってから、『1番嫁』のヘルガから順に作ってこうな」
美里はギルド死霊秘法のメンバーを見回す。
1番嫁という言葉に反応したのかヘルガがモジモジしていたが、可愛い。
「まぁ、1本目がちゃんと出来たらだけどね」
「出来るわい!ぶっ飛ばすぞ!」
「ははは、ごめんごめん、いいの出来たらいい酒差し入れますよ」
「その言葉忘れんなよ!」
ヴィタリーは咆哮を上げ気合を入れなおし奥の作業場へと戻っていった。




