第47話 異世界で事業を始めます①
第47話 異世界で事業を始めます①
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その日の帰り際、ラヘイネンペラヘのアジトへ寄り、魔石のや魔水晶の取り扱いについての相談に立ち寄ることにした。
実は採取した量も量だが、高品質のものが多く、今回の迷宮氾濫の件で都市軍とも関わってしまっている為、魔石等の迷宮採取品を買い取る通称迷宮公社への地込みに二の足を踏んでいたのだ。
商業区から周り売春宿ポピーナが並ぶ通りを抜けラヘイネンペラヘに向かっていた途中の出来事である。
ティモスが死犬を連れて散歩をしていたのだ。
「こわ!」
美里は思わず叫ぶ。
人間離れしたティモスが首輪こそつけているがリードが無い大型犬2頭と歓楽街を闊歩していたのだ、知った顔でなければ走って逃げるところである。
しかし、周辺の人間や路上娼婦達が何故か見るからに凶悪な死犬を撫でたり怪物の筋肉をペチペチと叩いたりサワサワと撫でたりとやけに気安い。
「カオル様!お疲れ様です!」
最悪の事態が発生した、ティモスが美里の叫びに気づくや否や走り寄ってくるとイキなり頭を下げ挨拶をしてしまい、衆目を集めてしまう。
売春宿の中心街を抜けているが路上娼婦と客がまだまだいっぱいいる場所で筋肉達磨が挨拶してきたうえに大型犬2頭がすり寄ってくるのだ、っ目立つなと言う方が無理がある。
「ぷぷぷっ」
「くはははははは」
焦る美里にヘルガとヴィルヘルミーナは思わず吹き出してしまう。
「ヘルガにヴィルヘルミーナ?!」
周りにいる路上娼婦達が次々によってくる。「あれが例の貴族の男?」
「何その高級そうな服」
「うらやましい」
どうやら娼婦時代の馴染の人間の様で何やら立ち話を始めると次々に美里の噂話が聞こえて少し気恥しい。
「えっと、ティっさんはここで何してるのかな?」
「はい、各店と街頭商売の連中からのショバ代と守賃の回収です」
なるほど、お仕事してたのね。
「でなんでバケも....ティモさんが?」
「エサイアスがアンデットども暇ならカオル様の住む町の治安維持とカオル様の事業の下地作りのために働けと言われまして、見回りとついでに仕事を手伝っます」
あらやだ、エサイアスさん口が上手い、と思ったけどこんなのがずっとアジトに居るのが嫌なんだろうね。
「犬達は?」
「最初は勝手についてきてたんですが、居候なので仕事中の見回りに最低一頭は連れて行くようにとクロエから命令してもらいました」
え?なに、クロエさん偉くない?
「エサイアスからは路上娼婦の連中の顔と臭いを覚えさせて何かあれば守れとも言われています」
居候状態の死犬が役に立っているのには安心できた。
「ちゃんと軍団外の連中の言う事も聞いてるみたいでファミリーからも街の連中からも好評です。何よりあいつら臭くないし蚤もいないって評判で撫でに来る女どもがいっぱいいるんですよ」
何それうらやましい。
「それであれか......」
横を見ると離れた所でヘルガとヴィルヘルミーナが知り合いに囲まれて祝福ムードでいた。
中には妬む者もいる様だが概ね歓迎的なのは、ありがたい。
「でもちょうどいいや、あの中に針子や文字の読み書き出来る人いたら雇いたいんだけどいるかな?」
「どっちを何人くらいづつでしょう?」
「選ぶくらいいるの?」
「路上娼婦だけでないなら結構心当たりは有ります」
「ティモスの記憶?」
「いえ、街に出る時は少しでも会話をするようにとエサイアスからアドバイスがありまして、本来は顔色や反応でトラブルがないかの確認の切欠作りなんですが、意外と色々な情報が入ってきます」
やだなに、エサイアスさん超有能、それが出来るティモさんも滅茶有能。
「真面目そうで外の仕事で食べていけなそうな人が居たらどんどん雇いたいんだけどいっぱいいそう?」
「おります、雇用条件が解れば目ぼしい者に声を掛けます。路上生活の物もいるんで可能ならば能力が低くても屋根と食事だけ与えたいです」
あれ?このバケモ…ティモさんいい人過ぎない?
「わかった、お前の裁量で雑務で雇える人間も計算しとくよ、近いうちに娼婦から足洗いたい人間を見積もっといてね、まじめに働くなら雇えるようにするけど.......うちの女のトップはヘルガだよ?」
もちろん少し離れたヘルガ本人と周囲の娼婦にも聞こえる様に声を上げた。
ヘルガたんが顔を赤くしてモジモジし始めたのを見て今夜が楽しみである。
「じゃあこのままエサイアスさんのところ寄ってから帰るね」
「お疲れ様ですカオル様ヘルガ姐ねえさん、ヴィルヘルミーナ姐ねえさん」
そういうとティモスが大きく頭を下げる。
美里としては恥ずかしくて仕方ないが、ヘルガとィルヘルミーナは何やら誇らし気に美里の左右の腕に寄り添いつつ腕を組む、これは周囲からはシンデレラストーリーに見えているのかもしれない。
これで2人が楽しいなら何よりである。
困った事にラヘイネンペラヘに預けたリビングコープスに会う度、違い様に挨拶をされる。
気恥ずかしいが慣れてくると何だか美里も大物になった気になり気分も良くなって来るものである。
ラヘイネンペラヘ到着するといつもの様にドア前のリビングコープスが扉を開けてくれる、どうやら夜間以外はドア前で座っているようだ。
お約束のクロの洗礼を受け、中に居たクロエに迎え入れられる。
託児所かな?託児所・・・いいね。
勝手知ったる他人のなんとやら、リビングの椅子にドカリと座り一息つく。
「木のベンチってのも落ち着かないなぁ、なんかソファー見たいの作りたいね」
「なんだい旦那、そのソファーっていうのは?」
上の部屋で仕事をしていたエサイアスが部屋に入るなり、耳に入った美里の口にした何やら面白そうなアイテムに関心を持った様である。
「エサイアスさんこんばんわ、悪いね突然」
「構わねぇよ、なんだか旦那が来てから物が上手く行ってるんだ、富の神リカス ミエスが来たようだ、旦那が富の神リカス ミエスってこたぁクロエが富の使徒クルタイネン ラプシってとこだな!わはははは!」
「景気はいいみたいで良かった」
何やら神様らしき名前が出てきたが、神様を知らないとかいうのはとんでもない禁忌に当たりそうなので後でコッソリとギルドメンバーに聞くことにした。
「ちょうど旦那に話があってよ、明日クロエ来たら呼んでもらおうと思ってんだ」
当のクロエはクロと遊んでいる。カワユス。
「ひとまずインスラが3軒購入できた、代金や地税は決まったらまた伝えるけど、今の所は20軒は買い取れそうだ。行政府の許可は全部こっちでやっとくが―――――――――――」
「お金なら言い値でいいよ、今回は相場が解らないからね。今後の参考にします」
「そういうのが一番おっかねえな、ちゃんと適正価格+10%の手数料貰うぜ安心してくれ。ただ今のとこ問題はその3軒が直ぐに使えるような状態じゃねえんだよ」
「ナニソレコワイ」
「1軒は先々月に火事を起こしてな、まぁ運よく大火事には成らなかったんだが、家の者はみんな死んじまったし隣も少し焼けてな、で並びで3軒だ」
エサイアスは笑っているが瑕疵物件じゃないか。
「まぁネクロマンサー?ってのは死体とか使うんだろ?もう死体は埋葬しちまったけどほかの奴と違ってそういうのは好きだろ?」
「いやいやいやいや、別に事故現場好きな人はいないし、死体が好きなわけでもないから!」
でも一気に3軒はありがたい。
「しかも、1軒は抜け道の横で裏手に井戸がある!」
「まじっすか!エサイアスさん最高っす!」
「多分だが最終的に東区の悪所壁沿い通りの1/4位の建物は手に入りそうだ。」
「それは凄い、ある程度の間隔で拠点があれば工事は進むし順次店舗を作れるね」
「新しい商業圏が出来るって事だな」
「うわぁ、エサイアスさん気づいてましたか」
「まぁな、旨い汁吸わせてくれよ」
「こっち側の区壁に近い建物はラヘイネンペラヘで商売始めてもいいんじゃない?」
「商売のアドバイスもほしいね」
「持ちつ持たれつですね、一緒に頑張りましょう」
美里とエサイアスの間で悪い笑いが流れる。
「カオルそれって娼婦の新しい仕事ってやつになるのか?」
ヴィルヘルミーナがかなり真剣な顔で問いかける。
「娼婦に限らず、仕事にあぶれた人間やマイヤ母娘みたいな状況の人間の救済になると俺は考えている、それをエサイアスさんに押し付けるんだよ」
「よっしゃ!押し付けられたあああああ!まかしとけ!」
エサイアスもノリノリだ、彼の中ではすでにいろいろな利益の目算がたっているんだろう。
「スタート地点が決まったって言う事で、そろそろ細かい事業の話も始めたいんですよ」
「最初は土木事業って言ってたか?」
「そうですね、今やりたい事はそこです、そのために測量と作業計画を立てないといけませんが、作業工程が決まればウチにはキヴァ・エラマのリビングコープスががありますから動きは速いですね。下水と公衆トイレが出来れば、風呂テルマエや各種娼館、多彩な食堂タベルナが作れます、そうすれば各業態に対して必要な仕事が増えますし忙しくなりますよ」
「そっからは実の所、俺にはわかんねぇがトイレと風呂ってのはすげえ楽しみだ」
「本格的な風呂テルマエは難しいのですけど、先ずはキヴァ・エラマの作業員用の物を試験的に作ります。そこで稼げていない娼婦や子連れの未亡人を中心に本格的な風呂テルマエの稼働に必要な仕事を覚えてもらっていこうと思っています」
「本格的ってなに?」
ヘルガやヴィルヘルミーナにはシックリ来ていない様子であるが、この世界に存在していない職業のイメージをイメージするのは当然できようはずもない。
「垢すり、毛抜き、マッサージ、三助、それと娼館関係であればエッチなサービスもだね」
美里の言葉にギルド死霊秘法の女性メンバーはゴクリとつばを飲み込む。
「カオルの.....テクニック..........そんなの教えたら商業区やスラムの売春宿はみんな潰れちゃうよ!!!」
「それどころか高級娼館も勝てないって!!」
女性陣が口をそろえて叫ぶ。
「そ...そんなにか?!」
「そんなにだよ、アタシだって最初は死ぬかと思った」
ヴィルヘルミーナの真剣な顔にエサイアスが驚愕しゴクリと唾をのむ、目がやばい。
ヘルガの夜の叫び声の噂は彼の耳にも入っていたが、ヴィルヘルミーナや他の女性までが口を揃えるとなると流石に聞き流すことが出来ない。
「そこは、ヘリュに教え込むから俺が直接指導する機会は少ない予定だけど、売春宿とはサービス内容は別けるし、既存の売春宿にはコンサルタントとしてキヴァ・エラマから上のランクの技術を有料で指導するよ、ただ理解力が無かったり進歩が出来ない頭の固い連中もいると思う、その調整はラヘイネンペラヘでお願いします」
「まぁ、キヴァ・エラマの収益がうちにも入るんだろ?喧嘩売られりゃ潰すのは吝じゃねえが、古い仲もあるんだ説得は手伝ってくれよ」
「うーん、怖い相手じゃなきゃ同席しますよ」
「ぶっわははは、カオルの旦那より怖い奴なんてデルーカじゃデルーカ領主のテオドーロ様か娘のティオドゥラ様くらいだろうな」
フラグになるからそういう名前は聞きたくはない。
「話は変わけど、昨日迷宮に潜って結構稼いでさ、ラヘイネンペラヘで一部換金したいんだけどどうかな?」
「普通に薬事公社とか魔石公社はどうするんだ?うちで買取も出来るが物によっては買い叩かなきゃいけなくなるぜ?」
「ちょっと特殊でそう言うのも相談したいんだよね」
「まじか」
エサイアスは嫌な予感がしていた。




